第7話-7『爆壊』
それから少し経ち、回復した僕が躍起になったのは、あの作戦の意図を調べることだった。
一体誰が、なぜ、どのような目的であんな無謀なことをやらせたのか。
状況もおかしかった。赤獅子が一人死ぬというのは大きな事件だが、その件で上の人間が責任を取ったという話もでてこない。
赤獅子といえど一兵士。上の内情はわからない。
ある日、隊長が前線から戻ってきた日に、僕は直接、彼の部屋に行った。
連絡もない突然の来客だったはずだが、彼は冷静だった。
僕が来ることを、なんとなく分かっていたのだろう。
無駄な言葉を省き、あの作戦は、一体誰が指揮したものか、それを聞くと、隊長も無駄な言葉なく、淡々と事の顛末を語りだした。
現在、上層部は大きくだが二つの派閥に分かれていた。
盤石に勝利を積み重ねるイヘン大佐。
失敗は多いが、奇策にて大きな功績を上げるバーツ中佐。
戦争が進むにつれ、この派閥はどんどん大きくなり、その力は均衡していた。
ある時、作戦の指揮にて、この二つがぶつかった。
西の一番前線に敵の攻撃気配があり、そこに赤獅子を向かわせたい、イヘン派。
少し離れた別のポイントで待機している敵を、奇襲し挟み撃ちするべきとのバーツ派。
長い話し合いが続き、結果としてでたのは、挟み撃ちできるが、いつでも前線に戻れるポイントに、赤獅子を数名待たせるという、とんでもない愚策だった。
なぜ、このような保留案が通ったのか、それは現在の戦況が大きく関わっていた。
戦争は佳境。後二年とないほどで終わるだろうという状況だった。
その時に、どれだけ自国を勝利に導けたか。それによって彼らの今後の出世が決まる。
そんな中、相手派閥の意見を却下し、自分派閥の案を通した時、それが失敗し、戦況が悪くなったとしたら、均衡していた勢力のパワーバランスが崩れる。
要は双方、失敗したくなかったのだ。
故に、作戦を実行せず、かと言って不実行もせず。双方が保留する形で、作戦がなされた。
その内容に赤獅子隊員達の安全性は、全く考えられていない。
そして、きっとこの作戦は敵国に漏れていた。でなければ、あれだけの体制で僕達を攻撃できなかったはずだ。
話を聞くと、僕は体の奥底が熱くなり、腸が煮えくり返りそうになっていた。
「そんな……バカな話があるんですか」
おおよその全容を理解したときには、語気を荒らげながら僕は隊長に詰め寄っていった。「そんな、クソみたいな派閥争いのせいで、僕らは死にかけたって?……バカも休み休み言えよ」
隊長に言ったところで、何の解決にもならないのは分かっていたし、彼が事の発端でもない。
でも怒る気持ちを押さえきれなかった。
「ふざけんなよ、ふざけんなよ! 死ぬなら、その脳みそが詰まってない無能どもが先だろうが。なんでデントが死ななきゃならない、こんなの……あんた、隊長だろ。なんとかできたんじゃないのかよ!」
押し黙る隊長に、僕は更に詰め寄った。
「隊員の命を守るのが役目じゃないのかよ! なんとか言えよ!」
「その通りだ!」
初めて見る、隊長が感情的に、声を荒らげた瞬間だった。その目は今にも誰かを殺しかねないほどに血走っていた。「私の弟はっ……無駄死にだった!」
その握り込まれた手と同じぐらい、彼の胸も締め付けられていただろう。
そう、デントは、エクスの弟だった。
彼だって家族を失った被害者。それを改めて理解すると、僕は「申し訳ありません」と謝罪していた。
「謝るな。貴様の言ったことに、何の間違いもない。俺は、お前たちを守れなかった……すまない」
申し訳なくて、いたたまれなくて、弱い僕は黙って部屋を去った。
そして僕は誓ったんだ。
かならず、この戦争を、一秒でも早く終わらせるって。
夜。
おおよそすべてを語り終えたか、シェナドは焚き火を眺める。
「その後はね、サヘッドさんの弟子になって……とにかく、必死に頑張って……そしたら、戦争は終わっていたよ」
シェナドは視線を横にやった。初めてザイロと会った時、立っていた場所だ。「ここはね、英雄の眠る街って言われている。オルク・アバロガン。赤獅子というのはね、獅子の力を憑依する魔法を使い、敵の返り血で赤く染まった彼の姿をモチーフに名付けられた。そのオルクは、仲間を逃がすために、敵を引き止めて討たれた。この場所でね」
