第030話「派遣勇者と金色の兄弟」
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第一章【レグナ王国編】
第030話「派遣勇者と金色の兄弟」
不思議な杭の活動が止まった後、大量発生していたカイコン虫の討伐を始めていた俺達の戦いはその後すぐに終わりを告げる。
「シンキチ!虫の様子がなんかおかしいよ!」
戦いの最中、遠距離戦闘をしていたアルメイがその異変にいち早く気が付いた。
「なんだ…?」
アルメイの声を聞いて魔物の様子を注意深く見ると、突然体を震わせ始めた虫たちはその直後糸が切れたように地面に落ち始めた。そしてそれは他のカイコン虫も同様に息絶えはじめたのだった。
その後はコチラが手を下す間もなくあっという間に全てのカイコン虫が死んでしまった。この突然死は工場内だけでなく町中でも起こっていた。
こうして突如オートランドを襲ったカイコン虫の群れの襲撃は全てのカイコン虫の突然死によって終結したのだった。
役目を終えて工場から出てきた俺達を町中で会った工場ガイドが迎えてくれた。
「おぉ!皆さんご無事でしたか!」
「ガイドさんも無事な様で何よりです。」
「ロイドさん、この方たちですか?」
ガイドの後ろから来た女性が話しかけてきた。
「えぇ!工場長、この方たちが先ほどお話しした工場へ向かってくれた旅の方々です。」
「初めまして。ここの工場長をしておりますナタ-ジャと申します。」
工場長を名乗って現れたのは三十代後半くらいの女性だった。
その後この工場長や町の冒険者ギルドに要請されて、町や工場に散乱した魔物の死骸の処理を手伝うことになった。オートランドの冒険者ギルドはホームの冒険者も多くないためこのような人員の必要な作業には時間が掛かってしまうのだそうだ。
更に大量のカイコン虫の死骸は残念ながら素材として使える部分は殆どないため、町の外に集めて埋めることにしたのだが大穴を開けるような魔法を使える者がいないためその役を俺が買って出たのだ。
魔物の死骸は他の魔物を引き寄せてしまうので早めに処分しないともっと質の悪い魔物が来てしまう。それは避けたいが大量のカイコン虫を埋めるような大穴を手作業で掘るのは時間が掛かりすぎてしまう。そんな事情からたまたま町に来ていたシルバーランクの俺達にギルドを通じて相談があったので俺が土魔法で地面に穴を開けることにしたのだ。
町民や他の冒険者と手分けして魔物の死骸を町の外に作った大穴へ運び、俺の土魔法で蓋をした。
町中に産み付けられた無数の卵も同様に剥がして穴に埋めることになった。少しかわいそうだが余りにも数が多いので仕方がないのかもしれない。
今回の事件でこの町のカイコン虫を使った布織物産業は終了するのかと思いきや、まだまだ施設を直して継続するらしい。元々なんの特徴もなかったオートランドを町長の娘だったナタ-ジャ工場長が近くの森にすむカイコン虫が吐き出す糸で上質な布が作れる事に着目し、特産品として町おこしをしたそうだ。
それによって町は大いに潤ったので今更止めることは考えられないというのが町民の総意らしい。
そして工場長と話しをしていてまとまった謎は四つ。
①生まれた時期の違うカイコン虫達がなぜ一斉に成虫に変体を遂げたのか。
しかも当時飼育場にいた従業員曰く一斉に成虫になっただけでなく繭形成を省略した成長だったそうだ。
②卵から孵化したカイコン虫が既に成虫の状態で生まれてきた事。
③成虫のカイコン虫の一斉突然死。
通常のカイコン虫も成虫になった後は一週間程度しか生きられないそうだが今回は一日も持たなかった計算になる。
④そして俺が動きを止めた謎の杭の存在。
今回の一件は間違いなくこの杭の存在が原因だろう。
しかしこの杭がなんなのか、どうして糸工場の飼育場の天井を突き破って落ちてきたのか、それは誰にもわからなかった。
次の日、俺達が宿泊している宿へ来客がきた。
「こんにちは。貴方がシンキチさんですね?私は王国魔導研究室の主任をしております。ルードル・レイン・エストランテと申します。」
「私は王国騎士団第三師団所属副団長のダックス・レイン・エストランテと申します。」
そう言って挨拶してきたのはきれいな金髪の二人組だ。一人は女性の様な線の細い白衣を着た男、もう一人は白い鎧に身を包んだ大柄な男性だ。どちらも顔は随分と整っている。
「そうです、私がシンキチです。こちらは一緒に旅をしているルー、アルメイ、シロです。」
俺が紹介するとオズオズと頭を下げる三人娘。
(その気持ちわかるよ…。この二人は姓を持っているから貴族出身なんだろう。しかも二人共気品や風格がレマーレ郷を遥かに超えている、名門貴族や高位の爵位を持つような家系の出身なのかもしれない。)
俺も前の世界で王族や貴族に初めて会ったときは住む世界の違いからか圧倒されてしまったものだ。
