第一話 追放されたので、掘ります
初投稿です。
静かな地下が好きな採掘師のお話です。
よろしくお願いします。
「ケンダ、お前もうパーティ抜けろ」
ダンジョン帰りの酒場で、リーダーのガルドはそう言った。
健田幸道は、ジョッキを置いた。
「……ちなみに、理由を聞いても?」
「簡単だろ。採掘師なんて戦闘できねえ外れ職だからだよ」
茶髪短髪のガルドが腕を組む。
「しかもおっちゃん、すぐ変な場所で立ち止まるし」
「毎回、壁とか床見てるじゃん」
赤髪を後ろで束ねた魔法使いエルナが笑った。
「まあ兄さん悪い人じゃないんだけどな」
銀髪の盗賊ジンが肩をすくめる。
「来月のCランク昇格試験もあるし、足とか止められるとテンポ合わねえんだよな…」
「そういうことだ」
ユキミチは少しだけ考えた。
それから、小さく頷く。
「そうでしたか…わかりました」
「……え?」
「やけにあっさりだな」
「今までありがとうございました」
ユキミチは静かに頭を下げた。
「採掘師なんて拾ってくださったパーティ、今どき珍しいですし」
一瞬、場が止まる。
金髪のプリースト、ミレイだけが不安そうな顔をしていた。
「……でも、ケンダさんがいないと」
「ミレイ」
ガルドが止める。
ミレイは口を閉じた。
けれどユキミチには見えた。
テーブルの下で、彼女がぎゅっと拳を握っているのを。
「じゃあ、皆さんどうかお元気で」
ユキミチは酒場を出た。
夜風が気持ちいい。
街は騒がしかった。
酔っ払い。
客引き。
怒鳴り声。
笑い声。
前の人生でも、こういう音は苦手だった。
身体はほんのすこし若返ったのに、こういうのだけはあまり変わらない。
この地方では珍しい黒髪。
少し伸び気味。
眠そうな目。
ずっと気を張っていた人間の顔。
自分でもそういう顔をしている自覚はある。
「……さて」
少しだけ肩の力が抜けた。
やることは決まっている。
採掘だ。
街外れに、小さな鉱山がある。
灰鳴り鉱山。
昔はそこそこ銀が出たらしい。
今は掘り尽くされた、誰も来ない場所。
【灰鳴り鉱山 立入注意】
地元の冒険者は、ここを枯れ鉱山と呼んでいた。
ユキミチは看板を見上げた。
(原作でも、なんだかんだ枯れてないんだよなここ)
坑道へ入る。
空気が変わった。
人の声が消える。
湿った岩の匂い。
遠くで落ちる水滴。
靴底が小石を踏む音。
肩から、すっと力が抜ける。
「……落ち着くな」
呼吸が深くなる。
左の壁。
右の岩盤。
足元。
風。
全部、自然に入ってくる。
ユキミチは半歩ずれた。
ぱら、と小石が落ちる。
崩落予兆。
採掘師なら普通だ。
少なくとも幸道はそう思っていた。
比較対象が、自分しかいないだけである。
「……あ」
左奥から、冷たい風。
空洞がある。
ユキミチはしゃがみ込み、壁へ触れる。
振動。
硬さ。
反響。
数秒。
「……いるな」
ツルハシを構える。
ゴン。
ゴン。
ゴォン――。
音が変わった。
ユキミチの目が細くなる。
「……いい音だ」
口元が少し緩む。
ゴン。
ゴン。
パシ。
岩が割れた。
銀色の鉱石が顔を出す。
「……銀鉱石?」
しゃがみ込む。
軽く叩く。
コン。
澄んだ音が返る。
「お…?待ってこれは…?」
少し目が開く。
「かなり良くないか……?」
さっきまでの、くたびれた男はどこにもいない。
指で表面を撫でる。
「結晶揃いすぎだろ……」
数秒見つめる。
そして頷いた。
「……掘ります」
三時間後。
カウンターには銀鉱石が複数個。
「なんだこれ」
査定士が固まっていた。
叩く。
眉が動く。
もう一度叩く。
「純度がおかしい」
「え?」
声に反応して、隣のカウンターから一人の受付嬢が顔を出した。
ダークブラウンの髪を後ろで軽くまとめた、丸メガネの女性だ。
ギルド制服を着た、真面目そうな雰囲気の人だった。
丸メガネの奥で、目を大きくしている。
「どこの鉱山だ」
「灰鳴り鉱山です」
「は?」
空気が止まる。
「あそこ枯れ鉱山だろ」
「そう言われてますね」
「誰が掘った」
「僕ですけど」
「にわかには信じられん……」
査定額。
金貨十二枚。
ユキミチは袋を受け取る。
「じゃあまた明日」
「……また行くんですか?」
サラが聞く。
ユキミチは少し考えた。
「今度は、もう少し奥まで行けそうなので」
その時だった。
「どけどけぇぇ!!」
「痛い踏むなって!」
「だから言ったじゃない!」
「毒なんて聞いてねえ!」
ユキミチは少し首を傾げる。
「……騒がしいな」
横へ避ける。
泥まみれの冒険者たちが、ちょうど入れ違いでギルドへ飛び込んでいった。
ユキミチは振り返らない。
ただ歩きながら、小さく呟く。
「街はやっぱり、騒がしいな」
夜風が少し気持ちよかった。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
続きでは、ユキミチがもう少しちゃんと掘ります。




