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子連れ槍兵と花魁道中?

2016/08/25

本文修正しました

 



 [三件のメッセージが届いています]


 ――――――――――――――――――――

 from:リリル

 もげ太さん足速いですよ><;

 あっと言う間に見えなくなっちゃいました

 よ(顔汗)

 お姉さんは心配ですー><。


 ――――――――――――――――――――

 from:エルニド

 何処にいるんだ?

 こっちは楓柳の本部にいる

 今大騒ぎになってるぞ

 場所を教えてくれ


 ――――――――――――――――――――

 from:ネームレス

 おれぁjがおおうあだめだ

 たすもげ


 ――――――――――――――――――――


 [未読メッセージはありません]




 ◇




「あわわ……どうしよう」


 もげ太は、頼まれた使いを果たすため道を急いでいた。

 慌てているのは、そちらの用件ではなく受信メッセージの方にあった。

 どうやら神無風に留まっている間に、メッセージが溜まってしまっていたようだ。

 ゲーム内メッセージは三通だけだが、LSDを通した外部からの通信を含めればそれ以上になるだろう。

 それらのタスクトレイは視覚野に透過表示されているとはいえ、文字があればやはり注意はそちらに向いてしまうもので――


「止まれ――!」

「――わっ!!」


 よそ見ダッシュを敢行していたもげ太は、行く手を遮るように立っていた男に気が付かなかった。

 あわやひっくり返るのを堪えつつ、もげ太は、胸の辺りを両手で押さえながら端末をオフにした。

 そして、声を掛けてきた相手の顔を見る。


「え、えーと……」

「…………」


 白い鉢巻に薄青の羽織。この町ではたびたび見かける服装だった。

 相手からは、メッセージが見えないため、歩き読みをしていたことが分かっていないのだろう。

 大袈裟なリアクションに対して、怪訝な表情を浮かべていた。


「……まぁよい。ここは現在封鎖域に指定されている」


 男は、状況を簡潔に説明した。

 あえて回りくどい説明をすることで、もげ太の出方を窺っているのだろう。

 言葉が終わると同時に、威嚇を込めるような意味合いで、ドン! と地に槍の柄を真っ直ぐ突き立てる。

 のっぺりとした特徴の薄い刃――菊池型と呼ばれるそれは、楓柳での支給装備だ。


「だが、逃げ遅れた町人……には見えないな?」


 鋭い眼光を向けられる。

 普段ならこんな場面でも平然としているもげ太だが、驚きで心臓がバクバクしている今の状態では、わずかながらに尻込みをしてしまう。

 それが余計に槍兵の男の不審を買ってしまったのだろう。


「ここで何をしていた? 名前と所属、目的を言え」


 続けざま、職務質問のような問いが浴びせられた。


「え、えっと……」


 もげ太は、しどろもどろになりながらも答えるべき言葉を考えた。

 聞かれた内容を、ゆっくりと順番に嚥下(えんか)していく。

 名前……そう、名前を答えるだけならば単純だ。

 そこで迷う必要はない。


「も、もげ太です!」

「…………ふむ」


 男が名前を呟きながら走り書きをしていく。

 ゲーム内でメモを取ると、データ文書として保存をすることができるのだ。


「もげ太――と。確かに間違いはないようだな」


 ネームプレートを確認したのだろう。

 ならば、初めから名前について尋ねる必要もないように思えるのだが。

 男は「はて?」と、名前に引っ掛かるものを感じたようだが……わずかに目線を斜めに泳がせた後、気のせいだと考え流したようだ。


「若葉マークか。キヨウの町には珍しいが……装備的にも町人ではないのだろう。ここに何か用事でもあったのか?」

「その……あの……」


 用事――と聞かれると、一体何で連れて来られたのかよく分かっていないもげ太には答えにくい質問だった。

 答えようとしても適解が得られず、口篭ってしまう。

 そのことが余計な追求を煽ってしまうかと思いきや、男の口から出たのは意外な言葉だった。


「――いや。悪かったな」

「…………え?」


 突然の謝罪、そして構えていた槍を後ろ手に隠した。


「……あぁ。我ながら初心者に掛けるような言葉ではなかった。どうにも任務を受ける身体が強張っていかん」


