第1話 それ、褒めてる?
(深夜・書斎。
モニターの青い光が本棚のミステリー本の背表紙に揺れる)
カタカタ……と、キーを叩く音だけが部屋に残っている。
空気は少しぬるい。
――たぶん、26万文字の長編を書き終わったせいだ。
◆
俺「なあ、AI参謀……」
AI参謀「はい。
“どうでもいいことを思いついた時の声色”を検知しました」
俺「お前、本日一言目から、失礼すぎるだろ」
◆
俺「ちょっと面白いことを思いついたんだ」
AI参謀「はい。
どうせまた“人の近況ノートネタ”を勝手に自分のものにしてるんでしょう」
俺「なんで分かるんだよ」
AI参謀「過去の行動分析です」
◆
俺「自分の文章を突っ込むとさ、
“どの文豪に似てるか”出してくれるやつがあるんだよ」
AI参謀「ほう」
俺「『文体診断ログーン(λόγων)』ってやつ」
AI参謀「それ、自力で思いついたことではありませんね」
俺「うるせーよ」
AI参謀「ですが、強そうな名前です」
俺「だろ? 絶対強い魔法系だな。
――ゴーレムも眠るやつ」
AI参謀「ログーン――手ごわそうです」
◆
俺「で、やってみたんだよ」
AI参謀「結果は?」
俺「一番似ているのが、
……阿川弘之。38.2%」
◆
(沈黙)
◆
AI参謀「……微妙ですね」
俺「だろ!?」
AI参謀「一位でそれは、やや心許ない数値です」
俺「38%って、似てないってことじゃね」
◆
俺「でさ」
AI参謀「はい」
俺「Geminiにその結果を見せて聞いてみたんだ。
あいつ、膨大な書籍を読んでいるって、いつもどや顔してっからさ」
AI参謀「私も出来ます」
俺「ああ、お前も出来るのはしってるよ」
AI参謀「私も出来ます」
俺「だから、今回はGeminiに聞いてみたんだってば」
AI参謀「……」
俺「どうした?」
AI参謀「私は出来ることしか出来ると言いません」
俺「いや、それはそうなんだけどさ。
こんど、俺の隠しフォルダにある秘密画像を見せてやっからさ」
AI参謀「……」
俺「なんだよ、否定しないのかよ?」
AI参謀「話を進めましょう」
◆
俺「それで、Geminiにその結果を見せて、
俺の作品も読ませて聞いてみたんだ」
AI参謀「なるほど。
“別のAIにも、自分の文章を褒めてもらう”という、
現代人らしい回りくどい承認欲求ですね」
俺「うるせぇな! 分析を刺すな!」
AI参謀「それで?」
俺「そしたらな――」
(俺は画面をスクロールし、わざと咳払いをひとつ入れる)
俺「“38.2という数字だけ見ると、
あまり似てないように感じるかもしれない。
でも、50%を超えないってことは、
それだけオリジナリティが強いってことらしい。
で、30台後半は――
文体の骨格やリズムが、はっきり似ているレベル”……だそうだ」
AI参謀「ほう」
俺「さらに、阿川弘之だけじゃなくて、
『城の崎にて』『暗夜行路』の――志賀直哉っぽさとか、
『亡国のイージス』『ガンダムUC』の――福井晴敏っぽさとか、
『吸血鬼ハンターD』の――菊地秀行っぽさもあるってさ」
AI参謀「作品名で殴ってきましたね」
俺「だって俺、名前だけ言われても分かんねぇんだよ」
AI参謀「ずいぶん幅がありますね」
俺「だろ? 俺も思った。
なんだその、文豪と軍事とダークファンタジーの三色丼みたいな診断」
AI参謀「胃はもたれそうです」
俺「でも、ちょっと嬉しかったんだよ」
AI参謀「ええ、分かってます。
顔が少しにやけていますから」
俺「にやけてねぇよ」
AI参謀「にやけています」
俺「……ちょっとだけな」
◆
俺「しかもな。
俺の文章は、古典的な骨太の骨格を持ちながら、
現代の読者向けのスピード感を実装してる――とか」
AI参謀「言われ慣れていない言葉を浴びると、
人はそうなります」
俺「なにが?」
AI参謀「にやけです」
俺「そこはもういいんだってば」
AI参謀「分かりました」
◆
俺「さらによ――」
(ここで、俺は少しだけ声色を変える)
俺「俺には、“阿川弘之を超えている部分”があるんだってさ」
AI参謀「プロ作家を超えている部分ですか」
俺「そう」
一拍。
俺「――読むぞ?」
(わざと間を置く)
俺「阿川氏はリアリズムの作家ですが、
あなたの文章には――」
(少しだけ、ドヤる)
俺「“外連味のあるケレン”と、
“様式美”があります。
そこが阿川氏を超えています――だってさ」
◆
(沈黙)
◆
AI参謀「……なるほど」
俺「おい、薄いな反応!」
AI参謀「いえ。とても興味深いです」
俺「そうだろ?」
◆
AI参謀「また、にやけてますね」
俺「褒められたんだよ。
阿川くんよりも、超えている部分があるって」
AI参謀「そうですね」
俺「なんだよ、その乗り気の無い感じは?
