↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終末タンク  作者: 壱名
26/37

荒野のメイルシュトローム 3

アーサー率いる連合軍はセイルの乗るアーサーのタンクを囮とすべく陣形を改めた。まず40台ばかしあるファームのタンクで、鶴翼のV字を逆としたような陣形を組む。そしてそれらは、北西と南西から迫るふたつの群れを統合すべく、群れの速度に合わせて後退する。


その陣の中央前方へ、プライムスの町工場街から提供された張りぼて立方体ブロックや、投射機からの硬化性ゲル弾を投下することで、群れを再度分割、中央のタンク隊と外側の武装トラック、バギーとで挟み撃ちにする。つまり全体としては鶴翼陣形がふたつあるW字陣形である。


「武装バギーやトラックが個別に狙われた場合は、まず安全に機動力をもってこれを撃退しろ。自分の身の安全は自分で守った上で群れの側面を突け。陣の先端からは狼煙を上げるからそれより外側に射角を合わせるように」


連合軍やフリーハンターの車両は、全て外側に回すことで機動力を確保し、また陣形の乱れを気にせずに緩やかに群れを囲い込むことで、連合軍の練度の差を吸収する。また、一部のファームのタンクは、陣形外側の先端に置かれ、W字の3つの先端より発煙筒を炊くことで、バギーらが大きく外側に膨らんでも全体としては陣の形が整うように配慮した。


モンスターの群れは飽くまでセイルを狙っているため、モンスターのほとんどはタンクの壁に向かってくる。中にはこれを飛び越えようとするものも現れるが、これはガン・ドローンがライフルを撃ち込むことでその行動を抑止した。それでも足の速いヒョウ型の一部が壁をすり抜けてくるが、群れを構成するモンスターの中では防御力に劣るこれは、ラインバッカー隊の機銃やガトリング砲などで簡単に排除できた。


「これは鶴翼陣形がふたつあるように見えるけど何が変わったの?」


レンは自身の手によりヒョウ型を排除すると、先の質問をタイガにぶつける。


「ファームのタンクは変わらずに壁をしてくれているが、互助同盟とフリーハンターらは陣形を気にせずに外側から狙い撃っているだけだ。まあ、俺らはラインバッカー隊にいるから、中央のファーム軍団に混ざってはいるけどな」

「もっとバラバラになるかと思っていたけど、陣形を解くわけではないのね」

「ファームのタンクは強固だし、高度に統制が取れているから、敢えて利点を捨てる必要はないんだろ」

「折衷案ってことね」

「ファームの負担は大きくなるが、それが出来るというならやってもらわなきゃな」


一度に撃退するモンスターの数を調整するため、連合軍は細かく後退のペースを調整していた。陣形の裏を取られるようであれば、全軍全速で後退し、そうでない場合は緩やかに減速していく。こうして後方の安全を確保していく。


しかし、連合軍には投射機など本来足の速くない車両もあり、これらの安全を確保するためにも、どこかで群れを塞き止めるという負担も存在する。そこで陣形の裏を取ろうとするモンスターの数が少数であれば、これを敢えて呼び込みラインバッカー隊で排除するとした。


現在のラインバッカー隊には問題もある。壁を抜けてくるヒョウ型はバギーを中心に撃退し、裏から回り込むその他のモンスターは、タンクの主砲で吹き飛ばす。これが現在のラインバッカー隊の布陣である。ファームのタンクは全周旋回可能な砲が大砲であるが、陣形の制限から大砲は陣に対して背を向ける必要がある。結局、壁の裏に回るモンスターも足の速いモンスターが中心であり、大砲だけでは命中精度に難があった。


しかし、タイガのタンクは全周旋回可能な砲が機銃である。タイガのタンクは右翼を回り込むモンスターがどのようなタイプであれ、大砲と機銃とを使い分け撃退し、タンクの壁を飛び越えてくるヒョウ型もレンが背面に機銃を回転させて撃退することができた。タイガのタンクはラインバッカー隊で唯一の対モンスター仕様の小型タンクであり、現在のラインバッカー隊においては八面六臂の活躍である。


