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【完結済】神通力上昇中〜惟神学園二年、皇弥勒  作者: 乘越唯響


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第九一話 抗争後の聖夜

 抗争で血が流れた後のクリスマス。弥勒は思い詰め、小野は仕事に追われて家族と過ごす時間を失っていた。

 修文三十年が終わる頃である、十二月二五日クリスマス。福岡の街は未だに日常が戻ったとはいえない様相だった。銃弾の跡や、割れた窓ガラス、急ブレーキによって付けられたアスファルト上のタイヤ痕といった、抗争の傷跡が残っていたのだ。抗争によって理不尽に命を奪われた警察官や一般人が連日報道され、まるでお通夜の様なクリスマスとなった。

 弥勒はこの時、巳代と渋川の三人で、皇邸に集まっていた。

「僕は今年のクリスマスは、木に装飾をして、ブッシュ・ド・ノエルを食べてると思ってた。でも違ってた。ずっと家に籠って、襲撃を警戒してるなんて」

「大丈夫だよ、弥勒君。私達が側いるわ。分厚い壁も、入口を見張る護衛もいるのよ? 大丈夫だよ」

「ありがとう渋川さん……。あの忌々しいキリシタンのせいで、クリスマスが楽しい聖夜ではなくなってしまった。キリスト教のことを学んで、この日が開祖である神の子イエス・キリストの生まれた日であることを知ったんだ。キリスト教は争いばかりを招く宗教だということも学んだよ。大友に与して生徒がいる中で僕達を襲わせるなんて……嫌いになりそうだ……素敵な夜な筈なのに」

 弥勒の嘆きを、巳代は鼻で笑った。

「神通力が回復してから嘆きばかりだな。考え過ぎの癖の次は、不満タラタラか。神なんて人の解釈でどんな祭り上げ方もされる存在なんだから、悪いのはイエス・キリストでも、神でもねぇよ。それを理由に争ってきた人間だ。だから……」

「だから……?」

「クリスマスは関係ないだろう? 今日くらいは甘いものを食べて……シャキッとしろよ」

 巳代は叱咤激励をしようとしたが、弥勒の重い腰を上げさせるのは当たりが強い言葉では無い様な気がして、歯切れが悪くなってしまった。

 渋川は、こういう時、どうしたら良いのかはなんとなく分かっていた。いつも不満タラタラだった秋月の側で、彼女をあやしていたからだ。

 答えは一つ、なにもしないということだ。ただ不満を聞き、痛みがあればそれに寄り添い、側にいる。助言や叱咤激励、話のすり替えなど、そういう小細工は結局見抜かれて、相手の不信感を買うだけなのだ。

 だから渋川は、買ってきたブッシュ・ド・ノエルをしれっと箱から取り出し、お皿を用意した。

「幸い友達や家族、分校の人は誰も傷ついてないのだし、私はケーキを食べても良いと思うわ。そして私は、食べたい。弥勒君、忘れたの? 自ずから然りだよ。甘いものを食べたい時は、食べるしかないわ」

 巳代も渋川に続いて席に着き、フォークを取った。まるで流木の様なそのケーキを取り分け、食べようとした。

 弥勒は、今この瞬間だけは、大友修造のことを忘れるべきだと思った。休み楽しむことを忘れて勝手に消耗すれば、それこそ大友の思う壷だと思ったのだ。

 三人で円卓を囲い、中心に置かれたキャンドルに灯された炎が、揺らいていた。


 その頃、小野佳奈美は警察署の休憩室で、コンビニで購入した二つ入りのショートケーキを食べていた。

 彼女は、旦那の慶太けいたと電話していた。慶太けいた専業主夫せんぎょうしゅふで、一人娘の綾萌あやめと二人で、ホールケーキを食べていた。

「ちゃんと二二時には眠る様に伝えておいてね」

「分かってるよ。お前こそちゃんと寝れてるのか、佳奈美」

「可能な限りはね。けど、私のことはいいの。手打ち式の後、流血はなくなった。でもまだ諸悪の根源は残っているから、まだ休まらないわ」

「そうか……ちゃんと食べれてるか? ケーキは食事には入らないんだからな」

 小野は呆れ笑いをしながら「もう……分かってるわ」と告げ、ケーキを一口食べた。

綾萌あやめはちゃんと食べてる? 今なにをしてるのかしら?」

「今、アイドルのクリスマス特番を観てるよ。話しかけたら邪魔するなって怒られちゃったよ」

「あの子ったら……でも元気そうでよかった。はぁ……あと数年で……諸悪の根源を断てる様な気がしてるの。星の屑財団……必ず私が……」

「佳奈美、肩の力を抜けよ。食事中まで仕事に悩むことないよ。あんまり話せない内容もあるだろうし……お前とお兄さんがカルト宗教を憎んでるのは、俺も十分に分かってる。幼少期にカルトのせいで母親が狂って、家族は離散したって話してくれただろう? だから星の屑財団の解体に執念を燃やす理由も分かる。でも……あんまり自分を追い詰めない様にな。今回の抗争だって、お前のせいじゃない」

「そうね……。ありがとう。兄の太一にも今度綾萌の顔を見せて上げて」

「勿論だよ。じゃあ、切るからな」

 小野は最後の一口を頬張り、ゴミを袋に入れた。そして欠伸あくびをしながらも、もうひと頑張りしなければと自らを奮い立たせ、休憩室を出ていった。

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