第001話「勇者呼び戻される」
第一章【レグナ王国編】
第001話「勇者呼び戻される」
「おぉ! 勇者シンキチよ、魔王を打ち倒しよくぞ戻ってきてくれた! お主は我が国、いや! 世界の英雄じゃ!」
俺は今長い旅の末、世界の人々を脅かしていた魔王を倒し、国へ凱旋してきた。
城へ入るまでも、噂を聞きつけた人々に感謝や祝福の言葉を貰いながら堂々と帰ってきたのだ。
とても長く過酷な旅だった。世界の人々を魔族や魔王の手から救わなくてはいけないというプレッシャーの中で危険の多い冒険はやっと終わったのだ。
「勇者よ、世界を救ったそなたは何を望む。余に出来ることであればなんなりと褒美を与えよう。貴族位がよいか? そなたが望むのであれば余の娘を妻としてもよいのだ」
国王の提案に、玉座の間の人々からもどよめきが起こる。
「私はゆっくりと世界を見て回りたいのです。そのための資金を少しばかりいただければそれで満足です」
「なに!? そんなことでよいのか……。そなたは人々の為に十分働いたのだ、余生を我が国でゆっくりと過ごしてよいのだぞ」
「魔王討伐の旅ではゆっくりとできませんでしたから、今度は観光気分で世界を見て回りたいのです」
「むぅ……。それがそなたの希望であるならそれを叶えてやるのが余の務めか。よかろう!」
「王よ、ありがとうございます」
「うむ、必要な金額に関しては大臣と相談するがよい。大臣、できる限り勇者の望みの額を用意してやるのだぞ!」
その時だった。
俺の足元に青い光の魔法陣が現れる。
(――!これはまさか……)
この光は二度見たことがある。
光に包まれ俺はある場所へ強制的に転移させられたのだった。
「やはり、あなただったのですね。俺をここに呼び出したのは」
転移先の真っ白な部屋には見覚えのある女性が俺を待っていた。
「お久しぶりですね」
「そうですか? 俺は次に貴方に会うとしたら死んだ時とかになると思っていましたから」
「ふふっ、そうですね。私もそのつもりではいたのですけどね」
ではなぜここに呼んだのか。
「貴方にお願いしたいことがありまして、急遽戻ってきてもらいました。シンキチさん、いえ新名洋平さん。もう一度貴方の力を貸してください」
そう、俺は先ほどの世界の人間ではなく俗に言う転生者で、目の前の女性は俺を転生させた女神だ。
俺、新名洋平は趣味の山登り中に滑落事故で崖下へ転落。そのまま死ぬはずだったのだが、地面に激突する前に先ほどの青い魔法陣に包まれてここにきた。
その後世界を救ってほしいという女神から少しだけ力を貰い、先ほどの世界に転生したのだ。
力を貰ったとはいえあちらの世界では少し強い程度の強化でしかなかった為、魔王討伐は文字通り過酷を極めた。
(折角、危険な旅を終えてこれから悠々自適に観光の世界一周をと思っていたのに……)
「気は進みませんが、とりあえず話だけは聞きましょう」
とはいえ無下には出来ないので話を聞くことにする。
「それで、力を貸してくださいというのはどういう事でしょう」
「そのですね……。また別な世界の問題を解決してほしいのです」
「残念ですが、お断りします」
「即答ですね…」
こっちはやっと過酷な魔王討伐の旅を終えたのだ、しかも女神の力の授与はそれほど大きなものではなかったから世界を救うために旅を通じて己を鍛え上げ、やっとの思いで世界一強い存在になったのだ。
(レベルも百に到達してこれで安心してゆっくり世界一周の観光の旅ができると思っていたのに、もう一度世界救済をやれと言われて「わかりました! 行きます!」って言うわけなくない?)
「女神様には感謝しています。転落して死ぬはずだった俺にもう一度生きるチャンスをくれたのですから。だから俺は貴方が管理を任されている世界の危機を救うという使命をこなしたんですよ」
今回の魔王討伐はある意味、目の前の死を回避してくれた事への恩返しの一環だったのだ。
「どうしても救ってほしい世界がもう一つだけあるのです!」
目を潤ませて今にも泣きだしそうな女神に決心が揺らぐ。
「以前、お話を聞いた時に担当している世界は一つだと聞いた気がしましたが、もう一つあったのですか?」
「いえ、私の担当している世界は今回貴方が魔王討伐を成してくれた世界だけです」
「ということは俺に救ってほしいという世界は別の女神の管轄ということですか……」
「はい、私がお願いしたいのは妹の担当している世界なのです」
女神にも姉妹とかそういうのがあるんだな、などと変な所に関心が逸れてしまう。
「そもそも、いくつもある世界は全て神様が基礎をお作りになるのですが、その後の管理は私達女神に任されています。管理といっても直接的な事はほとんどせず、その世界の生と死のバランスが大きく偏らないように少しだけ手を加えるだけなんです」
「なかなか壮大な話ですね」
「私の世界で魔王が誕生してしまい、生と死のバランスが崩れそうになったからシンキチに救ってもらったというのが今回の顛末になります」
「ということは、妹さんの世界でもバランスが崩れそうになっていると」
「そうです、管理する世界には実は管理難易度というものが存在します。世界の環境や文明の進行速度、知性の高い種族や宗教の種類数なんかが管理難易度に関わってきます。環境が過酷だったり、文明の進行速度が高かったり種族や宗教が多かったりすればするほどバランスを保つのは難しいのです」
「たしかに大量破壊兵器や種族宗教間の対立が起こりやすければ管理は難しそうですね……」
