第002話「派遣勇者新天地へ」
第一章【レグナ王国編】
第002話「派遣勇者新天地へ」
「さて、着いたみたいだな。」
転移したのは神殿の様だ。
だいぶ古いが、荒れ果てている感じでもなく神を模った像も手入れされているような感じを受ける。頻繁でないが誰かが定期的に来ているのようだ。
(とりあえずは街を目指しながらこの世界の情報を集めないとな。あとは資金を作りの目途も立てないと…。いま手持ちにある金は前の世界の貨幣だからこれは使うことは出来ないと思った方がいい。)
神殿から出た俺は、ステータスやマップの機能を確認する。この辺もしっかり機能しているようなのでこれなら問題ないだろう。
(しかし勇者レベル百が無職レベル一となっているな。これだとステータス看破系のスキルと使われた時、逆怪しくなってしまうな…。早めに職を見つけたりしないとな。)
ステータスや魔法・スキルは勇者だった頃を引き継いでいる。勇者として成長の限界となっていた俺としてはさらに強くなれるというのは非常に助かる。
「女神達は目立たない場所を選んで転移してくれたのだろうが、ここは山の中の神殿の様だな。人里までは結構距離がありそうな感じだな。」
広域マップで見るとかなり離れた所ではあるが、山と森を抜けた先に小さな村を見つけた。
山と森を直線で進めばひと月掛からず着けそうなのでそれまでは自給と野営で頑張ることにする。
この地に来て数日、狩りや魔物との戦闘をこなしながら最短ルートで村を目指して進む。
最短ルートの為、かなり森の奥深い所を進んでいたので強大な魔物なんかとの遭遇を危惧していたが、遭遇する魔物は中級程度ばかり。ほとんど魔法を行使せず剣技のみで倒せている。
食糧に関しても獣や植物が前の世界とそれほど変わらないので、抵抗なく食べられるのが良い。ゲテモノ系しかいなかったら精神的に辛かっただろう。
今日もそろそろ日が傾いてきたので野営できそうな場所をマップで確認していると、少し離れた所で索敵が引っ掛かった。
「10体程度の集団とそれに襲われているモノが1体…って感じか。」
こんな深い森なので肉食獣の群れと獲物の獣かと思っていたが、1体の方は動きが獣らしくない。
「襲われているのは人か!?」
戦闘が行われている場所まで一気に駆ける。木々を抜けるとフードを被った人がシルバーウルフの群れに囲まれていた。
「加勢します!」
他人を守る種類の魔法は習得していないので、加速のスキルを使用し一気にカタを付けることにした。
「〈縮地加速〉〈連撃〉!」
シルバーウルフの群れとの戦闘はあっさり終わった。
一度は勇者を極めた俺にはこの程度の魔物であれば百体でも相手は出来るだろう。
「怪我はありませんか?」
「…。」
敵意は感じないが、相当に警戒されているのが分かる。フードを取ろうともしない。
「私の名前はシンキチと言います。ただの旅人です。あなたに害を成すつもりは一切ありません。」
両手を上げ敵意がないことを信じてもらえたのか、フード外した相手を見て驚いた。
その人は美しく長い銀髪に長い耳、十歳にも満たないくらいのエルフの少女だった。
「ほ、本物のエルフだ…。」
思わず声が出てしまったがそのセリフが良くなかったのか、再び相手に警戒心が宿ってしまったようだ。
「す、すみません!初めて本物のエルフに出会ったもので!君に危害を加えるつもりはこれっぽっちもないんです!」
俺の話は本当だ、前の世界は人族と魔族の2種類しかいない世界だった。
だから彼女は俺の人生で初めて遭遇する本物のエルフだ。
まだ新名洋平だった頃、漫画や映画でしか見たことのなかった種族、前の世界には存在せず少しばかりガッカリした記憶も新しい。
そんな夢に見た種族との突然の遭遇に完全にテンパっていた。
だが逆にこれが良かったのかエルフの少女の警戒が緩んでくれたようだ。
「差支えなければ君の名前を聞いてもいいだろうか。」
「私はアリアドールの森、アリフェリアの祝福を受けし、アレミア・ルー・アリアドール…。」
「アレミアだね、一人なのかい?こんなところで何をしていたの?」
「キノコと、木の実…とりにきてた。」
明らかに魔物対策が出来ていないのに一人でこんな所まで食糧を取りに来ていたのか。
(人に対して警戒しているようだが放っておくわけにもいかないがどうしたもんか。)
対応に困っていると索敵が反応する。二つの存在がこちらへ向かってきた。
「おい!人間!ルーから離れろ!!」
そう言って出てきた二つの存在は弓を引き絞り俺に狙いを定める男女のエルフだった。
「貴様!ルーに近づいて何をするつもりだった!」
敵意むき出しの二人のエルフは今にも弓を打ち出しそうだ。
(俺を人攫いや暴漢か何かと勘違いしているのか?弓の2,3発避けたり受け止めたりするのは問題ないが、それでは余計相手を刺激してしまうし…。ムムム…)
