再会
なろうへの小説投稿は初になります。
まだ小説を書き始めたばかりで文章力や語彙力も全然ないですが読んでいただけると幸いです。
多少グロ要素があり、今後もっと増えてくと思います。
作者名と同じ名前でTwitterやっており短編小説を一作品書いているのでよければ見ていってください。
@K08909291
夢を見るのは何年振りだろう。
碇 佳は目の前に広がる見覚えのない村を見てそう思った。山に囲まれ、いかにも田舎という雰囲気のその村には点々と家が建っており、所々がぼやけていて曖昧だったが、どこか懐かしい感じがした。
彼が周りを見渡していると、急に景色が変わった。そこは森の中にある小さな神社で、賽銭箱の前には巫女服を着た一人の少女が佇んでいた。腰まで伸びた白髪が太陽の光に照らされ、キラキラと輝いている。
少女が口元を動かした。だが、声が聞こえない。
佳はその少女の声を聞こうと足を一歩前に踏み出した。その瞬間、大きな耳鳴りと共に少女の声が聞こえた。
「ごめんなさい」
少女の儚げな涙声を聞いたのを最後に、佳の意識は夢の世界から現実へと引き戻された。
「さっきの夢、なんだったんだろ?」
そんな事を考えていたが、すでに夢の内容を忘れてしまっていた。「まぁ、いいか」と呟き、体を起こしたが妙に体が重く感じた。
「日付変わる前には寝てるんだけどなぁ」
ベッドから降り、カーテンを開ける。今日は一段と日差しが強く、思わず右手で目元を隠した。窓の側から離れ充電しておいたスマホを手に取り時間を確認した。
スマホには 5:47 4月3日(水)と映し出された。
「六時前か、少し早く起きちゃったな」
スマホをポケットにしまい、部屋を出て一階の洗面所に向かった佳はちょうど妹の万尋と鉢合わせた。
「おはよう、万尋が早起きなんて珍しいな」
「あ、おはよう兄貴。うん、まぁ今日から一応私も高校生だからしっかりしてこうかなと思って」
今日は松ヶ丘高校の入学式だ。佳も通っているその高校はこの地域ではかなりレベルの高い高校だ。合格発表前、万尋は受かるかどうか凄く不安がっており、毎日不安そうな顔をしていた。そのせいか、今日の万尋はいつもより元気に見えた。
「早起きもいいけど、もっと表情豊かにする練習した方が良いんじゃないか?」
万尋は基本的に表情を顔に出さない。だからいつも佳は声色で表情を読み取っている。昔は表情豊かだったと両親から聞いているが、佳は万尋が笑ったところを見たことがない。いや、正確には覚えていないのだ。
佳は十二歳より前の頃の記憶がないのだ。全てを忘れたわけではない。例えば、家族や家族の声、自分の部屋の内装など身近なものは曖昧ではあったが覚えていた。何故記憶を失ったのかは誰も知らないらしい。失った当初は戸惑っていたが、家族や幼馴染の助けがあり何事もなく過ごしており今を楽しんでいる。気づけば佳は過去の記憶にそれほど執着せず、気にもしなくなっていた。
「ん、できるだけ頑張ってみる」
そう言い万尋はリビングに歩いて行った。洗面所で顔を洗ってから佳もリビングに向かった。
リビングにいるのは万尋と自分だけだ。両親は仕事でよく県外に行くことが多い。次の日の昼に帰ってくることも稀ではなかった。
「お父さんとお母さん入学式間に合うかな?」
朝食の準備をしていた万尋が心配そうな声で聞いてきた。
佳も朝食の準備を手伝いながら答えた。
「そんな心配しなくて大丈夫だろ、かわいい娘の晴れ舞台だぞ?何があっても間に合わせるよ、あの人たちなら」
「たしかに」
佳が笑いながら言うと、万尋の声色が少し明るくなった。
「ほら、朝飯の準備できたし食おうぜ」
テーブルの上に朝食の準備をし終えた佳は万尋にそう言い椅子に座った。それを聞きすぐに万尋は向かいの席に座った。
二人は手を合わせ「いただきます」と言い、佳は味噌汁を飲み、万尋はリモコンでテレビをつけた。
