記憶の断片
「お……け……」
バケモノの胴体の一部に目玉がめり込んでいる。
「……ーい……い!」
その目玉がじっとこちらを見つめている。やがてそのバケモノは壁を登り何処かに姿を消した。
「どうしたんだ、佳!」
「…………悪い、ぼーっとしてた」
呆然としていた佳は、拓哉に両肩を掴まれ揺さぶられるまで話しかけられていることに気がつかなかった。
「碇くん、大丈夫ですか? すごい汗ですよ」
美波に指摘されて始めて自分が冷や汗をかいていたことに佳は気づいた。
「あ、あぁ大じょ……」
「はーい、それじゃあ帰りのホームルーム始まるよー」
重要なプリントを職員室に忘れて取りに行っていた担任の佐原文香先生が教室に戻ってきたのだ。生徒たちは楽しく雑談をしているところに水を差され、渋々、自分たちの席へと座った。
佳は先生の帰還に内心とても感謝していた。先程、彼だけが見たあの光景を周りで怪訝そうにしていた友人たちにどう説明していいのか分からず困惑していたからだ。
「佳、本当に大丈夫か?」
ホームルームが始まると同時に、拓哉が背もたれに肘をつけ振り返り聞いてきた。
「大丈夫」
佳は目を逸らして答えた。
「……そうか、ならいいんだけど」
本当のことを伝えようか、それとも嘘をついて乗り切るか、佳は迷った。挙句、拓哉の問いに適当な返答をしてしまった。
幼馴染みなだけあってきっと何かを察したのだろう。彼はこれ以上詮索はしてこなかった。
ホームルームが終わり四人が集まった時に、美波が気を遣って「カラオケはまた今度にしませんか?」と提案してくれた。佳はそのお言葉に甘えて下校することにした。
拓哉と紗七に「また後で」と告げて学校を後にする。
佳は万尋の入学祝いパーティーのためのケーキを受け取りに行くため、バスを使わず徒歩で行きつけのケーキ屋さんに向かっていた。
道すがら商店街を横目に学校で目にしたバケモノのことについて考えていた。
(あのバケモノは何だったんだ? 俺以外見えてないようだったし、人間の倍くらい大きかったぞ。俺を見てたけど何かしてくる様子もなかった。敵意はないのか? それとも観察してただけなのか。何のために? そもそも実体があるのかすら怪しいしな。影が出来てなかったし、もしかしたら俺の見間違いか幻覚なのか……うーん)
長々とバケモノについて考察してみたが、納得のいく答えは出なかった。その時、ふと今朝のニュースを思い出した。
「一週間以内に死ぬ……か」
実感が湧かなかった。それもそのはずだろう。実際に死んでしまった人を見たこともないし、バケモノがニュースで言っていたものと同じ生物なのかも分からない。
(やっぱ見間違いかもな)
そう結論付けた時だった。商店街の路地裏へと続く、人一人が通れるくらいの細い道の奥に、一瞬だけとても大きな影が通り過ぎていくのが見えた。
「今の……まさか」
佳は細道に沿って駆け出した。細道を抜けて路地裏に入ると先程までより広い道があり、さらに奥へと道が左右に続いていた。
不思議と恐怖はなかった。それよりも好奇心(違和感と言った方が正しいかもしれない)が勝ったのだろう。どんどん奥へと進んでいき、二つ目の角を曲がったところでバケモノに出くわした。
「なっ! ……嘘だろ」
佳は驚きのあまり後ずさりした。教室で見たバケモノよりはるかに大きなバケモノがそこにいた。形状は頭と胴体が狼で四足歩行、蛇のような尻尾がいくつも付いており、まるでキメラのようだった。
教室で見たものとは全くの別物だったが、一つだけ共通しているところを彼は見つけた。
胴体に人間の身体の部位がめり込んでいたのだ。大きいこともありその数はかなり多かった。頭から指先までの様々な部位が所々に散りばめられている。
まだこちらには気づいていないようだ。佳はこのバケモノどもに実体があるのか触れて確認するつもりだったが、(さすがにこれに触るのは無理だな)と諦めた。なので佳は肩に掛けている鞄の中からスマホを取り出し、写真を撮ることにした。
(あっ……)
路地裏には太陽の光が届いておらず暗く、そのせいで自動的にフラッシュをたいてしまった。バケモノがこちらに振り返る。目玉がないのに大きな頭はこちらを確実に捉えている。
口元からは人間のものと思われる血が滴っている。先程までバケモノが顔を埋めていた場所に血だらけになった女性が倒れていた。
「……ッ! くっ!」
佳が全速力で来た道を引き返すのと同時に、バケモノは地面を蹴った。その蹴りは地面が砕けるほど強く、たった一歩で彼の眼前にまで迫るほどだった。
大きく開かれた口からはこちらに向けられた殺意がひしひしと伝わってくる。バケモノの噛みつきを佳は間一髪で躱した。バケモノは勢い余って壁に激突した。その隙に次の曲がり角を目指す。だが、バケモノはすぐに追撃を再開した。
(! ……間に合わないッ!)
