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幻想怪盗団~罪と正義~  作者: 陽菜


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十九章 歪んだ現実 前編

 ファートルに戻り、蓮は光助を見る。彼はまだ寝たままだ。

「こいつにも、一度父親を殴らせてやりたかったな」

 なんで自分達をこんな理不尽なゲームに巻き込んだんだと、そう言わせてあげたかった。彼にはその権利があるのだから。

「明日、出頭の日か」

 愛良が言うと蓮は頷いた。

「本当に出頭するのか?」

「うん。それで奴の罪が立証されるんだったら。それが光助のためにもなるだろうし」

 兄の言葉に蓮はそう答えた。怪盗団のリーダーということでもしかしたら一生出てこられないかもしれないが、それでも自分で決めたことだ。後悔はしない。

「じゃあ、せめてデートしてきたら?クリスマスイブだしさ」

「ちょ、いきなり何言ってるのさ、兄さん!」

 蓮が顔を真っ赤にして文句を言うが、説得力がなかった。あの不敵のリーダーはどこに行ったのだか。

「行くか、蓮」

「愛良も乗り気だし、行ってきなよ」

 光助は俺が見とくからさ、と言われ、蓮は愛良を見る。蓮と同じ顔の彼は笑っていた。

「じゃあ……行こうか」

 小さく呟くと、愛良は蓮の手を取った。


 クリスマスイブだからか人が多く、何とかケーキを買ったぐらいであとはぶらぶらしていた。

「愛良」

「なんだ?」

 蓮は俯きながら、彼の手を軽く握り、小さく言った。

「今、幸せだよ。このまま続いてほしいぐらい」

「オレもだ」

 この幸せを、蓮は噛み締めた。

 家に帰り、義明と一緒にケーキを食べる。そこにりゅうが入ってきたので彼も交えて会話を弾ませた。


 次の日、秋川が蓮を迎えに来た。

「それじゃあ、行くわよ」

 その言葉に頷き、愛良に見送られながらついていこうとすると、

「待ってください」

 そんな声がかかった。後ろを振り向くと、光助が立っていた。

「オレが、行きます」

「光助、大丈夫なのか?」

 蓮が彼に近寄り、その肩を掴む。光助は少しふらついたが、しっかり立った。

「大丈夫、姉さん。それより、出頭しようとしているんだろ?それなら、オレに行かせてほしい」

「でも」

「実行犯が行けば、姉さんが出頭する必要はなくなる。それに、洗脳されてたとはいえオレがしてきたことは犯罪だ。決して許されるものじゃない。それを償わないと」

 蓮は戸惑い、ためらったが、彼に「お願いだ、オレは罪を償いたいんだ」と言われ、渋りながらも「分かった」と頷いた。

「花子さんも、いいですよね?」

 光助が秋川を見て、尋ねる。

「あなたがいいなら。成雲さん、この話はなかったことにしてもらえないかしら?」

「分かりました。……本当にいいんだね?」

 蓮が最後に確認すると、光助は「当然だ」と頷いた。それならいいと、蓮は二人の後ろ姿を見送った。

「よかったのか?」

 愛良に話しかけられ、蓮は「光助が償いたいっていうなら、それでいい」と答えた。

「ボクも、出来る範囲で彼を弁護しようと思う」

 自分の言うことがどこまで信じてもらえるか分からないが、それぐらいなら蓮でも出来る。

「あぁ、でもあの世界のことはどうやっても立証出来ないだろうがな」

 蓮の時も、現行犯だったから逮捕出来ただけで実際は証明出来なかっただろう。

「まぁね。だからどうなるか……」

 二人で話していると義明が降りてきた。その顔は心配そうだ。

「光助は?下に降りて行ったけど……」

「秋川さんと一緒に行ったよ。ボクのかわりに出頭するって」

「そうか……」

 三人は座る。沈黙が続いた。そんな中、口を開いたのは義明。

「俺、あいつにも幸せになってほしいよ」

「ボクもだ。あいつは、悪くない」

 光助は「破滅の協力者」とシャーロックは言った。しかし、蓋を開けてみれば彼も被害者だったのだ。「反逆の正義」と呼ばれた蓮が命を懸けて改心させなければどうなっていたことか。ただ壊れ、元に戻れないほどになっていたのではないか。

