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終末タンク  作者: 壱名
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リスクと選択

スクラムズの歓迎パーティの開かれた翌早朝、セイルの扱いに関してプライムス・ソルジャー・ファームの幹部による会議がファームの会議室で行われることになった。参加者はファームの総帥のアーサーと、現在暫定でセイルの上司となっている装備開発部トップのローレル、アーサーが総帥となってからは対タンク戦の指揮を引き継ぐケベック、野盗対策兼戦闘用動物ブリーダーを担当するウェットの代理でホミィ、そして当事者のセイルが参加者である。プライムス市長のドナテロと街の顔役で交渉担当のミラの父クレイマンは会議の存在こそ知らされているが、ファームの人間ではないため不参加となった。


「さてセイル、まず我々が確認しなければならないのは君は今ドラゴンタイプの存在を確認できているのかということだが」


皆が着席するも早々に議長のアーサーはすぐに会議の進行を始める。アーサーのひと言に幹部の視線は自然とセイルに集まる。


「確認ができているとは断言はできないけど、電波でも音波でもない何らかの信号に対する受容体反応は10日ほど前から感じています」

「ローレルもこの件は確認しているな」

「ええ、会ってすぐにそう説明を受けています。セイルの脳に焼き付けられているというデータベースにはドラゴンタイプの情報は無いのだったね」

「はい」

「ん?なあボス、発言いいか」

「どうぞケベック」

「そのドラゴンタイプってのを退治して欲しいというアンタッチャブルの依頼にしてはセイル、お前のデータベースがそれを知らないってどういうことよ」

「それは僕にはわからない」

「おかしいじゃねーか!」

「待てケベック、そもそもアンタッチャブルがひとつの組織かどうかすら我々には確認ができていない。複数の組織で構成されているなら横やりを入れたものがドラゴンタイプの情報を曖昧にしか掴んでいないということもあり得る」

「それもおかしいだろ、なら何故その横やり一派はドラゴンタイプの信号とやらを受信できるこいつを作れてるんだ、なあセイル」

「……わからない」


ケベックの圧迫にセイルはうつむき縮こまる。


「ケベック、落ち着き給え」


ローレルが制止する。


「ならローレルのおっさんが説明してくれるのか?」

「お前はまた……そうだな、可能性としては未知の技術による通信技術が彼らの中で共有されていると考えられる。『技術は共有します。成果物として何を作るかはお任せします』という繋がり方であればそんな構図にもなりえるだろう」

「そうなのか?」

「……だからわからない」


セイルを睨みつけながらの問いかけにセイルはつい伏せがちになる。セイルの様子にケベックは苛立つがそれ以上は追及しなかった。その最中、会議室のドアが開き、ドアからはミラが姿を現す。


「遅くなりました」


ミラはそういうが、少女の登場に幹部ら一堂もセイルもぎょっとした表情を浮かべる。


「遅くなりましたって……ミラ、俺は君を呼んだ覚えはないが」


驚きつつもアーサーはそう制止する。


「父クレイマンの代理で来ました。客として預かる者として話は聞いておきたいと」

「そのクレイマンはどうしたんだ」

「今朝がた互助同盟のオフィスに呼び出されています」

「まさかスイベルにか?」

「そうだろうとおっしゃっていました」

「ふむ……」


ミラをそのままに思案を始める一同だが、ホミィだけはミラを隣へ招き、自身のメモを覗かせてみせた。


「ありがとうホミィ」

「あんたは凄いねぇ」

「まだ何もしてませんが……」

「いやいや」


所詮兄の代理であり下っ端だからと黙って話を聞いていたホミィには、まだ15ばかりであろうかというしっかりものの少女がまぶしく見えた。


「しかし昨日の今日でさっそくこれは早すぎないか」

「確かにこれは俺たちの行動も監視されているというより他はない」


最悪の場合でもセイルを切り離せばよい、というのは楽観過ぎであったかとアーサーとケベックは反省する。ケベックはよくわかんねーなぁ、などと呟きながら頭を掻き、ふとセイルの顔を覗く。セイルはうつむき加減ではあるものの目の力は強く、堅い意思を覗かせていた。


「今からでもこいつ差し出すか。奴らが何か言って来てから差し出すよりはマシかも知れんぞ」

「それは出来ない。スイベルにはジャービスらの縁を切ってまですり寄る価値はない」

「そうかぁ?うちの案件の何割かは旧国家派閥が撒き散らした紛争に由来してるんだぞ、いわばお得意様だ」

「ファームが互助同盟に人手を貸すのは治安維持に関する戦闘行為に限定している。旧国家派閥にすり寄った結果、侵略に加担することになれば本末転倒というものだ。使い捨てにされないよう適切に仕事を選ぶことはファームに限らず傭兵派遣を営む組織の基本になる」

