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とんだ事になりました④

とんだ事になってます。


追加*氷の呪文、変えました。


女王様の胸に輝く黄金の胸飾りからフワリと幻影の様に現れた青銀髪の女性は

女王様と魔王様の前にホログラフィの様に浮かび上がる。


『ゆっ・・・・幽霊??

 いやいや、幽霊だったら明るい所に堂々と現れるはずないよ。

 それに、こんなにクッキリ見える?足もあるし・・・。』


幽霊だったら身体の一部だとか、足が見えないっていうのが私の頭の中の

定番だけど、目を閉じた状態で現れた幽霊もどきの女性は全身で姿を現している。

青く光る銀色の髪が風が吹いている訳でもないのに何故か空中で広がるのは

幽霊あるあるっぽい。

それにしても、目の前に現れ空中で浮かぶ女性はまるで今そこに存在している

かの如く立体的。姿形がはっきりしていても、向う側が透けて見えるっていう

状態じゃなかったら、人間が浮かんでいる様にしか見えないと思う。

だって透けてるけど、手を伸ばせば何だか触れそうなんだもの。


この世界は、ラノベの世界では定番の中世ヨーロッパ時代程度の技術テクノロジー

日本人だった彼女の記憶にある様なバーチャルアイドルを映し出す様な技術テクノロジー

ないはずなのに、目の前のこの幽霊もどきの女性は一体どういう原理で

胸飾りから飛び出てきて空中に浮かび上がった姿を現しているんだろう。


私は魔王様の背中越しにその幽霊もどきの女性をジロジロと観察していて、


『あれっ?』


あるものに目が留まった。


それは、その女性の両方の耳と左手の薬指に、

女王様の冠と胸飾りについている黄金色の石と同じ輝きの石があることに

気が付いたからだ。


『この幽霊もどきの人がつけてる耳飾りと指輪の石って、

 もしかして女王様の冠の石と同じ・・・・・て、どういう事??』


フワフワと浮かぶ女性の左手の薬指と耳元でユラユラと揺れながら煌めく

黄金の石。

どうみても女王様の宝飾品で私が足りないと思っていたものだ。


『なんで?どうして?』


瞳が閉じられた幽霊もどきの女性を見ながら、

私があれこれと頭を回していると、


「これはっ、一体・・・!」


目の前に現れた幽霊もどきを見て発した女王様の驚愕した声と、


「フラクタル オブ エヴァ!!」


フロアの隅にいた筈の兄様が何かを叫ぶ声が重なる様に耳に届いた。


キィィン キィィン


兄様の声が耳に聞こえると、間を置かずして舞踏会ホールに

剣が交わった様な高く澄んだ音が響いたと思った瞬間、

女王様と魔王様の間にキラキラと光り輝く氷のベールの様なものが現れた。


女王様と魔王様の、

というより幽霊もどきと魔王様との間を隔てる様に現れた

その氷のベールを良くみれば、小さな様々な氷の結晶の集まりで、

氷の結晶は透明な花びらの模様を空中で描いて、しかも一つずつ

クルクルと回転をしてる。


「ここは、国王陛下の御前である。

 いかに他国の王であろうとも我が国の王の前での争いは

 控えて頂きたい。」


そう言いながら、いつの間にかフロアの中央にいる私達に歩み寄っていた

リィドルフ兄様は、魔王様の腕を掴んでいた私を自分の背中に隠すと、

魔王様の横に並び立ち女王様に対峙した。


「ここに現れたものは、貴女の仕業か?」


宙に浮かぶ青銀色の髪の女性を見ながら、リィドルフ兄様は女王様に問う。

リィドルフ兄様の身体からひんやりとした冷気が漂ってきて、

私はその空気に身体をブルリと震わせた。


『もしかして、これ兄様の氷魔法?』


兄様の魔法は氷属性。

この綺麗な氷のベールも氷の結晶で出来ているってことは、

兄様が魔法を発動させた作ったものに違いない。

さっき耳に届いた兄様の声は、この魔法を発動させる呪文だったのか。


初めて見たけど、兄様の魔法の氷のベール。

とっても綺麗だけど・・・・・兄様の事。

多分、ただ綺麗なだけのものじゃないはず。


兄様の背中からでも見える氷のベールを見ていると、

様々な花の形を模していた氷の結晶はクルクルと回りながら徐々に形を変え、

気が付けばすべてが同じ結晶の形に変わっていた。

ライトに照らされてキラリと光輝くそれは、まるでミラーのようで


『氷の結晶を鏡みたいにしてビーム発射したりする攻撃魔法だったり?

