第17話 ラスボスと元ラスボス
「本当に大丈夫なんだろうな?」
「今回はフェニックスもいる。確かにオレとフェニックスだけで挑んだ時は失敗したが、ここにいる全員で立ち向かえば勝算はあるだろう」
弱気な勇者アクセルを勇気づけるべく、デュークが前向きな言葉をかける。
だが、そんなに説得力がない。
このメンバーを見たところで、安心感なんて1ミリも感じないからね。
また撃沈して、今回は運悪く王国が滅びてしまう、なんていう気がしなくもない。
「随分と魔力が強いね、ここ。ダンジョンの中はもっとプレッシャーがかかってるってことかな」
「恐ろしいですわ。帰ります?」
「冗談はよせ。オレたちに王国の命運がかかっている。1年前と同じだ」
その1年前は撃沈しただろ。
思い出した方がいい。
今回も同じ結末が待ってるだろうから。
こうやって負けるような気はしているものの、全力で戦ってダンジョンを取り戻したいとは思っていた。
元々ダンジョンは俺が支配していたわけだし、平和な暮らしが脅かされていると考えれば、ここで負けてしまうわけにはいかない。
「アクセル、頼むからあの時のキレをよろしく」
今回のキーパーソンはアクセルだ。
彼は腐っても勇者なので、ダンジョンで冒険を繰り広げていくうちに、どんどん強くなっていくのだ。
俺がラスボスだった頃は、そんな彼の成長を恐れて1階層で勇者パーティを迎え撃った。
もしそれがなければ、俺よりもずっと強くなった状態の勇者と戦うことになっていたからだ。
そう考えると、アクセルは希望だ。俺よりも強い実力をつけて、その勢いのまま新しいラスボスを倒しちゃってほしい。
「覚悟はいいか?」
リーダーのデュークからの確認。
アクセルは不安ながらも頷き、それに合わせるように俺たちも頷いた。
そのまま1階層に足を踏み入れる。
ここから徐々にレベルを上げていき、50階層にいるラスボスを上回る力を――。
「あれ? もしかしてあれは……」
ミルの表情が引きつっている。
これは相当ヤバい時の顔だ。
とんでもなく恐ろしいモンスターに遭遇したのかと思ったが、なんと俺たちの視線の先にいたのは――。
「いや、俺と同じこと考えてるし」
ラスボスがそこにいた。
どうしてわかったのか。
それは、明らかにヒューマンの容姿をしていたことと、オーラが桁外れに強かったから。
1年前、彼らが俺に出会った時は、こんな威圧感に襲われていたんだろうか。
「戦う?」
一応聞いてみる。
ちなみに、全員であのヒューマンのラスボスと戦って勝てる確率は……なんと0%。
負けるに決まってる。俺のように寛容なラスボスじゃなければ、殺される。
「逃げるに決まってる。やっぱりバイト辞めるんじゃなかった!」
勇者に復帰するということで、酒場でのバイトを辞めていたアクセル。また新しいバイトを見つける……ことすらできないかもしれないぞ。
だが、ここでちょっと考えてみる。
普通であれば、ラスボスというのはダンジョンの最下層にいるはず。
この世界がどういう仕組みになっているのかも、俺がどういう仕組みで異世界に転生したのかもわからない。
説明されたことはないし、はっきりと解明できるものでもないと思っている。
とはいえ、このダンジョンの新しいラスボスは、本来あり得なかった存在だ。
俺が勇者パーティを倒し、ダンジョンを放置したから生まれた存在。
だとすると、その存在はテンプレートというか、常識というか、ダンジョンの定番通りに設定されるのが普通なんじゃないか?
都合のいい考えなのかもしれないが、ここはひとつ、ある可能性に賭けてみることにする。
これが上手くいかなければ、みんなあの世行きなので問題ない。
賭けてみる以外の選択肢はない。
「俺に任せてほしい」
「にゃー」
くっついているルゥが悲しそうに鳴く。
デュークはひとりで新しいラスボスに近づいていく俺を見て、静かに頷いた。
「貴様に全てを任せよう」
嬉しいことに、ラスボスはまだ攻撃をしてきていない。
俺たちが攻撃を仕掛けていないからかもしれないし、力の差が圧倒的すぎていつでも殺せると考えているからかもしれない。
だが、そんなことは大した問題じゃないし、考えても意味はない。
「あの、言葉は通じますか?」
汗が頬を伝う。
ここで会話ができなければ、はいさようなら。みんな終わりだ。
「通じる」
良かった。
なんとか死ぬまでの時間を引き延ばすくらいのことはできそうだ。
「ひとつ聞いてもいいですか?」
「……」
「あなたって、転生者ですか?」
そう。
これが賭け。
彼もまた俺と同じで、転生者なのではないか。
日本人なのかどうかはわからないが、同じ世界から来た人間なのであれば問題はない。
すると――。
「え、そうだけど。なんで知ってるの? てかこの世界って何?」
「ゲームの世界です。実は俺も転生者で――」
「あ、そうなの! 良かったぁ。僕だけじゃないんだ~。いや、ちょうど今、コンビニに行こうかと思ってさ。でもこの地下施設みたいなのめっちゃ深くて。ここまで来るのにどれだけ時間がかかったか。でも不思議と食べなくても生きられるんだよね」
緊張が抜け、地面に座り込む。
この新しいラスボスは、人畜無害だった。
恐るべき新ラスボスに圧倒されていたパーティメンバーは、俺と彼とのやりとりを唖然としながら見つめていた。
だが、どうやら相手に敵意がないようだとわかると、安心した表情で肩をグッと落とした。
「よくわからないけど、一件落着みたいだね。モンスターと戦わずに終わって良かった~」
「さすがはフェニックスだ。結婚してくれ」
「にゃー」
「お友達になったんですの?」
「よし、またバイト探すか」
というわけで、俺たちの決死のダンジョン攻略は、開始1分で終わりを告げた。
あれから3年がたった。
相変わらず俺はダンジョンの支配者じゃないし、王都で平穏な生活を送らせてもらっている。
デュークはなぜか俺の家に住みついてきたし、ミルまで王都に引っ越してきた。
元勇者アクセルは新しい就職先が決まったようで、その祝勝会は彼がバイトをしていた酒場でやったのを覚えている。
給料も結構いいところらしい。
エミリーはエルフの街を出て、王都で治癒師として働いている。
毎日が充実していて楽しいそうだ。
ルゥは俺の飼い猫として、俺の家に住みついている人間その2となった。癒しキャラは平穏な生活に必要だ。
そして、肝心なもうひとりの転生者のことだが。
彼はダンジョンを自分の意志で破壊し、また新たなダンジョンの支配者が現れないようにした。少なくとも3年は何も問題が起きていないので、この平和が続いてくれればいいなと思っている。
そして、彼もまた俺の家に住みついている。
転生前は日本人だったらしく、いろいろと話が合った。
「それにしても、フェニックスは面白いよね」
「え、何が?」
毎日のように、彼は俺を褒めてくる。
「ラスボスが序盤で登場するなんて、常識外れにもほどがあるでしょ」