そう悟った彼は左肩に掛けていた鞄を右手で掴み、全力でバケモノに向けて放り投げた。
当たりどころが良かったのかバケモノが怯んだ。
「よし! 今のうちに………がっ!」
だが、佳は前に進むことなくその場に崩れ落ちた。
蛇のような尻尾が二本、彼の身体目掛けて伸びたのだ。一本は彼の左足を、もう一本は右横腹に。足は擦り傷だったが、横腹は少し肉が抉られかなり出血している。
「くそっ!」
無意識に痛みをアドレナリンで紛らわせようとしたのだろう。大声を出し、横腹を左手で押さえながら一つ目の角を曲がった。
(次の角を曲がれば商店街に出る!そしたら助けを……)
二つ目の角を曲がろうとした瞬間、いつのまにか背後に迫っていたバケモノの右前足が地面に叩きつけられた。
直撃はしなかったものの佳は反対側の路地裏へと吹き飛ばされた。上手く受け身をとれず、血を撒き散らしながら奥へと転がっていく。
佳は全身に激痛を感じながらもなんとか身体を起こす。
(バケモノに道を塞がれた。ほかの道を探さないと……)
意識が朦朧としてきた。出血と息切れも酷い。それでも彼は走り続けた。だが、角を曲がったところで彼は足を止めた。そうせざるを得なかった。
「行き……止まり……」
一瞬、思考が停止した。だが、背後に迫った大きな影によって思考は再び機能し始めた。後ろを振り返ると同時にバケモノは爪を立てた大きな左前足で、まるで彼を蚊の如く薙ぎ払う。
佳は両手で守りの姿勢をとった。右腕から全身に向けて強い衝撃を受け、彼は壁際まで吹き飛ばされ背面を強打した。
「かはっ! ………」
今までに見たこともないくらいの大量の血が彼の口から吐血し、地面にうつ伏せのまま倒れた。それだけではない。防御のために使った右腕が今にも千切れそうな状態で、そこからも大量の血が流れ出ている。
目が霞んできた。目の前の景色もろくに分からなくなってきた。
今は十二時くらいなのだろうか。偶然にも太陽の光を遮るものがなく、この空間だけ暖かな光に包まれている。
(死ぬ……のか? ……俺……)
眼前にバケモノが迫ってきた。逃げ場はなく、手や足に力を入れることすらできない。息切れも酷く、必死に呼吸をするのにも疲れてきた。顔を上げる気力もない。
意識が途切れる寸前、彼は視界の端にバケモノを捉えた。何故かバケモノはこちらではなく上を見上げていた。先程まで殺しにかかってきていたのが嘘かのように呆然としている。
(……何を……見てるんだ?)