万尋がテレビをいつも親が観ているニュース番組に変えると、その番組に出演しているタレントが最近世間を騒がせている『集団幻覚』について警察官と意見を述べていた。
『先月から多発している集団幻覚はやはり宗教などが関係してるのでしょうか?』
『最初は私もそう思いましたが、幻覚を見たと言う人や、その周りの人達に証言を聞いたところ、何点か違和感を感じる証言がありました』
『違和感……ですか?』
『はい、まず一つ目は幻覚を見た人達の年齢や住んでる地域、性格に統一性が全く見られませんでした。二つ目はどんな幻覚を見たのか聞くと、皆一様に「化け物を見た」と言うのですが容姿を聞くと意見が一致しないんですよ』
『大抵は集団幻覚というものは宗教的没入の中であったり、同じ先入観、願望を持つ者同士が同じ幻覚を見るといったのがセオリーで、今回は全く違うものという事ですね?』
『全くの別物とは言い切れません、証言以外の共通点が一つありまして……』
警察官が唾を飲み込み、再び口を開く。
『幻覚を見た人達は皆、一週間以内に死亡しているんです』
『全員ですか!?』
『はい、警察の方で確認できている目撃者は全員亡くなられています』
その後も長々とその話題について言及していた。先に朝食を食べ終わってしまった佳は万尋を待ちながらテレビを見ていた。
「凄いこと起きてんなー」
「そうだね、私たちも気をつけないと」
佳はあまり興味なさそうに言ったが、どうやら万尋は真剣に聞いていたようだ。
(くだらないニュースだな、てか何を気をつければいいんだ?)
佳は口にはしなかったが心の中でそう思った。万尋も朝食を食べ終わり「ごちそうさま」と2人で手を合わせて、佳が片付けを始めた。
「今日の片付けは俺だから先準備してきな」
「わかった」
そう言い万尋は駆け足でリビングを出て行った。
現在時刻は七時前、登校時間の八時三十分まで時間はだいぶある。この家から松ヶ丘高校までバスを利用すれば二十分もかからない。時間には余裕がある。
片付けを終え椅子に腰掛けた佳は自分のスマホを使い、朝のニュースについて調べた。
「『病院や老人ホームでの集団幻覚』か」
気になる記事を見つけ、佳はその記事が書かれたサイトを開き、詳細URLを押した。だが、映し出された画面は記事とは無関係のものだった。試しに何度かURLを押し直したが、映し出される画面は変わらなかった。
「くそったれ」
結局、有益な情報は何も得られず佳は痺れを切らし、スマホをソファに向けて放り投げた。
「そろそろ俺も準備するか」
万尋がそろそろ準備し終わった頃だろうと思い、佳は学校へ行く準備を始めた。
松ヶ丘高校は、市内では一番レベルが高く創立百年を誇る進学校だ。生徒数は七百人弱で部活はとても盛んに行われている。部活によっては全国大会で好成績を残す部活もある。
今日はそんな松ヶ丘高校の入学式だ。
現在時刻は八時、バスを降り歩いている佳と万尋は松ヶ丘高校の校門の前で立っている父と母を見つけた。
「ほら、俺の言った通りだろ?」
「うん」
万尋は嬉しそうに答えた後、両親の元へ駆け寄っていった。佳は歩きながらその後をついて行く。
「お、来たか」
「万尋! 式始まる前に写真撮っちゃいましょ、写真! ほら佳も早くこっち来てー」
落ち着いている父と違い、母はだいぶ浮かれているようだ。
「式終わった後からでも良くない? 時間ギリギリになったら万尋も大変だし」
「終わった後だと写真撮る人が増えて取れないかもしれないじゃない、ほら早く撮りましょ!」
佳は父にアイコンタクトをとってみたが、父は首を横に振るだけだった。普段は厳しく時間厳守な父だが、母相手だと相変わらず小動物のようになってしまう。
(去年、この写真撮影の所為で俺も父さんも遅刻しかけたこと忘れたのか?)