「それで、これからどうする?」

「とりあえず、皆に連絡しないと」

 蓮はチャットを開き、皆に光助が起きたこと、彼が蓮のかわりに出頭したことを告げた。

『マジで?あいつ起きたのかよ!』

『ちゃんと改心したみたいだね。よかった』

『だが、どうやってあの世界のことを証明する?』

『それは、普通の人には出来ないんじゃないかしら?』

『それに、光助は冬木 昭人に操られてただけだしな』

『確かに、彼のしてきたことは許されないけど、その罪を償うなら私もいいと思う』

『僕も。お母さんを殺したことは許さないけど、それを償う気があるなら』

『でも、これで蓮の前歴も晴らすことが出来るよね?』

『冬木 昭人と成雲 慶介は全ての罪を自白したんだ。あとは証拠さえあれば罪を晴らすことが出来るハズだ』

『それに、万が一晴れなくても皆と過ごせればボクはそれでいいし』

『君って子は……でも、何かに囚われない人だから皆寄ってくるんだろうね』

『それじゃあさ!打ち上げもかねて皆でクリスマスパーティしない?』

『どこで?』

『もちろんファートルで。蓮、マスターに許可取ってくれる?それと、島田君達に連絡も』

『まぁ、いいけど』

『じゃ、決まり次第集合!皆、何か持ってくること。あ、裕斗は無理しないでね。持ってこれなかったらそれでいいから』

『それじゃあ』

 チャットが終わり、三人はスマホをポケットに入れる。

「ほんと急だな。風花も」

「いいんじゃない?たまには浮かれるのも」

 丁度藤森も来たのでクリスマスパーティをしていいか許可を取る。

「別に構わないぞ。じゃあ、今日は早く閉めるか」

「すみません。ついでと言ってはなんですが、藤森さんもどうですか?」

「入っていいなら、別に構わないけどよ」

 蓮は皆に時間を連絡し、さっそく材料を買ってくる。

「蓮、これは?」

「それは料理に入れちゃいけないものだ。愛良、お前はいつになったら覚えてくれるんだ?」

 どうせなら豪華にしようと肉や野菜、それからお菓子の材料を多めに買う。ファートルに戻り、蓮はさっそく料理を始めた。

 料理を作り終えると同時に次々と人が入ってきた。

「おねえさん!」

「智樹、来れたんだな」

 智樹が蓮に飛びついてきたのでその頭を撫でる。りゅうは面白くなさげにそれを見ていた。

「りゅうも飛びついたらどうだ?」

 良希の言葉にそれはいいと思ったのだろう、横から抱き着いてきた。

「わっ!りゅう、どうしたんだ?」

「人気者だな、蓮」

 愛良がからかうように言ってきた。金井の養子の晃も蓮に駆け寄ってきて「これ、蓮さんが全部作ったんですか?」と料理を指さしながら聞いてきた。

「えぇ。ほら、早く食べないと冷めちゃうよ」

 二人を離し、皆を座らせる。どうやら秋川と長谷は来られなかったようだ。仕事があるわけだし、仕方ない。

「私達もよかったの?」

 敷井が聞くと、風花が「もう皆、怪盗団の一員ですから」と答えた。

「それならいいけどよ」

 金井がそう言うと、皆持ってきた料理を出す。それを食べていると、いつの間にか蓮の話になっていた。

「そういえば、蓮とはどうやって出会ったんですか?」

 もみじが協力者達に聞くと、敷井は「私は、彼女が薬を求めてきたことがきっかけだったわね」と答えた。

「あー、敷井さんのところの薬はよく効いてましたね」

「それはよかった。彼女ったらすごいの。治験する人が必要で、それを話したら協力してくれたのよ。すごい度胸だったと思うわ」

「治験って……よくそんなバイトしたね」

 ほのかが蓮を見ながらそう言うと、蓮は「だって、しないと薬買えなかったし……」と頬をかいた。

「俺は、マフィアだって知った後も協力してもらってたな」

「父さん、ぼくを守るために危険なことしてたもんね」

「金井さん、こう見えてかなり優しいんだ」

 蓮が言うと、良希が「信じらんねぇ……」と呟いた。

「俺は情報を提供するかわりに怪盗団と成雲家のことについて聞いたよ」

「そうなんですね。だからぼく、独占取材をされたんだ」

「島田君の情報、かなり役に立ったよ。ありがとうね」

 水谷は島田を見て笑った。

「ぼくは銃の扱い方を教えるかわりに食事に連れて行ってもらったり話を聞いてもらったりしたよ」

「え、そうなの?いいなぁ、蓮、あたしも一緒に行きたいよ」

「一応、お前達が覚えていない周回の時に連れて行ったんだけどな」

 智樹が嬉しそうに話すと、風花が羨ましそうに言った。

「私は運命を簡単に変えてしまう彼女の力が本当か試させてもらったんです」

「ボクとしては、変えてしまう力があるとは思っていなかったけど」

「でも、そのおかげで私の運命も変わったんです!だから、彼女の運命も変わって嬉しかったんです」

 早坂は興奮気味に言った。

「逆に、君達はどうなの?」

 水谷に聞かれると、口をそろえて「蓮に助けられた」と言った。