ウチの三人娘はそんな名家と思われる二人の男に圧倒されているようだ。
「私たちはオートランドの今回の魔物騒動の件の報告を受けて王命にて調査に来ました。」
「それで、俺達のような旅人に王国の研究室と騎士団の方がどのようなご用事なんでしょうか?」
「町長や工場長から大体の報告は受けましたが、その際貴方のお名前が頻繁に出てきたもので。しかも事件当時騒動の中心部で活動していたのも貴方とのことでしたからお話しを聞かせてもらいに来たのです。」
「なるほど。私の知っている事でしたら全てお伝えします。」
俺達は宿屋にお願いして準備中の食堂の卓を借りることにした。
(うーん。食堂のテーブルを借りたは良いが…。)
この金髪二人組の場違い感が凄すぎる。宿屋の従業員も明らかに食堂に来るようなタイプでない二人がいる光景に若干顔が引きつっている。
(まぁ、とにかく…。)
「何から話しましょうかね。」
「まずは私達が町の方からお聞きした内容をご説明しますので、その中になかった話を知っていれば教えていただけますか。」
そうこちらに伝えると白衣を着たルードル・レイン・エストランテ氏が説明を始める。その内容は大方俺達が見たり経験した事と一緒だった。
「そしてシンキチさんは現場から不思議な杭を回収したという事でしたがまだそれはお持ちですか?」
「えぇ、コチラです。」
俺は回収した例の杭を取り出しテーブルに置く。これは現場から回収したものの町長や工場長も皆不気味がってしまい結局俺が所持する形になっていたのだ。
「ほう…。」
「これがその…。」
二人は謎の杭を食い入るように見つめる。
「手に取って宜しいでしょうか?」
「えぇ、構いません。」
「ほうほう。」と杭を隅々まで観察したルードル・レイン・エストランテ氏は杭を再度テーブルに置き一呼吸してから質問をし始めた。
「シンキチさんはこれについて何か知っていたり、気付いたことはありますか。」
これに対して俺は杭に地面の魔力を吸い上げて謎の力を発動していた事や今回の事件は間違いなくこの杭が原因で起きたであろうことを説明する。
それに対して金髪の二人は頷きながら説明を聞いていた。
「確かに町民や工場関係者、シンキチさんの話に加えてこの杭を実際に見れば間違いなく今回の原因はこの謎の杭なのでしょう。しかしこのように魔物の変化を促すような邪悪な力を秘めた魔法道具は聞いたこともありません。どうでしょう?シンキチさんさえよければこの道具を王都の研究所で調べさせてくれませんか?」
「元々エストランテさんにお預けできたらと思ってましたので問題ありませんよ。」
「そうでしたか!それは良かった!あと私の事はルードルで結構ですよ。ダックスの事も名前でお呼びください。紛らわしいでしょうから。」
「ありがとうございます。気になってはいたのですがお二人はご兄弟なのですか?」
「そうです。我々はエストランテ家の四男と五男で私が兄、ダックスが弟になります。」
「そうでしたか。ではこの杭はルードルさんにお渡しいたします。」
そう言って俺は杭を手渡す。
「ご協力ありがとうございます。この魔法道具がどういったものなのかは王都魔導研究所が責任を持って解析いたします。」
「今回この町で起きた魔物の事件はカイコン虫だったからこそ怪我人がほとんど出ませんでしたが、兄やシンキチさんがおっしゃる通り、この杭に魔物の活動を促進する力があるのだとしたらそれは大変な事ですからね。」
「確かに今回のカイコン虫がシルバーウルフとかの肉食系の魔物だったらヤバかったよね。」
(アルメイの言う通り今回は魔物が成虫の状態で一切飲食を必要としないタイプだったからこそ被害が最小限で済んだわけだしな…。)
「この杭が人為的な物なのかも含めて早急に調査しないといけませんから。」
「頑張ってください。」
「それでは町の調査も終了してシンキチさんから貴重なお話も聞かせてもらいましたし、我々はそろそろ王都へ帰ります。皆さんはこの後どちらに行かれるご予定なのですか?」
「我々もこの後王都へ行く予定だったんです。」
「そうだったのですか!…なら少しお待ちください。」
そう言ってルードルは手持ちの紙に何かを書いて渡してきた。
「この書状を門番に見せれば王都に簡易検査のみで入れます。これは貴重な証拠物を譲っていただいたお礼です。王都に来ましたら是非研究所にお越しください。流石にこの杭の検証は終わっていないでしょうけどまだお話も色々聞いてみたいですから。」
「ありがとうございます!助かります。」
「やったねシンキチ!」
「らっきー」
「それでは我々はこれで。また王都でお会いしましょう。」
「失礼いたします。」
そういってエストランテ兄弟は食堂を後にしたのだった。
初執筆作品です。
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