16話 転がり始める
「ウソみたいだろ。週間ランキングローファンタジー1位なんだぜ。これで……」(双子の兄)
応接室で支部長が来るのを待つ。その間、江藤君達は自分の方を見てニヤニヤ嗤っている。あまり良い気分ではないな。
暫くすると応接室の扉が開く。入ってきたのは長身痩躯で眼鏡をかけた男性と、自分達の対応をしてた協会の女性職員だ。
「待たせてしまって悪いね。僕が探索者協会宮崎支部支部長の陳政徳だ。宜しく」
名前からして中国人だろうか? 日本の探索者協会なのに中国人が支部長ってのは違和感があるが、まあそういう事もあるだろうと納得する。
それぞれ自己紹介し(流石に自己紹介もしない程礼儀知らずではなかったらしい)、本題に移る。
「さて、まず君達4人の件だが……」
「この人が横殴りした件についてだろ? ビシッと言ってやってくださいよ支部長」
「そうそう、重大なマナー違反してるよねー」
「謝れー。謝罪しろー」
思わず溜息が出る。
「自分はあなた達を助けにきたつもりなんですがね。それに、レッドキャップに対して何も対応出来ていませんでしたよね。あなた達、あのままだと死んでた可能性が高かったと思うんですが」
「はあ? あの程度で俺達が死ぬ訳ないだろ。演技だよ演技。そんな事もわかんねーのかよおっさん」
「ほほー、あれだけ傷ついて、実質フルボッコの状態だったのにアレが演技だと。凄い役者がいたものですね。いっそ役者になってみては?」
「なんだとてめえ!?」
沸点低いなあ。まあ思わず言い返して挑発したのは我ながら小さいというかなんというか。そんな自分達のやり取りを見て陳さんが待ったをかける。
「まあ横殴り云々は当事者の問題だからね。けど……僕は横殴りとは思えないね。寧ろ江藤クン達の方が言いがかりをつけてる様に思えるね」
「は? なんでだよ!? 見てもいねー癖に!」
「いや、見たから言ってるんだけどね」
と陳さんがそう言うと、備え付けられている液晶モニターを点けると、ある画像が映し出される。それはあのレッドキャップとの戦いの映像だ。
改めて第三者視点から観ると、江藤君達はレッドキャップに囲まれ、手傷を負い、防御も疎かになっている。そんな時に自分が救援に入り、レッドキャップを薙ぎ倒していく。
うーん、無双してるな、自分。
で、例のやり取りだ。江藤君達が自分の行動を横殴りと罵り、挙句魔石やドロップアイテムを回収している。そこで映像が停止する。
「これ、どう見ても中村クンが救援に入ってるよね。『助太刀します』って言ってるし。何より江藤クン達は一切動こうとしない。と言うかレッドキャップに抑え込まれてるね。いやこれ演技だとしたら凄いよね。死地にいながらこれだけの演技が出来るってさ。ま、実際は演技じゃないだろうけど」
「ぐっ……」
「ま、問題はその後なんだけどね」
映像が再生される。ドローンで今までのやり取りが映されている事に気付いた江藤君が盗撮だなんだと言い散らし、そして、ドローンに向かって剣を振りかざした。そこで再度映像が止まる。
「さて……江藤クン、君は一体何をしているのかな?」
「え、あ、それは……盗撮用のドローンを壊そうと……」
「君、講習聞いてた? 迷宮内での撮影は推奨、寧ろ義務化されている。そして協会はドローンを貸し出している。君が攻撃したドローンはね、協会のレンタルドローンなんだよ」
陳さんが江藤君を睨みつけている。江藤君は一瞬たじろぐも。
「そ、そんな事知ってたら俺もあんな事しませんよ! 説明しなかったおっさんが……」
「講習を聞いてなかった君が悪い。第一、仮にアレが協会のではなく中村クンの所有物だったらどうなんだい? ん?」