「俺は、狛井に足やられて走れなくなって腐ってたとこに蓮が救ってくれた」

「あたしは親友を盾に狛井に迫られた時、話を聞いてもらったんだ」

「俺は白野に盗作されたり虐待を受けたりしてた時に助けてもらった」

「私は生徒会長の荷が重くなってどうしようもなくなった時に助けてもらったわ」

「僕はお母さんのことで外に出れなくなってしまった時に話聞いてもらったの」

「私は一人では出来なかったことを支えてもらったの」

「ぼくも、狛井に体罰を受けてた時話を聞いてもらったんだ。それで、狛井が改心したから彼女が怪盗だって気付いた」

 それを聞いていた藤森が涙を流しているのを見て、蓮は「大丈夫ですか?」と聞いた。

「いや、お前がここまで強く絆を結んでたんだって思って感動してよ……最初の頃、お前の目は世界に絶望してたから、どうやっても更生しないって思ってたんだ」

 確かに、一周目の蓮はその通りだった。どこにも居場所なんてない、これからだって出来ないと思っていた。同じ時を繰り返していると知った後は、もう絶望だった。だから突き放そうとした。でも、そんな蓮の周りに皆集まってくれた。本当の「成雲 蓮」を見つけてくれた。だから、どんなに苦しくても再び立ち上がることが出来た。そのことを言うと、

「じゃあ、僕達も蓮の役に立ててたんだね」

 りゅうが嬉しそうに言った。

「うん。それに、ボクが守り神だと知った今だって、皆人間扱いしてくれる。それがどれだけ嬉しいことか、分かる?」

 使命を与えられて、人間に憧れて、幻想世界からこの世界に来た約二千年前。そこでは白い髪と青い瞳のせいで人間扱いされなかった。どんなに悪い大人達を改心させても認めてもらえず、悪神と相打ちになって封印するためにその身を生贄に差し出した。結局そんな「運命」だったのだろうが、それでもつらかった。

「もちろん、愛良もね。昔からずっとボクを支えてくれてありがとう」

「どういたしまして。オレも、蓮の役に立てて嬉しいよ」

 微笑み合うと、「おーい、恋人の空気出さないでくれねぇか?」と良希に言われた。

「男の嫉妬は醜いぞ、良希」

 義明がやれやれと笑うと、良希は睨みつけた。

「うっせ。義明はいいのかよ?」

「俺は蓮が幸せならそれでいいから」

 何か言い合っているが、それは無視していいだろう。義明が人間の姿になってから仲良くなっているようだし。

「あ、もうこんな時間。帰らないと」

 ほのかが時計を見て立ち上がった。

「片付けはやっておくから帰っていいよ」

「でも、あなたに任せるのも……」

「三人いるんだ、早く終わるよ」

 蓮は義明と愛良を勝手に含めて答えた。

「勝手に含めないでくれないかな?いいけど」

「一緒に頑張ろうぜ、兄貴」

 皆が帰り、ファートルに藤森とりゅうが残った。

「明日からどうするの?」

 りゅうに聞かれ、蓮は考える。悪神は倒した、やることはほとんど残されていないが。

「明日、アザーワールドリィに潜入しよう。あれ以上広がらないが、改心させてほしいという依頼はたくさん来てる」

「分かった。皆に伝えておくね」

 りゅうがスマホで連絡を取っている間に蓮達は片付けを始める。

「光助、大丈夫かな」

 不意にそんな言葉が零れた。りゅうは動きを止め、俯いてしまった。

「あ、ごめん、りゅう」

 彼にとって、光助は母親を殺した仇なのだ。自分の弟とはいえ、もう少し場所を考えるべきだったと反省しているとりゅうは、

「ううん。平気。光助だって、酷い目にあわされてたんだもんね。蓮が心配するのも無理はないと思う」

 泣きそうな声で言われ、蓮は作業する手を止めた。そして、りゅうに近付く。

「りゅう、無理はするな。恨み言を言いたければ、言えばいい。人間、誰だって他人を恨んだり、逆に愛したりするものなんだから」

 その頭を撫でてやると、りゅうは泣き出し、蓮に抱きつく。

「僕、本当は、あいつがなんで生きてるんだろうってずっと思ってたんだ。蓮にはつらいかもしれないけど、死んでしまえって本気で思ってた。でも、蓮はいつでもやり直しがきくって教えてくれた。それに、冬木 昭人が、成雲 慶介が悪いんだって分かったから。だからあいつを、心の底から憎めないんだ」

 思えば、初めてかもしれなかった。りゅうが光助に対してここまで言うのは。きっと、蓮に気遣って今まで言わなかったのだろう。

「うん。ボクも、ごめんね。こんなつらい運命を背負わせて」

 自分がもっと早く思い出していれば、りゅうの母親が死ななくてもよかったかもしれないのに。少しの罪悪感が心に落ちた。

「蓮が謝る必要はないよ。蓮だって、世界のために自分の父親を改心させたんだから」

 改心させなければ、世界は蓮の父親に洗脳されたまま、全てが滅んでいたことだろう。それを知っているから。蓮が、一番つらかったハズなのだ。父親が世界を壊す悪神で、弟が世界を恨み、それに協力しようとしていて。しかし、それを止めるために蓮は立ち上がった。

