第2話 小説・外連味のあるケレン君
“創作論の実演”――
俺は、ケレン君が活躍する小説を書いてみた。
異世界ファンタジー。
*
――その少年は、登場からして間違っていた。
ズドォォンッ!!
天から、落ちてきた。
黒い外套をはためかせ、
膝から着地し、
地面を放射状に砕く。
煙。
沈黙。
ざわめき。
そして、顔を上げる。
「――ここが、異世界か」
いや違う。
そこ、
さっきまで普通の森だったし、
落ちてくる理由もないし、
地面も膝より脆くない。
全部――
演出。
そう。
全部演出だ。
「誰だあいつ……」
「わざとだろ今の……」
「いやカッコいいけどさ……」
「母ちゃん、あれ真似していい?」
「やめときな。膝終わるよ」
村人たちの視線が、困惑とともに集まる。
少年はゆっくりと立ち上がる。
名を――ケレンという。
刻の流れに忘れ去られた英雄の息子。
誰も、その名を語らない。
誰も、その戦いを知らない。
◇
だから俺は――
忘れられたくはない。
◇
ケレンは、“そういう存在”だった。
歩けば、無駄に風が巻き起こる。
振り向けば、外套が遅れて翻る。
――すぐじゃない。
そう、少し遅れるのが大事だ。
黙っているだけで、
なぜか背景に雷鳴が走る。
「……天気いいのに雷鳴っておかしくない?」
「気にするな。それがあいつだ」
誰も止められない。
なぜなら―― 本人が一番止まらないからだ。
「フッ……」
何もないところで笑う。
理由はない。
「フフフッ……」
また、笑った。
それが――“主人公”だからだ。
◇
「魔物が出た!」
「逃げろー!!」
村の外れで、叫び声が上がる。
巨大な狼型の魔物が、畑を踏み荒らしていた。
牙。
爪。
血走った目。
普通に危険だ。
噛まれたら痛い。
普通の人間なら、逃げる。
だが――
「ごめん、――待たせたね」
まただ。
今度は横から滑り込んできた。
なんで横から来る!?
しかも、砂煙つきで!?
「いや、いつ来た!?」
「お前、さっきまでいなかったよな!?」
魔物が異物に振り返る。
ケレンは答えない。
ただ――
魔物に向かって歩く。
ゆっくりと。
やたらと、ゆっくりと。
まだ、辿り着かない。
それでも、ゆっくりと。
たまに、ジャンプする。
そして、膝から着地。
完璧だ。
だが、意味はない。
魔物は、まだ遠い。
先に、砂煙が途切れた。
魔物が苛立つ。
待てない。
「グルァァァッ!!」
魔物が飛びかかる。
速い。
普通なら避けられない。
ケレンは――
動かない。
まだ、動かない。
ケレンの肩を、爪がかすめた。
布が裂ける。
血が、わずかに滲む。
「え……?」
村人の一人が息を呑む。
ケレンは、わずかに目を細める。
(……この距離か)
◇
父は、いつも――
もっと容易く終わらせていた。
踏み込む前に。
牙が届く前に。
一瞬で。
あっけなく。
◇
魔物が大きく口を開けた。
そのほんの一瞬だけ、
パチン、と指を鳴らす。
本当に、当たる直前。
「――遅い」
……いや、遅くない。
全然遅くない。
むしろ速い。
次の瞬間――
――ズバァァンッ!!
一閃。
斜めに走る光。
魔物の身体が崩れ落ちた。
「え……?」
「何が起きた……?」
ケレンは剣を振り、血を払う。
そして――
「――危なかったな」
(いや、どこが?)
手の甲で、額の汗をぬぐう。
いや、全然、汗などかいてない。
さらに、ジャンプ――。
膝から着地。
(いや、何で?)
◇
「なあ……」
村人の一人が、少年に恐る恐る聞いた。
「お前……なんでそんな戦い方なんだ?」
ケレンは、少しだけ考えた。
ほんの一瞬だけ。
そして、答える。
「――“魅せる”ためだ」
静寂。
「……は?」
「勝つだけなら、もっと早い。
もっと確実にできる」
ケレンは剣を収める。
「だが、それでは――記憶に残らない」
外套が、風に揺れる。
少し遅れてだ。
「人は、強さではなく――」
ゆっくりと振り返る。
「“物語”を覚える」
◇
その日から。
ケレンは旅に出た。
爆発とともに登場し、
雷鳴とともに歩き、
無駄に間を取り、
無駄に決め台詞を吐き、
外套が、少し遅れて翻る。
それでも――
確実に勝つ。
彼の戦いは、いつも一歩遅い。
だが――
そのギリギリが、
誰よりも“記憶に残る”。
子供が言った。
「あいつみたいになりたい!」
親が言った。
「なるな。危ないから」
老人が言った。
「……でも、忘れんだろうな」
人々は語る。
「あいつは強い」
ではなく、
「あいつは――やっぱカッコいい」
と。
◇
そして今日も。
ズドォォンッ!!
またどこかの村で、
意味もなく、
地面が砕け、
外套が遅れて翻る。
「――ここが、次の舞台か」
ゆっくりと顔を上げる。
――それ、さっきもやったよね?
だが、誰も言わない。
◇
なぜならそれが――
“外連味のあるケレン君”――だからだ。
【了】
――◇――
(深夜・書斎。モニターの光が、やけに白い)
俺「なあ、AI参謀」
AI参謀「はい。
“調子に乗って続きを作りたくなっている顔”を検知しました」
俺「うるせぇな。
第2話のケレン君――ちょっと面白かっただろ」
AI参謀「ええ。
“たまたま”うまくいきましたね」
俺「言い方!」
俺「だけど、第3話……どうしよう?」




