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ローズとソフィア_未来を信じる――高校時代





マヒルは、レンと向かい合って座っている。


彼女は、ローズが押し付けてきたサングラスをしている。


“あなたが、泣いて投げ出さないようにです”


その言葉を思い出す。


相手は、大統領の息子だが、こっちは、外務大臣の娘なんだ。


負けるものか!!!





「そのサングラスは?」レンが言う。


「あんたの目くらまし対策よ」


「はは、それはいいね」


笑ってレンが、コーヒーを飲む。


「そうだな、今日は何を話そうか?」


「なんでもいいわよ」


何を言われても逃げ出さない、覚悟を決めた。





「じゃあ、ローズと何を話したんだい?」


「あいつは……」


「父さん、母さんを信じろって、

 島のみんなを、信じろって」


「確かに昔、あたしの国は、他の国を占領したし、戦争の手助けをしていた

 でもそれだけで、全部を判断しちゃいけない」


「そうか、ローズらしいな」


「どういう意味?」


「ローズは、人間を……人間の未来を信じているからね」


「人間の未来?」


「詳しいことは、直接本人に聞くといい」





「あんたは、どう思ってんのよ」


「僕は、保留さ、判断する材料がそろってない。

 判断する必要もない」


「あんた、つくづく腹黒いわよね」


「まだましなほうだよ」


レンは、コーヒーのカップを置く。





「ところで、君は、十一万人を背負う覚悟はできたのかい?」


ぐっとこぶしを握り締める。


父と母が命がけで、助けてくれた命。

生かされた命。


島で、国で、唯一生き残った命。


それを無駄にしてなるものか。


「覚悟できたわよ」


「それを背負うということは、国の過ちも背負うことだ」


「わかってる……」





「そうか、それならば、もう、きみは立派な国の代表だ……」





それっきり二人は、黙った。


そして、朝食を食べ、ダイニングをあとにした。





――――――――――――――――――





学校のテラスの机の上にティーセット。


マヒル、ローズ、ソフィアの三人が座っている。


「とりあえず、ありがとう」


目をそらしてマヒルが言う。


「いいえ、たいしたことはしておりませんわ」


ローズは、紅茶のカップを持ちながら言う。


マヒルはレンが言っていたことを思い出す。


“ローズは、人間の未来を信じているからね”


「あんたさ、あの腹黒ナルシストが言っていたのだけど

 人間の未来を信じるって何?」


「腹黒が付くようになりましたのね」


ふふっと笑うローズ。


「いいから答えなさいよ」


「そうですわね……」


ローズは、紅茶のカップを置く。





「マヒル、人間は、……、そう、ずっと、ずっと殺し合いをしてきました」


ローズは、少しうつむいた。


「わたくしは、それを見てなんども……なんども失望しました」


彼女は一瞬、目を閉じた。


「あなたのようになにも信じられなくなったこともあります」


マヒルには、彼女の顔が寂しそうに見えた。


「しかし、人間が持っているのは攻撃性だけではない」


ソフィアが抑揚のない声で言う。


「ええ、希望を与えてくれるのも人間なのです」


ローズは、少し微笑んだ。


「そして、変わってきています」


「奴隷制度が普通に存在した時代から、人身売買が罰せられることが常識の時代となった」


ソフィアが言う。


「ええ、戦争を讃える時代から、戦争に反対できる時代までは来ました」


ローズが、遠い場所を見ながらつぶやくように口にする。


「身分差別も同じです。

 生まれた家柄によって、差別されることは、問題視される時代になりました」


ローズはそこで、しばらく黙った。

 

「非常に遅いが改善している」


ソフィアが言い切った。





「きっと、世界中が平和になる時代が来る」 


ローズが、自分に言い聞かせるように語った。


「それは、きっとわたくしたちが生きているときは難しいでしょう」


ローズは、ティーカップに視線を移す。


わずかに間を置いた。


そして言う。




「……それでもきっと、いつかは、世界中の人、全員が笑って暮らせる世界ができる。

 わたくしは、そう信じたいのですわ」





「楽観視しても、悲観してもなにも変わらない。

 改善の可能性を探り、自分ができることをやる」

 

抑揚のない声が言う。


「変化が、瞬時に観察されないこともある。

 しかし、要因をつくれば、いずれそれが表面に現れる」

 

ソフィアはいつものように無表情。


だが、その目に強い光が宿っているようだった。





「なんか、すごいこと言ってるわね」


そんなこと考えたこともない。


途方もない話に、マヒルは、あぜんとする。


それ以上何も言えない。


「あんたたち、いったい何をしようとしているの?」


「それは、あなたに必要なことであれば、分かるときが来ますわ」


「またそれ?」


言いながらも、マヒルはこの二人が単に情報を出し惜しみしているわけではないことを薄々感じていた。


それを理解するには、自分にはまだ、足りないものがある。


「まあ、いいわ」マヒルは言った。





「それにしてもマヒル、いいものを見せていただきました」


「いいもの?」


「はい。今回は、しっかりと拝見いたしました。

 あなた、泣き顔が非常にかわいらしいのですね」

 

「なっ!」


「ねぇソフィア」


ソフィアを見るローズ。


「同意する。その形容詞は適切」 と、ソフィア。


顔は相変わらず無表情。


「ソフィア、あんたまで!」


マヒルは立ち上がる。


顔が熱くなる。


扇子には、


【ギャップ萌え】


の文字。


「今回、理解可能となった」


「変なこと理解してんじゃないわよ!」





―――――――――――――――――





それから、数週間が過ぎた。


「それで、論文解読の方はいかがですの?」ローズが聞く。


「まあまあよ」


マヒルは、大きく息をはいた。


あれからも、マヒルは論文を読み続けていた。


「ソフィア、あんたつくづく天才よね」


ソフィアは、黙ったまま。


「まあ、いいわ」





マヒルはローズの手元を見る。


「それにしても、なんか最近、扇子よりハリセンの頻度が増えていない?」


「人生、勢いとハリセンですわ」


「心理的負担が高まっていると想定する」


ソフィアの抑揚のない声。


「心拍数が高めの時、ハリセンを使う傾向がみられる」


「わたくしの辞書に、プレッシャーという文字はありませんわ」


「どういうこと?」


「もうすぐ、会議が立て続けに予定されている」


「会議?」


「ライアンとの会議。彼はローズに資金提供をしている」


「あの組織の資金提供者?なんか、すごそうね」


「屁理屈上等、かかってきやがれですわ」


扇子には、【現場百回、紅茶は三回!】の文字。


「なにそれ?」


「会議ではなく、現場を重視せよという意味と推定する」


ぶつぶつとつぶやくローズは、いつもの余裕が見られない。


「まあ、そういう訳で行きますわよ」


「なに言ってんの?」


「わたくしのスポンサーがぜひ、あなたにお会いしたいそうですわ」


「え?」




いつもお読みいただき、ありがとうございます。

執筆時間の確保が難しくなったため、本作の更新を一時休止します。

執筆できる環境が整いましたら、更新を再開する予定です。

お待たせして申し訳ありませんが、よろしくお願いいたします。


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