「蓮って、本当に強い人だよね」

「急にどうしたんだ」

 突然そんなことを言われ、蓮は首を傾げたがりゅうは「何でもない」と首を振った。

「それより、ありがとう。話聞いてくれて」

 蓮から離れると、りゅうはカウンター席に座る。

「コーヒー、淹れようか?」

 尋ねると彼は「いる!」と元気よく言ったので蓮は笑い、丁度片付けも終わったので二人にもコーヒーを淹れた。

「蓮の淹れるコーヒーもうまいな」

「愛良はなぜか苦くなるもんね」

 あの味を思い出し、苦笑いを浮かべる。蓮とは違い、愛良は少し不器用なのだろう。蓮と一緒だったとは思えない。

「よければ俺が教えてやるよ」

 藤森の申し出に愛良は「いいのか?」と聞いた。それに藤森は「もちろんだ」と笑った。

「でも、明日からな。じゃあ、俺達は帰ろうか。義明は?」

「今日は泊めてもらおうかな」

「兄さん、どうしてだ?」

 なぜ今日は泊めてもらうことにしたのか全く分かっていない蓮は疑問符を浮かべた。

「二人で過ごしなよ」

「それじゃあ、ごゆっくり」

 しかし、理由も述べずに三人はファートルから出た。愛良が「上に行こう」と言ったので一緒に上がる。

 ソファに座ると、愛良が紙袋を渡した。

「メリークリスマス、でいいのか?」

「あ、そうか。今日はクリスマスだもんね。昨日デートに行ったから忘れてた」

 開けていい?と聞くと愛良が頷いたので蓮は開く。入っていたのは蓮の左目と同じような青色のマフラーだった。

「定番だが、いいだろ?」

「確かにね。でも、ボクお前に何も準備してないよ?」

 忘れていたし、出頭する予定だったから、何一つ準備していない。

「別にいい。オレが渡したかっただけだから」

「でも」

 自分ばかりもらっていいものだろうか。そう思っていると彼は「じゃあ、一つ」と顔を近付けてきた。唇に重なる温もり。離れると、蓮の顔は真っ赤になった。

「な、なに、して……!」

「クリスマスプレゼント。いいだろ?」

 オレはお前と過ごせて幸せなんだから。

 そう言われると弱い。蓮は愛良の肩に頭を乗せる。

「ボクだって、愛良といれて幸せだよ」

 そう呟いた。幸せな、恋人との時間。このために兄は藤森の家に行ってくれたのだとようやく気付いた。

「今度、兄貴に礼をしないとな」

 愛良はそう言って蓮の肩を寄せた。


 次の日、皆で集まり、ターゲットの確認をする。

「よし、じゃあ行くぞ」

 ナビを起動して、エネミーを倒しながらターゲットを改心させていく。

「クラウンって、ジョーカーと一緒だったんだよね?」

 いつも通りジョーカーが車を運転していると、ヘルメスが身を乗り出して聞いてきた。今回は助手席がクラウンだったのだ。

「そうだが」

「ジョーカーって心の中で思ってることとかどうだったの?」

「いつも他人のことばかり考えてたぞ。自分のことなんて後回しだ」

「クラウン、あまり言わないでくれないか?」

 ジョーカーが恥ずかしげに言うとクラウンは「事実だろう」と言い返した。

「まぁ、事実だけどさ」

「無意識に守り神の役目を全うしてたしな」

「そうだっけ?」

 そんな自覚はないのだが。でも確かに、悪い大人達を改心させたり困っている人を助けたり、いろいろなことをしていた。

「ジョーカーって、変わらないね」

 その言葉に皆笑った。いつも人を助けてくれる、人間にして守り神。それが「成雲 蓮」という人物だ。

 この時が、永遠に続けばいい。皆、そう思った。


 それから義明と愛良とりゅうとで遊びに行ったり、皆で勉強会を開いたりしている内に年越しになった。藤森がそばを打ってくれるということだったのでまた皆で、今度は秋川と長谷も一緒にファートルに集まった。

「そういえば、朗報があるの」

 そばを食べていると、秋川が口を開いた。

「成雲さんの前歴、なかったことになるかも。当時の被害者が情報を提供してくれてね」

 その言葉に全員が驚き、また喜んだ。

「よかったな!蓮!」

 良希が蓮の肩を叩く。少し痛いのだが、それだけ嬉しいということだろう。

「成雲 慶介も、娘が帰ってきたら警察に自首するって言っているの。罪を全部認めているわ。二人共、冬木君……いえ、光助君のことを庇っている」

「そう、お父様も……」

 複雑な心境だが、これでよかったのだ。ようやく、この長く、理不尽なゲームから解放される。自分も愛良も光助も仲間達も。「トリックスター」の大きな役目は終わった。そう思うと少し寂しいが、まだ歪みが完全に解かれたわけではない。まだやるべきことがあると蓮はこれからを考える。

