みっつ、三天が助ければ
2016/08/01
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今日も、もげ太は日がな一日、ひたすらに木剣を振るっていた。
「はあ! せやっ!」
もし、これが現実世界であれば、今頃もげ太の手は血豆を重ねていたことだろう。
幸いなことに、ここはVR世界の中だ。
負傷の心配もなければ、修行にも余念がない――
――そう言えるのならば聞こえはいい。
しかし、悲しいかなこれは実戦だったりする。
『グオォォォォー!』
もげ太がアクティブMOBの視覚内に入ったことで標的に定められ、クレイゴーレムが転進して迫ってくる。
「《スラッシュ》!」
もげ太の斬撃スキルが発動し、MPと引き替えにクレイゴーレムに大ダメージを与える!
こちらから近付くのではなく、相手を引き付けてからのスキル攻撃の発動を覚えたのだ。
しかし、いくら装備している【木剣】がそれなりに優秀とはいえ、今日はリリル不在のため強化バフがない。
やや格上であるクレイゴーレムのHPバーを一撃で飛ばし切るには至らなかったようだ。
ややのけぞりながらも、クレイゴーレムがその見るからに重たそうな拳をもげ太目掛けて振り下ろした!
『オォォーン!』
もげ太はすぐに左手に装備した【木の盾】を構え、クレイゴーレムの拳目掛けて裏打ちで突き出す!
そのタイミングは絶妙で重なり、新たなスキル――《シールドバッシュ》に開眼する!
〈ガキィン!!〉
鈍い音を立てて、クレイゴーレムの石拳が弾かれる。
《シールドバッシュ》が成功し、敵に硬直が加算された。
もげ太はすかさず剣を振りかざし、胴体ど真ん中目掛けて剣を突き出した!
わずかなエフェクトが身体を包み、もげ太の身体を勢い良く全身させる。
――中距離から一気に間合いを詰めながら攻撃する突進スキルの《アサルトシールド》だ。
『オ……ォ……ォン』
エルニドは、崩れ行くクレイゴーレムを見送りながら我が目を疑った。
……これは夢なのか?
試しに頬っぺたをツネってみるが、やはり痛くない。
残念、やはり夢だったのだ。
しかし、今は夢でももげ太を褒め称えよう。
あんなに嬉しそうに喜んでいるのだから――。
◇
「……エルニドー……エルニドってばー……」
誰かが身体を揺さぶりながら呼んでいる。
重い瞼を持ち上げると、眩しい光が差し込んできた。
その光を遮るように、見慣れた顔が逆光で映り込む。
「…………おう?」
両腕を軸に身体を起こすと、どうやら草地の上のようだった。
目の前にはもげ太がしゃがみ、こちらを覗き込んでいる。
「……む? もげ太か?」
「うん」
顔を合わせて尋ねるまでもない質問だが、もげ太は名前を呼ばれたことを嬉しそうに答えた。
「エルニド、気持ち良さそうに寝てたから起こしちゃ悪いかなーと思ったんだけど」
「寝てた……のか? あ、あぁ……いや、すまなかった」
ふかふかの草地に温かい陽光。
どうやら自分はここで寝ていたようだ。
「昨日、ずっと付き合せちゃったから疲れちゃったんだよね……ごめん」
首を傾げていると、ぼんやりと記憶が戻ってきた。
昨日は確か、もげ太のクレイゴーレム狩りに皆で付き合って……
「いや、全然謝る必要なんてないぞ。むしろ、すまん。まさかゲーム中に寝てしまうなんて……とんだ失態だ」
エルニドはすぐに頭を下げた。
リアルでは身体は寝ているはずなのに、インしてまで寝てしまうとはなんたる緩怠か。
一緒に遊んでいる友人に、申し訳なさの念が先に立つ。
「…………ううん、僕は平気だよ」
ほんのわずかに、もげ太の顔が暗く陰る。
だが、それも一瞬のことで、すぐにいつもの陽気さを取り戻すとにっこりと笑った。
「それより、ほら! 見て見て!」
「うん?」
もしや、石をドロップしたのかと両手を見てみるが、それらしいものは持っていない。