 まさかね・・・・だって、そうだったら

 氷の結晶すべてが武器で、女王様に銃口向けてる様なものじゃない。

 そんなこと・・・・・でも、待って!あるかも?

 あのアニメでも使われてた太陽光を使った鏡攻撃のミニチュア版

 みたいだもん・・・見た目が!!!』


私になる前の彼女のアニメオタクの記憶の中に、

兄様が作り出した氷の結晶で作られたものと似た形の武器が

頭に浮かんできた。

あれは某ロボットアニメで使われていた武器だったけど、

あのアニメで鏡に当てられたのは太陽の光。

でもこの部屋には太陽の光はない。

あるのは部屋の中を照らすランプの灯り。


『この程度の灯りで、あんなビーム砲が打てる・・・?

 いえ・・・リィドルフ兄様ならやるかも・・・・

 兄様・・・恐ろしい魔法発動させてませんかっ!!』


声に出さずに驚く私とは対照的に、兄様の背中越しに見える女王様は

兄様の氷のベールを見ても特に驚く事もない様子で


「・・・・・そうね、わたくしの国の守り神・・・女神セレスティアよ

 私の身の危険を感じて現れたのかしら・・・」


感情を消した様な作られた笑顔を浮かべながら、自分の目の前に現れた

自国の女神様を見つめている。


『女神セレスティア?この世界って、女神が実在するのっ??』


私は魔王様と兄様の後ろに隠れたまま、こっそりと幽霊もどきを盗み見る。


『女神様って、名前から想像するに美形のイメージがある。

 確かに目の前に浮かぶ女神様は綺麗だなと思った。

 銀色に薄く青色を足した様な青銀髪の不思議な色の髪。

 肌の色は白くて、顔立ちが整っていて、耳が・・・・

 あっ、魔王様みたいに尖ってる。

 長い髪に隠れててわからなかったけど・・・・って事は、

 女神様ってもしかしてエルフ族なのかな??

 でも透けてる身体だからね。この世のものじゃない事は確かだけど。』


私がそんな事を考えていると


「・・・・セレスティア」


魔王様が女神様の名前を口にした。

すると、フワフワ飛んでいただけの幽霊もどきの女神様が突然、

スゥッと魔王様の方へと近寄ってきた。


『女神様が動いたっ!魔王様の声が聞こえたの??』


私が驚きながら近寄ってくる女神様をみていると、女神様は魔王様の前に

張られたリィドルフ兄様の氷のベールに阻まれて魔王様の側に近寄る事が

叶わず、逆に氷のベールに吸い込まれていき、消えていった。

兄様の氷のベールも女神様を吸い込むと同時に霧散した。


『女神様・・・魔王様の声に反応って、なんで?

 セレスティア王国の女神様なんでしょ??

 ん~、良く分からないけど・・・・

 あぁぁ・・・。でも、さすが魔法の国のセレスティアだよ。

 女神様が登場ってスゴイ!リアルアニメの世界だよ!!!

 魔王様に女王様ときて、今度は女神さまっ!!

 夢、幻、二次元の世界?』


さっきまで魔王様の爆発寸前の状態にアワアワしていた私だったけれど、

女神様の登場に一瞬にして心を持っていかれてポカーンと呆けてしまった。

だって、それぐらい女神様の登場は夢みたいだったんだもの。


呆けていた私の耳に


「あれは・・・一体なんだ?」


「一体、何が起こったんだ?」


ダンスフロアの騒めきが一瞬戻る。

ハッとその声に振り返ると、壁際に寄っていた貴族達が

口々に何かを呟きながら驚愕の目で私達を見ている事に気が付いた。


魔王様の発する威圧に床にひざまずいていた貴族達は、

私が魔王様の腕を掴んだ瞬間に何故か身体の自由が利くようになり、

そろそろと立ち上がった様だった。


彼らは立ち上がり、魔王様と女王様の方へ眼を向けた。

するとそこに、突然現れたのが、女王様いわくセレスティア王国の女神様!