「アーサーだ。ケベック、町工場街のタンクが2台、右翼外側に居るが、これを呼ぶ必要はあるか」

「なんでそれらが必要なんだ」

「これらは全周旋回可能な砲が機銃のタンクだから、タイガと同じように働けるだろう」

「……わかった。次に軍全体を左折させるタイミングで合流させてくれ」

「了解」


ケベックとしては対タンク仕様のタンクが否定される思いで面白くはない。しかし、ケベックにもプロ意識があり、面白くはなくとも現状の改善を優先する。受け入れはするがケベックはストレスが溜まるのを感じた。その時、


「ケベック隊長っ、右翼壁正面にグリズリー型です」

「あん?」


ケベックがそれを確認した時には、既にグリズリー・ミュータントは壁を構成するタンクの1台を殴りつけていた。タンクの中へと埋もれる大砲。被害はそれだけに留まらず、その砲手までもがグリズリー・ミュータントの一撃に押しつぶされていた。


「助けてください、隊長っ」


ケベックに報告を入れてきたファームの傭兵が悲鳴を上げる。グリズリー・ミュータントはタンクに一撃を加えた後、そのまま大砲の砲身を持ち上げようとする。刹那、タイガのタンクは空砲を噴きつつ急速反転し、その主砲をグリズリー・ミュータントに向けて一撃する。ドガンッ、放たれた砲弾はグリズリー・ミュータントの顔に直撃すると、砲弾からは何かの液体が飛び散り、グリズリー・ミュータントに降りかかる。グリズリー・ミュータントは捕えていたタンクの砲身から手を離すと、膝をついてその場で暴れまわる。


「おいタイガ、何を撃った?」

「撃ったのは強酸の特殊砲弾です。おそらく目にでも入ったのでしょう」

「何でお前がそんな砲弾を持っている」

「いや俺モンスター・ハンターですよ?」

「……そうだったな」


ケベックはタイガの行動の速さにも驚きを覚える。タイガの行動はケベックのカメラも視界に入れていた。ケベックの記憶する限り、タイガはグリズリー・ミュータントを確認すると即座にタンクを反転させ、特殊砲弾を装填し、急所に的確を捕えていた。それどころか、タイガのタンクが反転した時には、既に照準が合っていたようにも見えた。


(グリズリー・ミュータントの存在は既に分かっていたことだし、予め特殊砲弾を使う用意をしていたとしても、あのとっさの行動と射撃の正確さは異常だな)


タイガの動きにケベックは、数日前にシミュレーターでタイガと対戦した時のことを思い出す。最初こそケベックが圧勝していたものの、大型タンクの操作とケベックの動きに慣れたタイガは、次第にケベックを相手に長期戦に持ち込める機会を作りだしていた。最後の一戦は互いの砲弾がぶつかり合い、その後タイガが間髪入れずに次を撃ったためにケベックが被弾して負けとなった。


(あいつがファームのタンクで俺に勝つのは正直まぐれに近い。ただ、砲撃がかち合ったあの場面での連射は、初弾を撃つときに既に相殺されると分かっていたような動きだった。あいつが狙って砲撃の相殺に持ち込めたとしたら、俺はあいつに作戦負けしたわけだ)


タイガのタンク乗りとしての強みはその操縦センスと高い空間認識能力にある。しかし、彼のタンクの操縦技術はまだ粗削りであり、予め決めた行動でなければ、その射撃の正確さを活かすことは出来ない。詰まるところ、タイガの能力で最大の強みは、それらの才能よりも即興のプランニング能力にあった。


――その後のアーサー率いる連合軍は、時折グリズリー・ミュータントの猛追に被害を出すものの、全体としては比較的軽微な被害で作戦を遂行した。中にはヒョウ型が、タンクを足場にガン・ドローンを落とす場面も散見されたが、それよりも目下の課題はグリズリー・ミュータントを如何に排除するかである。両翼外側にグリズリー・ミュータントが現れると、これの対処に周囲の殲滅力が犠牲となり、他のモンスターが陣を突破しやすくなることも問題となった。


サテン村でのグリズリー・ミュータントは、顔を殺人蜂に覆われていたため、その体躯を十分に活用できていなかった。戦いの場が果樹園だったことも、タンクほどではないが力を出せなかった理由である。現在、連合軍と対峙するグリズリー・ミュータントにそれらの制約はなく、その驚異的な身体能力を如何なく発揮していた。グリズリー・ミュータントは正面からの砲撃を叩き落として、自身を狙い撃った車両を叩き潰すなど連合軍の脅威となった。


