第35話 よく生きて帰れてたよ
目を開け、付近を見渡すとそこは知ってる天井だった。
一一ここは確か、前に決闘で気絶した時に寝ていた医務室だ、ってことは。
「...クロム?」
「うお!?...おはよう、リリ」
足音せず、気配に気づかなかったため驚いてしまう、リリは食べ物を持ってきたようだが、そのほとんどを落としてしまった。
「ずっと...1週間も...寝てたんだよっ...もしかしたら..もう起きないかもって...ずっ...思ったんだよ...」
「そっか、1週間も寝てたのか...そうだ!ほかのみんなは!?ヴァイオレットは!?」
「...むう」
リリは頬を膨らませ、不満そうにこちらを見る。
「...あの、他のみんなは?」
「クロムは...もっと自分のことを大切にして欲しい」
「え?」
「気づいてないみたいだけど...クロムの髪、少し白くなってるんだよ!みんな、心配してたんだよ...それなのに起きて一番最初に考えるのが人の心配なんて...」
「ご、ごめんって」
頬をふくらませたリリをなだめてどうなったかを詳しく聞いた。
まず、俺が最後に命懸けで放った魔術はサイクロプスに直撃した。が、ダメージは少なかったそうだ、じゃあなんで俺たちは帰れたかと言うと、俺が気絶したあと、ミナが到着したそうだ。
リリが「あんな大きい魔物が一瞬で粉になったんだよ...」と言っていた。
「あんなに苦労したやつを粉にねぇ...」
やっぱりミナはすごいと思った、あんな化け物を一瞬で...追いつけそうにないな。
E組は俺を除いて全員無事だそうだ、リリは擦り傷程度で、俺も多少の傷は受けているけど、大したものじゃない、問題なのは髪だ俺の髪は元々青色だったが一部白くなっている、医者が言うには魔力が回復すれば元に戻るらしいので一安心だ。
でもこれはこれでかっこいいんじゃ...あ、それとヴァイオレットだけど一番の重症らしい。
全身の骨という骨が砕かれ、一時は命が危なかったという俺より危ねぇじゃねぇか!!どうやら俺より先に目を覚ましているようなので後で見舞いに行ってやるか。
今回のダンジョンで俺は杖の有用性に気づいた。
「杖無しで魔術使える俺SUGEEEE」って思ってたやつをぶん殴りたいほどだ、そういえばリリもララも2人とも杖無しだと魔力が安定しないって言ってたけど、あれは未熟だからではなくこの世界では常識なのだろう、実際杖を持っていない俺は奇っ怪な目で見られていたからな。
「よっ」
「おう、元気そうで良かったよ」
3日ぶり、いや、ヴァイオレットからすると10日ぶりに会おうことができ、お互いの無事を確かめる。
「悪かったな、俺がお前を呼んだせいでこんな怪我させちまって」
「まぁな、この傷は残るそうだ」
「残るって...お前...」
ここに来る前に聞いていた、ヴァイオレットは最後にサイクロプスに投げ飛ばされた衝撃で左手にしびれを感じるそうだ。
元々ヴァイオレットを呼んだのは俺だ、もし俺がヴァイオレットを呼ばなければこうはならなかった、その罪悪感が体を包む。
「そんな顔するな、クロム、お前には謝罪よりも感謝して欲しいんだが?」
「でも...」
「別に悪気がある訳じゃあるまいし、あれは完全なイレギュラー、しょうがないさ、なんなら生きて帰れたのはお前のおかげだ、感謝するのは俺の方かもな」
「そ、それは絶対に違う」
「いいかよく聞け、これが冒険者だ、これが戦いだ」
ヴァイオレットはしびれを感じる左手で俺の腰につけていた杖を指さす。
あれから俺は杖をアイテムボックスから取り出し、何時でも手に持てるようにしてある。
「...まだ、思うように動かないな...でもな、失ってもいないし時間が経てば元に戻る可能性は十分あるらしい、そう考えれば安いもんさ、な?それに得るものもあったらしいしな」
腰につけてある杖を指さし、ヴァイオレットはニヤリと笑う。
「...そろそろ俺は行くよ」
「おう、まぁまた来る時は差し入れ頼むわ」
「次来る時はリンゴでも向いてやるよ」
「なんだそれ」
そういえばこの世界でリンゴと言う言葉を聞いたことがないな、と家路に戻った。
宿に着くとすれ違った生徒たちはクスクスとこちらを見て笑う、正直気味が悪い、とりあえずまっすぐ自室に戻る。
「ただいま」
「あれ、もう出ていいの?」
「俺は怪我自体は軽かったからね、今はもう元気さ!」
「あっそ」
帰宅後一瞬でシャルに興味を無くした目をされた...とても傷つく。
「それはそうとあの噂ほんとなの?」
「ん?噂って?」
「E組は学生ダンジョンでも大怪我するほど弱いって」
「大怪我したのは俺たちじゃなくて引率してくれてた冒険者だよ」
「じゃあその冒険者の人が弱かったってこと?」
