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女詐欺師と大富豪  作者: 田崎美夢


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バードラ家の従者

 ケントは暫く黙ったままで居たが、恩人に対して話の途中で引き上げる事は出来ないと躊躇いながら続きを話し始めた。

 「祖父は自身の警護を行う者たちに母をバードラ家へ連れてくるように命じました。其の者達は父が仕事で家を留守にしている間に母を強制的に祖父の、バードラ家へと連れ去りました。・・・・・その時の母のお腹の中には僕が居たと。それは傍目からも分かるほどに腹が目立つ頃で、父も母も僕が産まれてくることを楽しみにしていたと教えてくれました。そんな母を無理やり連れ去った祖父は父が母を迎えに来ることをバードラ家でのんびりと待ち構えて居たそうです。連れ去った後母へ手荒なことをすることはなかったと聞きましたが、丁重に扱われた訳でもなかったようです。食事も最低限、妊娠していることも分かっているのに医師に罹る事もさせず、部屋に監禁していたそうです。母が攫われて10日後、父が母を迎えにバードラ家に来て、祖父と対峙しました」

 そこまで話すと再びカップを口へ運び喉を潤す。一息付くとカップを置き、私を見つめ直す。

 その表情は微笑んでいるようで、その内は哀しみや怒りをぶつけられないもどかしさのような幾つもの感情が渦巻いていることが分かるような表情だった。

 そこには触れてはいけないと誰でも分かる空気。私もスルーすることにした。

 その後のケントの話は聞いているだけでも胸糞悪くなる話だった。

 要約すると2人が婚姻状態に居続けるならばその子をバードラ家へ養子に出す事。そしてその子供に合うことは許可しない。ケントは私生児とし、ケントの親はこの世にはもう居ないと教育する。そして、ケントの父が作った会社はバードラ家が経営する商会に属しその会社はバードラ家の派閥の者が運営する。ケントの両親は駆け落ちした後に築いた資産をすべて奪われ、放り出されることになった。2人に拒否権は無く、ケントの母はケントを出産後体が回復することも無いまま邸から放り出された。

 「話に割り込んで申し訳ないけど、貴方は両親と過ごしたことが無いの? 私はてっきり小さい頃は家族で暮らしていたように感じていたのだけど・・・・」

 私の問いかけに、ケントは年下の子どもの悪戯に困惑するような顔をし、答えてくれた。

 「僕が両親の事を知れたのはバードラ家に代々使えてくれていた従者のお陰なんです。執事のハロルドと父の乳母をしていたチャチャの娘バラビュエ、この2人が僕を両親の元へ案内してくれたんです。祖父には気づかれないように両親の元へ連れて行ってくれました。そこで事の詳細を聞きました。両親に会えたのは僕が5歳の誕生日を迎える1週間ほど前のことです」

 私がケントの話に頷きながら聞いていると、ケントは今度は優しい笑みを浮かべ私を見つめる。

 私はビックっとして、一瞬目を見開いてしまった。しかし直ぐに「それで?」と促す。

 クスッと笑うと続きを話し始める。

 「それで、僕はバードラ家を出ることを決めました。僕が会った時両親は貧しい生活をしていました。それも当然、2人が築いた資産は奪われ、新たに事業を始めようにも手を回され尽く潰されたのです。父は母を守るためその日暮らしになろうとも、最下層の労働階級の仕事さえも拒まずこなしたそうです。鉱山の労働に従事していたことも有ったと聞きました。その話を聞き怒りを抑えられなかったのは僕を両親に引き合わせてくれた2人も同じでした。ハロルドは僕の誕生日にバラビュエはチャチャの介護を理由に翌日に退職の意を示し、邸を後にしました。急な話でしたが祖父はそれを了承し僕の誕生日の祝賀が終わるとハロルドも邸を出てい行きました。しかしその時に邸を出たのはハロルドだけでなく、僕も一緒に邸を出ました。その後捜索されないために両親から聞いた話を僕を捜索したら世間に公表するとの置き手紙を残して」

 その話に私は笑ってしまった。ただのボンボンだと思っていたけど、結構なやんちゃな坊っちゃんだったようで・・・・・。相手を脅すとは・・・・。

 「結構な覚悟だったようで」

 私はそう言ってニヤリと笑ってみせた。

 ケントはそんな私にニコリと微笑み「ええ」と返すだけに留める。

 ま、あれだけの起業のトップ。素見や煽りや悪意を受け流すことくらい朝飯前だろう。

 「でも、それは貴方の生い立ちであって、私と師匠が命の恩人なのとは関係なくない?」

 私の問いかけにニコリとすると、カップを手に取りゆっくりと口に運ぶ。お茶を飲み干すと片手を上げ給仕を要求したようだった。それに応じるように控えていた3人がテーブルに近づく。年配の男性が新たなお茶を準備し、若い2人はテーブルの上のティーセットを手早くワゴンへ移し、私とケントの前に取り分けた小皿を並べる。そしてワゴンでローストビーフをバゲットで挟んで即席のサンドイッチを作っていた。作り終わるとそれも私とケントの前に置く。

 「美味しそう。ありがとう」

 給餌してくれた2人へ笑顔を向け礼を伝える。

 2人は畏まったように腰を折り再び先程の場所に控えた。

 年配の男性は2人分のお茶を用意するとケントの後ろに控えた。

 私は出されたお茶に口をつける。

 さっきの茶葉とは違う味がした。先程のお茶は優しい甘みの中に仄かな酸味なのか渋みなのか、甘いお菓子と合いそうなお茶だったのが、今度は目の前のローストビーフサンドと合いそうな味だった。

 喋り疲れたのかケントがサンドイッチにかぶりついていた。それを年配の男性は優しい目で見つめていた。


誤字脱字報告よろしくお願いします。

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