「ケベック、今グリズリー・ミュータントはどれくらい居るんですか?」

「お前が無力化したのを数えなければ他には4体ほどだ。北西からの群れにのみ存在していたが、そちら側の群れはもう弾切れのようだ」


開戦当初から投入されていた北西からの群れは、今でははっきりとその密度を薄くしていた。ドラゴンタイプとしては先行投入のつもりであったのか、今では南西からの群れが敵軍の中心となっていた。


「なら俺は右翼に行った方がいいんじゃないですか。俺の強酸弾ならうまく当たれば一発で無力化できます」

「その強酸弾ってのは何発残っている?」

「あと5発です。強酸弾は6発持ち込みました」

「そうか、なら……」


ケベックがそう言いかけたとき、アーサーから全体へと無線が入る。


「アーサーだ。後方に岩場が見える。このままでは陣形を維持することは難しいだろう。一旦陣形の幅を狭め、安全のために全速でこれを迂回する」

「だそうだ」


タイガはラインバッカー隊から抜けることを止め、素直に指示に従うことになる。この岩場は中には人より高さのある岩も点在しており、その路面は荒れて不安定であり、タイヤを履くタイガのタンクはその機動力を奪われがちとなった。


連合軍が陣形を狭め岩場を迂回したことで、群れの半分ほどが岩場の中へと雪崩れ込む。連合軍はその群れの手前を中心に撃退を繰り返すことで、岩場の中にモンスターの群れの渋滞を引き起こした。更にセイルの乗るアーサーのタンクが、率先してその岩場を迂回したため、群れは岩場の中で螺旋の如く全体へ広がっていく。


「よし、やれっ」


ズドアァッ、そこへトレインの指向性爆弾が投下され、点在する岩々と一緒にモンスターの群れを一網打尽とする。しかし、その風通しの良くなった岩場の中には、グリズリー・ミュータント4体を含む後続の群れが入ってくる。それらは一直線にアーサーのタンクを目指して突っ込んで来たため、タイガやケベックなどはギョッとするが、それに対してアーサーは迷わずに切り札を切る。


「ミサイル発射用意っ、撃てっ」


ズドガガガガガッ、ミサイル発射機2台から発射されるは計16発のミサイル。これらは岩場の中央に集まってきたグリズリー・ミュータントらを襲い、その強靭な腕と体とを構わず貫き、そして吹き飛ばし、その全てを一瞬にして塵とした。


「これがミサイルの威力……」


ミサイルの威力を目の当たりにしたタイガは思わず驚嘆する。敵の施設を丸ごと破壊するだけの威力を誇るミサイルの圧倒的な火力には、それまでこれを見たことのない全ての人が度肝を抜かされた。ミサイルが爆発しなくともその貫通力でグリズリー・ミュータントは倒されていただろう。


一度に大量のモンスターを失い、グリズリー・ミュータントという強力なカードをも失った群れを、ドラゴンタイプはもうこれ以上操ったりはしなかった。群れは次第に勢いを無くし、そして散り散りとなっていく。アーサーの連合軍もそれらを掃討することなく、ジャービスの連合軍との合流を優先した。


――セイルでは聞けないドラゴンタイプの『声』を聞ける男が一人いる。それはブラウン髪に坊主頭の男のことであり、彼は自身のトラックの運転席で、タブレットPCを操っていた。


「おや、もうお終いかい?パーフォレイター」


男は楽し気に笑みを浮かべている。


「まあ文明破壊戦争でも、モンスターは1台のタンクを追いかけっこなんてしなかったろうしな」


男のすぐ近くには巨大な鋼鉄の壁が見える。そこはプライムスの壁の外のようだ。


「苦手な追いかけっこなんてしても詰まらないだろう。今度はお前の得意なところで遊ぶといい」


男は手元の発信機を『声』の通じて、彼がパーフォレイターと呼ぶドラゴンタイプへと信号を送る。


「セイルには悪いけど、俺はお前の活躍するところが見たいんだ」


男はそういうと、無邪気に笑いながらプライムスの街の中へと入っていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。