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ふたつ、不運な練成を

2016/09/06

本文修正しました


 



「…………で?」


 スキル――影縫を放ちながら赤ネの双剣使いはぼそりと呟いた。


「なんでクレイゴーレム狩りなんだよ――!?」



 [ネームレスがいきり立ってエルニドに襲い掛かった!]



「“トコトン付き合う”とさっき言ったばかりだろう、お前」

「うぐっ!」



 [エルニドの反撃――正論が発動!]

 [ネームレスの精神に5ダメージ+足止めの効果!]



「やだぁ、クレイゴーレムは定番じゃないですかー。ぷげら」



 [リリルのコンボが発動!]

 [リリルの挑発によってネームレスの精神に10のダメージ+激昂を付与!]

 [ネームレスはわなわなと震えているようだ]



「て、テメェ……今バフの詠唱最中だったろ!? わざわざキャンセルしてまで俺を馬鹿にしてぇのか、あぁ!?」

「あ、ごめんなさいですー。(→もげ太さん) では、詠唱省略して《戦神の剣》~♪」


 ピカーと後光が差すと巨大な剣のエフェクトが発生し、もげ太に≪攻撃力上昇≫の効果が掛かった。


「詠唱省略できんのかよ!?」

「気分ですよー、き・ぶ・ん」

「…………イラッ☆(ぷるぷる)」



 [リリルのエンジェルスマイル!]

 [ネームレスは暴走寸前に追い込まれた!]

 [効果は覿面(てきめん)だ!(何の)]



「せえいっ!」


 ――もげ太の攻撃!


 しかし、クレイゴーレムにひらりと……届かなかった。


「なぁ、影天。もげ太が真剣に戦ってるのに……少しは申し訳ないと思わないのか?」

「そっ……そりゃあ……」



 [ネームレスはエルニドに諭され、激昂の効果が消えた]



「――って、この謎のメッセージはもういい! つかテメェの仕業か、光天っ!?」

「てへっ」



 [テキストガイド終了します]



「……はぁ。二人ともあれを見ろ」


 エルニドがもげ太を指差した。

 もげ太はクレイゴーレムと戦闘の真っ最中だ。


「てあ!」


 ――ミス!


「とう!」


 ――ミス!


「やぁ!」


 ――ミス!


「………………」

「………………」


 二人はもげ太の剣舞を見て黙り込んだ。


「……念のため言っておくが、もげ太は真剣(・・)なんだぞ?」


 エルニドは目線でさらに念を押した。


「わ、わーってるってば……」


 ネームレスは言い知れない恐怖に萎縮した。


「ですねー。面倒だから色々省略して、女神の大盾~」


 リリルの支援魔法で、もげ太に≪防御力上昇≫の効果が掛かった。


「えや!」


 もげ太は素振りに余念がないようだ。

 エルニドは咳払いをする。


「と、とにかくだ。あんな調子のもげ太を変な場所には連れていけないだろう?」

「まぁ…………そりゃあな」


(天に(かしずき)き数多の生命(せいめい)よ――)


「つまり、トドメはもちろん、戦闘全般はもげ太にやらせなければ意味がない。経験値的な意味も含めてだ」

「い、いちいち言われなくても分ーってるっての……!」


(幾多の闘いを駆け抜けし英霊たちよ――)


「言っておくが、トレインとか範囲狩りも禁止だぞ? 狩りの基準はもげ太に合わせてだな……」

「しつけぇ! ……ってか、おま、ちょっと詠唱が物騒じゃ――」

極光天霊波(リリルビーム)です~」

「――――って、おいィ!?!?!?」


 目を開けて居られないような膨大な光がリリルが描いた魔法陣に向かって収束し、巨大な光柱――つまり、超極太光線がMOBを一網打尽に薙ぎ払う!


 〈フオォォォ――――……ッ!〉


 突き抜ける光の威力は、環境オブジェクトの耐久数値を凌駕し、地形を(けず)り、山を貫き、空の彼方へと消えていった。


「お……お……おぉ…………お?」


 かの影天が我が目を疑った。


 耳にした技名はふざけた名称だが、その威力はネームドモンスターの特殊攻撃にも迫るほどだ。


 ――いや、それより、戦闘全般は任せるという方針ではなかったのか?


