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第34話 絡み合う事情

 関門からずっと遠くに見えていた、とても大きな洋風の王城は、その美しい構造からしっかりとした経済的基盤と建造技術の高さを感じさせた。

 それもそうだろう。かつて偉人と言われ、現代の建築学の礎を築いた者たちは、こぞってこちら側の世界に来ているのだから。

 どこか懐かしい感じがするのは、その建築様式は世界史の資料で見た建造物を模しているからだろう。

 それこそ歴史を刻んだ偉人達が集結し、その才を最大限に発揮すれば、一夜にして現世以上の発展を見せるに違いない。

 しかしそういった革新的で、見たこともない風貌の物がありふれていないのはきっと、現世を憂い、故郷を懐かしむその心境ゆえに、敢えて馴染みのある景観を模倣しているのだろう。

 そういえば、先ほどの町でスマートフォンのようなものを持っている人間が、ちらほらそこらかしこで見受けられた。もしかすると電気通信系のハードウェアの技術者なども、こちら側で活躍しているのだろう。

 とても厳かで格式高い王城の正面口では、数人の召使いと執事のような恰好をした白黒靴下の猫たちが並んでおり、役人の猫に向けてお辞儀して待ち受けていた。

 僕はそれを見て、このイカつい顔をしたキジトラ柄の役人の猫は、実はとても身分の高い猫なのだろうか、と少し(おのの)いた。

 お城にしては甲冑を着たような、兵士が見当たらない。

 妙に違和感を感じたが、この国の平和を象徴しているのだろうと、深くは考えなかった。

 役人の猫は執事風の猫に何かを耳打ちをし、どこかへすたすたと去っていった。

 僕はその執事風の猫に案内されるがまま、広い客間に通された。

 客間はとても(きら)びやかな内装で、高級そうな金色のオブジェがたくさん飾られていた。

 天井には白地に何やら不思議な模様があしらわれており、クリスタルであろうシャンデリアがきらきらと眩しく照らしていた。

 壁と床材はエレガントな黒を基調とし、土足で踏み入るには躊躇(ちゅうちょ)してしまいそうなほど、質感のある真っ赤なラグが敷かれていた。

 中央のとても長い長いテーブルは、最後の晩餐を行うに相応しい風格を醸し出していた。

 執事風の猫が引くアンティークな椅子へ着席を求められ、僕はそそくさと腰を落ち着けた。

 その後すぐに、先ほどの役人の猫がぱたぱたと現れた。


「お待たせして申し訳ありません。まずは大臣とお顔合わせを」


 そういうと役人の猫は、扉の端でお辞儀をすると、その扉の奥から、とても聡明で美しい黒い猫が現れた。

 大臣と呼ばれたその猫の瞳は、左右の色が異なるオッドアイで、幾重にも美しい布を羽織ったその姿は、とても神秘的で不思議な雰囲気がした。


「この御方が例の……?」


 大臣の猫の問いかけに、役人の猫は静かに頷いた。


「私はこの国の王に仕える大臣にして、死神組合の(おさ)を務めている者だ。この二年もの間、ずっと君を捜索していた」



 『死神組合の長』


 僕はその単語を聞いて、背筋が一気に凍り付いた。

 なんということだ……まさかここにきて、僕は死神に捕まってしまうのか。

 王様に会う目前だというのに、結局僕は相変わらず不運なのだ。

 しかし死神の長でもあるその大臣の猫は、実に申し訳なさそうに僕を見て、話を続けた。


「君が失った記憶は、今も総力を上げて回収中だ。あの災害は、私どもの不注意から起きたもの。謝罪させてもらう……。そしてどうか、城へ戻ってはくれまいか。王はとても君を心配しておるのだ」


 城に戻る? 災害? 謝罪?


 記憶を失ったのはきっと、この認証コードの元の持ち主なのだろう。

 しかし僕には、その話が全然見えなかった。

 事態がこれ以上ややこしく進行するのはとてもまずいと思った。


「あの……実は、僕は……」


 僕はついにその事実を打ち明ける覚悟をして口を開いた。

 どんな処罰が待っているのだろう、言い知れぬ恐怖と共に言葉を続けようとした。


「焦らぬともよい。とにかく今は王が待ちかねておる。すぐに王に謁見されよ」


 僕の決意はその大臣の猫の言葉に、簡単に打ち消されてしまった。


「私は君にどうしても謝罪しておきたかった。だからこうして時間を頂いたまで。王を待たせるな。急がれよ」


 大臣に言われるままに連れ出され、王の居る謁見の間へと案内される。


 結局僕は、不正コードのことを打ち明ける機会を逃してしまい、吐き出しかけた言葉をごくりと飲み込んだのだった。

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