第九二話 東屋の下で
五条、鷲頭の二人は、足利の異変の真相を知るべく厚東を訪ねる。
学園にて五条は、教員に直談判をしていた。それは、天草で自分達を襲ってきた足利翔太になにが起こっていたのか、情報を開示して欲しいという内容であった。
五条は鷲頭より、足利が強きリーダー思想という選民思想に傾倒していることを聞いていたが、その思想の詳細が分からず、足利の身になにが起こっているのかを理解したかったのだ。
しかし教師は、固く口を閉ざした。というよりも、強きリーダー思想などという思想について、本当になにも知らないといった様相だった。また、子供が考えた様な名前だと、一蹴された。
それらの反応から、そこに嘘があるとは、少なくとも五条や鷲頭の神通力では思えなかった。
「衣世梨、本当に教師連中はなにも知らないようね」
「本当やね……杏奈。足利君は上手く学園に溶け込んどって、普通に過ごしてたってことよね……」
「あるいは、足利を初め生徒にちゃんと目を配ってない……ってことかしらね。少なくとも教師の神通力の方が私達を上回ってて、嘘を見抜かれない様に隠すことも出来るかもしれないし」
「そうかも知れんけど……とにかくどうしよう。そうだ、陽菜ちゃんに聞いてみよう……!」
二人は、すぐさま厚東に連絡をとった。厚東はその時、校庭内にある東屋にて、巳代と二人で過ごしていた。
「お待たせ陽菜ちゃん! あれ、有馬君も一緒やったん!」
「うん、丁度足利に関して話してたんだよ」
厚東の話しに、五条は驚いた。聡そうな巳代もまた同じ考えであったことに、やはり足利がキーパーソンなのだと、自信を持てたからだ。
「メリクリ、五条衣世梨」
「それ昨日だよ、あけおめ有馬君」
「六日後だぞ?」
特に中身のない言葉のキャッチボールをしつつ、四人で東屋の円卓を囲った。間もなくして、厚東が足利について話し始めた。
「足利君はね、うちと同じく、潰えた名家の輝きを再興しようとしていた仲間だった。彼の直系は、室町時代の足利直冬で、既に断絶してる。でもその子供は、直冬の父である足利尊氏の子供として、養子になった。そして足利家分家として、少しづつ本拠地を離れながら、日本の端である九州にまで流れ着いた。直冬が九州探題を務めたからこの地が選ばれたのでしょうね」
どういうことか分からなそうな顔をしている五条の為に、鷲頭が補足をした。
「つまり足利翔太の血筋は尊氏の弟の直系だけど、今の家系は足利宗家とは比べ物にならない程落ちぶれた、そういうことよね?」
「うん、本当、厚東家と同じ。そして今、この九州は乱世の様相を呈している。うち達は少しづつ乱れていくこの九州で、自らの家を再び紛うことなき名家にしようと、武士として、戦うつもりだった」
「確かにあんた、冬季演習での働きは目を見張るものがあるものね」
冬季演習という言葉に、巳代は食いついた。聞いたことも無い言葉だったからだ。
「ちょっと待て、冬季演習ってなんだ?」
「あれ、知らんと? 一月以降の冬季に、分校全体で戦を想定した大規模演習をするんよ。東京ではやっとらんと?」
「あぁ、やってねぇ。初耳だ……。それはなにを目的としてるんだ?」
「そりゃあ、決まっとーやん。惟神学園は怪異や国難を招く海外の霊的存在から、帝を守る為に存在しとるっていう体裁があるけん、有事の際に備えてるってことだよ。知っとるもんと思いよったけど、なんで東京じゃやっとらんとやか?」
「考えられるのは……戦後以降の東京は結界が強いから、そもそも霊的な存在が入ってき辛いという理由だが……日本全域では難しいのだろうか……」
足利尊氏(生:1305年8月18日〜没:1358年6月7日)……室町幕府初代征夷大将軍。後醍醐帝と共に建武の新政を敷き、後に室町幕府を開いた。
足利直冬(生:1327年〜没:1387年8月16日)……足利尊氏の落胤で、渋川氏台頭以前に九州探題を務めた。幼名は新熊野。