心の中で愚痴をこぼしながら、佳は渋々写真撮影に応じた。一通り写真を撮り終わったが、母はまだ一生懸命に万尋の写真を撮っている。万尋もノリノリで色々なポーズをとっている。佳は苦笑いを浮かべながら、父に「先に行ってる」と告げて校門をくぐった。
校門から垂直に咲き並んでいる桜を眺めながら佳は新しいクラスが張り出されている掲示板の前まで向かった。
「おっ! やっと来たか、佳」
「拓哉か」
柏木拓哉、彼は佳の同級生であり幼稚園の頃からの幼馴染だ。佳が記憶を失った事を家族以外で唯一知っている友人だ。記憶を失った当時は他の同級生にそれを隠すのを協力してもらっていた。
そんな彼は今、部活勧誘のチラシをうちわ代わりに、汗が滴る額を仰いでいる。
「今年は遅刻せずに済みそうだな」
拓哉は笑いながら言った。
「今年は俺じゃなくて万尋の方を心配してやってくれ」
「あー、今年は万尋ちゃんがおばさんの餌食になったか」
苦笑いしている拓哉から目線を外し、佳は再度、掲示板の二年生の新クラスの欄に目線を向けた。
「三組だよ、今年も同じクラス」
拓哉が掲示板に指をさした。そこには上から三番目に碇 佳と書かれていた。
「あ、そういや紗七も同じだったな」
拓哉はニヤニヤしながらこちらを見てくる。
「……そうか」
「ま、頑張れよ」
ニヤニヤしながら肩を組んできた拓哉に佳は少しイラついた。
「てめーの髪、全部引っこ抜くぞ」
「悪かったって、髪だけは勘弁」
佳が冗談で言うと拓哉は笑いながらスポーツ刈りの髪を片手で押さえ謝った。
「そういや、部活勧誘はどうだった?」
思い出したかのように佳は聞いた。
「あー、再来年にはバスケ部潰れてるかも」
「そんなに人気無かったのか」
確かに、拓哉が持っている大量のチラシを見れば一目瞭然だった。
「チラシ受け取ってすらくれなかったわ」
「今年の新人戦は参加できなさそうだな」
「佳も一応バスケ部なんだから手伝ってくれよー」
「今からでいいなら手伝うぞ」
佳が首だけ拓哉の方を向いて、拓哉の後ろを親指で指差しながら言った。現在時刻は八時二十五分、二人以外に校舎外にはほとんど生徒は居なかった。万尋を除けば。
「やべっ、早く行こうぜ、佳」
「あぁ」
佳は微笑んだ。そして、焦って走る拓哉の後ろをついて行った。
なんとか遅刻せずに教室にたどり着いた佳と拓哉。他の生徒は既に席に座っていた。佳は廊下側から一列目の前から三番目の席、拓哉は廊下側から二列目の一番前にある自分の席に座った。
すぐにホームルームは始まり先生が出席を取る。取り終わると先生の指示に従い、生徒達は体育館に移動した。
豪勢に飾りつけがしてある体育館で在校生は入学式が始まるのを待っている。やがて式が始まった。
ぞろぞろと制服の胸元に花をつけた新入生達が体育館に入ってくる。佳は拍手をしながら万尋がちゃんと間に合ったか心配していた。
しかし杞憂だったようだ。
(よかった、間に合ったっぽいな)
万尋の姿を見て佳は安心した。すると万尋がこちらに気がついたようで、小さく手を振ってきた。
(ちゃんと前見ろよ)と、思いつつ佳は小さく手を振り返した。
その後は去年となにも変わらない入学式だった。変わったことといえば、歓迎される側ではなくする側になったということくらいだ。
入学式も終わり各自教室へと戻った。担任発表で二年三組の担任は新しく入ってきた若い女性だとわかった。そのこともあり、クラス内は少し賑わっている。
その先生はレクリエーションが好きらしく初日から席替えをしたり、自己紹介カードを交換し合うなど、まるで小学校の先生のようだった。
一通り自己紹介をし終え、窓側から一列目の前から五番目の席で頬杖をつき外を眺めている佳に、拓哉が話しかけてきた。