とくれば、誰だって何が起きたのかと思うわよ。

間近にいる私だってそうだもの。


でも、女神様が消えた後も魔王様と女王様、それにリィドルフ兄様が加わった

緊張状態は続いてるから、ヒソヒソ声が徐々に鳴りを潜める様に無音になった。

息をひそめて、こちらを伺っていると言ったところだろうか。


「セレスティア王よ。

 我が国王陛下が先程申し上げたとおり、

 我が国は双方の国と事を荒立てるつもりはございません。

 その為の通例の方法に基づき催した今夜の会は、

 ヴァルディア王国ヴィオラ王妃様と王兄殿下の歓待の席です。

 セレスティア王も様々な思いはおありでしょうが、

 今夜は鉾を収めて頂きたい。」


リィドルフ兄様が、左胸に手を当てて頭を下げる。

女王様はリィドルフ兄様に視線を向け、その後、魔王様に視線を向けると


「勿論、今宵の宴がヴァルディアのためという事は分かっています。

 わたくしがこの場において招かざる客だということも。」

 

兄様の後ろでも感じる女王様の威圧プレッシャー感。

魔王様とは違うけれど女王様のこの威圧は半端ない!

初めてその姿を見た時に私の身体が震えて危険信号が鳴り響いたのも、

知らない間に女王様の得体の知れないプレッシャーを感じていたからなのか?


『怖っ・・・美人が怒ると怖いっていうけれど、

 美人が笑顔で怒る姿って、怒り狂った顔以上に恐ろしいわね。

 目の奥が笑ってないのに口元が笑ってるって・・・・

 目を付けられない様に大人しくしておこう・・・』


ただでさえ、一瞬でも女王様の目に入ってしまったのだ。

これ以上、こういう面倒な事に関わり合いにならない様にしなきゃいけないって

私の本能が訴えてる。


私はリィドルフ兄様の背中にピッタリと隠れると


『大人しくして、これ以上女王様の目に留まらない様にしよう。

 あ~、こういう時、隠密スキルとかもっていたら

 【忍びの如く姿を消す術発動!】なんて出来たのに・・・』


なんて馬鹿な事を考えていた。

こういう緊迫した時って、本当にどうでも良いこと考えちゃうよね。

まぁ、そうして心の平穏を作ろうとしているんだろうけど。

女王様は言葉を続けた。


「ですが、私達わたくしたちとも交流のあるこの国に、

 私がいる時と同じくして悪魔公が来られたと聞いて、

 私は居てもたってもいられなかったのです。

 わたくしの国とヴァルディア国との間は貴方もご存じでしょ?