 男は反対の手で口を押さえ「んんっ」と喉を鳴らす。


「ようこそ、キヨウの町へ――いや、UWOへ! かな?」

「は、はい」


 もげ太は、目をぱちぱちと瞬かせながら男の顔を見やった。


「よくよく考えてもみれば、だ。君のような新規がキヨウにいるということは、誰かこの町に友人知人がいるのだろう?」


 言われ、もげ太は思考を巡らせる。

 自分がこの町を訪れた発端は、りるりる――リリルの導きによるものだ。

 ということは、町の関係者に知り合いがいるというのもあながち間違ってはいないのかもしれない。


 もげ太は、男に「はい」と首を縦に振った。


「そうか、それは気分を悪くさせてしまった。本当にすまない。立て込んでいる最中とはいえ、安全を守る立場に居るわたしが和を乱していては……元も子もないな」

「き、気にしないでください!」


 もげ太は、落ち込む男に気丈に声を掛けた。

 男とて自分の職務と信念に従って行動しているのだ。

 幾度と謝罪を受けて責めることはできない。


「えーと……それで何か立て込んでるって話でしたけど……」

「ん? あぁ。この付近一帯に戒厳令が布かれたばかりなんだ」


 キヨウにおける戒厳令とは、楓柳の各組による統治の強制行使だ。

 執行には無論、組織のトップである戦天の承認が必要ではあるが、認可が降りれば当組が他組に対し優先権力を得ることができる。

 今、矢面に立っているのは雪組のようだ。


「特にこの区域には厳戒態勢――避難勧告が発令されている。そんな誰もいないはずの町を、もげ太君のようなな子が歩いていれば……」

「そ、それは……」


 不審に思われて取り締まりを受けても致し方がない。


「……ご迷惑をお掛けしました」

「いや。せっかく遊びに来てくれたのに、こちらこそすまない。……いつもはもっと良い町なんだがね」


 男は苦笑を浮かべた。


「さあ、話はここまでだ。この先には都に仇なす危険な賊団が潜んでいるとの情報もある。すぐにもげ太君を安全な場所まで誘導しよう」

「ありがとうございます! よろしくお願いします!」


 もげ太は、深々と頭を下げた。

 男は、そんな少年アバターの真摯な姿にうんうんと頷き、


「これもわたしの立派な仕事だからな」


 男はもげ太に顔を向け、初めて笑顔を見せた。

 そして、背中を向け狭い通りを最短で先導する。

 行き先は、この町でもっとも安全な場所――それは、楓柳の本丸に他ならない。

 羽織の背には、この町での所属組を表す“月”の紋様が描かれていた。




 ◇




 女は深く息を吐いていた。

 言うなれば憂鬱か。


 ――掴まえた魚を逃した、というか海に落としたというべきか。


 いや、掴まえただけでは意味がなかったのだ。

 魚とは、食だ。鑑賞という興もあるが、生の基本は食して初めて意味を持つ。

 そしていざ実行に至った結果、詰めの甘さを痛感する。

 そんな結果となった。


「わたしも不器用ね……」


 つい、感情よりも行動が優先してしまう。

 いや、感情が行動を優先させてしまうのか。


「あまりに唐突だったから…………ふふ。もう少しだったのに」


 そう。

 あと一歩のところだった。

 すんでのところで逃げられて――でも、これも悪くはない。と心のどこかで思ってしまっている。

 まったく我が心ながら面倒な性格だ、と。

 簡単に手に入らないからこそ愛おしいのか。


「まぁ……いいわ」


 狭い路地裏の塀に背中を預けながら、女は狭い空を見上げた。

 塀と屋根に囲まれ、四角く切り取られた空。まるで篭のようだ。

 一切の混じり気の無い澄んだ青空――それこそ、まさに創りものの証なのだろう。


 ――このまま地に腰を降ろして、しばらくは偽の空を眺めて余韻に浸っているのも良いかもしれない。


 ふとそんなことを考える。

 まさか知人から土産に渡されるとは思いも寄らなかったが、何せそれほどに久しぶりの再会だったのだ。

 そうして緩む頬に任せ、地べたに腰を降ろす。

 意匠に凝った高価な着物が汚れてしまうが、それとて所詮はデータの羅列だ。

 生活処理として洗濯やクリーニングを実行すれば、新品手前のピカピカに元通り。

 だが、それは服だけではなく、この町も、空も、全てが作り物で偽物なのだ。


 そんな世界にあって、唯ひとつ――いや、ふたつ?