「ん?なんで?あの人がいなかったら俺たち全員死んで...あぁ、そういう事か」
俺たちが行っていたダンジョンは世界でも安全なダンジョンと言われている。
そのため、危険はないとまで言われる始末だ、そのダンジョンで救援をだした俺たちは事情を知らないものから「やっぱりE組は弱い」なんて噂が広がるわけだ。しかし、ヴァイオレットも言っていた、『あれは完全なイレギュラー』つまりこの世界のダンジョンはあれが当たり前なわけない訳だ。
「それで結局どうなのよ」
「あぁ、えっと...どこから説明したら...」
とりあえずあの時起こったことを包み隠さずに話そうと思い、シャルに話す。
「って感じなことがあったんだ」
「ま、待って?強化種!?サイクロプスの!?」
「お、おう」
「サイクロプスはA級モンスターよ!それの強化種だなんて...S級モンスターと同じ力を持ってたかもしれないのに...よく生きて帰ってこれたわね」
「へ、へぇ...」
聞けば聞くほど五体満足で帰ってこれたのはやはり幸運なのだろう、自分の日頃の行いと運に感謝しよう。
それにしてもこの棒切れだけで魔術の質が変わるとは...実はちょっと前に実験をしてみた、そこら辺の棒とこの杖の違いを確かめようとしてみた、その結果は一目瞭然、棒はただの棒、この杖だけが特別だったのだ。
「素材...なのかな」
「珍しいわね貴方が杖を持つなんて、初めて見た」
「まぁ色々あってね」
「...貴方はなぜそんなに強くなりたいのですか」
「え?」
「貴方はいつも魔術の研究や強くなることしか考えてないじゃない、だから、貴方はなぜ強くなりたいのかなってそう思ったの」
「そうだな...後悔したくないから、かな」
「後悔?何に?」
「人生に、かな」
「...なにそれ」
「何言ってんだろ俺」
「ねぇ、もしかして...」
「ん?」
「いや、なんでもない...おやすみ」
「あぁ、おやすみ」
「おはよぉクロム」
「おはよう2人とも」
さて翌日、学校に到着するとまだクスクスと笑っている。
「結局これか」
俺はおそらく虐められているのだろう、なぜか?それは気づいたら背中に暴言が書かれた紙を貼られたりとかロッカーに変なものを入れられたりとかしょうもない嫌がらせをされるようになった。
まぁ所詮子供の嫌がらせ、寛容な俺の心は穏やかなわけなかった。
「あのやろう共俺だけじゃなくあいつらまで」
「じゃあクロムも?」
「じゃあ、リリもあんなことされたのか?」
「うん...でもそんな大したことないよ!」
「バルサなんか暴言吐かれた瞬間喧嘩始めちゃって」
「いえ、俺は...その、申し訳ございません...」
「...どうしたの?このふたり」
「実は1週間前からあの二人変なんだよね」
「ダンジョンがの後か、何があったんだ...正体がバレたのかな?」
「正体って?」
「あ!いや、なんでもないよ、あはは」
「く、クロム、助けてくれ」
「やっぱりバレたのか」
「いや、そういう訳じゃない、ただ最近シリカ様の距離が近いんだ、これが本国にバレると...俺はもうシリカ様の護衛を外されるかもしれない」
「バレるってことは、護衛はお前だけじゃないんだな」
「...鋭すぎるぞ、お前」
「相談したお前が悪い」
バルサは酷く焦っているそうで、普段はしないような行動をしている。
「それで、俺に何をして欲しいんだ?」
「シリカ様の護衛の件、引き受けて欲しい、あいつは確実にお前を警戒する、そうすれば俺は引き下がれる」
「まぁ...いいか...........ちょっと待て、それ俺が危なくねぇか?」
思い出すのはバルサの正体を知った日のこと、正体を知った瞬間あいつは殺す気で俺に襲いかかってきた。
もしまたこいつみたいに殺されそうになったらどうしてくれようか。
「大丈夫だろ、お前強いし」
「分かった、その話受けるよ」
「やべ、チャイムが」
「急げ!」
まぁ断る理由ないし、何とかなるだろ、うん。
授業開始のチャイムが鳴り、すぐに部屋に戻り授業を受ける。
「クロムさん、少しよろしいでしょうか?」
「あぁ、ちょうど俺も言いたいことがあったから」
「それは良かったです、ではこちらに着いてきてもらっていいですか?」
「お、おう」
最初の授業が終わったあと、すぐにシリカに呼び出されたのでついでに護衛の件を受けようと思うのだが、そういや後ろにバルサいるな、大丈夫だよ、ちゃんと受けるから。
「先日の話なんですけど」
「あぁ、受け」
「なかったことにして欲しいんですの」
「ぽへ?」
『な!?』
後ろからそんな気配がした気がした。
「な、なんで?」
「だって、私を守ってくれる人は、ずっとそばにいましたから」
そう言いながらバルサの方を見るってバレてんじゃん、ふたつの意味で。
てか、どうすんだ?これ...