 遥か昔に起きた事であろうと、近しい日に起こった事であろうと

 決してその事実が消える事はないのです。

 王の第一子は王にはなれないと言われていても、ヴァルディア王国における

 第一子は常に強大な力の象徴。

 そして、今のヴァルディア王国におけるその象徴は、貴方、

 アルフレッド・エル・ヴァルディア公である事は周知の事実。

 だから、貴方が私の側にいる限り警戒せずにはいられない。

 旧知のヴィオラ様が、和平を取りなす為にとヴァルディアに嫁がれ

 王妃となられた今とて私の気持ちは変わらない。

 ヴァルディア国が私の国に対しての干渉を止める事がない限り、

 関係も変わることはないでしょう。」


女王様が魔王様の目を見ながら言う。

私は何が理由かは分からないけれど、魔王様の国ヴァルディア王国と

女王様の国セレスティア王国との間に、その国の事情でしか分からない

大きく深い溝がある事を知った。


「ですが・・・・そうね。ここはザルシュ王の治める国。

 私の国ではありません。

 ですから、ザルシュ王の前では、私達の気持ちを表す事は慎み、

 殺して下がりましょう。

 この国に災い(わざわい)が起こらない事を切に望みなら・・・」


女王様はそう言うと、


「ザルシュ王よ。私は部屋に戻ります。」


突然現れた女王様は、去る時も突然で、自分の言いたい事を言った後

女王の威厳を放ちながらヒラリとスカートを翻してきびすを返すと

カツカツカツと靴の足音が響かせながら、黄金の髪を揺らして

女王様が舞踏会会場を後にする。


『女王様って、立ち去る姿も女王様なんだなぁ・・・』


私は、波打つ黄金の髪を揺らす女王様の背中を

リィドルフ兄様の背中から


『威風堂々・・・

 王様っていう立場の人達は、何処にいても国の代表なんだね。

 堂々としてるよ。』


そんな事を妙に感心しながら見送った。

去り際に、女王様が女王様の後ろに立っていた金髪碧眼王子様に


「ラインハルト・・・あの悪魔公の背中に隠れていた女性のこと・・・

 ・・・調べて下さらない。わたくし、とても興味があるわ・・・」


御心みこころのままに・・・」


なんて、女王様が私の事に興味を持った事など露ほどにも知らずに。


女王様が会場から出て姿が見えなくなると、固唾を飲んで見守っていた会場に

喧噪が戻る。

この場に居合わせた貴族達が一体何が起こったのかと、口々に囁き始めたからだ。


パンッ パンッ


その喧噪をかき消す様に突如、手を叩く音がフロアに響く。

その音の元へと視線を向けると、


「陛下の御前である。

 そして今この場は、王妃ヴィオラ様と王兄殿下の歓待の席であることを

 忘れるな!」


王様の隣に立つ父様が、険しい顔でフロアに睨みを聞かせているのが見えた。

王様は、玉座の隣に立つ父様に「よい・・」と言って父様を諫めると、


「前後切断、仕切り直しだ。

 改めてヴィオラ、そしてアルフレッド殿下の歓迎の宴を催すこととする」


そう宣言すると貴族たちは一斉に王様に臣下の令を取り、楽団は音楽を奏で始め

フロアの中央にいた魔王様と兄様がその場を後にして玉座の王様へと歩み始めると

入れ替わる様にして貴族たちがそれぞれのパートナーの手を取りフロアに集まり

音楽に合わせて踊り始め何事もなかったかの様に舞踏会が始まった。

勿論、陰で何を言うのかは分かったものじゃないけれど・・・。


玉座ぎょくざに座る王様の前に魔王様が歩み寄ると、

魔王様が口を開いた。


「ザルシュ王よ。すまない、私のせいで場を荒らしてしまった。」


「いや、お気になされるな、アルフレッド殿。

 セレスティア王が同時に滞在する事になった時から、

 こうなる事は予想の範囲内の出来ていたのだからな。」


王様は隣に立つ父様を見ると、父様も頷き


「この程度の騒ぎで済みましたから、問題はないでしょう」


と言っている。

魔王様は、『そうか・・・』と呟くと目を伏せてた。

さすがに王族。

例え自分が原因だとしても、そう簡単に頭は下げられないんだな。

そんな思いで魔王様の様子を見ていると、

魔王様はリィドルフ兄様の方へ向き直り


「リィドルフ卿よ。貴方も巻き込んでしまったな・・・」


リィドルフ兄様に対しても軽く目を伏せる。


王様に対してならば分かるけれど

他国とは言えど自分よりも立場的に下位の存在に対して

謝罪の意を表すのは滅多にある事ではない。

魔王様なりに、責任を感じてるのかな?

と思いながら兄様の顔を見上げると、兄様は魔王様の目を見ながら


「いえ、王兄殿下、お気になさらずとも結構です。

 この度のことは私の大切な妹を、貴方と女王との争い事に

 巻き込みたくない、それだけの理由で行ったことです。

 謝罪の言葉を述べられる理由などありません」


おぉっ。兄様がちょっと嫌味が入った言葉を返したっ!

私が驚きつつみていると、今度はリィドルフ兄様の隣に立っていた私に

魔王様が視線を向けて、


「・・・・・確かに。アードルベルグ嬢を驚かせてしまったな」


と魔王様は言った。

魔王様が私を見つめる黒い瞳と私はバッチリ目線を合わせてしまい


「えっ!

