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氷血の皇帝は俺の料理を手放せない ~追放された料理人ですが、幼い日に救った少女が皇帝になっていて離してくれません~   作者: ジモンヌ
第5章 異端の料理人と、名前を失った聖女

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第70話 一人ではなかった

 祈らない朝の記録は、昼までに七枚になった。


 悪化した患者は、いなかった。


 全員が治ったわけでもない。


 聖女にしかできない高難度治癒は、二件残った。


「残った二件は、私が」


 セレスティアが言う。


「午後に」


 イレーネが返した。


「食べて、休んでからです」


「でも待っている方が」


「待てる状態だと判断しました」


 言葉が強い。


 けれど、セレスティアは怒らなかった。


「……分かりました」


 それだけで、ラウルが目を伏せた。


 今までなら、予定どおり連れていったのだろう。


◇ ◇ ◇


「なぜ、これまで分けなかった」


 シィルヴィアが尋ねた。


 会議卓にはグレゴリウス、ユリウス、イレーネがいる。


 答えたのはグレゴリウスだった。


「失敗したからです」


 古い記録が出される。


 十数年前。


 大規模災害時、複数の治癒師へ難度の高い治癒を分散。


 連携が崩れ、死者が増えた。


「それ以降、高難度の治癒は聖女へ集中させた」


「治癒師を育てるのではなく?」


「確実な手段が、目の前にあった」


 グレゴリウスはセレスティアを見る。


「私は、この方の力で救われた者を数え切れないほど知っている」


 イレーネが机の端を指で叩く。


「その結果、私たちは補助ばかりになりました」


「実力が足りなかったのではないと?」


「足りません」


 イレーネは即答した。


「使わなければ育たないからです」


 オルガが昨日の分担表を出す。


「なら、訓練と実務を分ける。いきなり聖女の代替をさせるな」


「何から?」


「待てる患者からだ」


 タクミは少し離れた席で聞いていた。


 料理で解く話ではない。


 だから、口を挟まない。


 ただ昼食の時間になると、セレスティアの前へ器を置いた。


 今度は昨日より具のあるスープ。


「午後の前に食べます?」


「はい」


 セレスティアは匙を取る。


 イレーネへ視線を向けた。


「午後の二件」


「はい」


「一件、途中までお願いできますか」


 イレーネの表情が止まる。


「私が無理だと判断したら、代わってください」


「分かりました」


「逆も」


「逆?」


「私が無理をしていたら、止めてください」


 イレーネはしばらく黙った。


「……承知しました」


 セレスティアはまた一匙食べた。


 一人でなくてもよい。


 その事実を、まだ練習している途中だった。


◇ ◇ ◇


 午後、ユリウスが未提出の施設記録を持ってきた。


「もう一つ、皇帝陛下に見ていただきたい場所があります」


「どこだ」


「白い塔の地下です」


 ミアの手が止まる。


 誰も急かさない。


「行く」


 しばらくして、ミア自身が言った。


 白い塔の地下へ続く石段を降りる。


 途中で、細い声が聞こえた。


「次の検査、何番?」


 子どもの声だった。


最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。

今日の一皿はいかがでしたでしょうか。

少しでも楽しんでいただけましたら、ブックマークや評価、感想で応援していただけると、とても励みになります。

また次の一皿で、お会いしましょう。

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