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義理チョコキングと頑張り屋さん ~隣の姉妹にご飯を食べさせたら、半同棲生活が始まった~  作者: バランスやじろべー
第一章中編 頑張り屋さんの家族

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第30話 誕生日ケーキ

 久しぶりに食べる一人じゃない夕食は、蓮にとって本当に楽しかった。


「「「ご馳走様」」」


 オムライスを食べ終えて手を合わせる。

 桜季も琴乃も美味しそうに食べてくれて、作った蓮としては大満足だ。

 多めに作った為にまだ残っているビーフシチューについては、後日久美子におすそ分けしてもいいだろう。


「先輩。本当にありがとうございました。とても美味しかったです」


「うん。お兄さん、ありがとう」


「口に合ってくれたようで良かったよ」


 頭を下げる二人には笑顔が浮かんでいる。

 それを見て蓮も自然と笑みが浮かぶ。


「あ、あたし、一回部屋に帰っていいですか? すぐに戻って来ますから」


「ん? ああ」


 一度琴乃が自室へと向かう。

 それを見届けて蓮は立ち上がり、空になった食器を持つ。


「それじゃあ片付けるか」


「あ、手伝いますね」


「ありがとう。それじゃあ食器を持って来てくれ」


「はい」


 桜季もテーブルの上の皿を持ち、シンクへと運んでくれる。

 蓮が洗剤で汚れを落とすと、桜季が水で流しラックへと置く。

 そうして二人で全ての洗い物を終えた頃、玄関が開き琴乃が戻って来た。


「おっまたせーっ!」


 手に持っているのは、昼に琴乃がエクラ・デュ・マタンで購入したケーキアソート。

 桜季の誕生日ケーキだ。

 見た目も美しく、色とりどりのケーキが並んでいる。

 当然ながら味も文句はないだろう。


「凄い……。ありがとう、琴乃」


「お姉、誕生日おめでとう! 美味しそうでしょ?」


 桜季はケーキを見つめながら、感謝の気持ちを込めて琴乃に微笑む。

 蓮もその様子を見て、自然と笑顔になった。


「味についてはあそこで働いてるおれも保証するよ」


 姉妹の微笑ましいやり取りを眺めながら、蓮はケーキ用のハイビスカスティーをポットに用意。

 そしてトングと小皿を二枚取り出してテーブルへと運んだ。


「あれ、お兄さん。なんで二枚?」


 不思議そうに尋ねる琴乃。


「なんでって、二人の分だろ?」


「え? お兄さんの分だってあるよ」


「いや、これはお姉さんの誕生日ケーキだろ。なし崩しでおれが食べるのも……」


 そもそも蓮がこうして二人と夕食を共にするのは成り行き上のこと。

 本来では姉妹二人で夕食とケーキを食べていたはずだ。


「いやいや、さすがにこんなに良くして貰ってケーキあげないとかないって。そんな人でなしじゃないよ、あたし。ねえ、お姉?」


「はい、琴乃の言う通りですよ。こうしてとても美味しい夕食をご馳走して下さったんですし、琴乃もこう言っていますし先輩も一緒に食べて下さい。……まあ、わたしが買ってきたわけじゃないですけど」