 いえいえ、王兄殿下が頭を下げられることなど何一つありませんよ。

 大丈夫です。全然平気ですよ!

 そうですとも。今回の事は女王様の方が良くないと私は思います。

 誰だって、いきなりあんなに酷いことを言われたら怒りますよ。

 私だって絶対!きっと、はい!間違いないですっ!」


とフンスと鼻息荒く思いつく限りの言葉を紡ぐと、


「アリィシア・・・・言葉使い・・・」


リィドルフ兄様の『いつもの調子になってるぞ』という意味の含まったの声に

私は魔王様に対して言うべき言葉遣いではない発言をしていた事に

ハッと我に返り


「あっ・・・えっと・・そう思います・・・です。」


とシドロモドロ、アワアワしながら言葉尻だけを言い直した。

私の慌てた様子を見ていた魔王様はフッと表情を崩したように目を閉じると


「・・・・そうか、わかった。」


と言葉を返す。ふぅ・・・いきなりで焦ったよ。


「まぁ、なんだ・・・色々な出来事はあったが、どうだ、アリィシア。

 アルフレッド殿とのダンスは楽しかったか?」


王様が話題を変える様に私に問いかけてきたので、私は大きく頷き


「はい・・・王様。とても楽し時間を過ごさせて頂きました。」


お世辞じゃなく、笑顔で本心から答えた。


「そうか、それは良かったな。」


王様が私の笑顔を見て笑い、ヴィオラ王妃様も笑ってくれた。

王様の隣で父様も小さく頷いている。


「はい。王兄殿下とご一緒させて頂き、色々お話しをさせて頂いた時間は

 とても楽しいものでした。

 他国の王家の方と踊る機会を頂けるとは思ってもいませんでしたから

 凄く貴重な体験をさせていただき、とても感謝しております。

 それに、王兄殿下はとてもダンスがお上手で、

 慣れない私を沢山リードして頂いて、まるで羽が生えた様に

 踊る事が出来ました。

 もう、思い残すことなく胸を張って家に戻ることができます。

 母にも良いお土産話が出来ましたし、良かったです。

 王兄殿下、本当にありがとうございました。」


まぁ、いろいろあったけれど結果オーライよ。

久しぶりの舞踏会は、お母様に与えられたミッションがクリアー出来るのかとビクビクして参加したものだった。まさか、その舞踏会で魔王様と踊る事になるとは思わなかったし、どうなるんだっ!って、ちょっとパニクッたけれど、魔王様はとても親切で私にとっては話易い、とても良い人に思った。

出逢って、話をちょっとしただけで良い人と認定するなんて・・・と自分でも思うけれど、それだけダンスは楽しかったのだ。


でも、そこに魔王様と敵対関係の女王様が登場。

さらに女神様まで現れる刺激的出来事が重なって、

久し振りの舞踏会は凄くハプニング満載だったけれど、

こうやって終わってみれば、うん、まぁ良かったって言えるよ。 


それにお母様のミッション、『誰かに誘われてダンスを踊る』も

魔王様とのダンスでクリアよ!

相手が相手だけに、量より質で一人で十分でしょ。

もうこれ以上のダンスは必要ないと私は判断しました。

だから、私は私のもう一つのミッションを遂行するわっ。

・・・・だって、魔王様のおかげで念願の目的を果たすには

十分時間出来たんだもの。


ふふふっ・・・ケーキにお肉・・・・・

入って来た時に見た美味しそうな食事達が私を待ってる!

お兄様がいてくれるから今日こそは食べれる筈よ!

魔王様、感謝します!


