お茶会への招待?
もう一話更新します。
ケントの思いもよらぬ発言に驚き目を白黒させるエルドラ。何を言い返せば良いのかは分からなくなり、片言の様な喋り方になってしまった。
「え・・・・・・・お、れ、い?」
「ええ。命の恩人に!」
エルドラはケントの発言に益々意味がわからなくなっていた。
(私と師匠が命の恩人?人を騙して生きてきて恨まれる事が有っても、人助けなんてした覚えがない。絶対に誰かと間違えてるんだ)
「あの、私も師匠も人助けをした記憶がありません。どなたかと人間違いをされていませんか?」
エルドラの言葉に首を左右に振るケント。
「間違ってはいません。命の恩人を間違う筈もありません」
笑顔でそう言い切るケント。
そう言われた所で本当に覚えが無かった。
ケントの顔をマジマジと見ても、記憶が喚起される事は無かった。そもそもそんな記憶は無いのだ。喚起されようも無かった。
そんなエルドラとは対照的に笑顔のままのケント。
「ま、こんな場所で立ち話をしていても考えは纏まらないでしょう。美味しお茶とお菓子を用意してますから、家でお話しませんか?」
そう言って扉を開けエルドラを邸の中へと案内した。
エルドラは仕方なく案内されるまま邸の中へと入った。
ケントの後を従いて歩く。邸は外から見た通り広かった。いくつかの部屋を通り過ぎ開かれた扉の中へと入る。その部屋は温かな日差しが届く春の日の様な部屋だった。その窓の近くに重厚感のある円卓があり、その上にはアフタヌーンティーの用意がされていた。アフタヌーンティーをするには少し早く、ランチをするには少し遅い時間。それに合わせたような内容の数々だった。小さなケーキや一口大にカットされたサンドイッチにスコーン。それだけではなく、ローストビーフに温かそうな湯気を立てているスープ。クロワッサンなどの多種のバケット類。
ケントや椅子を引き笑顔を向けてくる。
素直にそれに従い椅子に腰掛ける。タイミングを合わせて椅子が柔らかく私の膝裏に当たる感じがする。淑女教育なんて受けたことの無い私でも優雅に席に着けたと分かるほど、ケントのエスコートは素晴らしかった。
(この人執事修行でもしているのか? 世界を相手にする大手企業のトップがこんな事もするの?)
私は少々の疑問を心に留めポーカーフェイスを作り直す。私の向かいに座ったケントがニコニコとこちらを見つめる。
「先ずはお近づきの印に如何ですか? 何がお好きですか? お取りしますよ?」
そう言って小皿と給仕用のトングを手に持つ。
私達が席に付く間にきっちりとしたスーツを着た年配の男性と20代の男女が部屋に入ってきていた。
年配の男性が私とケントの分のお茶を用意している。慣れた手つきで用意されているお茶は美味しそうな匂いと共に温かな湯気を立てている。
淹れたお茶を私とケントの前に出すと、お茶を淹れていたワゴンをテーブルの側に置き、私達から少し離れた場所で待機する。若い男女もそこで待機していた。それを確認するとケントはローストビーフやバゲット類を取り分けた皿を私の前に並べる。
そうして穏やかな表情で話し始めた。
「先ほど話した命の恩人ですが、本当の話なのですよ。私の父はバードラ家の跡取りだったのですが、母と恋に落ち掛け落ちをして僕が産まれました。母は一般的な家の出身で祖父は両親の結婚を認めなかった様です。でも母以外と結婚する気が無かった父は家を飛び出したようです。母も一時は父を家に戻そうと、父から離れようとしたようですが、父を愛していた母は父の決意を聞き2人で生きていくことを決めたと話してくれました。それから2人は小さいながらも会社を興し、細々と生活していました。でも、父はバードラ家の跡取りとしての教育を受けた人間です。その会社は次第に評判となって大きくなって行き、その評判が祖父へと伝わり、居所を突き止められてしまった様です」
そう話すとケントはカップを口へ運ぶ。お茶を一口飲むと私を見つめ、またゆっくりと話し始めた。
「父達の居所をつきとめた祖父は幾度となく戻るようにと催促してきたと・・・・。しかしその要求に応じることの無かった父にしびれを切らした祖父は力技に出たと聞きました」
そう話しカップの縁を指でなぞり、目でその指を追っている。必然的に俯き話が途切れる。
私は口を挟むこと無くケントが話し始めるのを取り分けられた食事を頂きながら待った。
それにしても、ウェイティンと名乗っていたからただの一企業のオーナー社長だとばかり思っていたけど、まさかバードラ家の血筋だったとは流石に驚いたわ。
私は心のうちを明かさないようにポーカーフェイスを貼り付けて美味しそうな香りのするお茶を頂いた。
誤字脱字報告よろしくお願いします。