だが、佳の意識はそれを確認する前に深い闇の中へと沈んでいった。
現在時刻、十七時三十分
「遅いな佳の奴、遅くても一時には帰るって言ってたのに……」
碇家のリビングのソファで寛いでいる拓哉がスマホを眺めながら呟いた。
「おばさんたちあと二十分くらいで帰って来るって、ほら拓哉も盛り付け手伝って」
リビングを出たところにある固定電話で電話に出ていた紗七がキッチンに戻ってきた。
「なぁ、佳から連絡あったか?」
「きてないよ、ケーキの受取日でも間違えて戸惑ってるんじゃないの?」
「そうかなぁ」
佳は父親程厳しくはないが、時間は厳守する方だ。特にこういった大事な日には。
そんな彼がケーキの受取日なんかを間違えるとは、拓哉には想像できなかった。
「ねぇ、飾り付け終わったんだったらこっち手伝ってよ」
「えぇ……」
「早く」
鋭い声で紗七が催促する。不本意ながら拓哉はキッチンに足を運んだ。キッチンを覗き込むとフライパンやら鍋に完成した料理が入っており、それがずらりと並んでいた。
「はぁ、だから作りすぎるなって役割分担の時に言ったじゃん」
万尋の入学祝いパーティーは以前から決めていたことで、役割もしっかりと決めていた。
佳はケーキの注文と受取(個人的にプレゼントも用意している)。拓哉は飾り付け。紗七は料理。両親は三人が準備できるまでの時間稼ぎ(主に買い物)。
昨年、万尋が一人で三人の入学祝いパーティーをしてくれたので、今年はそのお返しということもありみんな気合いが入っていた。特に紗七は気合いを入れすぎて時間ギリギリになっても未だに料理の盛り付けが終わっていなかったのだ。
「で、何すればいいの?」
「とりあえず六人分のお皿持ってきて」
拓哉は渋々、紗七の手伝いをすることにした。
十分後、机の上を埋め尽くすほどの料理の盛り付けが完了した。
「ふぅ〜、これでよし!」
紗七が右手で汗を拭うような仕草をとった時だった。ガチャンと玄関の方から扉の開く音がした。
「あれ? おばさんたち早いな、電気消してクラッカー用意しなきゃ!」
電話で聞いた予定の時間より早く紗七は少し焦った。
「車の音しなかったから違うんじゃないか? 確か、おじさんの車で出かけるって言ってたぞ」
窓を見ながら訝しげな表情で拓哉が答えた。
「じゃあ……」
紗七が続きの言葉を発する前にリビングの扉が開かれた。入ってきたのはボロボロになった制服を着ている佳だった。
手には取っ手の付いた大きな箱が二つぶら下がっている。パーティー用に彼が注文していたケーキだろう。しかし、それ以外に持っているはずの鞄などを彼は持っていなかった。
目が覚めた時、彼が最初に目にしたのは暗闇だった。
(……何処だここ?)
佳は自分が死んだものだと思っていたが段々と暗闇に目が慣れていくにつれ、それが事実ではないのだと思い知った。
そこはバケモノに追い詰められた路地裏だった。ただ、日が傾いたせいか建物に囲まれている路地裏は太陽の光を遮り、暗闇に包まれていた。
「え!? ……なんで……」
佳はふと、自分の身体に視線を落とし、そして驚愕した。深傷を負ったはずの腹や腕が元に戻っていたのだ。そこら中に飛び散っていた血も一滴も見当たらない。
全てが幻覚だったのではないかと疑った。しかし、ボロボロになった制服が一連の出来事が幻覚なんかではなかったことを証明している。
「あのバケモノはどこに行ったんだ? いや、それより早く家に帰らないと」
時間を調べるためにポケットを弄ったが、スマホは何処にもなかった。
「まじかよ……」
とりあえず、商店街へ出て時間を確認しようと佳は立ち上がった。身体が異様に重い気がしたが、彼はあまり気にせず商店街へと足を運んだ。
商店街に出るとまだ日は沈んではいなかったが、かなり太陽が傾いていた。
(やばい、早くケーキ受け取って家に帰らないと)