陳さんの圧が凄い。江藤君達みんな黙ってしまった。
「江藤クンがした事は歴とした犯罪行為。器物損壊だ。あと名誉毀損もかな」
「なっ! なんでだよ! おっさんの横殴りは良くて俺らのはダメって言うのかよ!」
「馬鹿なの? 中村さんの取った行動が横殴りなら全ての魔物からの救援活動は全部横殴りになるんだけど。それに横殴りは犯罪じゃないよ。マナー違反ではあるけどね。けど君達が……と言うか江藤クンがした事は犯罪だ。もう一度言う、犯罪だ」
「巫山戯んなてめえ!」
江藤君が陳さんに掴みかかろうとするも、あっさりと取り押さえる。
「僕、これでも武術を嗜んでいてね。素人がこうやって絡んできても取り押さえる事くらい訳ないんだよ。あと暴行罪も追加だね」
うん、迷宮内なら兎も角地上で陳さんに勝てる気しないわ。
「で、江藤クン、備前クン、椎名クン。君達の処遇だけど、まず備前クンと椎名クンは1週間の資格停止と停止が明けたら再講習、江藤クンは1ヶ月の資格停止と同じく停止明けに再講習。それとレッドキャップの魔石とドロップアイテムを中村クンに渡す事。いいね?」
「ちょ!? 俺ら武器買って金ねーんだよ、そんな事したら俺達どうやって暮らせば……」
「武器も防具もレンタル出来るよ。新人の探索者が金持ってないのは当然なんだから。講習ちゃんと聞いてれば無駄に金を使わずに済んだのに。まあ自業自得だね」
「けど1ヶ月も資格停止って……」
「それが嫌なら被害届出すけど。器物損壊は3年以下の懲役または30万以下の罰金だよ。前科もつくね。罰金なら兎も角懲役刑になると資格剥奪だけど、それでいいんだね?」
「……資格停止で、いいです」
「よろしい。それじゃ探索者カード出して。停止明けまで預かるから」
陳さんは江藤君の拘束を解き、カードを渡す様に促す。3人とも渋るが「被害届」の一言でカードを差し出した。
「結構。あ、一応言っておくけど、資格がないと迷宮に入れないって訳じゃないからね。ただ怪我をした時とかの補償を受けられないだけで」
ま、怪我をしたくなかったら迷宮には入らない事だね、と付け加え、陳さんは3人を退出する様促した。
あれだけ威勢が良かった3人だが、すっかり意気消沈してしまい、肩を落として応接室から出ていった。
「ふう、たまにああいうのがいるからね、本来なら僕が対処する様なことじゃないんだけど、ね」
「心中お察しします」
自分も会社勤めしてた時に似た様な事あったからなあ。契約相手が研修で連れてきた新人がイキって契約自体御破算になりかけたとかあった。
あの時は黒沼も一緒にいたけど流石に2人して呆れ返ってたっけ。あの時だけは同じ気持ちだったよ、流石に。
「それで本題なんだけど……中村クン」
「はい」
「君、迷宮適性EじゃなくてExだから」
「…………はい?」
Exって……なんぞ?
キャラクター紹介
陳政徳
52歳。長身痩躯、糸目、丸眼鏡。
探索者協会宮崎支部支部長。職員から陰で胡散臭いとか裏切りそうとか時を止めそうとか言われている。
中国人ぽい名前だが、国籍は日本。ただ、父が中国人(文化大革命の際に日本に亡命)。そんな父を見て育った為かガチガチの親日派。父から中国武術を教わり、おかげで迷宮内外問わずそれなりに強い。
迷宮適性A、スキルは釵。元黄金ランクの探索者。
声のイメージは鳥海浩輔。
三馬鹿の処遇が甘い様に見えるけど……地獄を見るのはこれからなんだぜ。三馬鹿のその後は後日また。
「尊師(?)」
「おーっきな日本人〜」
「おぉ近くにィ」
「ものすごいんだねぇ(何が?)」(尊師猫)