 琴乃も桜季も真剣な目で蓮に食べてくれと要求する。


「いや、だけど……」


 さすがに悪いと思って再度断ろうとする蓮。

 しかしそれよりも先に、琴乃が蓮を強引に椅子に座らせた。


「ほら、お兄さんは座ってて。えっと、お皿はこっちだよね」


 そのまま琴乃はキッチンへと向かい、小皿をもう一枚持って来る。


「先輩。わたしからもお願いします。一緒に食べて下さいませんか?」


「……分かった。それじゃあご馳走になるよ」


 よく考えればこの状況で姉妹二人だけで食べるのも、さすがに気後れしてしまうだろう。

 であればむしろこれ以上断るのも悪い。

 そう考え返事をすると、二人の顔がぱあっと明るくなった。


「うん! それじゃあ三人で食べよっ!」


 そう言って琴乃はトングを掴み、三人分を取り分けた。

 桜季の前にはイチゴのミニショート、蓮の前にはガトーショコラ、そして琴乃自身の前にはベイクドチーズケーキ。


「それじゃあお姉、改めて誕生日おめでとう」


「渡利、おめでとう」


「あ、ありがとう……ございます……」


 恥ずかしさと戸惑い、それが入り混じった感じで頭を下げる桜季。

 そんな桜季を見て、蓮と琴乃はくすりと笑った。


「それじゃあ、いただきます」


 桜季がゆっくりとフォークを手に持ち、プチケーキを更に一口サイズにカットして口へと運ぶ。

 するとすぐに口元が緩んだ。


「んっ……! 美味しい……!」


 桜季の言葉に、蓮と琴乃は目を合わせて微笑み合う。


「ふ、二人共どうかしたんですか……?」


 ケーキを食べずにニコニコとしている蓮と琴乃に、桜季が慌てたように問いかけてくる。


「ううん。お姉が美味しく食べてくれて嬉しいなって」


「ああ」


「も、もう…………。二人も食べて下さい……!」


 照れ隠しに怒ったような口調の桜季。

 そんな桜季の言葉に蓮と琴乃は再びクスリと笑い合ってフォークを手に取ってケーキを一口。


「うん。やっぱ美味しい」


「だよね! 美味しい!」


 元々小さいサイズということもあり、皿の上のケーキはあっという間になくなってしまった。

 桜季が二つ目のケーキを皿の上に移そうとトングで掴む。


「あっ……」


 桜季の選んだものは、桜とイチゴのレアチーズケーキ。

 それを見て、蓮の口から言葉が漏れる。


「え? どうかしましたか?」


 不思議そうな顔をして桜季が尋ねてくる。


「あの、先輩もこちらの方が良かったんですか? でしたら交換――」


「ああ、いや、そういうわけじゃないって。それは渡利が食べてくれ」


「は、はい……」


 桜季はきょとんとしたままレアチーズケーキを自分の皿へと移す。

 蓮も慌ててリンゴのミルクレープを選んだ。


「あっ、それも美味しそうですね」


「何ならおれは別のにしようか?」


 そう言えば桜季はフルーツ系が好きだと、エクラ・デュ・マタンで琴乃が言っていたのを思い出す。

 蓮の提案に桜季は慌てて首を横に振る。


「あ、いえ、大丈夫です。というか、どれも美味しそうなので」


「ん、そうか」


 そう言われて蓮はそのままリンゴのミルクレープを皿の上に。

 しかし視線は桜季の選んだ桜とイチゴのレアチーズケーキに向けられたまま。


(……それ、手に取るのか)


 エクラ・デュ・マタンで期間限定で出している新作。

 その考案者はほかならぬ蓮本人。

 エクラ・デュ・マタンのパティシエである陽翔は蓮にとって幼馴染みで仲の良い義兄とはいえ、店に出す商品に対し一切の忖度は無い。

 その厳しい陽翔のチェックを通過して店に出すことが許されたそれは、レシピを一から組み立て何度も試作を繰り返してようやく形にした一品だ。

 桜の塩味とイチゴの酸味、そしてチーズのコク。

 甘さを抑え気味にして、後味が重くならないように仕上げた自信作。


「あの、本当に頂いてしまっていいんですよね……?」


 フォークを手にしたまま、どこか遠慮がちに尋ねてくる桜季。


「ああ」


 なるべく平静を装って答える。


「はい。それじゃあ……」


 そう言って、桜季はレアチーズケーキを一口分に切り分け、ゆっくりと口へ運ぶ。

 その瞬間、蓮は無意識に息を止めて桜季に注目してしまう。


「ん……」


 小さく目を見開き、続いてふわりと表情が緩む。


「これ……さっきのショートケーキとはまた違って……すごくさっぱりしてます。桜の香りもして……イチゴの酸味がちょうど良くて……」


 言葉を探しながらも、素直な感想が次々と零れていく。


「重くなくて、いくらでも食べられそうです……」


「そ、そうか。良かったよ」


 桜季の感想を聞いて、蓮はようやく小さく息を吐き胸を撫でる。

 胸の奥に溜まっていた緊張が和らいでいく。

 すると、いきなり目の前にずいっとケーキが現れた。

 見ると、桜季がフォークに刺したままこちらへと差し出している。


「えっと……、渡利、これは……?」


「先程からこのケーキをずっと見ていたので、やはり先輩も食べたかったのかと思いまして……」


 注目していたのは確かだが、理由は別だ。

 思わぬ勘違いをさせてしまった。


「い、いや……、その、そういうんじゃなくて……」


「遠慮しないで食べて下さい」


 少し強めの圧を感じてしまう。

 これ以上断るのも無理だと判断し、蓮は観念して身を乗り出した。


「わ、分かった……」


 差し出されたフォークに口を近づけ、そっとレアチーズケーキを含む。

 試作段階から何度も口にしたケーキの味。


(……こ、こんなに甘かったか…………?)