頭の中で何から食べようか・・・と考えていると

顔がにやけてしまっていたらしい。

3か月の特訓で身に付けたスキル『鉄壁の微笑み』は

簡単に崩れ去っていたらしく、兄様の

「アリィ・・・顔・・・」という事が耳に届くまで分からなかったのだから。


でも、『さぁ、あとはこの場を上手く退散して・・・・』と思っていたら


「本当に、お義兄様とアリィシアのダンスは素敵でしたわ。

 それにお義兄様がダンスが上手だということ、私、今日初めて知りました。

 ヴァルディアでは義兄様が踊られる所を御見かけした事が

 ございませんでしたから。

 アリィシアとのダンスがとても楽しそうで、見ている私も嬉しかったです。」


ビオラ王妃様が嬉しそうにほほ笑んだ。

そして、突然思いついた様に両手をパンッと合わせ


「そうだわっ!お父様、明日の『狩り』、アリィシアも

 お誘いしてみたら如何ですか?」


と言って来た。


『はっ?狩り?なんですか、それっ?』


頭の中でケーキ、肉!と盛り上がっていたところに、

ヴィオラ王妃様の声が不自然な程にクリアに聞こえてきた。


「ヴィオラ王妃様。

 アリィシアは確かにアードルベルグの一員ではありますが、

 我が領でも未だに『狩り』に連れて行った事がないのです」


「まぁ・・・そうなのですか?」


お父様が珍しく困った表情を浮かべてヴィオラ王妃様に言う。


「まだ一人では無理なので、今は準備している所です。」


リィドルフ兄様も、父様の言葉を肯定する様に言葉を重ねる。


「そうですか。でも明日はギベオン様も、リィドルフ様も

 お父様と一緒に『狩り』に出掛けられるのよね?」


「はい・・・・そのつもりではございますが・・」


「ならば、よろしいではありませんか!」


ヴィオラ王妃様は、良い考えが浮かびましたわと言って

ニコリと微笑みながら私を見る。

何だろうか・・・ヴィオラ王妃様のその可愛い笑顔を見ていると、

とてつもなく面倒くさい事が起きる様な嫌な予感がするのは・・・。


「明日の『狩り』は、お父様、お義兄様だけでなく、

 ギベオン様、リィドルフ様、皆さんいらっしゃるのでしょ?

 この国で、これ以上ないぐらいの戦力がありますもの。

 問題ないと私は思いますわ。

 それに、アリィシアはアードルベルグの者。

 いずれは、サフィーリア様やクリスベル様達の様になられるのでしょ?」


んっ?お母様やお姉様?を口に出してくる・・・・って事は、

ヴィオラ王妃様は『アリィシアも闘う女になるのでしょ?』

って言っているのかな?・・・・と思って、私は

『はい、まだまだですけれど』と答えると、

ヴィオラ王妃様は『ほら、私が思った通りでしたわ』と言って微笑んだ。


「アリィシア、明日はこの国とヴァルディア国との合同で

 『狩り』が行われるのです。

 貴女の『狩り』デビューには、最高の場だと思うのですが、どうかしら。」


「えっ・・・と、ヴィオラ王妃様、『狩り』ですか?』


「そう、『狩り』です。」


ヴィオラ王妃様が頷く。

狩りって・・・・頭の中に思い浮かべるのは、地球の記憶。

テレビや映画では、貴族階級の人達が余暇や戦闘訓練の場として使ったり

自分達の特権や階級をアピールする為の社交場の一つとして

『狩り』を楽しむ文化があったなと思った。


獲物も鹿とかウサギ。


猟犬とともに獲物を追うという、

考えようによっちゃ生き物を狩る残酷なものだけれど、

手に入れた獲物の肉はちゃんと食べるし鹿の角とかは加工して壁に飾ったりと、

映画情報だけど貴族社会では『狩り』って珍しい事ではないから、

ヴィオラ王妃様が言っている『狩り』は、私の地球記憶の『狩り』と

同じものなんだろうなと思い込んでしまった。


「ヴィオラ王妃様。私、今、レイピアの練習をしていますが、

 父や兄が言う通り、まだ戦う程の力を身に付けておりません。

 それでも大丈夫でしょうか?」


いくらレイピアの訓練をしていたとしても、

鹿とか仕留められるのか?と言われれば足手まといになる事は目に見えている。

王様がいらっしゃる場で、初心者の私が参加する事が迷惑になるんじゃないかな?

