闘技会で勝ち残ってから三日後
私たち三人はまず、サピエンス商会に訪れていた。
布で隠した『大賢者の杖』を商会長の前に置いて広げて見せて、私は誇らしげな表情を見せる。
商会長は何故か苦笑いをしながら、
「これを何処で……?」
と、聞いて来た。
「偽物じゃないよ。ちゃんと闘技会で勝ち残って手に入れた物だ」
「先日の闘技会、不敗のベルルムを降参させ、最終戦まで勝ち残ったのは同じく大魔族の空白。まさか貴女が――――」
私は人差し指を立てて商会長の口元に近づけ、彼が言葉を止めた。
「私は僧侶ソムニウム。ただの冒険者だ。この杖、欲しかったんでしょ」
私はそう言って話題を逸らすと、商会長は杖を撫でながらこう言ったんだ。
「そうですね。これは我ら商会の宝。先代が言うには、これを部屋に飾っているだけで、商い事が面白い様に上手くいったそうです」
「それで、フトゥールム共和国への通行証はくれるの?」
「……良いでしょう。貴女はどうやら、私の知ってる魔族とは違うようだ。それにしても、その身なりで聖職者とは、いったいどんな神を信仰されているんだか」
「よく言われる」
「少々複雑な手続きがあります。三人分の特別通行証を用意するのは二週間ほど掛かりますので、それまで帝都ノープルをお楽しみください」
そんな事を言う商会長は、さっきまで苦笑いだったのに、今は優しい笑顔を向けてくれていた。
*
ついでに私たちは、武器屋に立ち寄る事にした。
闘技会でスぺロの剣が格闘家に折られてしまったからだ。
武器屋の前まで来ると、スペロがこんな事を言ってきた。
「俺も師匠やルキヤがやってるみたいに、魔法で武器を作れればわざわざ銀貨使わなくても済むのにな。俺にも魔力はあるんだろ」
私が答える。
「魔力は生命力みたいなものだから、スペロにも馬鹿みたいに多い魔力はあるよ。でも魔力がある事と、魔法が使えるかどうかは別なんだ。特に人族は自身が持つ魔力の一割程度しか使えない性質とも聞く。物を生み出す魔法なんて、武器として扱えるくらい強度の高い物を作れる様になるのは……きっと人間の寿命じゃ足りないね。稀に、勇者クラスの天才で感覚派であれば、色んな過程をすっ飛ばして作れる人族もいるらしいけど」
そんな説明をしていると、ルキヤが面白い知識を付け加えてきた。
「今、イテル様が背中に背負ってる『女神様の剣』も、その名の通り、女神様が魔法で作られた剣ですよ」
「へぇ、魔力は感じないから気付かなかった。でも確かに、刃こぼれもしないし錆もしない永久無欠の剣だ。これはもはや、魔法というより神の御業だね。もっと軽く作って欲しかったけど」
「それは贅沢ですね」
と、ルキヤは笑った。
その横でスペロは、
「つまり俺には魔法の才が無いから、無理って事か」
と肩を落としていた。
*
帝都で一番大きい武器屋の店内でスペロが目移りしていると、店主のおじさんが話し掛けて来て色々相談を持ち掛けているようだった。スペロとしては次の相棒にこだわりがあるらしい。
今回私たちが参加した闘技会は優勝者の私が最後逃げてしまったので、結局賞金は貰えなかったけど、商会がその代わりに報酬をくれた。一応、この店で一番高い武具も買えるぐらい。
スペロの剣選びが長くなりそうだったので、ルキヤと一緒に外で待っている時、私は闘技会で起きた事を思い出してルキヤに聞いてみる事にした。
「ねぇ、あのモルブスってエルフ、何かの病気だったの?」
「……ええ。あれはエルフ族の不治の病、狂魔病です。人族はアレが面白かったのでしょうね」
「なにそれ?」
ルキヤはしばし俯きしばし黙り込んだ後、ゆっくりと説明を始めてくれた。
狂魔病。
これは古代エルフ族の時代から存在していて、百人に一人くらいの奇病。
症状としては、魔力が自身で制御できず、まるで魔力が別の生き物の様に暴走を続けてしまうとの事だ。酷い時は本人が眠っていても、魔力が暴れまわって身の回りの物を破壊してしまったりする。
狂魔病は、感染者の本能に従ったような動いてるのではないかと言われている。
だから闘技会の試合では、ルキヤの攻撃に反応して暴れ出した。防衛本能による暴走ってやつだ。
そしてこの病気の最悪な所は、本人の致死量まで魔力の暴走が続く事にある。
魔力を使い切っていても魔力は漏れ続け、あのモルブスってエルフのようになってしまうらしい。
「あれは狂魔病の末期。あんな状態の子を戦いの場に出そうなどと、私は帝国のやり方に怒りを覚えました。エルフ族との事もあります。今すぐにでもこの国を出たい」
「そうだね。この国の上級国民は……なんというか、自信過剰だ。自分たちが世界で最も優れていて、支配している気になっている」
「人族の悪い所も良い所も、私の時代から変わりません」
「時代と言えば、今のエルフ族なら狂魔病も不治ではないかもね」
「……今度、エルフに会う事があれば、聞いてみます」
そんな会話をしていると、スペロが剣を選び終わったようで、店から出てきた。
その手には美しくもたくましい剣が握られていて……そしてこの店で一番高い剣だった。