「蓮、大丈夫?」

「大丈夫、ただ、これからが大変だなって思っただけ」

 世界を元に戻していかないといけない。現実世界も幻想世界も、歪みがないように。もう二度と、二つの世界が融合しないように。

「そうか。蓮は幻想世界の王女でもあるもんね。でも、あたし達も手伝うからさ、いつでも頼ってね」

「ありがとう、でもボクの力じゃないと駄目だから」

 正確には、蓮の宿すアルター・サタナエルとミカエルでないと。闇と光が合わさって初めて世界は創られるのだから。

「ただ、少し力は貸してもらうかも。その時はよろしくね」

「もちろん!」

 蓮が笑うと、他の人達も笑い返した。こういった時に、自分は仲間に恵まれていると認識させられる。

「それじゃあ、明日も早いしそろそろ解散するか」

 蓮が時計を見てそう言う。明日は初詣に出かけないといけないのだ。

「そうだね。片付け、任せていい?」

「もちろん。おやすみ」

 皆を見送った後、片付けをして蓮達も二階に上がった。

「よかったね」

 義明がソファで寝転がりながら蓮に告げた。

「何が?」

「前歴、晴れることになって。蓮、ずっと耐えてたから」

 学校で影口を叩かれ、教師達にも厄介者扱いされ。そんな生活から解き放たれるとなると、兄としても嬉しかった。

「そうだね。でもボクは、自分のやったことに後悔はしていないよ。それで皆と出会えたんだから」

 前歴がなければ蓮が東京に来て怪盗団を続けることはなかっただろうし、皆と出会うこともなかった。蓮は地元で父親の言いなりになったままだっただろう。義明も黒ネコの姿から人間に戻ることはなかったかもしれないし、仲間達だってどうなっていたか分からない。光助も元に戻れないほど壊れてしまっていただろうし、愛良だって、こうして現実に出てくることはなかった。だから、何も後悔はない。

「蓮ならそう言うと思ったよ。いつでも前向きだ」

「昔はそうじゃなかったよ?兄さんがいなくなってからなんて結構酷かったんだから」

「そうだな。兄貴がいなくなってからは酷く病んでだぞ、こいつ」

 思い出話に花を開いていると義明が不意に黙り込んだ。

「どうした?兄貴」

「いや……。蓮、君は今、幸せか?」

 急に聞かれ、どうしたのだろうと思ったが蓮は素直に答えた。

「うん。幸せだよ。光助のことは心配だけど、それ以外では満たされてる。この時が永遠に続けばいいのにって思うぐらいに」

 すると義明は「そうか」と嬉しそうに笑った。

「それならいいんだ」

「兄貴?なんか様子が変だぞ?」

 愛良が言うと、義明は言葉を詰まらせた。何かあったのだろうか?それなら話してほしい。その思いが伝わったのか、兄は話し始めた。

「実はこの前、開原先生に会ったんだ」

「開原先生?」

「そう。それで、蓮のいとこの兄だと伝えたら何か悩みがあるのかって聞かれたんだ」

 開原らしいと蓮は思った。彼は優しくてどんなことでも聞いてくれる人だから、兄も誰にも言えないことを話したのかもしれない。

「それで?」

「ちょっとだけ、話してそれから別れたんだ」

「それぐらい、別に言葉を詰まらせるほどでもなくない?」

 そう告げると彼は「怒らない?」と聞いてきた。

「何に怒るっていうんだよ、ボク達が」

「それじゃあ言うけど、蓮と光助について話したんだ」

「へ?ボク?」

 これは予想外だった。確かにこの兄は自分達を一番に考えてくれる人だけど。

「冬木 昭人と成雲 慶介が憎いって。蓮達をこんな運命に巻き込んだ奴らが憎くて憎くて仕方ないって。それで蓮、何度も死んで、繰り返して、つらい目に遭っているっていうのが許せなかったんだ。さすがにそこまでは言っていないけど」