「……ああ、わかったよ」


元よりファームは互助同盟の新世界派閥であった元帥が引退の折りに作った組織であり、一族のものには旧国家派閥の強権に飲み込まれないよう新世界派閥を支持するという役割がある。しかしアーサーは表立ってこれを主張し幹部らを鼓舞し、時に誘導するといった行為は避けている。支持する派閥と異なるとはいえ旧国家派閥も互助同盟である以上、敵対する訳にはいかない。理屈が必要なのだ。


その後、スイベルの意思が分からない現状ではファームとしての行動も決められないと会議は頓挫する。代わりにセイルが生態兵器として何ができるのかという情報共有がローレルが本人に確認するという形で進められ、その後はセルビース家当主クレイマンと合流してから再開の運びとなった。そのクレイマンがファームのオフィスに顔を出したのはその日の夕方になってからである。クレイマンは白髪の老紳士であり、ミラの養父である。再度開かれた会議はアーサーとクレイマンとの会話で始まる。


「つまりスイベルの主張はジャービスがファームにセイルを預けた時点でセイル監視の任を放棄しているのだから、セイルはスイベルが身柄を預かると、そう言ってきているわけです」

「それは我々の存在を無視しているようなものでは」

「当然分かって言っているのです。彼らの主張を補強するならば、我々は捕虜の監視任務をジャービスから受託しているわけではありませんからね」

「しかしクレイマン、仮にジャービスがそんなことをすればジャービスは非難の的でしょう」

「アンタッチャブルのメッセンジャーの扱いは互助同盟でも大変デリケートな問題です。そのようなことは互助同盟の誰もしないでしょうね」

「では何故スイベル……いや旧国家派閥はそもまでセイルに辛く当たるのでしょう。近年でいえば他のメッセンジャーがそこまで敵視されていた事例はないはずです。メッセンジャーが初めて姿を現した時代であれば、暗殺なども横行していたとは聞きますが」

「セイルと他のメッセンジャーとの大きな違いはその役割で、モンスターとの戦闘においてその者の存在が有効であるということです」

「セイルにモンスターハントをされては困ると?」

「より正確に言えば互助同盟やファームと、アンタッチャブルのエージェントが共闘するということは阻止したいのです」

「それがアンタッチャブルとの融和とも思えるメッセージを生むから、ということでしょうか」

「その通りです」


この問題はアンタッチャブルに対して穏健というよりは日和見といえる立場をとる新世界派閥においても同様に存在する。しかしベギンタウンのジャービスはセイルの能力の有用性を完全に排除することには躊躇があった。ジャービスはセイルの未知の能力がクリティカルな状況で必要となったとき、そこにセイルが居ないという事態は避けなければならないと考えた。だからセイルをファームに預けたのである。


「しかし傭兵稼業の鉄則はクライアントに使い捨てにされない仕事を選ぶということです。セイルを引き渡した場合、如何なジャービスとの付き合いといえど、我々が無策でドラゴンタイプと真正面からぶつかるなどということは受け入れられません」

「それを考えるのはアーサー、あなたの仕事です。何某かのトレードオフが発生する場合、それを決定するのは長であるあなたです。それがプライムス創始者一族のルールです」

「……そうですね、わかりました」


アーサーが思案のため沈黙したことで会議室は静寂に包まれる。そこでふとホミィが何かを思い立つ。


「ねえセイル、確認だけどあんたの能力の電波や音波の発信ってどの程度の性能なの」

「……音波に関してはそれなりに、電波に関しては制限が強くなるけどまあラジオ程度には。ホミィに見せたことのある用途以上の事は出来ないよ」

「それでその謎電波は?」

「謎電波って?」

「仮名よ、あんたが受信してるその謎の反応のこと」

「少なくとも今はできない。僕の能力として使いこなせるようになっているのかもわかっていない」

「それが少しでもできるってんならさ、もういっそドラゴンタイプを呼びつけちゃったら?荒野あたりに」

「何でそんな……」


セイルだけでなく他の幹部らも呆れた顔や困惑した顔でホミィを眺める。


「まあ馬鹿なことだけど聞こうよ。今そのスイベルってのが介入してくるのは互助同盟のルール上ではセイルとの繋がりが切れていると難癖をつけてきてるからでしょ。だったら今ドラゴンタイプが現れて有事になってしまえばあんたの管理権はまたジャービスに戻ると思うんだ」


西大陸の互助同盟本部は大陸中央にあり、本部が特に作戦を立案しない場合の指揮権は現地の5等指揮官が受け持つ。現在本部以北に5等指揮官はジャービスとこの地の担当ベルトラン女史のふたりだけである。またベルトラン女史は老齢のため戦闘指揮からは引退しており、つまるところ緊急の事態ではジャービスが現地の最高指揮官となる。そのジャービスがセイルを作戦に使うといえばスイベル単独ではものいいもできないだろう。


「ホミィ、それで仮にドラゴンタイプを呼ぶことが可能だとして、それをやったら今度は俺たちが処刑されるってわかるだろ。それに情報もなしにそんなに急いで呼んでどうやってこれに勝つ算段なんだ。もっと真剣に考えろ」