「何を……」
そう言い掛けて気付いたのは、もげ太のステータスウィンドウ――レベルだ。
「お? おぉ?」
なんと数字が10と表示されている。
とうとう、もげ太のレベルが二桁台に乗ったのだ。
「ひとりでずっとクレイゴーレムを倒してたのか?」
「うん!」
尋ねると、もげ太はきっぱりとそう答えてきた。
序盤のレベル上げはそう難しいものではないが、初心者ならばクエストなどを併用して行うのが基本だ。
それもVR操作に不慣れなもげ太が、ほぼMOB狩りのみでそこに到達したとあれば感慨も一入か。
「やるじゃないか、もげ太!」
「えへへー」
頭をくしゃくしゃと撫でると、もげ太は猫のように身体を丸めて喜んだ。
そういえば、昔はよくこうやって頭を撫でていたな――。
エルニドは古い記憶を思い出していた。
もしかしると、もげ太も当時のことを思い返していたりするのだろうか。
確認する前に、少年アバターは再び木剣を握り、次の敵を探して背を向けてしまう。
まだ次の練成石を入手していないのだろう。
エルニドは考え込み、ある提案をした。
「……もげ太、少し休憩にしないか?」
「休憩?」
「あぁ。散々休んでた俺が言うことじゃないが……お前も疲れただろう? 侘びも兼ねて街で何かごちそうしよう」
「ほんと? やったぁ!」
納刀したもげ太が羽のような足取りでこちらに跳ね寄ってきた。
こういう時、変に遠慮をしないのももげ太の良いところだ。
無論、もげ太は侘びの必要など意味さえも感じていないだろう。
しかし、こちらに残ってしまうシコリを解消するには、こういう手段を取るのがベターなのだ。
エルニドは笑いながら、小さな友人の背中を軽く押した。
「美味しいものでも食べて、また頑張ろうな」
「うん!」
そうして歩いて行く二人の後姿を、遠巻きから眺める人影があった。
「………………」
視界から二人の姿が消えると、人影は静かにその場を立ち去った。
◇
「雄おぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」
エルニドが《咆哮》を上げる!
その迫力で敵の足が竦み、動きを封じた!
「はぁー《スラッシュ》っ!」
そして、もげ太が斬り掛かる!
さすがの彼も、動かない敵から攻撃を外すことはなくなったようだ。
木剣が命中し、HPを失ったクレイゴーレムは土くれとなって崩れ落ちた。
しかし、その中に目的の石は見当たらない。
「うーむ……ここまで出ないものだったかな」
「エルニド?」
「いや、何でもない」
強化アイテムのドロップ率がいくな芳しくないとはいえ、所詮はランクFの練成石だ。
これでは、影天の言うように本当にマーケットで購入した方が良いような気さえしてくる。
が――
「やあぁ!」
もげ太は次の標的を定め、既に行動へ移っていた。
立案は自身、そして当人のモチベーションもある以上、変な水を差す気にはなれない。
「とは言ったものの……」
もげ太のレベルは既に11に上がっている。
このまま順調に上がっていげば、やがては装備はEランクへと移行するだろう。
今装備しているFランクを強化したところでいつまで需要があるか。
現に先ほど、もげ太は獲得した戦利品を換金して新しい防具を購入している。
それもEランクの装備だ。
「《スラッシュ》!」
もげ太に斬られたクレイゴーレムが行動を停止した。
このようなアクティブMOBであるクレイゴーレムすら、ある程度以上にひとりで倒せるようになってきている。
そろそろ頃合いかもしれない――。
再び《咆哮》を上げて友人を支援しながら、男は行動に移ることにした。
ご評価ありがとうございます。
あまり描写のないもげ太回は、ギャグ頻度が大幅低下します…。
(諸事情で、もげ太の心理描写はなるべく控えたいので、物語の中心ではありますが主人公視点の話は少なめです)