「お、おい。焔天……?」

「……え? あ、あぁ……」


 さしものエルニドも、この光景には度肝を抜かれたようで、腕組をしたまま目をぱちくりと見開いている。


「もげ太さんの背後からMOBが迫ってましたので~。てへぺろり」

「……あぁ、それなら仕方ないな。うん、仕方ない」

「何の為に高レベバフ掛けてンだよ、お前!?」

「うぅっ……“護りたい母性”には逆らえないのです……」

「うむ――分かるぞ」


 エルニドは腕を組み、うんうんと深く頷いた。


「――いや、テメェに母性が分かるわけねぇだろ!? つか、もげ太に当たったらどうする!? 百回は余裕で死ねる威力じゃねぇのか!?!?」

「や、もげ太はPTメンバーだから問題ないだろう。そんな仕様ならレイドで範囲攻撃とか撃てないじゃないか。常識的に考えてみろ」

「倒置法か!? わざわざ倒置法で俺をディスってんだな!?」

「ぼっち乙ですー」

「誰がぼっちだ!! ――って俺だ!? あながち間違ってねぇからって調子扱いてんじゃねーぞ、ごるぁ!?」

「むうぅ……こうなったら……『天に傅き数多の生命よ』……」

「あ……ちょっと待て。な? ヤ、ヤんのか……マジでヤんだな!? 天弦っ!!」

「ふむ…………やめておけ。膝が生まれたての小鹿みたいになってるぞ?」


 そんなやり取りが繰り広げられている中、黙々と戦闘を続けているもげ太。


「はあっ――スラッシュ!」


 素振りの効果が実ったのか、新たに習得したスキル名を叫ぶ!

 大振りに放たれた斬撃が見事にクレイゴーレムの真芯を捉え、HPバーを一撃の元に吹き飛ばした!


「…………や、やったぁ! やったよ!」


 悪戦苦闘を繰り返し、ようやく撃破した一体のクレイゴーレム。

 感極まったもげ太が飛び跳ねて両腕でガッツポーズをした。


「ナイス、もげ太! ……練習やレベル上げも兼ねて、一石二鳥だな。うむ」

「ですねー」


 リリルが鞄から道具を取り出し、何やら器へ移すとシャカシャカと泡立て始めた。


「しかし、さすがにいきなり【練成石】はドロップしないか」

「ですねー」


 ほこほこと湯気を立てる液体を、ずずずと(すす)り始めるリリル。

 言動を伴わないリリルの行動に、ネームレスの頬が引き攣った。


「…………オイ。母性はどうした母性は!?」

「これでも退屈なんですよー?」

「――だから母性は何処にやった!?」

「うむ。分かる」

「そこで分かってンじゃねぇよ、ハゲ! いい加減シバくぞ――!?」

「禿(↑)げ(↑)て(↑)な(↑)い(↑)!!!!」

「ぷぎゃーですー」

「スラッシュっ――!」


 裏でそんなこんななやり取りが繰り広げられている中も、もげ太は人知れず二体目の討伐に成功する。


「つーか、やっぱテメェだって退屈してんじゃねーか!」

「うむ。悪いか?」

「――堂々と開き直ってんじゃねぇ!!」


 きっぱりと告げるエルニドに、ネームレスは再び激昂した。


「これは、仕方ないですよぅ……ふあぁ…………あふ」

「光天、いくらなんでもそれは頑張ってるもげ太に失…………失れ…………はぁ……んんっ! ふぅ、失礼だろう」

「テメーまで感染(うつ)って堪えてんじゃねぇよ、ハゲ!!」

「誰が禿か――!!!!」

「ではでは~。わたしは、ちょっとお布団用意して来ますねー」


 [リリルが離席しました]


「――自由か! お前は自由の化身か!?」


 [リリルが離席を解除しました]