ケベックが横やりを入れるがホミィはその指摘に納得がいかない様子である。ホミィは食い下がる。


「処刑云々は後で考えるとしてさ、こいつはモンスターを操る能力があるんですよ。巨大な血吸い蝙蝠の大群をパパっと散らしちゃったりね。そのドラゴンタイプってのも似たような作戦で罠に嵌めるってのが、たぶんセイルが存在する意味なんじゃないでしょうかね」

「……僕もそんなところだろうとは思う」

「でさ、あんたがドラゴンタイプの注意を引きつけないでこれと対峙した場合って、アンタッチャブルの見立てでは私たちじゃどうしようもなくなっちゃうんじゃないの」

「それはわからない」

「つまり私が言いたいのは今の私たちにセイルを手放すだなんて選択肢はないってことなんですよ」


ここまでうつむき加減で聞いていたアーサーもホミィに顔を向けて耳を傾ける。


「選択肢がないとは具体的に?」

「アーサーはセイルが居なければドラゴンタイプの討伐を受けないと考えてるかもしれないけど、そんな選択肢は私たちにはないですよ。だって現れちゃえば有事なんだし、こっちがダンマリを決め込んだら何だったら互助同盟が勝手に指揮権を持っていっちゃいますって」

「……それはありえるな」

「セイルは居ない、私たちは前線に立たされるってこれが私たちにとって最悪のパターンです」

「それだけは避けたいと」

「それにスイベルにしたってセイルを強奪せずに帰っていくなんて選択はないはずです。私たちがセイルを渡すなら監禁するか暗殺する、渡さなかったらこの街で暗殺するしか考えてないでしょう。でも今このタイミングで有事になってしまえば黙るしかない。ジャービスにセイルの管理が戻った状態でセイルを殺せば、そいつらの上層ごと互助同盟から出ていくことになります」

「……お前の主張をポジティブに受け入れるとしてだ、実際に呼べるのか?ドラゴンタイプをスイベルが痺れを切らす前に」

「それを皆で考えましょう」


ふはは、とホミィのその一言には技師のローレルが溜らず笑い声を漏らす。


「いや失礼、まあ時間稼ぎとしては今からでもジャービスを呼んでしまえばいくらでも稼げるでしょう。ジャービスと相談しないと渡せないとでも言って、ジャービスが来たらセイルを預けてしまえばいい」

「それはどうかな。スイベルの理屈ではジャービスは管理を放棄したと言ってるのだから、今ジャービスが来てもスイベルはセイルの管理権を強引にでも主張するんじゃないか。上に決定を委ねるならたぶんジャービスが負けるだろう。新世界派閥は政争が得意ではないだろうし」

「ふむ……」


アーサーの指摘にローレルも返す言葉がない。そこに老紳士クレイマンの助言が入る。


「ローレルのアイデアのままでも、スイベルの主張が正しいのかは私たちでは判断できないとして、ジャービスをここに呼ぶことまではできるでしょう。時間稼ぎとしては気送管通信でジャービスに連絡して、本人が来るまで5日から7日と言ったところでしょうか。その程度の先延ばしであれば私ならどうとでもなります」

「ではローレルとホミィはセイルの能力開発にあたってくれ。それ以外の諸問題は俺とドナテロとクレイマンで考える。ケベックはスイベルの街での動きを監視してくれ」

「大きなリスクを抱えることになりますが本当によろしいので?」

「対岸の火事である旧国家派閥からすれば、ドラゴンタイプがここらの拠点を潰してまわるのはむしろ都合が良いだろう。対立構図が鮮明となるしな。しかしこの地に住まう者達はそんな事態を受け入れるいわれはない。我々にはこの地を守る義務があり、ただこれを遂行する」

「わかりました。我々も最善を尽くしましょう」


会議は解散となり幹部らは散り散りとなる。意気揚々と会議室から退室する他の幹部と異なり、ホミィの表情は硬い。その様子を察知したクレイマンはミラに何かを言付けるとミラはホミィの下へと駆け寄った。


「ホミィ、お父様はアーサーと話の続きがあるとのことで夕食をご一緒しませんか」

「え、ああそうだね、一緒に食べようか」


ホミィは何の気なしにミラの手をつなぐ。


「やだホミィ、私はもうそんな年齢ではありませんよ」

「ああ、ごめんごめん」


作り笑顔でそう謝り、ミラの手を離そうとするホミィ、しかしミラはホミィの様子の変化に気づき、逆に手を握り返してくる。


「それにしても凄い汗、震えもありますがどうかなさったのですか?」

「ちょっと緊張してきてね、余計なこと言っちゃったかあなぁと」

「意見を言うのは会議に出席する者の仕事です。案を採択するのはアーサーの仕事です。ホミィは正しい事しかしていませんよ」

「そう、ありがとう」

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