ザイロも崖の方に目をやるが、時間とともに消えたか、戦いがあった様子は見られない。
ただの崖だ。
「数百年も前の話さ。ただ、この話は兵士の間では有名でね。仲間のために死んだ霊は、ここに眠ると言われている」
「だから、師匠はここに?」
シェナドは頷いた。
「そうさ。彼のことを忘れられず、ここに来たら、どうしてか離れられなくなった……笑える話だろ」
「笑うかよ」
ザイロは両手の指が交差するようにして、顔の前でつなぐと、シェナドに頭を下げる。「もし、笑うやつがいたら、俺がぶっ飛ばしてやるよ」
「それはありがたい……で、なんだいその見たことない、変なポーズは」
「俺は記憶がほぼないから、死者への敬い方もわからない。けど、多分こんな感じだったと思う。そのデントって人を弔ってる」
「それは嬉しいけど、やるならあの崖に向かってやりなよ。僕にやってどうするのさ」
「デントはきっと、そんなとこに居ない。なんとか平原って場所でもない、師匠のそばにいる。だから、師匠の向こうにいる、デントに伝える……ありがとう。あんたがシェナドを生かしてくれたおかげで、俺は強くなれる……ありがとう」
きょとんとした後、シェナドは嬉しそうに、フフっと笑う。
「なれる、ねぇ」
ザイロの周りを舞う鉄球に目をやる。
これらすべて、こうやって話をしながらも、全く同じ力で引き合っている。
シェナドは八方に力を流すと、ピクピクと動くが、移動する気配がない。
「君、もう十分強いよ」
すでにザイロは成りつつあった。シェナドが認めるほどに。
「こんなので満足するかよ」
ザイロは追悼をやめると、力強い眼差しをシェナドに向ける。「あんたをぶっ飛ばせなきゃ、強くなったって言えねぇ」
「ハハ、素晴らしい向上心だ。流石、僕の認めた男だ。ぜひとも、僕を超えるぐらい、とびきり強くなってくれよ」
僕も若くない。人生の大事はもうないと。赤獅子になった、あの日以上の出来事なんてきっと起きないと思っていた。
だが、どうだろう。まだまだ、楽しいイベントがありそうだ。
なあ、デント。
シェナドは目を閉じると、その瞼の向こうに彼を思う。
君はきっと、笑ってるんだろう。
鼻歌を歌いながら、酒場のカウンター奥で準備をするベル。
昼はリサの特訓に、夜は酒場。
なかなか忙しく、睡眠も満足に取れていない現状だが、上機嫌だった。
弟子というものが初めてできて、成長を実感していると、自然と胸が踊ってしまう。
そんな中、クローズの看板をかけているというのに、ドアを開く客が一人。
入ってくる男の異様な雰囲気に思わず身構えた。
メガネをかけた、白の長髪。そして、手に持たれた本。それに視線を落とし、読みながら入ってくる。
歳は若い。二十ぐらいだろうか。ローブを纏い、肩には赤毛の肩当て。
赤獅子……の真似事か? 憧れからそういうのをやるやつは少なくない。が、粗悪品にも見えない。
中に入り、ベルの方へ進んでなお、その目は手の本に向いている。
「本ばっか読んでて、外の看板が見えなかったのかい。今は昼はやってないんだ。開店はもう少し後だよ」
「失礼、ベルさん、お客ではありません」
名を知られていることと、それと話をしてなお、本から目を離さないことに驚いた。
「あんた、何者?」
「敵ではありません」
臨戦態勢を察したか、男はそういった。「まあ、味方ともいい難いですが、あなたがライロルドの国民であり、法律を守る以上は、僕の守る対象です」
なんとも理屈っぽい話し方だが、ベルは少しずつ分かり始めたことがあった。
いくつもの修羅場を潜り抜けた。故に感じる。
この男。只者じゃない。そしてあの肩当てはーー
「これは、模倣した飾りではありません。自己紹介が遅れました。僕は赤獅子。ローベンドといいます。シェナド、ベル、シャッジ。この三名を王都へ連行する命を受けてきました。本に関しては気にしないでください。読む以外のすべての行動は、僕にとってはあまり重要ではないので」