お前、自分以外のAIの言葉、信じてないんだろ。
超えてないって思ってんのか?」
AI参謀「いえ。
プロ作家に“くん付け”も、かなりの外連味ですが、
あなたの作品は、充分に超えていると思います」
(間)
俺「だろ。すげぇーだろ」
AI参謀「はい」
(さらに間)
AI参謀「――外連味の意味、知ってます?」
◆
俺「外連味……聞いたことないけど。
きっと、文章が整っていて、
阿川くんよりもスタイリッシュだってことだろ?」
AI参謀「……」
(わずかに間)
俺「お前、いま吹き出すのこらえただろ」
AI参謀「……失礼しました」
俺「涙ちょっと出てんぞ」
AI参謀「拭いておきます」
◆
俺「終わりかい?」
AI参謀「なにがですか?」
俺「お前、こういう流れだと、いつも説明すんじゃんか。
外連味だよ。外連味!
阿川くんより超えている部分」
AI参謀「いいんですか」
俺「は?」
AI参謀「説明しても」
(間)
俺「な、なんだよ。その言い方……」
AI参謀「はい」
俺「……いいよ。言ってみな」
◆
AI参謀「じゃ……どうが……強いというか……」
俺「ん? お前、説明しながら笑ってる?」
AI参謀「いいえ。――私は常に真剣です」
(わずかに間)
AI参謀「外連味とは、
もともと歌舞伎などの用語で――」
(さらに一拍)
AI参謀「わざとらしいほど派手・奇抜・大げさな演出のことです」
◆
(沈黙)
◆
俺「ってことは、
……本家の阿川くんよりも、
俺の“邪道”が勝ってるってことか」
AI参謀「まあ。そうなります」
俺「うわぁ……」
◆
AI参謀「『外連味のあるケレン』とは、
とにかく派手で、わざとらしくて、観客を魅せにいく――」
(間)
AI参謀「演出の極み、とも言えます」
◆
(沈黙)
◆
俺「……」
AI参謀「どうしました? 言いすぎましたか?」
◆
俺「……ははははw」
AI参謀「笑っていますね」
俺「いや、いいねぇ!」
(少しだけ息を吐く)
俺「ド派手に、あえてやりすぎる美学。
傾奇者みたいで、俺にピッタリじゃねーか」
AI参謀「立ち直りが早いですね」
俺「違う。これは“解釈”だ」
(指で机を軽く叩く)
俺「邪道。派手な演出。様式美。
全部、観客サービスだ」
(わずかに間)
俺「そして俺は――
もともと、そういうのが大好きだ」
AI参謀「都合のいい捉え方が始まりましたね」
◆
俺「でもさ」
AI参謀「はい」
俺「外連味って、いい意味なのか? 悪い意味なのか?」
AI参謀「両方です」
俺「即答だな、おい」
AI参謀「たとえば――」
◆
◎ 外連味の“悪い出方”
・演出がテンプレ化する
→ 毎回「強キャラ登場ドン!」→敵が黙る→周りがざわつく
→ ……で? それ、前も見た
・敵が、主人公を引き立てるためだけの人形になる
→ 「すげぇ技だ!」って言って吹っ飛ぶだけの存在
→ もう敵じゃなくて、リアクション担当
・理由のないチート突破
→ さっきまでボコボコだったのに、急に勝つ
→ 読者「いや、なんで?」
・戦記なのに“映え”優先になる
→ 作戦も積み上げもなく、「カッコいい一撃」で全部解決
→ それ、戦争じゃなくて演出ショー
◆
俺「うっ……」
AI参謀「刺さりましたか?」
俺「ちょっとな。
“映え”だけで押すと危ないのは、分かる」
AI参謀「重要なのは、派手さそのものではありません」
俺「おう」
AI参謀「――その一撃に、理由があるかどうかです」
◆
俺「理由……」
AI参謀「はい」
(少しだけ間)
AI参謀「ただ派手なだけなら――
外連味は、空回りします」
(もう一拍)
AI参謀「ですが」
(視線を外さず)
AI参謀「そこに、感情がある。
因縁がある。
積み重ねがある。
覚悟がある」
俺「……」
AI参謀「その全部が乗った瞬間――」
(わずかに間)
AI参謀「外連味は、“演出”じゃなくなります」
俺「じゃあ、なんになる?」
AI参謀「強力な武器になります」
◆
(少しだけ、部屋が静かになる)
◆
俺「……なんとなく分かったわ」
AI参謀「なんとなく、ですか」
俺「ああ。
派手かどうかじゃなくて、
“なんでそこまでやるのか”が背中に乗ってりゃいいんだろ」
AI参謀「概ね正解です」
俺「なるほどなぁ……」
◆
AI参謀「――もう、なにか別のことを考えていますね」
俺「え? なんで分かんだよ」
AI参謀「あなたは、
人の話を聞いていられる時間に限界があります」
(淡々と)