「うぅ、どうしたらいいんだ?」
「どうしたのクロム?」
「朝からずっとこの感じです」
「なんだか分からないけど力になるよ!!」
昼休みにリリとカヤ、そしてララと食堂で昼食を食べながら俺は悩んでいた、そう、あの2人の件だ、バルサは俺におと、じゃなくてシリカの護衛をして欲しい、でも、シリカは俺よりバルサに護衛をして欲しいらしい、そもそも影から守らずにちゃんと守ればよろしいのではないのか?と思う俺なのであった。
「はっ!誰かと思えばあのダンジョンで死にかけたゴミ共じゃねぇか!」
「お前は.......誰だ!!」
昼飯を食べていると知らんやつがいきなり暴言を吐いてきた。
「て、てめぇ!!」
「やめてよマハト!騒がないと生きていけないの!?」
「おぉ、結構過激なこと言うねララ」
リリが言うにはこいつの名前はマハトなのだろう、てことはこいつはSクラスのやつか。
「何の用だ?」
「ふふふ、はははっ!!」
急に高笑いをし始めた気持ちわりぃやつだったか。
「いやぁなに、学生ダンジョンで死にかけた雑魚がいると知ってなぁ、そんな恥ずかしいやつを見に来たんだよ!!」
「そんなことのために来たのか?随分と暇なんだな」
「ぐっ......ははっだがやはり否定はしなかったな!それはつまりダンジョンで死にかけたのは真実だということだなぁ!!」
「で、でもそれは!!」
「リリ、いいんだ、言いたいやつには言わせとけ」
「で、でも...」
部屋中に笑い声がそこらじゅうで聞こえる、それほど面白いのか?人が死にかけたのが。
あぁ、全く、反吐が出る。
「おぉ、いたいた、やっぱりここにいたんだね、3人とも」
誰だ?見たことない紺色の髪色をした背の高い男が間違いなくこちらを見てそう言った。
「俺になにか用ですか?」
「やぁやぁ初めまして!私はローウィン、高等部の1年、未来の生徒会長だ!!ローウィン先輩と呼んで欲しいな!」
「はぁ...」
「随分と呆れられてしまったようだね!」
ローウィンの右胸にはヴァルキリア生徒会員の証である金飾りを着けていた、ヴァルキリア生徒会とは、ヴァルキリア学園の均衡を保つために実力と頭脳、そしてカリスマが高い者の集まり、ただ、今の生徒会は実力が低く信用がないと聞いていたけど...この男......強い。
この男の魔力を見ればすぐにわかった、控えめで大人しい魔力、ただこの魔力にはゆらぎがある、これは、俺と同じ...
「...へぇ、君子供なのにすごいね、その歳で完璧な魔力操作、大人でもそこまでの実力を持った人はいない」
「それは...どうも」
なんだろうな...これ、この男、なんだか信用ならない、村長とは違う別の胡散臭さがある。
「そ、そいつがなんなんだよ!!そいつはダンジョンで死にかけたゴミだぞ!!」
「ああ、そうだった、学園長は今会議で来れなくてね、それで僕に言伝と贈り物を頼んだのさ!」
「俺に言伝?」
「あぁ、君にじゃなくてEクラス全員にね、他の人達にはもう伝え終わったよ」
「それで?」
「それじゃあ読むね、『まず、君たちを危険な目に合わせた謝罪を、そして特例で君たち9名に冒険者としての地位を渡すとする』だって」
「地位?」
「地位、つまり冒険者ライセンスだね」
冒険者ライセンスを手に入れることは難しくはない、ただ、7歳から取ることは原則的にできないはず...理由はもちろん、危険だから。
「これをどうぞ」
「いいなぁ!!私も欲しい~」
「私、特に何もやってないのに...」
「カヤちゃんもすごい役に立ってたよ!!みんなをすぐに回復してさ!!」
「そんなこと言ったらリリちゃんだって!!」
「あれ、俺のは?」
「ここだよ!はい、これは君のだ」
「あぁ、ありが...ん?」
カヤとリリには緑のライセンス、俺には...銀?
「なぁ、これって?」
「ぎ、銀のライセンス!?」「B級冒険者ライセンス!?」
周囲がざわつく、さすがに俺も驚く、まさかB級ライセンスを貰えるとは...B級ライセンスは他と違い、世界中でかなりの融通が効く特別なものだ。
それに、実力も必要だ。
「な、なんであんなやつが!?」
「それと、これは後で正式に発表される情報なんだけど、君たちがいう、あのダンジョン、S級ダンジョンに格上されるってよ」
「...は!?」
「えぇ!?」
「ま、まじで?」
さすがに空いた口が塞がらない、あのダンジョンがそんな代物だとは...本当に、よく生きて帰れたよ。