不安に思いヴィオラ王妃様を見ると


「そうですね。初心者では多分、難しいかも知れません」


ヴィオラ様は容赦なく現実を突きつけた。


「はぅ・・・・そっ・・・そうですよね。」


剣を振ったら剣が飛んで行く私じゃ、

獲物に剣先を突き立てるより先に地面に剣先を突き立てる方が早い気がするもんね。


私がヴィオラ王妃様の言葉に少なからずショックを受けていると

ヴィオラ王妃様はニコリと笑顔を浮かべて


「でも、大丈夫です。だって、お義兄様がいらっしゃいますもの。

 お義兄様はヴァルディア国で並ぶもののない程の力の持ち主です。

 お義兄様がサポートして下されば、アリィシア、

 貴女に何が起こっても、何も出来なかったとしても大丈夫だと思うの」


「はぁ・・・・・」


ヴィオラ王妃様の嬉々とした表情とは反対に、微妙な顔を浮かべる父様と兄様。

王様は仕方がないという顔をしていて、魔王様は・・・・・表情が変わりません!


「ですから、明日はアリィシア、あなたも『狩り』に行かれたらどうかしたら?

 この機会を逃したら、お義兄の闘う姿を見る事は出来ないと思うし・・・。

 お義兄様、アリィシアのデビュー戦をサポートして頂く事は出来まして?」


ヴィオラ王妃様の問いかけに魔王様は私をじっと見下ろすと


「そうだな・・・分かった・・・・・・手助けしよう」


とだけ言った。


えっと・・・今、一体、何が約束されようとしているの??

私が混乱した頭で魔王様を見返すと、


「今日の詫びとして、

 明日は貴女あなたの『狩場』での身を守る事を約束する」


と言った。

えっと・・もしかして、ウサギや鹿を狩るのでさえ

魔王様直々に身を守って貰わなきゃならないくらい

私はへっぽこだと思われているんだろうか?


・・・まぁ、たしかに、ウサギは別として

鹿のでっかい角で攻撃をしかけられたら・・・どうかな?

私、レイピアで上手く仕留められ・・・・自信はない・・・。

やっては見るけど、多分、まだ無理だと思う。残念だけど。

それが現実ってものよ。分かってるわ・・・自分の力具合は・・。

だから魔王様、鹿の角に攻撃されそうになったら守ってやるよって、

そういう意味で言ってくれているんだろうな・・・


私は魔王様の言葉をそう捉えて


「・・・王兄殿下、よろしいのですか?」


と尋ねると、魔力を封じ込め黒色の瞳になっていた魔王様が私に頷いて

「ああ、かまわぬ」と言った。


「ですが、ヴィオラ様。アリィシアはまだ無理かと・・・」


「あら?ギベオン様。

 アードルベルグの『怒れる獅子』と『氷狼の牙』と称される方が

 御二人揃われているのですよ?

 この国の最高戦力とも言われる御二方がいたならば、

 どんな獲物でも問題ないのではなくて?

 それに、お義兄様もいらっしゃるのですもの。

 問題はありませんわ。」


と手を叩いて『そう思われるでしょ?』と尋ね返す。


「しかし・・・・」


珍しくヴィオラ王妃様のお願いに首を縦に振らない父様だけど、

私は魔王様の言葉にちょっと自信が出てきた。


危なくなったら助けてくれるっていうなら、ウサギや鹿・・・

レイピアの剣先が当たらなくとも、逃げる事は出来ますよ!

大丈夫ですよ!

という意味でお父様達に目線を配り、首を縦に振ったけれど

その様子を見て、お父様も兄様も増々不安な顔を浮かべた。

なんでよ!と思っていると、ヴィオラ王妃様が


「ギベオン様。

 私、お義兄様に良い思い出を作って頂きたいのです。

 アリィシアとお義兄様がお話しする所を見ていました。

 ヴァルディアでは、あの様な姿を見る事は適いません。

 お義兄様にも、誰かと会話を交わす楽しさを知って欲しいのです。

 『狩り場』でお話しをする程度ですもの。

 心配するには及びませんわ。

 その場には父親である貴方と、兄であるリィドルフ様もいらっしゃるし、

 他にもアードルベルグの方々がいらっしゃるのでしょ?