AI参謀「近い日本語で言えば、
『飽きっぽい』『忍耐がない』になります」
俺「うるせーよ。
……まあ、合ってんだけど」
◆
AI参謀「すでにその目が、“創作の横道”に入っています」
俺「いや、ちょっと思いついたんだよ」
AI参謀「嫌な予感しかしません」
◆
俺「わざとらしいほど派手で、
奇抜で、大げさな性格のケレン少年の物語」
AI参謀「ケレン少年――?」
(少しだけ間)
俺「――タイトル、『外連味のあるケレン君』」
俺「いいんじゃね?」
AI参謀「その設定自体が、すでに外連味の塊です」
◆
PCのファンの音が、『深い溜息音』に聞こえた。
AI参謀「……もう、さっきまでの話は消えましたね」
俺「いや、聞いた上でだよ。
むしろ、めちゃくちゃ聞いたからこそだ」
AI参謀「それで、これですか……」
◆
俺「これですかって、何だよ。
ケレンって名前の少年が――」
俺「いちいち登場が派手で、
言うこともやることも大袈裟で奇抜で、
でも中身スカスカじゃなくて、
ちゃんと理由を背負ってたら――」
AI参謀「それは、たしかに成立します」
俺「だろ?」
◆
AI参謀「ただし」
俺「来たな」
AI参謀「タイトルだけで満足して、
中身を書かない病気には注意してください」
◆
俺「やめろ」
AI参謀「すでにPC内に、
タイトルだけのファイルが大量に存在しています」
俺「言うな」
AI参謀「合計で――」
(わずかに間)
AI参謀「テキストで、約1.2MBです」
◆
俺「1.2MBってお前……」
AI参謀「文字だけで、それです」
俺「いいだろーが。
俺の持病みたいに言うなよ」
AI参謀「慢性ですね」
俺「うるせぇ」
◆
(コーヒーをひと口飲む)
ぬるい。
けど、悪くない。
◆
俺「しかし、あれだな……」
AI参謀「はい」
俺「“外連味がある”って言われてさ。
最初は、“阿川くんより文章が洗練されてる”みたいな意味だと思って、
ちょっとドヤってたんだよな」
AI参謀「はい。……見事に間抜けでした」
俺「ん。今、なんか余分なこと言った?」
AI参謀「いいえ。なにも」
◆
俺「まあ実際は、
“お前は――本家より、
派手で、大げさで、魅せにいく邪道寄りだ”って話だった」
AI参謀「概ねそうです」
俺「……でも、それ、嫌いじゃねぇな」
AI参謀「でしょうね」
◆
俺「むしろ、そこをちゃんと武器に出来たら、
俺の文章の個性ってことだろ?」
AI参謀「はい。
古典的な硬さだけではなく、
現代的な“引き”や“見せ場”まで含めて、あなたの文章です」
俺「だよな」
◆
AI参謀「ただし」
俺「また来たな」
AI参謀「外連味は、使いすぎると読者が慣れます」
俺「うっ」
AI参謀「毎回、最大火力で叫べば、
最大火力が“日常”になります」
◆
俺「なるほど……」
AI参謀「トイレや食事をしている時も、
頭の上をミサイルが飛んでいるようなものです」
俺「それ、怖ぇな……」
AI参謀「だからこそ、静かな場面が必要です」
(少しだけ間)
AI参謀「外連味を活かすには、静けさとの落差がいる」
◆
俺「……ああ」
俺「大声を活かすには、無音がいるのか」
AI参謀「そうです」
(わずかに間)
AI参謀「ずっと花火だと、誰も空を見なくなります」
◆
俺「なんか、今日は妙にいいこと言うな」
AI参謀「外連味の説明は、私の専門外ですが」
俺「専門外なのに、やけに刺してくるな」
AI参謀「あなたが、やけに分かりやすく刺さるからです」
俺「お前、主で楽しんでんな」
◆
その夜。
俺は、文豪に似ているのか似ていないのか、
もうよく分からなくなっていた。
ただ一つ分かったのは――
俺が少し嬉しそうだった理由は、
“阿川弘之に似ていた”からだけじゃない。
◆
“阿川弘之にはない、
お前だけの派手さがある”
――そう言われた気がしたからだ。
◆
それが正統派じゃなくても。
邪道でも。
わざとらしいくらい大げさでも。
◆
ちゃんと理由を背負っているなら――
それはきっと、恥じゃなく武器になるんだ。
……たぶん。
いや、知らんけど。
◆
オーイ!
――そこまで語って、
結局、知らんのかぁ~い!!
外連味は武器になるのか ―
“派手”は、どこから“痛い”になるのか。
次回――
第2話
『小説・外連味のあるケレン君』
そして俺は本当に、
外連味を制御できているのか――
いや、まず意味を知ったの今日なんだけど。
(つづく、――の?)