佳は人通りが少なくなってきた商店街を走り抜けた。
商店街と住宅街の境目に建っている、こじんまりとしたケーキ屋さんが見えてきた。一見、ケーキ屋さんに見えないその店は碇家御用達の店で昔からお祝い事などのケーキは必ずここで購入している。
勢いよく扉を開くと見慣れた店内に、同じく見慣れた四十代くらいの優しそうな顔をした男性の店主が店内の掃除をしていた。
「あ、佳くん! 遅かったね心配したよ、え!? どうしたの制服」
「遅くなってすみません、あー……これは……」
店主にボロボロになった制服を指差され、佳はどう説明するか迷った。
「急いでたらこけちゃって、ははは……」
結果的に嘘をついてやり過ごそうと判断した。本当のことを言っても信じてもらえないだろうと思ったからだ(この嘘すら信じてもらえるか危ういが)。
「そうなんだ、ずいぶん盛大に転んだろうに怪我してないなんてすごいねー」
(……信じた)
両親に聞いた通り、彼は本当に純粋で人を疑うということを知らないらしい。
「あ、パーティー用のケーキ、すぐに準備するからちょっと待っててね」
そう言って彼が奥の厨房に行こうとした時、佳は大事なことを思い出した。
「あの、すみません、ケーキの引換券を何処かに落としてしまったみたいで……」
「あぁ、いいよいいよ! 佳くんたちはお得意様だからね」
どうやら彼にとって碇家に渡すケーキの引換券は形だけのものだったらしい。
「ありがとうございます」
店内の隅の方に設けられた小さな椅子に腰掛け、店主を待ちながら時間を確認するため店内を見渡し、時計を探す。
(五時半か、ケーキ持ってると走れないしここからだと家まで結構かかるから六時に間に合わないな、どうしよう)
どうやったらパーティーの時間に間に合うか佳が考えていると、大きな箱を二つ持った店主が厨房から戻ってきた。
「確か、注文したケーキは一つだけだったと思うんですけど」
注文した覚えのないケーキの箱について聞くと、店主は笑顔で答えた。
「おまけ、新メニューでまだ店にも出してないやつだよ」
「いいんですか? お金払っていないのに……」
「お金は気にしなくて大丈夫だよ、今日はおめでたい日だからね! 代わりに味の感想聞いといてよ、参考にさせてもらうから」
店主は最初からお金を払わせるつもりがなかったのだろう。
こちらが返答する前に、ケーキが崩れない程度の力で大きな箱二つを佳に押し付けてきた。
「あ……ありがどうございます、じゃあまた今度ケーキの感想伝えにきます」
そう言い残し店を後にしようとした佳を店主が呼び止める。
「佳くん、お家まで送って行こうか? ケーキ持ちながらだとパーティーの時間に間に合わないでしょ?」
正直、お言葉に甘えたかったが今は店主以外誰も店にはいないのだ。
「でも……お店の方は大丈夫なんですか?」
だが、それ以外にパーティーの時間に間に合う手段を思いつかず、佳はダメ元で聞いてみた。
「うちは六時閉店だから大丈夫、それに今日は佳くん以外にケーキの予約をされているお客さんはいないからちょっと早めに店じまいしようと思ってたんだ」
「それじゃあ、お言葉に甘えさせてもらいます」
彼の好意を無下にするのも気が引けるし、こちらとしても大助かりなので送迎をしてもらうことにした。
「店の裏手に車があるからそこで待ってて、鍵を取ってくるから」
「わかりました」
「本当にここまででいいの?」
「はい、後は歩いて帰ります、送ってもらってありがとうございました」
車の窓を開けて少しだけ身を乗り出している店主にお礼を言い、お辞儀した。
「わかった、それじゃあね、これからもうちの店をご贔屓に」
捨て台詞を吐き、すぐに店主は車を走らせた。
佳は家に直接送ってもらうのではなく、家から一番近い徒歩三分くらいのコンビニエンスストアで降ろしてもらった。