どうにかして誤解を解きたかったが、アレミアから救いの手が入った。
「リム!ダグ!この人は私を助けてくれた。」
「人間が!?信じられん…。」
「本当!シルバーウルフ倒してくれた!」
間にアレミアが入ってくれたおかげで張りつめた空気が緩む。
リム、ダグと呼ばれていた二人のエルフは弓を下ろしこちらに近づいてきた。
「私の名前はシンキチ。たまたまこの子がシルバーウルフの群れに追われていたので助けに入った者です。」
「俺はアリアドールの森、アリフェリアの祝福を受けし、アレミア・ダグ・アリアドールだ。こっちは俺の妻アレミア・リム・アリアドール。妹を助けてくれて感謝する。」
(あれ?みんなアレミアなんだな。それにこの二人も十代後半くらいに見えるのだが夫婦なのか。別に嫁がほしいわけではないが少しばかり羨ましい。)
とはいえ保護者がきたのだ、なんだかこの世界のエルフは人間に対してえらく警戒している様だったので危険を冒して家まで送らなくて済みそうだ。
「そうでしたか、妹さんを助けられてよかったです。日も落ちてきましたし、妹さんを連れ帰ってあげてください。私はもう少し離れた場所で野営するつもりでしたので、この辺で…。」
そういってこの場を離れようとしたが、ルーに服を掴まれてしまった。
「ダグ…。お礼…。してない。」
「そうよ、ダグ。ルーちゃんの命の恩人なんだからお礼しないと!人間だけど悪い人ではなさそうなんだし。」
「いや、しかしな…。」
どうやら兄はまだ人間である俺を信用できてないようだ。
やはりこの世界の人間とエルフにはなかなか溝があるのだろう。
「ダグ…。」
「わかった、わかった。シンキチと言ったな、ルーのお礼をしたい。我々の里まで来てくれるか。」
「あ、あぁ…。君たちが良いのなら構わないが。」
こうしてお礼を受けに彼らの住処へ向かうことになった。
「それにしても、こんな森の奥深くにあなた一人で何をしていたの?」
「俺は元々ここではない遠い所で剣技や魔法の修業をしていたのだが、そろそろ世界を見て回りたくなってね。一人で気ままに旅をしているんだ。たまたまこの山の中に歴史的にも古い神殿があると知って、一度見てみたくてね。」
これはこの世界にきて一応考えておいた俺の設定だ。
どれも嘘はついていないから、もし詐称看破系のスキル持ちがいても大丈夫だろう。
「なにっ!神殿へ行ったのか。」
(やばい!もしかして聖地系のやつだったか…)
「あぁ…。ただ本当に見に行っただけで荒らしたりはしていない。不味かったか?」
「いや、あそこは我々アリアドールの民にとっても少し特別な場所でな。年に一度長老が神託を受けに行くのだ。まぁ、荒らしたりしていないのなら問題はないと思うが…。」
「そうだったのか。知らなかったとはいえすまなかった。あの神殿の事は他言しないでおくよ。」
「まぁ、いままでの歴史であの神殿に我々の一族以外の者が立ち入ったというのを聞いたことがなかったからな。人間があの山奥の神殿の存在を知っていた事に驚いただけだ。できれば秘密にしておいてくれ。」
俺は、ずっと気になっていた質問をぶつけることにした。
「ところで、君たちエルフは人間を恨んだりしているのだろうか…。」
「私たちは基本的に里で生まれ里で過ごすの、だから里の者以外との交流はほぼないのよ。別の氏族のエルフとの交流もほとんどないわ。でもたまに里を出て外の世界を見たいと思う者がいるの。昔そういって外の世界へ出て行った里の出身者が帰ってきて世界の事を語ったのだけど…。」
「その内容は我々エルフにはなかなか恐ろしいものだった。エルフをはじめ人族や亜人種等が檻に入れられ、奴隷として金銭で売買されていたというものだ。」
「私たちも人間を見たことくらいはあるわ。接触することはないけど森の中で見かけることくらいはあるの。でも森の中で見かける人間達も同じ種族同士で殺し合っていたり、エルフや亜人を探すような会話をしていたりしたの。だからその帰還者の話を聞いて人間は恐ろしい種族という概念が広まってしまった感じかしら。」
たしかにそれでは俺への警戒や、誤解も頷ける。
彼らからしたら、人間は皆恐ろしい存在なのだろう。
「俺は、皆の里へ行っても大丈夫なのだろうか…。」
「俺たちが一緒だから大丈夫だとは思うが、里に滞在する場合長老の許可がいる。長老に会ってもらう事にはなるからそれだけは覚悟しておいてくれ。」
「わ、わかった。」
「大丈夫、ルー達の里、良い所…。」
俺の不安を察してくれたのか、ルーは俺の手をギュっと握ってくれる。
エルフの集落へ赴ける喜びと、彼らの警戒心への不安に葛藤しながら森を進んでいく。
初執筆です。
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