<祝・収益化>
本物の宇宙人によるブイチューバー活動という前代未聞の出来事が人知れずに始まってから半年以上が過ぎたころ、ついにその時がやってきた。
「中野さん。収益化の申請が許可されましたよ!」
中野が帰宅をすると、嬉しそうに小躍りしながら宇宙人がそう報告をしてくる。少し前にようやくクリアして編集が終わった『ドラゴンエンド3』の動画を3日おきに投稿し始めてそれなりの再生時間も得ることができていたチャンネルの収益化申請がようやく許可されたのだ。
「でも、収益化って具体的にどういうことなんでしょう?」
「分からないで喜んでたの・・・」
まあ元々収益化ができて自分で稼げるための第一段階にということしか伝えていなかったのでその段階にようやく立てたことに喜んでいるのだろう。
「とりあえずお金を稼ぐ手段としては配信や動画に広告をつけるのと、チャンネルの有料会員になってもらうのとコメント欄で視聴者からお金をもらう3つがあるね」
具体的に言えば広告を付ければ視聴者が広告を見ることによって収益が発生し、チャンネルの有料会員になってもらえば会員数に応じて固定収入を得ることができて会員にのみ視聴可能は配信や登録を行なうことができる。
そして配信や動画のコメント欄では視聴者が通称『投げ銭』と呼ばれるお金を配信者や動画投稿者に送る機能が使えるようになるのである。
「なるほど。広告は動画を見ているときに勝手に画面が切り替わって映るアレですか、あれが投稿者の収入になっているんですね。それで会員の人にはお金を出してくれている分、その人たちしか見れない動画を出してあげると」
大まかにいうとその通りである。動画の配信や投稿に対して視聴者は広告を見ることによって配信者や投稿者収入源となり、有料の会員登録に対して配信者や投稿者たちは会員にしか見れない映像を提供するのだ。
「でも投げ銭というのはよくわからないですね。いったい誰に何の得があるんでしょうか?」
「投稿した動画だったら後出しでしか反応のしようがないけど、配信中であれば配信している人が投げ銭をしてくれた人にお礼を言うぐらいかな」
配信で行なわれる投げ銭は主に配信者と視聴者のリアルタイム交流のためといっていいかもしれない。しかし『ぽぽちゃん』においてコメント欄はイチイチ本人がコメント欄を見ることもないため実質的に視聴者同士が意見を交わす場となっている。
「ゲームをしながらお礼だけって・・・。それじゃあ、お金に見合ったお返しには全然なってないですよ」
「実際は向こうが反応を期待して一方的に送ってきているだけだから」
「お金はそんなに軽い物じゃないですよ。くれたのであればそれなりのリターンを返さないと」
どうやら宇宙ではだいぶお金の使い方について考えることが多いようである。その後、中野が「実際に投げ銭のコメントと配信者の反応を見て学べばいい」ということで他の配信者の配信で投げ銭の様子について観察していくこととなるが・・・。
「なんでしょう・・・。掛け捨ての行動指示オークションとでもいえばいいのでしょうか?」
見た配信が悪かったのかもしれない。これがゾンビ物のゲームで行なわれた投げ銭に対する宇宙人の感想であった。そしてそんな結論を出した宇宙人は頭に手をやって「うーん」と少し考える。
「なんだかぽぽちゃんの性質には合わないですね。リターンも返せないし、お金を出している以上は口を出す権利も生まれちゃいますから。あ!でも中野さんにお金のことで迷惑をかけないためにもお金は必要なのです~」
そう言ってウサ耳ごと頭を抱え込む宇宙人であるが、特に中野はそのようなことは気にしていない。
「自分がやりたいスタイルでやればいいよ。そうじゃないと長続きするものじゃないから」
実際のところ主食は月にキャベツ10玉で済んでしまうし、それ以外の牛乳やコーラにしても宇宙人の体の小ささから減る量はたかが知れている。それこそ費用面で考えればペットのウサギを飼うよりも安い方かもしれない。
なお宇宙人のそれに対しての反応は・・・。
「中野さんはやりたいようにできなかったからブイチューバーをやめてしまったのですか?」
「まあ、そういうわけではないんだけど・・・」
悪意のない純粋な疑問。その答えは地球人でありながら地球人を演じる宇宙人の足元に及ばないほど人気が出なかったためである。
「まあ、ぽぽちゃんの星とは違って地球は色々あるんだよ」
こうして宇宙人による疑問をはぐらかしつつ収益を得る手段としては配信や動画に広告をつけるだけ、その他の投げ銭については受け取らず有料の会員についても会員限定の配信や動画まで行なう余裕がないことから見送るということで話が決まった。
もちろん収入はその分だけ減ることとなるが活動をする本人の信条のほか、投げ銭という個人間のやり取りはトラブルが発生するのも一つのリスクと割り切って切り捨てるのも一つの方法であり、こうしてこの日、宇宙人は地球での収入を得る手段をついに手に入れたのである。