ネットで買った万尋へのプレゼントを受け取るためだ。佳は個人的にネットで買い物をする時は、基本コンビニ受け取りにしている。
「あ……」
コンビニに足を踏み入れた時、佳はあることを思い出した。
(バケモノに鞄放り投げてそのまんまだ)
鞄の中には財布や家の鍵にその他諸々、貴重品が詰まっている。支払い方法がない今の現状、コンビニを後にするしか彼に選択肢はなかった。
(事前にプレゼントだけ準備しとけばよかったな)
今日のパーティーで万尋にプレゼントを渡せないのは残念だが、致し方ない。
明日にでも鞄を探しに行こうと思ったが、またあの路地裏に行くのは気が進まなかった。
(警察に紛失届出すか……女の人のことも伝えないといけないし)
遠くからしか見えなかったがあの出血の量からすると女性はきっと死んでしまっているだろう。
彼の目が覚めた時、騒ぎも起こっていなかったのでまだ発見されていないはずだ。
(今日の出来事は一旦忘れてまた明日考えよう、せっかくのパーティーだからな、楽しまないと)
色々なことがありすぎて疲労しているが、そんな身体を奮い立たせようと佳は心の中で活を入れた。
ほどなくして家に着いた佳は、家の前で深呼吸してから扉を開ける。玄関には二人分の靴が並べられていた。
(拓哉と紗七か、この制服どう説明しよう)
靴を脱ぎ、ボロボロになった制服を眺めながら何と言い訳するか考えた。だが、流石にこの見た目では弁解のしようがないだろう。諦めの気持ちと共にリビングへの扉を開いた。
「佳……」
「悪い、遅くなった」
愕然としている拓哉に比べ、佳はあっけらかんとしていた。紗七は口に手を当て唖然としている。
「遅くなったってお前……その服どうしたんだよ! 何があったんだ?」
「これケーキな、万尋たちが帰ってきたら教えてくれ、着替えてくる」
こちらに歩み寄ってきた拓哉にケーキの箱を押し付けて、彼の質問に答えぬまま佳は逃げるように二階にある自分の部屋に向かった。
(誤魔化せそうにないな)
階段を上りながら佳は大きな溜息をついた。
部屋の扉を開き、クローゼットから着替えを取り出そうとした。その時、何も置いてないはずのベッドの上に何かが置かれていることに気がついた。
「……ッ! 何でここにあるんだ」
なんとベッドの上には落としたはずの鞄とスマホ、そしてまるで幼稚園児が書いたような乱雑な文字が書かれた一枚の紙が置いてあった。
佳は恐る恐る、真っ赤な文字に染められたその紙を手にして目を通そうとした。しかし、その紙から強烈な汚臭がして彼は思わず紙を顔から遠ざけた。
「うぅ……なんだこれ……血の匂い?」
間違いようがない、今日散々自分の身体から噴き出ていたあの赤い液体と同じ匂いだ。
軽く手で鼻と口を覆いながら目を凝らし、紙を見た。
――ダイじょウぶだヨ――
それを見た瞬間、何故か今朝の夢で見た村が脳裏に浮かび、まるで映像のように彼の脳裏に焼きついた。それと同時に夢の内容も思い出した。しかし、焼きついた映像に映っていた村は夢で見たものとは大違いで、荒れ果てて廃村と化していた。
「なんだ今の……俺の記憶か?」
佳は片手で頭を抱えながら考えた。
(記憶を無くしてから五年間、今までこんなことはなかった、なのになんで今になって……!)
彼は背筋が凍るような考えが頭に浮かんだ。
自分はあのバケモノとなんらかの関係があるのではないだろうか。
確証はない。だが、バケモノの視認に突然の記憶の甦り、同日に起こった二つの出来事に関係性がないとは思えなかった。
(……バケモノについて詳しく調べてみよう、そしたら俺の記憶も戻るかもしれない)
興味本意ではない。どうしてもなにか、思い出さなくてはいけない事があったような気がしたのだ。
誰かと、何か大切な約束をしていたような。
この時、彼は初めて自分の失った記憶を取り戻したいと思った。
そして必ず取り戻すと、強く心に誓った。




