食前メニュー 巻き込まれた男と勇者、ゲスの国王を添えて
俺は佐野学。ごく普通の料理屋を経営している。これでも常連のいるそれなりに繁盛してる店だ。
そんな俺のある日のことだ。
俺はたまたま来店していた男女4人の高校生たちと共に、見知らぬ場所にいた。
なんだ?ここは?
西洋の…城内か?旅番組とかで見たことがある程度だが。
「なんだよ!?ここは!」
「うそ!なによ、これ!」
慌てる高校生たち。
俺も大分、頭が混乱してる。
「これはもしや!」
すると1人のオタク風な眼鏡ぽっちゃり君が目をキラキラさせていた。
「なんだよ!ハセ!?わかるのか!?」
「むふふ。わからいでか!なのだよ!諸君!これはまさに異世界召喚だ!」
異世界?転移?なにを言ってるんだ?このぽっちゃり君は。
む?なんだ?よくみると高校生たちの頭の上付近に何か付いている。ん?ぽっちゃり君たちを見てみると
♢長谷川 直也♢
16歳 男 人間(日本人)レベル1 異世界召喚された者
オタク魔法師
身長165 体重98
スキル 魔法技能
♢柊木 智子♢
16歳 女 人間(日本人)レベル1 異世界召喚された者
ギャル系ヒーラー
身長168 体重…(これは読まんとこ)
スキル 回復量上昇
…なんだ?これは?
彼らの情報が見える?しかも身体的情報まで…。
他の子たちもだ。…いや、俺のも見える。
♢佐野 学♢
30歳 男 人間(日本人)レベル1 異世界召喚に巻き込まれた者
無気力料理人
身長180 体重80
スキル 鑑定眼 異世界物産召喚
ふむ。正確な俺のデータだ。それにしても異世界召喚に巻き込まれた者って…意味がわからん。
「よくぞ、いらっしゃいました。異世界の勇者様方」
「!?」
振り返るとシスター服の女性を中心に怪しげな集団が現れた。
ん?シスターのあの人…。
「私の名前はアリーシア。この国バラテリアの修道女にございます。皆様、よくぞいらっしゃいました」
困惑する彼ら。そんな中でもぽっちゃり君だけはテンションが高くシスターに食いついた。
「や、やっぱりこれは異世界召喚!なのですな!これは!これは!テンションマックス!ですぞ!」
やや、いや。ヤバめなテンションのぽっちゃり君。あ、シスターの後ろの彼らもものすごくひいているな。
「おい、ハセ!」
「ん?…はっ!これはとんだ失礼を!某、こう言ったラノベ、漫画、アニメは大の好物でありまして、いざ、自分がそれを体感できるとは!ありがとうございます!アリーシア殿!」
「きゃっ!?」
おっと、ぽっちゃり君!テンションが上がりすぎて、シスターに飛び掛かったぞ?
「ハセ!!」
「!?」
突然の大声に、まわりが静まりかえった。
あれは…いつもつるんでる彼らのリーダー的存在の子だ。
えっと…。
♢四宮 一樹♢
16歳 男 人間(日本人) レベル5 異世界召喚された者
イケメン勇者
スキル 勇者のスキル
…勇者?しかも、彼だけはレベルが5もあるのか。
「…ありがとうございます。勇者様」
「…俺たちに事情、説明してくれるんですよね?」
「ええ。勿論です。皆様、王の間へ」
俺たちは案内されるがまま、王の間とやらに向かった。
かなり大きな城だ。案内なしに来たら間違いなく迷うな。
「こちらが、王の間となります」
そう言うと兵士たちが扉を開ける。
開けるとそこには大きな部屋と椅子に座り、踏ん反り返る太めの男がいた。
「おお!よく来たのだ。異世界の民よ。私が、王のデデブなのだ。よろしくなのだ」
…。
♢デデブ・ダ・オージン♢
55歳 男 人間(異世界人)レベル10 ゲスの王
王族
スキル 傲慢
状態 肥満
ゲス?あのおっさん、やばい。キナ臭いな。
「其らを召喚を命じたのは私なのだ。理由は他でもない。この国、いや、この大陸に侵略せし最悪…魔族どもを駆逐してほしいのだ」
なんか、急に話し始めた。
「この世界に召喚されたのは…5人か。悪くないな。私の兵として、魔族を駆逐するのだ」
このおっさん、怪しさをどんどん詰め込んでいく。
ゲスの王の言葉に真っ先に反応したのは、ぽっちゃりハセ君だった。
「え?兵?これから勇者パーティーとして旅をして、魔王たちを討伐するのでは?」
なんだ?それ。面倒くさい。異世界にはそんなルールがあるのか?ハセ君よ。
「ハセッチ!悪いけど、話、勝手に進めないでよ!」
お?智子さんが声を上げた。
いいぞ!もっといけ!
「智子嬢!これは千載一遇のチャンスなのですぞ!異世界召喚は神に選ばれし、奇跡の者たちだけが得られる物なのですぞ!これを逃せば、我ら一生後悔するのですぞ!」
「うわー。ハセッチのヤバイモードに入っちゃった」
ハセ君の気迫に押され気味の智子さん。頑張れ!負けるな!ギャル智子!
「わ、私…」
ん?それまで声すら出さなかったもう1人の女子が口を開いた。
♢桜庭 シーナ♢
16歳 女 人間(日本人とイギリス人のハーフ)レベル1 異世界召喚された者
眼鏡っ子ガンナー
スキル 鷹の目
これで高校生組は全員だな。
「私、うちに帰りたいよ…怖いよー。意味わかんないよ〜」
「……王様。悪いけど、俺たちは」
「まぁ、そう結果を急ぐな。少年たちよ。直ぐにとは、言わんのだ。明日までゆっくり考えるといい」
「っ!いや、俺たちは!」
「勇者らを部屋へ!」
彼らの返答を全く聞く気がないな。こいつ。…ほら、ヤバイ奴だった。こりゃ是が非でも勇者にされそうだな。彼らは…。これ以上巻き込まれる前に…。
「あ、王様?ちょっといいか?」
「ん?」
「な、なんだ!この男は!?」
「って!料理屋のおっさん!?」
…え?俺、気付かれてもなかった?高校生たちからも?そんな影の薄い男だっけかな?
「彼らと一緒に召喚されたんだよ」
「なんと!それでは其方も特別な力を…」
「いや、俺はただの料理人だ。なんか異世界召喚に巻き込まれてここに来てしまったらしい。つまり、俺は被害者だ」
ガチャン
その瞬間、俺は牢屋へと連れてかれた。
…扱いがひどいな。