「兄さん……」

「それに、光助に対しても。蓮が命を懸けて助け出さないといけないぐらいに壊れてしまったのが許せない」

 その顔は今まで見たこともない程憎しみに満ち満ちていた。それで兄は本気で言っているのだと分かった。

「だから、あの二人が捕まることになって嬉しかったよ。蓮の前歴も晴れる。光助もどうなるか分からないけど、少なくともあの二人が庇ってくれてるみたいだし」

「……そうだね」

「俺、光助とまた過ごせるようになりたい。そして皆で笑い合いたいんだ」

 その言葉に蓮も同感する。愛良も頷いていた。

「ごめんね、寝る前にこんな話をして。じゃあ、おやすみ」

 義明は目を閉じた。数分もしない内に寝息が立つ。疲れていたのだろう。

「オレ達も寝るか」

 ベッドに転がり、蓮も目を閉じる。隣の温もりを感じながら夢の世界に落ちて行った。


 蓮は起きると、囚人服の姿だった。しかし、周囲を見るとそこは牢獄世界ではなく学校の保健室だった。

「間もなく、下校の時刻です」

 放送の声に違和感を覚えたが、早く帰らないと、と思い、蓮は保健室から出る。

 玄関まで向かっている間に声が聞こえてきた。それが仲間達の声だということに気付く。

「本当は陸上でお袋に楽させたかったんだ」

「あんな事件、なかったほうがよかったのに」

「心の底から奴を恨めません」

「お姉ちゃんが一人で支えていて、甘えるのも」

「お母さんに生きていてほしかったんだ」

「本当は彼と過ごしたくて」

「蓮の前歴がなくなってくれたら、あの時のように光助と過ごせたら」

「オレだって、本当は」

 皆、誰に話しているのだろうか?少なくとも、蓮は聞いたことがない。しかも、最後は弟の声だ。

「大丈夫です。これぐらい慣れていますから」

 自分の声も聞こえてきた。皆、共通の人物に話しているということだ。一体、誰に?

 玄関まで行くと、誰かが放送で引き留めた。

『どこに行くんだい?』

 その声には聞き覚えがあったが、誰だか思い出せない。

「帰ります」

 しかし、口は勝手に動く。するとその放送の主は不思議そうに蓮に聞いた。

『帰る?ここが君の居場所だろう?』

「違います。ここは、ボクの居場所じゃない」

 そう答えると、その声の主は『なるほど、君はまだ受け入れられていないんだね』と告げた。どういう意味だろうか?

 すると、閉まっていた玄関の扉が開いた。

『また会おう』

 その声に送り出され、蓮は外に出た。

 そこで目を覚ます。先程の夢に何の意味があったのだろうか?

(それに、また会おうって……)

 誰に会うというのだろうか。恐らく、自分達の共通の知り合いなのだろうが、見当もつかない。

 しかし、今はいいかと蓮は再び眠りについた。


 異変に気が付いたのは年が明けてからだった。

 蓮が起きると、部屋には誰もいなかった。義明はともかく、愛良あたりが「おはよう」とでも言ってきそうなものなのに、誰一人いない。不思議に思った蓮が下に降りると、藤森が「悪いが、初詣の前に少し手伝ってくれないか?」と言ってきたので蓮は従う。

「あの……兄さんと愛良はどこに……?」

 蓮が尋ねると、彼は「散歩にでも出かけたんじゃないか?」と言うのでそう思うことにした。

 昼過ぎ、二人が帰ってこなかったが、手伝いがひと段落したので蓮は振袖に着替えて明治神宮へ向かった。その途中、義明と合流したので一緒に行くことにした。

「兄さん、愛良は?」

「愛良?部屋にいなかったか?俺が出かけたときにはいたんだけど……」

 では、どこに行ったというのだろう?彼が行きそうなところは……。

 もしかして、先に神社に行ったのだろうか?

 なんとなくそう思った。蓮が初詣に行くと知っているから、ありえない話ではない。昼食を食べていればいいのだが。

「それにしても、似合ってるね。振袖」

「そうか?お母様が見立てたものなんだけど」

 母は芸術家だからセンスがないとは言わないが、自分には綺麗すぎると思うのだ。しかし義明は「全然。むしろ蓮のためにあるんじゃないかって思うほどきれいだよ」と言った。これは兄バカ、とでもいうべきだろうか?

 明治神宮に着くと、予想通り愛良がいた。

「遅いぞ、蓮」

「お前が早すぎるんだよ、ばか」

 そんな会話をしていると、

「あー、俺、もしかして邪魔?どこか行くけど」

「そんなことない」

「そうだぞ、兄貴」

 一応恋人同士なのだからと義明がどこかに行こうとするが、二人は止める。愛良も、元は蓮だからか義明のことが大好きなのだ。

 三人で初詣に行くと、聞き慣れた声が聞こえてきた。前を向くと、そこには仲間達の姿があった。女子は全員振袖を着ているようだ。

「皆、この時間に来てたんだな」

「あ、蓮!うん、僕も偶然皆と会ってさ」

 怪盗団のメンバーがそろいもそろってこの時間に来たということか。偶然にしては出来すぎているが、これぐらいなら別にありえない話ではない。そう思って気にしなかったのだが。

「どうだ?この後集まるか?」

 蓮の提案に最初に首を振ったのはりゅうだった。

「ごめん、蓮。この後お母さんと初物巡りに行くんだ」

「え……?」

 今、りゅうは何と言った?お母さん?でも、彼の母親はもういないハズで……。

「私も、家族でお出かけなの」

 もみじもそう言って断った。家族って、彼女には姉しかいないハズなのだが。

「私も、咲中さんとお食事に行くの」

 ほのかは嬉しそうに語った。咲中は今、警察のお世話になっているのに。

「あたしはあいと遊びに行く約束してて」

 風花も楽しそうだ。川口は転校しているのに、このタイミングで?

「俺も、先生と共に寄るところがある」

 裕斗も楽しそうにしながら断った。先生って、白野のことか?

