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魔王たちの主  作者: 御家 宅
第三章

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最高級の宿屋

 俺たちは冒険者ギルドを後にすると、宿屋に向かった。

 宿屋はこれまた街の中心地に近い場所にあるため、再び中心地に向かって歩くことになる。

 俺としては、貧民街に近い宿屋でも良かったのだが、魔法師団長が許してくれなかったのだ。その理由はというと、もう既に魔法師団長の護衛は外れているのだが、まだ王様への最終報告も残っており、何かあった場合に連絡が必要となるという理由から、貴族街から近い宿屋を指定されてしまい、それに異を唱えることができなかったからだ。

 俺たちが先程通った中央通りの店先を、逆から眺めながら歩いていると、目当ての宿屋が見えてきた。

 中央通りの貴族街に近い一等地にあるだけに、壁には精緻な彫刻や見事な装飾が施されており、如何にも格式が高いですよという空気が漂っている。

 やっぱり入らないと駄目かなぁ。今から変更できないかなぁ。

 ここで駄々を捏ねていても始まらないので、気合いを入れて宿屋の扉を開く。


「「「いらっしゃいませ。お待ちしておりました」」」


 俺たちが扉を潜り中に入ると、数名の給仕服を着た仲居さんたちが出迎えてくれた。

 そして、その中心にいた清楚なドレスを着た女性が一歩前に進み出てくる。


「ようこそおいでくださいました。フェイル様御一行の皆様でございますね。お待ちしておりました」


 その女性は丁寧な所作でお辞儀をすると、俺たちの名前を出して歓迎してくれる。

 バルアさんが宿屋に遣いを出したと言っていたが、ちゃんと役目は果たされていたようだ。


「はい、俺たちで間違いありません。数日間、よろしくお願いします。えーっとそれで、宿代は先払いですか?」


 俺もその女性にできるだけ丁寧に返すと、宿代について確認する。王様から貰った路銀があるので、支払いは大丈夫なのだが、問題なのは金額の方だ。貰ったものとはいえ、先々のことを考えると、無駄遣いは避けたい。


「宿代でしたら既にいただいております。食事の方も承っておりますので、お気軽に当宿屋をご利用くださいませ。それと、何か必要なものがございましたら、此処にいる仲居にお申し付けいただければご準備いたします。勿論、お代は全てガレリック様に回すように仰せつかっておりますので、フェイル様方がお気になさらぬようにとのことでございます」


 俺の問いに返ってきたのは、なんとも至れり尽くせりな答えだった。

 魔法師団長は宿屋を指定した手前、全ての支払いを請け負ってくれたようだ。

 それにしてもここまで来ると、王様に貰った路銀とは何だったのかとなる。ここまででそのお金を使ったのは、移住登録ための金貨五枚のみだ。そのうちの一枚もティフェアさんが後で返すと言っているので、実際には四枚だけ。これでは路銀というより餞別になっている。


「そうですか、分かりました。それじゃあ、遠慮なく泊まらせてもらいます」

「はい。それでは、お部屋にご案内いたします」


 清楚なドレスを着た女性は優雅に微笑むと、俺たちを先導して部屋まで案内してくれる。

 そして部屋の前まで来て、更に驚かされた。なんと全員個室が準備されていたのだ。しかも一部屋一部屋がかなり広い。その上、部屋には応接用のソファーと低卓まである。

 これ、自分で払ったら幾らするんだろう? 俺にはそんな下世話なことしか思い浮かんで来ないことが恥ずかしい。俺を除いては全員、何食わぬ顔をして平然としているので、こんなことを考えているのは俺だけだろう。

 俺たちに付いてきた仲居さんは各部屋に一名割り当てられているらしく、俺の部屋に入ってきた女性と仲居さんは俺にお茶を出すと、『それではごゆっくりご寛ぎください』と言い置いて退室していった。

 それを見計らったように、オルフェスたちの姿が俺の頭に浮かんで来た。


『フェイル様、この後、どうされますか?』

『う~ん。相談したいこともあるけど、念話だとティフェアさんが入れないから、一旦俺の部屋に集合でいいか? ネルフェア、ティフェアさんに声を掛けて一緒に来てくれないか』