 しかし、今食べた物は間違いなく店頭に並んでいる物と同じはずなのだが、これまでのどれとも違って感じてしまう。

 その理由は間違いなく桜季に『あーん』で食べさせてもらったからだろう。


「どうですか?」


「お、美味しい……」


「ですよねっ」


 嬉しそうに頷く桜季とは対照に、蓮は自分の顔が真っ赤になってしまっていることを自覚する。


「じー…………」


 聞こえてきた声の方を見ると、琴乃がニヤニヤとした視線を向けていた。


「…………」


 蓮としては、今の『あーん』を見られていた為に言葉を発するのを躊躇ってしまう。

 おそらく何を言ってもカウンターを食らうことだろう。


「どうしたの?」


 一方で今自分が何をしたのか分かっていないであろう桜季は、素直に琴乃に問いかける。

 その質問が自分の首を絞めるとも知らずに。


「どうしたのってさ、お姉、今お兄さんにあーんってやって食べさせてあげたよね」


 にひひ、と意地悪く問いかける琴乃。

 予想通り、明らかにからかってきた。

 その言葉に桜季は今自分が何をやったのかを理解したのか、沸騰しそうな勢いで顔が真っ赤になってしまった。


「あ、あーんって……! そ、その……」


 チラチラと蓮の顔を見て、すぐに顔を逸らす

 蓮としても桜季の視線から逃げるように顔を背けてしまう。


「そ、その、先輩が食べたいみたいだったから、つい……」


「へー、そうなんだー」


「そ、そうなの!」


 実際そのとおりであり深い意味など全くないことは蓮にも分かる。

 しかし桜季は勘違いされたくないという思いからか、目に見えて狼狽えてしまっている。


「さっき言い出せなかったけど、そのケーキはおれが考案したんだ」


「えっ、そうなんですか!?」


「ああ。その、だから気になったって言うか……」


「うぅ……。わたし、とんでもない勘違いを…………」


 真っ赤になって狼狽えたままぺこぺこと頭を下げる桜季。


「いや、気にしないでくれ。美味しいって言ってくれて、おれも嬉しかったし」


「は、はい……。その、本当に美味しかったです……」


 桜季がゆっくりと顔を上げて小さく口を開く。


「そ、そうか。なら良かった」


 蓮もそれだけ言うのが精一杯だった。

 一方で琴乃は楽しそうにニヤニヤとしながらこちらを覗き込むように視線を向けてくる。


「お兄さん、照れてる?」


「……照れてない」


「いや絶対照れてるでしょ」


 即答したものの、琴乃の追撃は容赦がない。


「だってさー、自分が考えたケーキを好きって言われた上に、あーんまでしてもらってるんだよ? そりゃ顔も赤くなるよねー」


「琴乃……!」


 桜季が小さく抗議の声を上げる。

 しかしその声にもどこか力がなく、恥ずかしさがまだ残っていることは明白だ。


「ほらほら、せっかくだしお姉もどう? 今度はお兄さんからあーんしてもらえば?」


「なっ……!」


「しないからな」


 即座に否定する蓮。

 桜季もぶんぶんと首を横に振る。


「えー? だってさー、お姉、お兄さんのお皿の上のケーキずっと見てたじゃん」


「そ、それは……」


 琴乃の指摘に桜季が言葉に詰まる。

 蓮と違って、こちらは本当に美味しそうだという思いで見ていたのだろう。

 恥ずかしいのは確かだが、とはいえ桜季一人に恥ずかしい思いをさせるわけにもいかない。


「……ほら」


「え?」


 桜季一人に恥ずかしい思いをさせるわけにもいかない。

 恥ずかしさを覚悟して、蓮はミルクレープを小さく切り分け、そっと差し出した。


「あ、あの……」


「…………お裾分けだ」


「わあっ!」


 戸惑う桜季と、対照的に顔を輝かせる琴乃。


「で、ですが……」


「こっちも気になってたんだろ? おれもそっちのケーキを貰ったしな。遠慮しないで食べてくれ……」


「は、はい……」


 小さく口を開けて、蓮の差し出したケーキを食べる。

 可愛らしく雛鳥のように口を開ける桜季に、蓮はドキリとしながらもフォークを戻す。


(…………やば、思ってた以上に恥ずかしい)


「…………美味しいです」


「…………そうか」


 それしか言葉が出てこない。

 そんな蓮と桜季を、琴乃は満足そうにニヤニヤと眺めていた。

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