第144話 一つの終点での独白
私は、ただ静かにモニターを見つめていた。
画面の向こうには、もう一人の自分——バーチャルタレントとしての姿が映っていた。
「もう一人の自分、か……」
小さく呟いた言葉は、誰にも届かず静かに消えていく。
そういえば、そんなこともあった気がする。
遠い昔の記憶。あの騒がしい日々を懐かしく思うときが来るなんて、思いもしなかった。
モンスターテイルズ公式チャンネルには、私たち四人が、まるで過去に戻ったかのように放課後を楽しむようにゲームで遊んでいる。
楽しそうに笑う私達の姿。
懐かしいような、遠いような。まるで手の届かない景色を見ているみたいだった。
私はただ、それを見ているだけ。そこにはいない。ただの傍観者。
指先が震えるのを感じて、そっと拳を握る。
何かが足りない。ずっと、そう思い続けてきた。
いや、足りないんじゃない。最初からここにないものを求めているだけ。
私は、ただそこにいるだけの存在だったのに。
「結局、私は何にもできなかったってのに……」
それなのに、こんなにも埋められない空白を感じてしまうのは、どうしてだろう。
目を閉じれば浮かぶ声。かすかな温もり。過ぎ去ったはずの時間の残滓。
感覚だけが残っている経験のない記憶。
まるで誰かがいたかのような錯覚。
「もう、いないんだよね」
どれだけ手を伸ばしても、そこには何もない。
私の世界は、私が生きてきたこの場所にしか存在しない。
それなのに、時折ふと感じる。
誰かの視線。誰かの声。誰かのぬくもり。
まるで、まだここにいるかのように。
けれど振り返っても、そこには何もない。虚空だけが広がっている。
記憶が薄れていくような感覚。
何かを忘れてしまったような、何かを失くしてしまったような。
いや、違う。そんな曖昧なものじゃない。
確かにそこにいた。確かに共に過ごした時間があった。
今はもういない。私の手の中から、こぼれ落ちてしまった。
何かが足りない。何かが欠けている。
そんなことを考えるのは、もうやめたはずなのに。
それでも、心の奥底で疼くこの違和感は消えない。
夜が更けるたびに、ふと感じる。
誰かが隣にいたはずの場所。誰かと笑い合っていたはずの時間。
思い出そうとすると、輪郭がぼやけていく。
影が揺らぐように、曖昧になっていく。
どれだけ願っても、もう二度と戻らない。
「ま、やれるだけやるけどさ……」
私はただ、今を生きるしかないのだ。
それでも、もし。もしも願いが叶うのなら。
この胸の奥にある、満たされない空白を埋めることができるのなら。
そのとき、私は何を選ぶのだろう。
いや、選ぶことすら許されるのだろうか。