「そうなのです、難易度の高い世界の管理はベテランの女神がやるのですが、女神も人手不足でして経験に合わない女神が難易度の高い世界の担当になってしまうケースが増えてきました」
まさかこんなところで人材不足問題の話が出るとは。
「そして今回、私より管理経験の浅い新米女神の妹が難易度の高い世界の担当となってしまったんです……」
「でも、妹さんも俺のような勇者転生をしていないのですか?」
「実は、もう勇者転生は使ったそうなのですが、思いのほか成果が良くないようで」
「それで、一応勇者として実績のある俺に白羽の矢が立ったということですか」
「はい。しかし一つの世界に勇者を二人作ることは出来ないのです。一人目の勇者が亡くなってから新たに送り込むか、勇者ではない者を送ることは出来るのですが。その辺は神様のお作りになったルールなので私たちは破ることは出来ません」
「俺はすでに勇者ですが」
そう、俺は前の世界に転生する前にこの女神から【勇者の祝福】を受け転生したので、ステータスにも職業として勇者が付いてしまっている。
「はい、なので勇者の職を剥奪した上で妹の世界に送らないといけないのです……」
無茶なお願いをしている自覚があるのだろう、説明する声がどんどん小さくなっていく。
「頼れるのはシンキチしかいないのです! 妹も頑張っているようなのですが、このままでは……」
「一つ確認させてください。妹さんの世界へ行く場合、俺のステータスはどうなるのでしょう」
「勇者職以外はそのままでの転生となります。ただ勇者職でないただの人間なので、勇者の時ほど成長スピードは速くないですし、勇者でないと使えない勇者装備や勇者用の魔法が使用できなくなります」
(成長に関してはすでにレベル百のステータスだから問題ない……。ただ装備や魔法は前回より若干縛りがあるって感じなのか。その辺りはステータスの高さや勇者専用以外の装備やスキルでカバーすればいいか)
「――――わかりました」
「本当ですか!?」
「ただし一つだけ条件があります。俺は妹さんの世界では気ままに旅をさせてもらいます。その先々で問題があれば解決に向けて行動する。それでも良ければ貴方の妹さんの世界に行きましょう」
「それは世界を救う為に積極的には動かない、ということですか」
「いいえ、それは少し違います。貴方の世界を救う際、俺は世界を救う事だけを考えて行動しました。自分の希望とかは二の次、最短で魔王を倒すための行動を常に考えていました。その行動は勇者だから出来た事も多いのですよ」
「たしかに、勇者でない者が目立ちすぎるのは良くないとは思いますが……」
「それに、今回は魔王が生まれ世界を滅ぼそうとしているから魔王を倒せばいいといった感じでもなさそうですから、世界を自由に回りその先々で女神様の言う【生と死のバランス】が崩れそうな原因があればそれを回避できるように動くのが一番なんじゃないでしょうか」
「そう言われるとそれが一番良いような気がしますね……」
「俺は新しい世界を自由に旅できる、妹さんは世界の管理が楽になる、女神様は妹さんの負担が減って心配しなくても良くなる、妹さんが転生した勇者はそのまま勇者として過ごせる、誰も損をしません。どうでしょう?」
女神は少し考えると。
「わかりました! シンキチがそれで妹の世界を良くしてくれるのであれば、その条件で行きましょう!」
「では、妹さんに会わせてもらえませんか? 転生させた覚えのない人間が勇者並みの強さで旅をしていれば不思議に思うでしょうし」
「そうですね! 呼んできますから待っていてください」
その後、女神が連れてきた妹女神に事情を説明する。
「アタシは願ったりかなったりだけど、姉さんの世界は大丈夫なのかしら。勇者を呼び戻してしまったのでしょう?」
「その辺は大丈夫よ。シンキチが想定よりもずっと早く魔王を倒したことで安定期が長くなりそうだし、勇者の件は神託で疲れを癒すために眠りに入ってもらったことにするわ」
「シンキチさんもいいのかしら」
「勇者職はともかく、今の強さを残したまま世界を自由に旅できるなら問題はそれほどないですよ」
「ありがとうございます。転生前にアタシの方からも力を少し授けます。現状のシンキチさんでも十分私の世界では強いですが、お礼と思って受け取ってください」
そう言って妹女神から力を授かる、全体のステータスが少し上がったのを感じた。
(とはいえホント微々たるもんなんだよなこれ……。ガツンと上げられないもんなのか?)
「前から思っていたのですが、女神の授ける力がそれほど大きくないのはなんでなんですか?最初から強い勇者を世界に送れれば管理も楽だと思うのですが」
俺が尋ねると、二人の女神は苦笑いを浮かべる。
「昔は女神も自由に力を授けられたそうよ。でも最初から最強の力を持って転生された勇者の中にその力を悪用する人が出たそうなのよ。それから神様が通常よりも少し強い程度の力しか授けられないようにしたみたいなの」
(突然大きな力を持って自制が効かなくなった奴がいたんだな)
「そうだったんですね。じゃあ、疑問も解決したことですし勇者職を外して妹さんの世界へ送ってください」
「「わかりました。世界を頼みますね」」
「ぼちぼち頑張りますよ」
こうして、【正式勇者】でなくなった俺は【派遣勇者】のような形で新しい世界へと旅立ったのだった。
初執筆です。
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