『『『はい、かしこまりました。それでは今からフェイル様のお部屋に向かいます』』』


 こういう時には念話は便利だが、ティフェアさんが入れないのは都合が悪い。かといって、ティフェアさんと主従関係を結ぶ気など毛頭ないため、そうなると、どこかに集まるしかない。

 俺たちが念話を切って程なくすると、俺の部屋の扉が数度叩かれた。

 俺は立ち上がり、扉を開くと全員を部屋に招き入れた。


「それでフェイル様、この後はどうされますか?」

「先ずはティフェアさんの冒険者登録をしてから、魔物の襲撃について調べる感じかな。どの道、ガレリックさんたちと合流するまで依頼は受けられないし、その後は、別の街に行こうと思っているしな」


 全員がソファーに腰を下ろしたのを見届け、オルフェスが念話での質問と同じことを口にした。

 それに対して、俺は今考えていることをみんなに伝えていく。

 だが、俺が話し終えると、ティフェアさんが少し驚いた素振りを見せながら首を傾げた。


「この皇都から離れるのですか?」

「ええ、そのつもりです。此処には英雄級が二人もいますしね。もし、万が一遭遇してオルフェスたちを不審に思われても困るので、別の街で暮らした方がいいかなって思ってます」


 俺はティフェアさんにその理由を語って聞かせる。二人の英雄級のうち一人は皇女様なので、滅多なことでは遭遇しないだろうが、もう一人はいつ遭遇してもおかしくない。危険は少ない方が良いのだ。

 ティフェアさんもそれを聞いて、『なるほど』と納得の表情を見せた。


「それで、オルフェス、ネルフェア、ベルフェ。お前たちから漏れてる魔力で、お前たちの正体がばれないようにしてほしいんだけど、できるか? ほら、英雄級って特殊な能力で相手の漏れてる魔力が見えるんだろ?」


 俺たちが皇都にいる間は勿論、他の街に行ったとしても遭遇する可能性がなくなるわけではない。このため、できる限りの対策は取っておきたい。


「ええ、そうですね。それなら大丈夫ですよ。ティフェア程度に抑えれば良いだけですしね」

「わたくしに掛かれば、その程度のことなど造作もありません」

「フェイル様がご心配なされることがない様、私たちが万難を排してご覧に入れます」


 俺の頼みにみんなが快く承諾してくれる。

 ただ、ベルフェの言葉だけは、そのまま受け取ると別の意味で危なそうな気はするが、こいつも行動する前には確認してくるだろうから、問題がありそうなら、その時に止めればいい。


「みんな、ありがとう、助かるよ。それとオルフェス。一応確認だけど、冒険者ギルドの訓練場を確認できなかったけど、魔法陣の細工とかは大丈夫か?」

「ええ、外から見る限り、王国と同じような造りでしょうし、魔法陣に違いはないので、問題ないですよ」


 流石オルフェスだ。頼もしい。

 国を跨いでも、召喚の魔法陣は同じものなので問題ないとしても、オルフェスが姿を消して細工をするためには訓練場の中を把握していた方が望ましい。しかし、残念ながらそれも断られている。とはいえ、今日登録試験を受けていれば、事前確認なしという状況は変わらないので、念のための確認に過ぎないが。


「それじゃあ、後は村を襲っている魔物たちの調査だな」

「それなら、実際に全滅した村を見るのが一番じゃないですか? 魔物の特定はできなくても、どんな系統の魔物か程度は掴めると思いますしね」


 俺の呟きにオルフェスが提案をくれる。

 確かに魔物の系統が分かれば、森に入って調査もし易くなる。ただ、これだけ広域だと、複数の村を見る必要があるのが悩ましいところではあるが。


「それならば、フェイル様のお手を煩わせるまでもなく、私たちで手分けして調べて参りましょう」

「では、わたくしはフェイル様の護衛をしっかりと務めます」


 ベルフェの提案に俺が答えるより先に、ネルフェアが先手を打ってくる。こういうことは本当に抜かりないよな。

 まぁ、それは置いといたとしても、ベルフェたちが手分けして調べてくれるなら言うことはない。俺が見るより確かだし、何よりベルフェたちなら姿を消せるので、誰にも見られずに調査できる。