「今日って十八時から万尋ちゃんの入学祝いパーティーだよな?」
「そうだよ、それがどうした?」
佳は視線だけを拓哉の方に向けた。今日は十八時から碇家で万尋の入学祝いパーティーをする予定で、これは万尋の合格が決まった時から拓哉、それと紗七とも話し合っていたことだ。
「じゃあその時間までカラオケ行こうぜ」
「いやいや、パーティーの準備するから時間ないだろ」
教室にある時計に目をやり、短針が十一に差し掛かりそうになってるのを確認して佳は言った。
駄々をこねる拓哉を無視し、佳は彼に向けていた視線を元に戻した。ちょうど太陽の光が窓から差し込んでおり、その暖かな光がとても気持ちよかった。
佳が安堵感に浸っていると、背後から聞き覚えのある声がした。それと同時に右肩に強い衝撃を受けた。
「おはよ! 今年もよろしくねー二人とも」
佳の右肩に左手を振り下ろし、右手で手を振る女子生徒がそこにいた。
「痛いな紗七……その子は?」
振り向いた佳は紗七の後ろでこちらを見つめ静かに佇む小柄な女子生徒を視界に捉えた。
「ぁ、小林美波です」
背中まで伸びたさらさらな髪が印象的な彼女に見覚えはなかったが、小林美波という名に聞き覚えがあった。佳に限らず松ヶ丘高校の生徒なら彼女の名を一度は耳にしたことがあるはずだ。
「もしかして剣道部の……だいぶ雰囲気違くね?」
拓哉と同様、佳もそう感じた。
小林美波、彼女は昨年の全国高等学校剣道大会の優勝者だ。一年生にして女子剣道部の主将を倒した、頭が良く容姿端麗、校則や決まり事は厳守するなど色々な噂が出回っている。これだけ聞くと委員長でもやってそうなイメージだが、目の前に立つ彼女は寡黙な文学少女といった雰囲気だ。
「部活中は髪をまとめてますから、友人にも部活中は別人ってよく言われます」
それを聞いて佳はふと思い出した。入学して間もない頃、部活をサボって裏庭で拓哉を待っていた時のこと。まだ彼女が有名になる前のことだ。
その時サボっていた彼を注意した人物がいた。上に剣道着を着て下に袴をはいたポニーテールの、いかにも気の強そうな女子生徒だった。今思い返せばあの人物は彼女、小林美波だったのだろう。
彼女はそのことを覚えているのだろうか。そんなことを考えていると紗七が自慢するように話し始めた。
「そう! 実は春休み中に仲良くなったんだよね」
美波を見て紗七が言う。
「はい、部活動の時によくお会いするようになって」
それを美波は肯定した。
「それで新しいクラスに前のクラスで仲よかった子が一人もいないらしくてさ、よかったら仲良くしてあげて」
「一年間よろしくお願いします」
美波は丁寧にお辞儀をした。
「あぁ、こちらこそよろしく」
「じゃあ親睦会がてら四人でカラオケ行こうぜ」
(こいつ……)
「いいね! 行こうよ美波」
「歌はあまり上手くないですがそれでもよければ」
拓哉の提案に二人とも異議はないようだった。紗七は万尋の入学祝いパーティーのことを忘れてしまったのだろうか。それとも拓哉と同様に時間があるから大丈夫だと思っているのだろうか。
頭痛がした。
きっと先のことを考えすぎて不安で頭が痛むのだろう。三人が楽しそうに何処のカラオケ店に行くか話し合っている中、佳は片手で頭を抱えながら深くため息をついた。
その直後、窓の方から物音がした。
(ん?)
佳はちょうど太陽の光が差し込んでくる窓の方を向いた。そこには窓を覆うほどの大きさの見たこともない黒いバケモノが蜘蛛のように窓枠に張り付いていた。その大きな胴体には黒ずんだ人間の身体の部位が所々にめり込んでいた。
彼は放心していた。
目の前にバケモノがいる。窓を覆い尽くすほどの大きなバケモノ。だが太陽の光は影を作ることなく、相も変わらず教室内を照らし続けている。




