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第33話 同郷の恥

「おい貴様! わたしにこのような仕打ち。許されると思うなよ!」


 白いスーツを剥がされた猫の紳士は、その全身に生えたふさふさした茶色の体毛があらわになっていた。

 屈辱にも捕らわれの身である猫の紳士は、その情けない恰好のままで、憤慨(ふんがい)地団駄(じだんだ)を踏んでは悪態をつくしかなかった。

 猫の紳士が収容されたのは、便器ととても臭そうな毛布のみという、とてもシンプルな牢だ。

 使い古された便器が近いせいか、牢の中は少しばかりか尿のにおいでお世辞にも快適とは言えなかった。

 その一室はひんやりと冷たいコンクリのような壁で囲まれており、光を取り入れるためだけが目的だろう小さな小窓があった。

 どうやってもその小窓からは逃げ出すことは不可能な大きさに思えるが、そこにもしっかり鉄格子がついていた。

 正面の錠が掛けられた鉄格子はとても頑丈な作りで、その格子の一本一本が猫の紳士のしっぽの太さほどあった。

 猫の紳士が全体重をかけて押してみても、引っ張ってみてもまるでビクともしない。

 早く出せ! と苛立った猫の紳士は、怒りの感情に任せるまま、乾坤一擲(けんこんいってき)その格子を思いきり蹴とばしてみたものの、足を抱えてもだえ苦しむ結果となった。

 それを見かねた真面目そうな甲冑の猫は、真剣な面持ちで猫の紳士を窘めた。


「大人しくしていてください。貴方は『伯爵様』なのでしょう?」

「ぐぬぅぅ……」


 そのもっとも痛いところを突く言葉にぎりぎりと歯を食いしばり、猫の紳士は少しばかりか顔を紅潮させた。

 とても名誉ある職位に就く猫の紳士は、一介のぺーぺー兵士に軽くいなされたのだ。

 猫の紳士は、備え付けてあった臭そうな毛布に包まり、壁の方を向いてふて寝を決めこんだ。

 その後ろ姿を確認した甲冑の猫は、牢屋の真向かいにある椅子に腰をかけた。

 どうやら彼の持ち場は、その椅子が定位置なのだろう。




「貴君よ……おい……」


 ふて寝している猫の紳士は、壁に向かったまま甲冑の猫に呼び掛けた。

 その声質は諦めにも似たような、とても弱弱しくか細いものだった。


「なんでしょう?」


 ガチャリと甲冑を鳴らしながら、猫の紳士の牢に近づいた。


「貴君の出身はどこだ……」


「は、私でありますか?」

「この場にわたしと貴君以外に、誰かおるのかね?」

「はぁ。私は……田園の続く、なんてこともない田舎の出です」

「なんと!? 貴君……お主まさか」

「はい、伯爵様。貴方と同郷でございますよ。私は一目見てすぐに伯爵様だと気づいておりました」

「そうだったか……巡り合わせとは、実に面白いものだな……」


 そう言うと猫の紳士は、しばらくの沈黙の後、疲れが出たのかそのまますーすーと寝息を立てていた。


 甲冑の猫はそれを確認すると、また定位置にある椅子に腰かけた。

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