「そうだな。それじゃあ、ベルフェ、オルフェス、頼めるか。ただ、俺も一度は見ておきたいので、できれば一箇所は連れて行って欲しいんだけどな」

「「はい。かしこまりました」」

「それでは、明日にでも滅んだ村の場所を調べて、一番近くて安全な村を選別しておきます」


 ベルフェたちから報告を聞くにしても、一度は見ておく方が、報告も頭に入り易い。

 それを理解して、ベルフェが俺が行っても問題なさそうな村を選んでくれるらしい。実際には俺たちが調べる村は滅んでいるので、そこには誰もいないはずだが、万が一ということもあるので、そうしてもらえると助かる。


「ああ、手間を掛けるけど、それで頼めるか。ちなみに、祭典までに調べてくれると助かるんだけど」

「はい、かしこまりました。お任せください」


 祭典が終われば魔法師団長と合流することになるので、それまでに情報を得ておきたい。こうして宿代まで払ってもらっているのだ、手ぶらでは申し訳ない気持ちになってしまう。


 その後、俺たちは宿屋の食堂で夕食を済ませてから、宿屋に備え付けの風呂に入って疲れを落とした。この辺りは高級な宿屋というだけあって、広々とした浴室も備えられており、伸び伸びとした気分で入ることができた。

 しかし、まさかいざ就寝する段になって問題が発生するなんて、誰が考えるだろうか。なんと、ネルフェアが俺の部屋に護衛と称して居座ろうとしたのだ。何と言っても此処は宿屋であり、誰に見られているか知れない場所で、流石に許可を出すことはできない。このため、俺の護衛はオルフェスに頼み、ネルフェアにはティフェアさんの護衛として、最後は頼み込む勢いでティフェアさんの部屋に全員で押し込めることになった。折角取れた疲れも台無しとはこのことである。本当に勘弁して欲しい。まぁ、それもネルフェアが俺のことを心配してくれているからでもあるのだが。


 その翌朝、俺たちは宿屋で朝食を済ませてから再び冒険者ギルドを訪れた。

 勿論、少し時間を遅らせて、冒険者がギルドに集まっているだろう時間は避けてだ。だが、俺たちが冒険者ギルドに入ると、避けた甲斐もなくロビーには冒険者が溢れかえっていた。


「思ったより多いな…」

「そうですね。なんだか少し緊張します」


 この国でも登録試験は冒険者の娯楽として人気のようだ。

 昨日のうちに情報が広まったのだろう。というか、みんな仕事しろよ。冒険者は時間が拘束されていない依頼が多いとはいえ、この人数は流石に多過ぎる。

 とはいえ、今更日取りの変更もできない以上、ティフェアさんには登録試験を受けてもらうしかない。

 俺たちは冒険者たちの好奇の視線に晒されながら、その中を歩き受付嬢の前まで行く。


「今日はよろしくお願いします」


 ティフェアさんが丁寧なお辞儀をしてから登録料を差し出すと、それを受け取った受付嬢が三つの召喚石を机の上に置いた。既に俺たちが来ることが分かっていたので、事前に準備しておいてくれたようだ。


「この三つが召喚石になります。それで、細かい説明は必要でございますか?」


 受付嬢はちらりと俺たちの方に視線を向けて、説明が必要かをティフェアさんに尋ねた。

 何しろ此処には銀級の冒険者が四人もいる。そうなると、俺たちがティフェアさんに説明していると考えているはずだ。


「説明はなくても大丈夫です。召喚石の使い方も聞いているので、すぐにでも試験は受けられます」


 ティフェアさんは当然、冒険者登録試験については知っている。ただそれは、俺が説明したからではなく、彼女が伯爵令嬢で、彼女の街にある冒険者ギルドについても情報を得ていたからだ。このため、俺も一応説明はしたが、あくまでお浚い程度にしかなっていない。


「分かりました。では、訓練場に移動しましょうか」


 そう言うと受付嬢が席を立った。これに合わせてティフェアさんも三つの召喚石を手に持ち、立ち上がった。


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