「俺も、陸上部の連中と約束しててよ」

 良希は伸びをしながら言った。陸上部って、彼はもうやめているハズなのに。

「そうか、じゃあ集まれないな。また今度集まろう」

 義明がそう言うが、蓮と愛良は顔を見合わせた。思っていることは同じだ。

 どこか、おかしい。

 どうして誰も違和感なく話しているのだろうか?明らかにおかしいのに。それとも、自分達がおかしくなったのか?

 しかし何も言うことが出来ないまま、その場で解散になった。


「愛良、どう思う?」

 夜、義明が寝た後に蓮が話しかけた。愛良は「おかしいな、明らかに」と答える。

「だよな。でも、皆疑っていない」

「それだ。これでは、世界が変わったとしか思えない」

 でも、蓮達は繰り返していないし、そもそも悪神である父は倒したのだ。繰り返すハズがない。だとすれば、他に何か原因があるハズだ。

 しかし、それが何なのか分からない。どういうことだろう?

「とりあえず、明日まで様子を見るしかないな」

「そうだね……」

 今は様子見だと自分に言い聞かせ、蓮は眠りについた。

「……この世界は、こいつにまた試練を与えようというのか?」

 愛良のその言葉を聞きながら。


 次の日、蓮が下に降りるとそこには異様な光景が広がっていた。藤森とりゅうと義明と一緒に女の人が食卓を囲んでいるのだ。その女性は見たことがある。

(りゅうの母親……)

 思い出すのは、りゅうのデザイアに入った時に見たあの化け物の姿。あの女性が目の前にいるのだ。

「あ、蓮。こっちで一緒に食べようよ」

 りゅうに誘われるが、蓮はどうしても違和感に耐えられなかった。穢れた幻想世界に入った時のように、身体中が痛む気がする。

 その時、店内に誰かが入ってきた。扉の方を見ると、そこに立っていたのは精神崩壊事件の実行犯として警察に捕まっているハズの光助だった。蓮は目を見開く。

「なんで……」

 蓮が呟いた声も聞こえていないのか、弟は四人に近付く。

「事情聴取、終わったの?」

 りゅうの母親が聞くと、光助は「うん。今日限りで釈放だって」と笑った。実行犯だからこんなに早く釈放されるわけがないのに、誰も疑わない。義明なんて、「これからまた一緒に暮らせるね」などと言っている。

 その時、蓮のスマホが鳴った。見ると、愛良からだった。蓮はすぐに電話に出る。

「もしもし」

『蓮、今すぐ外に出てくれないか?話したいことがある』

「分かった、すぐに行くよ」

『待ち合わせは近くのコインランドリーだ。いいな?』

「うん」

 電話を切ると、蓮は「ちょっと用事が出来て」と告げ、外に出た。そして、近くのコインランドリーに向かう。

 そこには既に愛良の姿があった。

「来たな」

「うん。それで、話って?」

 なんとなく予想は出来ているが、とりあえず聞いてみる。すると彼は「見ただろ?ファートルにいる女性を」と予想通りの言葉を発した。

「うん、りゅうのお母さんだ」

「なぜ、死んだハズの人間が生き返っている?お前は何か知っているか?」

 彼が聞いてきた。蓮は首を振り、少し考えて、

「考えられることは……現実での「認知が変わった」……」

 しかも、ただ変えるだけではない。皆それを「事実」としているのだ。なぜ今更こうなっているのか?人間が作ったとはいえ、守り神である蓮でも分からない。ただ、一つだけ思い当たることがある。

