第18話 離別と崩壊
その日は、朝から雨が降っていた。
あまり家族以外を招いたことのない我が家は、次々と入れ替わりで訪れる弔問客で、まるで自分の家ではないような錯覚を起こしていた。
弟の葬儀は学校の教師の配慮なのか、制服姿の参列者が多かった。おのずと弟には、とても人望があったのだろうことを伺わせた。
途中、弟の後輩らしき女生徒が、取り乱すように泣いていたが、左右の友人に慰められ落ち着きを取り戻していた。あの子は弟に、好意を寄せていたのだろうか。
部屋に立ち込める線香の香りで、僕は祖母の葬儀を思い出していた。弟の葬儀は祖母の時と異なり、随分たくさんの参列者で、家の外まで溢れかえっていた。
葬儀式は粛々と執り行われ、告別式の頃には雨が止み始めていた。
出棺時の喪主である父の弔辞で、涙を流す者は少なくなかった。
火葬場では家族4人だけで、弟の最後を見送った。
僕は弟を失ったショックが大きかったのか、まるで感情が死んだようだった。
妹は弱々しく震えている母に、ずっと寄り添っていた。
父はウィスキーの小さな小瓶を内ポケットから出し、ぐいっと飲み干していた。
弟の葬儀以降、我が家は少しずつ歪みを見せていた。
父は深酒することが多くなった。
再就職の多忙さ故に滅多に家にはいないのだが、父の部屋には決まって、何本かのウィスキーの空ボトルが転がっていたりした。
あんなにおっとりしていた母は、情緒不安定さを感じさせるほどヒステリー気味に、父とよく言い争うようになっていた。
またある時は、夜中に誰もいない真っ暗なリビングで、一人しんしんと泣いていたりしていた。
元々の持病もとても悪化していたらしく、度々発作を起こすようになり、主治医より病院への入院を強く勧められていた。
どこからそれを嗅ぎつけたのか母方の親族達は、まるで僕たち家族を引き離すかのように、祖父母のいる母の実家へと、母の療養を理由に連れ戻したのだった。
母方の祖父母からとても毛嫌いされていた父は、無力にも反抗する事も出来ず、母の意思を介せずただ一方的に、離婚届が送りつけられた。
ちょうどその頃、僕は弟が亡くなる前に面接を受けていた会社から、内定の連絡を受け取っていた。
状況が状況だけに素直に喜べなかったが、会社が実家から近いこともあり、僕は大学卒業後は実家から通うことに決めたのだった。
両親の離婚がもし成立してしまった場合、あの家には不在の多い父と、多感な時期の妹だけという状況になるため、僕はそうならないようにしたかったのだ。
葬儀前あんなに泣いていた妹は、両親の離婚を以前から悟っていたようだった。
僕が就職を期に実家に戻るという言葉で、妹は顔を輝かせて喜んでくれたが、瞳はどこか虚ろで寂しげだった。
弟の葬儀から数日後、年を越す前に片づけてしまおうと、妹は一人で弟の部屋の遺品整理をしたそうだ。
その遺品整理で妹は、弟のクローゼットの奥であるものを見つけていた。
それは綺麗な色のガラス玉がたくさん詰まった、クッキーの缶ケースだった。
妹はとても懐かしんでいたが、僕はその中身を見せられた時、弟を死に至らしめたあの鮮血にまみれたガラス玉が、鮮明に思い出されたのだった。
ずっしりと重いそのクッキーの缶ケースは、弟を殺したのは自分なんだと、重くのしかかる十字架のようだった。