「あ。旦那もう帰ってきてましたー」

「だからって旦那にやらせてんじゃねぇよ!? 旦那、今まで仕事してたんだろが!!」

「てへっ♪」

「あー、クソッ! 怒ったら負けだってわかってるのに殺意が、この穴という穴から溢れる俺の殺意が抑えきれねぇ……っ!!」


「スラッシュっ! スラッシュっ――!!」


 もげ太は、三体目に向かってスキルを連発していた。


「おーっ。もげ太さん、いつの間にかコンビネーションまで習得してますねー」

「ふむ。やるな、もげ太」


 上段から下段、下段から上段へと交互にスラッシュを繰り返すもげ太。


「…………いや、地味に凄いだろこれ?」

「まぁ、単独コンビネーションだしな」

「基本を覆してますねー」


 見ていると、やがて息切れをするもげ太。

 どうやらMPが尽きたらしい。


 しかし、三体目のクレイゴーレムは顕在だ。


 もげ太はインベントリから回復POTを取り出すと、その薄青色の液体を一息に飲み干した。

 もげ太の全ステータスが回復。


「――ちょおっと待て! あれ【エリクシール】じゃねぇか!?」

「事前に渡しておきましたー」

「用意周到だな」


 詰めかかる勢いのネームレスに、冷静に切り返すリリルと頷くエルニド。


「あれ一本の値段で、もげっちが狙ってる【練成石(Fランク)】がいくつ買えると思ってるんだお前らぁ!?!?」

「ひぃ、ふぅ………………うむ。もはや、計算するのが面倒だな」

「ですよねー」

「とどのつまり、そういう桁だろうが!! まずはそこに気付け!!!!」


 言ってる間に、再びMPを空にしたもげ太はグビグビと【エリクシール】を飲んでいる。


「おやおや? なかなか良い呑みっぷりですねー」

「あれで昔からミルクの飲みっぷりだけは凄まじいからな」

「そんなこたいいから教えてやれよ――!?」

「まぁ、結果的にコンビネーションを習得したんだからいいじゃないか?」

「この調子なら、また何か閃くかもですしねー。特性はお金じゃ買えないのですー」


 正論と言えば正論だが……もはや、あまりの富豪ぷりにネームレスは戦慄する他ない。


 ――一体、この女の財布事情はどうなってるんだ……。


 と。


「だったら……石狩りなんてしてねぇで、Fランの石くらい金策してマケで買った方が早いだろが。つか、【木の盾】自体ゴロゴロ転がってんだし合成のが安上がりじゃねぇか」


 トーンを落としたネームレスは、二人から冷ややかな目を浴びせられた。


「…………やれやれだ」

「これだから情緒の分からない禿げは嫌なのですー……」


 二人は、目を見合わせて大きく溜息を吐く。

 が。

 何かを聞き咎めたようにエルニドがリリルに詰め寄る。


「……おい? 今の禿げ(・・)って影天のことだよな? 誤って俺に飛び火したわけじゃないよな?」

「はいー。気のせいですよー。面倒くさい男ですー(ぼそっ)」


 息が合っているのかいないのか。

 やっぱり、こいつも手の平の上か――とネームレスはわずかな安堵を覚える。

 そんな折、


「ねーねー! 三匹目も倒したよー!」


 もげ太がぴょんぴょん飛び跳ねてこちらにアピールをしていた。

 彼の足元にはやがて自然消滅するであろう空き瓶オブジェクトが三本転がっている。


「おう。凄いな、もげ太!」

「やりましたね、もげ太さん!」

「えへへー!」


 二人の激励に照れるもげ太。

 まだまだ秘薬の在庫を削りそうなこの状況に対し億尾も動揺を見せない二人に、ソリストバトルマニアは、ただただ驚愕するしかなかった。





 ◇





 その後、およそ二十のクレイゴーレムを倒したところでようやく【練成石(F)】を獲得したもげ太。

 ――ただし、失った秘薬の数はそれ以上だ。


「転移石よりは安いので~」


 この発言には、エルニドも驚きを隠せなかったようだ。

 UWOには【転移石】と呼ばれるアイテムが有り、好きな街にテレポートを行うことができるのだが……その値段は推して知るべし――だ。


『よく来たな』


 街の工房NPCだ。

 もげ太が「練成お願いします!」と告げ、インベントリから【木の盾(白)】と【練成石(F)】と手数料の10ルクを手渡した。


『よっしゃ! 一丁やってやるか!』


 気合をいれて槌を取り出すNPC。

 そんなもので叩いたら木製の盾などバラバラに砕けてしまいそうだが……。


『ふんぬぁ!』


 NPCがマッスルポージングを決めると盾の石が輝き始めた。

 二つのアイテムがひとつに重なり、やがて輝きが小さくなっていく。


 ――おい、槌はどうした?


 錬成を初めて目にするプレイヤーは、皆口を揃えてそう言った。


 やがて、〈テューン……〉というえらくテンションの下がる効果音が流れる。


『……おっと、失敗しちまったか。ま、気を落とすなって。次は成功するさ』


 かっかっか、と手前味噌な笑いを浮かべる鍛冶屋のNPC。

 しょんぼりと肩を落として盾を受け取るもげ太。


 成功率90%の練成を失敗した親父に対する各々の態度など、今更説明の必要があろうか。


「――このクソ親父、ブッコロス!!」

「落ち着け!」


 いきり立ったネームレスが、ネネムの鍛冶屋の親父をNPKし掛けたのは言うまでもない。


 ――が、


(大いなる古の神々よ、その力を以ってこの者に相応(ふさわ)しき(さば)きの(ひかり)を与えたまえ――!)


「――いや、お前もだ!!」


 寸前のところでリリルを羽交い絞めにしたエルニドは、下手をすれば街ごと消し飛ぶであろう少女の行動に、この日最大の恐怖を味わうのであった。




(※旧あとがきのため、変更された設定もあります)


さて、内部的に設定を考えても本文で出番があるかどうかは疑問です……。


《練成について》

同じ装備、もしくは練成石という特殊なアイテムを使うことによって装備品を強化することができます。

街の攻防(NPC)や生産職のプレイヤーに依頼することで可能となっています。

基本値は白で、緑、青、黄の順に能力が上がります。

振り分けは、1:2:3:4で、上昇幅が非常に高い分、高ランク装備になるほど難易度も高くなっています。

失敗による主装備の消失はなし、カラーダウンのペナルティが設定確率で発生します。

一定のランクを超えた装備では、カラーが一段階上昇すると、ワンランク上のカラーダウン装備と同レベルの能力値になります。


例)E武器(緑)=D武器(白)


例外として、Sランク武器だけは練成不可で、固有能力を所持しています。

上記武器のみ、金、銀、銅という設定になっています。


一瞬でカラー視認できるゲーム画面とは異なり、+1、+2……の方が小説では判別し易いのですが(汗)

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