①-第4話『伝える想い、伝えたい想い』
※世界線①「奇跡も魔法もあるんだよ」です※
先生、ねぇ、雄二先生。聞こえてるのかな?
先生のおかげで、私ね、将来の夢ができたんだよ。
先生みたいな、生徒に親身になって導いてあげられる先生になること。
だから、大学に行ってから、教職課程を選んで、国語の先生になりたかった。
先生からもらったこのお守り、ずっと肌身離さず持ってたんだよ。
教育実習で、この学校に戻ってくるって決めたとき、
先生はもういないんだって思ってた。臨時教師だったから。
そしたら、達磨先生が、雄二先生が担当だって教えてくれて。
あの思い出の教室で待たせてもらったのも、私がわがまま言ったの。
2週間、あっという間だったけど、本当に幸せだった。
また先生に個人指導してもらえたんだもん。
ねぇ、先生。私ね、今も雄二先生のこと、大好きなんだよ……。
あれから3年間ずっと、先生以外のことは考えられなかった。
手紙では私の事忘れてっていったけど、忘れてたらやだよ。
明日、最終日に直接伝えるつもりだったのに……。
……こんなのってないよ。
ねぇ、先生……。
また、私のこと怒ってよ、褒めてよ……。
よくできたな、って頭撫でてよ……。
これからもずっと、先生と一緒にいたいよ……。
先生がいないと、私……。
ゆうじせんせい……。
〇???
真っ暗な空間。
浮かんでいっているのか、沈んでいっているのか。
それすらもわからない、ただそこにあるような空間。
雄二はそんな空間にいることにふと気づいた。
何も見えない、何も聞こえない、何も感じない。
そんな空間で、不思議に意識だけはあった。
あ、これは死んだってことか。
そう思うのも無理はない。
思い描いていた天国でもないが、想像していた地獄でもないことは一安心か。
そう思った瞬間、意識が空間に溶けていきそうになった。
溶けていったら、もう戻ってこれないのはなんとなくわかってしまう。
でも、もうこれで終わりなのだと思い、もう意識を手放したくなってしまった。
そんなとき。
かすかに。
ほんのかすかに。
「……せんせい……」
そんな世界に音が聞こえた。
「せんせい……せんせい……!」
さっきより、より鮮明に。
他に音がないからか、その音が、その声が、はっきりと聞こえてくる。
「ん……?だれだ……?」
彼を呼ぶ声。
あたたかい声。
いつも聞いていた声。
いつまでも聞いていたかった声。
曖昧になっていた彼の意識が少しずつ戻ってくる。
「ゆうじせんせい……!!」
彼の名を呼ぶ声。
必死に、真剣に、彼の名を呼び続ける。
「せんせい!戻ってきて!せんせい!!」
「……まなとの声……?」
彼女の声が、彼の意識を呼び覚ます。
すると、真っ暗だった空間に一筋の光が差し込んだ。
あたたかな光は、彼にとっての道しるべ。
「まなと!まなと!!まなと!!!」
彼は、愛する彼女の名前を叫びながら、その光の道を必死に上っていった。
突然、世界に光と音が戻った。
聞こえてくるのは定期的にリズムを刻む機械音。
まぶしい中でうっすらと目を開けると、そこは見知らぬ天井。
さっきまで必死に動かしていた手足がほとんど動かない。
「ん……ううん……」
思いがけず出たのは、言葉にならないうめき声。
だがその声は、雄二の意識が戻ったことを知らせるには十分すぎた。
「え!?ゆうじせんせい!?」
ああ、待ち望んでいた声が聞こえてくる。
自分を導いてくれた声が。
自分が一番に聞きたかった声が。
自分が、何よりも愛している、その声が。
「……おう。まなと。なんだ……ただいま」
言葉が上手く出てこない。
なんて言うのが正解だったのだろう。
ぶっきらぼうに聞こえてしまう言葉をちょっと後悔してしまう。
でも、その声を聞いた彼女の顔を見れば、あながち間違いでもなかったのだろうか。
涙跡がくっきりとわかる沈んだ顔を、笑顔に変えることが出来たのだから。
「ゆうじせんせい!!」
そういって、彼女は彼に抱きついた。
もう絶対に離さないという、決意がこもった強さとともに。
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