面倒な再会
紛い物の方の視点です
俺はギルド本部から出た直後、嫌な気配を感じた。
正確には、強大な魔力波を。
それは、俺とサリが通っている学園の方から漂って来ていたが、俺が気づいた直後に反応が消えた。
(クソジジイとは違う、全く別な魔力・・・?
)
気が付くと俺は自然と学園に向かって走り出してた。
今日は欠席しようと思っていたのだが、俺の頭は一つの命令に支配されていた。
『次こそは、必ず守る』
この時の俺は、まだこの言葉の真意を知る由もない。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
俺が学園の門まで辿り着くと、校門の手前辺りに結界が張られていた。
本来、ここの門は午前9時に閉門し、同時に国の精鋭の魔導士達により結界が張られる様になっているのだ。
(まだ閉門まで時間はあるはずだが、まあどうでもいい)
俺は右手で、何かを握るような形を作る。
すると右手の甲に緑の剣の紋様が浮かび上がり、一振りの剣が出現する。
刀身は宵闇の様に黒く、刃は薄く緑に輝いている。
俺は結界に触れる。
すると俺の触れた場所を中心に、幾つもの連結した魔法陣が浮かび上がる。
俺は躊躇無く魔法陣に剣を突き刺す。
正確には、魔法を構築している術式の核を。
剣を突き刺した所を中心に、結界は硝子を砕いた様な音を立てて崩壊し、消滅していく。
消滅と同時に、先程感じたものと同じ魔力波の奔流が流れ出てきた。
俺は通れるようになった校門を開け、学園内に入る。
時刻は8時52分、各教室では既に授業が始まっているはずだ。
そのお陰で、校舎外に人は居ない。
俺は放出されている魔力波を辿り、その根源へ向かう。
(この方向・・・第一訓練場か)
俺が第一訓練場に向かって走っていると、爆音と共に地響きが起こる。
同時に、周囲の魔力波の濃度が更に増した。
「──ッ!」
体質上、俺は魔力を常人より敏感に感じ取れるが、第一訓練場からは2km以上離れている筈なのに、魔力の圧で少しよろめいた程だった。
万が一、この魔力の根源にいる者が、学園を襲う犯罪者等であれば、俺ならば苦戦はしないだろうが、少なからず死者は出るだろう。
だが、ここの統括者のことだ。手網くらいは握っているのだろう。
俺は一瞬想定した襲撃の可能性を捨て、目的の訓練場に急ぐ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
俺は訓練場の門まで辿り着くと、施錠の有無を調べずに門を蹴り開ける。
同時に、中に居たであろう教師が2名、門に衝突して飛ばされた。
俺は魔力の源を探そうとしたが、前方10m程のところにそいつはいた。
腰まで伸びている薄い空色の髪に、海の様な青い瞳の女。
その顔を見た瞬間、頭に鋭い痛みが奔る。
同時に、ギルド前で感じた、俺の中の"何か"が叫び出した
『何故■■■が』
『■ら■■れば』
『もう■■失■■た■■か』
謎の雑音が、所々の言葉を掻き消そうとする。
『必ず、■──』
その言葉を残して頭痛が消え、謎の声も無くなった。
女の方を見ると、俺がアイツの顔を見た直後の姿勢だった。
女はなにやら懸命に、近くの教師に謝罪しているようだった。
尚、教師は呆然としていて聞こえていないようだが。
謎の頭痛と声への疑問は保留にし、女が謝罪している教師へと近づく。
俺は放心状態の教師の頬を叩く。
「おい、何があった」
「お、おお、レイザード君か、急いで学園長に報告を───」
教師が話しかけたところで、俺の頭部目掛けて拳が飛んできた。
「ここで会ったが100年目ぇー!」
俺は一歩引いて回避すると、女は殴りかかった勢いでよろめき、踏みとどまって姿勢を安定させる。
そしてこちらに振り向き怒鳴りだした。
「アンタよくも私を追い出しやがったわね!本来ならあのまま頂上まで一直線だったのに!というか死にかけてたアンタを助けてあげたのに!」
追い出した?死にかけ?