「確か、お台場にデザイアがあったよな?あそこに行けば、もしかしたら何か分かるかもしれない」

「確かにそうだな。では、行くか」

 そう言って、二人はお台場に向かった。


 お台場に着くと、驚くべきことが起こっていた。

「デザイアが……!」

「見えてるな。こんなこと初めてだ」

 なんと、ナビを使っていないのにあのデザイアが見えているのだ。これにはさすがの二人も驚きを隠せなかった。

「他の人達は……?見えてないのか?」

「いや、気にしていないだけかもな。とにかく、原因はここにありそうだ」

 二人は頷き合い、ナビを開く。履歴は残っているが……。

「見て、名前のところが塗り潰されてる。こんなこと、今までなかった」

「ここの主はこんなことも可能なのか?」

 しかし、使えないことはなさそうだ。ナビを起動すると、周囲が歪み二人は怪盗服姿になった。

「いつ見ても殺風景だな」

「研究所だからだろ。なんの研究かは知らないけどな」

 ジョーカーは己がまとっている白い服を見て、「これも、少し慣れてきたな」と呟いた。

「そういえば、皆に伝えず勝手に来てよかったのか?」

「皆は疑っていないし、そもそもここの存在を知らせていないからな。兄さん以外は知らないよ、ここのこと。それぐらい知ってるだろ?まだ一緒にいたときのことなんだから」

 クラウンの言葉にジョーカーはそう答えた。今の仲間達は疑いもせずにこの歪んでいる世界を生きている。正直言って、今の彼らは役に立たないだろう。

「前はあの扉の前まで行ったよな?」

「あぁ」

 ジョーカーが頷く。そこを抜けると、ホールが広がっていた。

「素晴らしいわ!」

「もう涙が出そう!」

 フェイク達から賞賛の声が上がっている。一体何の研究をしているのだろうか、ここの主は。

 ホールの真ん中に来ると、放送が鳴った。

『異分子が確認されました。放送を開始します。ここは主の研究施設です。研究内容を詳しく知りたい方はお手数ですが左の扉からお越しください』

 左の扉、と言われそちらを見ると、確かに扉があった。

「どうする?」

 クラウンが聞く。ジョーカーは躊躇わず答える。

「行くしかない。今は情報が必要だ」

 二人はそちらに向かう。扉を開くとご丁寧に地図があったのでそれをもらっておく。

 進んでいくと、また扉があった。中に入ると、暗いが開けたところに出た。

「ようこそ」

 その言葉とともに周囲が明るくなる。その声には聞き覚えがあった。

 まさか……。

 目の前には、凛条高校の元カウンセラーの先生、開原が立っていた。しかも、フェイクなどではない。本物だ。コツ、コツ、と近付いてくる。

「まさか、君が怪盗だったとはね、成雲さん」

「開原、先生……」

 まさか、ただの人間である彼が世界を歪めたというのか?どうやって?

「この世界は、僕に委ねたんだよ。僕が望む現実が、皆の幸せであるように」

「どういう、ことですか?」

 わけが分からない。どうして、歪みが再び全世界に広がっているのか。しかも、たった一つのデザイアから。

「僕の望みは、皆が幸せであること。君達の言う、僕の歪んだ欲望というのなら、それだろうね」

「なんで……」

「痛みなんて、なくていいんだ。全て、「なかったこと」にすればいい」

 歪んでる。だが、彼の言い分もジョーカーには分かった。

 だって、「レンカ」は全ての人々の痛みと苦しみが和らぐように願われ、望まれ、生まれてきた守り神だから。

 それでも、こんなやり方は間違っている。全てをなくしたって、事実は変わらない。変えられない。そのハズだ。でも、この歪みようは……。

「今まであったつらい事実は全てなくなっているよ。君の前歴も、学校のことも、何もかも」

「そんなこと」

 ありえない。認めてはいけない。だって……。

「信じられないなら、見に行けばいい。僕が作った、君の仲間が望んだ現実を。それから、結論を聞かせてくれないか?そうだね、一月九日にまた会おう」

 そう言って、開原の姿が消えた。敵対するつもりはないらしいし、これ以上は追いかけても意味がないと二人は現実に戻る。

「まさか、開原がこの世界を歪めた張本人だったなんてな」

「信じられない……お父様の時以上に信じられないよ」

 だが、これが変えようのない「現実」なのだ。目を逸らすわけにはいかない。

「これからどうする?彼は九日に会おうと言っているが」

 愛良が尋ねてきた。蓮は考え、

「……愛良は、開原先生のことについて調べてくれないか?ボクが皆に会いに行く」

 この世界がどうなっているのか知りたい。そう言うと彼は納得してくれた。

「分かった。じゃあ、明日からだな」

「うん。今日は帰ろう」

 二人はそう言ってファートルに戻った。


 夜、下に降りようとすると義明が「どうしたの?」と聞いてきた。

「あぁ、ちょっと調べ物。気にしないで」

 そう言うと、光助が「あのさ、姉さん。今度怪盗団の皆で温泉旅行にでも行かない?」と提案してきた。

「温泉旅行、か」

 こんな異常事態でなければ、ぜひとも行かせてやりたい。彼は蓮と同じで甘えることが苦手だから。

「今、幸せ?」

 不意に口からそんな言葉が出ていた。二人はキョトンとしたが、

「幸せだよ、蓮がいて、光助がいて、愛良がいる。皆、きょうだいみたいなものだ」

「オレも。姉さんも兄さんも、愛良もよくしてくれるし。養父が国家転覆を企てたと聞いた時はどうなるかって思ってたけど、またこうしてここにいれるわけだし」

 二人共、幸せそうにそう答えた。国家転覆……ということは冬木 昭人は捕まっているということか。でも、父親は?……多分、「罪を犯していない世界」なんだな……。何となくだが、そう思う。

「このまま続く方がいい?この「現実」が」

 蓮がさらに質問を重ねる。

「急にどうしたんだよ?まぁ、蓮の前歴も冬木 昭人が捕まったおかげで晴れたし、このまま続く方が……あれ?」

「兄さん、どうしたんだよ?姉さんに前歴なんて……あれ?なんか、おかしい気が……」

 なんで蓮がここに来た?そもそも自分達はどうやって再会したのか?二人は記憶がおかしいような気がした。

「温泉旅行、行けたらいいね。楽しみにしてるよ」

 蓮はそう言い残し、下に降りて行った。

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