 自分にとっての本物――。


「――お? こんなところにべっぴんな姉ちゃんが転がってるじゃねぇか」


 と、感傷の世界から、下卑た声で現実へと引き戻された。


「…………ち」


 少々思考に耽入り過ぎたのか。

 近くまで寄ってきた男の存在に気が付かなかったようだ。

 小さく舌打ちをし、自らの失態を恥じる。


「こぉりゃおどれーたな」


 女が半ば寝転ぶ路地裏。

 見上げた先に、卑劣な笑いを浮かべる不精面の男が立っていた。


「場違いに綺麗なねぇちゃんだぁ、ひひひ……」


 男が、舐め回すように女の足の先から髪の一本一本までを眺め見る。

 それ視線だけで、相手の思考が一から十まで読めてしまうようだった。

 確かに、こんな路地裏に煽情的な恰好をした女性が寝転んでいたら勘違いをする男も居るのかもしれないが。


「……VRの世界だってのにねぇ。で? そんなにこれがイイのかい?」


 女は、花魁のような着物の裾の合わせから、白い脚をすらっと覗き見せた。


「おぉう!? …………へ、へへっ。なんだお前、遊女だったのかよ」


 これとて所詮は、作り物の身体だ。

 現実の自分の身体がこの作り物に劣るとは思っていないが……それにしても、男とはなんと劣等な生物だろう。――もちろん、ひとりを除いてだ。

 相手の興奮度合いが、手に取るように上昇していくのが分かる。


「……そんな安い女と一緒にされるのは癪ね。せめて太夫くらいは言いなさい」

「ひひっ……こりゃあ、参ったなぁ」


 男は、既にこれから行われる物語の皮算用でもしているのだろう。

 その顔は、見るに耐えない醜悪に満ちていた。


「……でも、お生憎様。もうそんな商売はしていないの。分かるかしら?」

「はあ? なんだって?」

「もう、わたしは自棄になる必要がないの。彼が居るから」


 ピン、と女が指を擦り合わせると、いつの間にか手の中には可視化された煙管(きせる)が握られていた。

 それをゆっくりと口に運ぶ。


「うへ。なんだぁ、やっぱり誘ってるんじゃねぇのか?」


 遊郭で見せるような仕草に男の心音が高鳴る。

 女は、咥えた煙管を遠ざけ、ふぅ――と男に向かって息を吹きかけた。


「お? …………おぉ?」


 ただよう桃煙が男の身体にまとわりつく。

 心地良い香りに身を委ねていると、


「……がっ! な、なんだ、こりゃ……」


 そのまま男は地面にひっくり返った。

 泡を吹き、全身をピクピクと痙攣させている。


廓詞(くるわことば)――桃の香りでありんす」


 女が腕を軽く振ると、握られていた煙管が長柄傘へと早変わりする。


「……どうにもこれを使うと昔を思い出していけないわ。せっかく封印してたのにね」

「――っ、――ぁ」


 全く身動きの取れない男は、呼吸の取れない生き物が喘ぐように必死に声を上げた。

 舞台で見れば華やかな和傘も、今の状況では煙管以上の凶器にしか見えないせいだ。


「……まったく。あなたのような下賎な男がキヨウに。ひいてはウチの傘下に居るなんて。とてもキリュウ様(・・・・・)にお見せできたものじゃないわ」


 女が放った言葉で、痙攣していた身体の震えがビクリと硬直したように止まる。

 大きく開かれた目を、ゆっくりと女の方へ向けた。


 ――ここでようやく、男が女の正体を察したのだ。


「は……く…………かっ」


 声にならない声で途切れ途切れに呟いた。


「悶えなさい」


 黒塗り下駄の高歯が、男の鳩尾に突き刺さった。


「ごふっ――!」


 女のステータスは一体どれだけなのか、その状態でクルクルと傘を回すだけで、見る見る間に男のHPバーが減少していく。

 最後に、傘の柄で男の顔を打ち付けると、男の体力は真っ黒になり、ポリゴン化した肉体がセーブポイントに向けて飛んでいった。


「……せっかく久しぶりにいい気分に浸っていたっていうのにね。台無しだわ」


 愚痴を零しながら傘を不可視化する。

 むしろ、これはこれでいい憂さ晴らしになったのかもしれない。


 再び座り込む気にもなれず、高下駄の先を表通りへと向ける。


「…………あら?」


 女がそんな疑問符を口にしたのは、ちょうど、裏路地を横切っていく二人組を目にしたからだ。

 普段ならさして気にも掛けないだろうが、場所が場所だけに何とも珍しい。

 そして、場所だけではなくその取り合わせも妙だった。


「楓柳の兵士と――」


 そう。

 ひとりは楓柳の兵だ。月組の正式な支給装備を身に着けているので間違いようがない。

 今は、雪組の指示で動いているのだろう。

 各組長や副長を除けば統制を受けているはずだった。


「……あの子は?」


 歩幅に合わせて揺れるちょんまげのような頭髪が可愛らしい、若葉マークの付いた子どもだった。

 服装からも楓柳の関係者には見えない。

 随分と変わったペアだ。

 彼らは、遠目に眺めるこちらに全く気が付いていないようでそのまま通り過ぎようとしている。


「これは……」


 ――彼の匂い(・・・・)を感じる。


 脳に訴えかける直感に対し、女の行動は迅速だった。




2015/2/19

後半部分を書き直しました。


(↓ここから過去↓)

プレイヤーキャラクターに悲鳴を上げさせると、

「ヴァーチャルなのに痛いのかな?」

と感じますけど……再現度の高さゆえのショックによる反射だと思われます。

ガンシューで身体ごと避けちゃったり、レーシングで身体ごとハンドル切っちゃったりみたいな(それは違う?)

率直なお話では、微妙に痛覚はあります。

完全にキャンセルしてしまうと触覚まで失われてしまうからです。

物を握った感触や歩いた時の足の感触、肩を叩いて呼ばれた時の感触など。

それに背中から狙撃され続けてるのに死ぬまで気が付かないとか、とても不便ですよね。

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