数秒思考し理解した。
こいつは昨日の意味不明女だ。この感情剥き出しの鬱陶しさは間違いなく昨日の奴だ。
ここに居るってことは編入試験でも受けてたのか。
今気づいたが、さっき女が立っていた位置から先の訓練場の壁が溶解している上に、その先の学園の防壁にまで風穴が空いていた。
案外、昨日の話も本当らしい。
「怒鳴る前にその魔力を抑えろ。鬱陶しい」
正直、この場に立っている事すらやっとだ。
「こっちの話も聞きなさいよ!・・・って、魔力を抑えるってどうやるの?」
怒鳴り出したと思えば一瞬で戻り困惑しだした。
不自然な程切り替えが早い奴だ。
「・・・少しの間体の力抜いてじっとしてろ」
俺は女の額に人差し指をあて、魔力の流れを調べる。
まったく、なんなんだこの女は。
恐らくこの現状を作ったのはこの女と見て間違いないだろう。
この女と昨日遭遇した時は、あの魔法の余波でこいつの魔力を検知できないだけだと思っていたが・・・、
こいつは恐らく、自分の魔力を制御できていないのだろう。
なら何故あの時は魔力を抑えていられたのだろうか。
(というかなんだこの出鱈目な魔力量は。全体の流れを見るのに3分も掛かったぞ)
結界がよく維持できていたものだ。
この女の魔力の流出は何とかかなり遅延させた。だがそれでも結界を破壊してから数分しか経っていないというのに、この大陸の3分の1を覆うほどの魔力を放出していた。今も尚広がり続けている。
俺は女を通して得た魔力の流れを弄り、視覚と魔力回路を繋げる。
「お前の視界を少し弄らせてもらった。これでお前の目は、魔力が視覚化されるようになったはずだ」
「何これ気持ち悪っ!」
自分で言うのか。
「魔力は宿主の意思で操れる。その波を収束させる形を想像しろ」
女は「うーん」と呻きながら頭を抑える。
周囲の魔力が急激に女に収束していく。
1分後、魔力は完全に収まり、女は膝をついて荒くなった呼吸を整える。
「はぁ、はぁ、っできた!」
「そうか、因みに試験の結果はどうなった?」
俺は女に問うが、返事は俺の背後からよく知った声で聞こえた。
「言うまでもなく合格だろうね。というか合格だよ、僕が許そう」
俺は後ろを振り向くと、俺のよく知る白髪の老人が立っていた。
「何しに来たクソジジイ」
「新たにこの学園の生徒になる者の顔を見に来たのさ」
俺がクソジジイと呼んだコイツはフレイ=ロージェス。
この学園の長であり、この【ロージェス・リィ】の国王でもあるジジイだ。
年齢は不明。3桁を超えているのは確かだが、一向にくたばる気配はない。
「本音を言えよ」
「顔を見に来たのは本当だよ?まあそれ以外にも目的があるのは否定しないけどね」
俺は阿呆らしくなって、寮に戻ろうとしたが、視界の端でそれを捉えてしまい、足を止めた。
それはフレイが魔力女に渡した、アイツがこれから住まう寮の場所が指示されている資料だった。
そしてそこには、よりにもよって俺と同じ寮の名前が記されていたからだ。
俺は反射的に地面を蹴り、フレイに急接近する。
フレイは微動だにせず立ち尽くしているが、俺は構わず奴の喉元に剣を突き付ける。
俺はジジイの首に刃を当てて問う。
「どういうつもりだ」
「んー?ただ新入生への案内の資料を渡しただけだが?」
「お前との契約には、アイツの存在の秘匿も含まれているだろうが」
「そうだね」
「そこに見ず知らずの魔法士を入れんじゃねえよクソジジイ、お前とてアイツの危険性を理解していない訳じゃないだろう」
サリなら自分で自分を守れるだろう。
だがサラは違う。
サラだけは駄目だ、絶対に守らなければならない。
フレイは俺を見て数秒目を細めた後、言った。
「なら、君がその剣で守りたまえ」
「それはここでその女を殺せという事か?」
「ちょ?!」
「んー、少し違うかな」
ジジイは笑みを浮かべながら俺と女を交互に見た後、数歩下がって告げた。
「ではこうしよう───
間を置いて、フレイはこう告げた。
───君達には模擬試合をやってもらおうかな」
「「・・・は?」」