 義兄を思う義妹の我が儘を、聞き届けては頂けませんでしょうか?」


ヴィオラ王妃様がお父様に懇願をし、お父様がリィドルフ兄様を見ると

二人は微妙な顔をしたけれど根負けをしたように大きく息を吐くと


「承知致しました。アリィシアを明日『狩り』に連れていきます」


とヴィオラ王妃様の申し出を受けた。


あぁ・・・明日、私、パティと城下食べ歩きの予定を立てたんだけどなぁ。

中止だね。しょうがないよ。王妃様に頼まれたらさ・・・・。

じゃぁ、その分、今日は沢山食べて帰るとしよう!


そんな思いで、これから私の食事に付き合ってくれる予定のリィドルフ兄様を

見上げると、リィドルフ兄様が複雑な表情を浮かべた瞳で私を見た。


「それでは、王よ。急なお話の為、アリィシアに支度をさせる為に

 今日はここで下がらせ、明日の準備をさせます」


はっ!?!

父様・・・・今、何て言いましたか??


「リィドルフ、アリィシアを家へ送って行く様に」


「はい、承知しました。

 それでは、陛下、ヴィオラ王妃様、王兄殿下、

 先に場を下がらせて頂く事をお許し下さい。」


リィドルフ兄様が王様に帰りの許可を願うとザルシュ王は


「よい、許す。ヴィオラが我が儘を言ってすまぬな」


笑顔で簡単に許可してくれた。


「いえ・・・・」


リィドルフ兄様に吊られて、私も王様、王妃様そして魔王様に場を後にする許可を得る為に

膝を折って臣下の礼をとったけれど、取ながら・・・


『いやいやいや、ちょっと待って!

 場を下がるって・・・それって、もしかして

 このまま食べずに帰るってこと??

 今日も『目的』が達成できなかったりするわけ!!』


美味しい食事を目の前にして、またしても目的達成できないのかっ!

という衝撃を受けていた。


「では、失礼を致します。」


『やっぱり!沢山並ぶ美味しい食事にありつけずに

 帰る事になったんですけどぉぉぉ!!!

 嘘でしょぉぉ!!!

 今日こそ、今日こそ美味しい料理が食べられると思ったのにぃぃぃ!!!

 珍しい料理がいっぱいあったのにぃぃ!!!』


という心の叫びを口の端を引きつらせた笑顔で何とか抑え、

私はリィドルフ兄様に連れられて舞踏会会場を後にする事になってしまった。



そして、今・・・。

パトリシアにベッドの上で髪をとかして貰っている。


「そういう訳で、明日は『狩り』に強制参加する事になったのよ。

 はぁ・・・美味しそうな料理が沢山並んでたのになぁ。

 明日の城下食べ歩きグルメツアーも中止よ。

 残念だわ。アードルベルグに帰る前に、王都の目新しいもの

 沢山食べたかったのになぁ・・・戻ってきてから、時間があるかな?」


・・・って呟くと、パティが髪を三つ編みに結わえた後、

『はい、出来ましたよ』と言って道具を片付けながら『う~ん』と唸った。


「なに?どうしたの?」


私がパティを見ると、パティが私を見ながら


「お嬢様・・・・お嬢様の言われる『狩り』とは、

 どういったものなのでしょうか?」


と質問してくる。


「えっ?狩りって、ウサギとか鹿とか、

 そういうのを獲物として皆で捕まえる事を言うんでしょ?」


何を今さら言ってるの?と返すと


「・・・・本当に間違いございませんか?」


パティが困惑した表情を浮かべている。


「えっ?違うの?」


「そうです・・・・多分・・・。」


パティは髪を整える道具をドレッサーに戻すと、ベッドに座る私に近寄ってきて、

『お風呂で水分が足りなくなっていますから』と水を飲む様にとグラスを差し出した。


「確か、この度の王族の方々と旦那様やリィドルフ様が社交場の後に催す

 『狩り』は、多分、お嬢様の思われている獲物を狙ったものでは

 なかったかと思います。」


私はパティに差し出されたグラスに口をつけ飲もうとした時に、

パティの言葉を聞いて、ゴキュっと一気に水を喉に入れてしまいむせた。


「・・・・・・どういうこと?」


大丈夫ですか?慌てて飲むからですよ!

と背中をパティに擦って貰いながらパティに聞き返すと


「確かに『狩り』と言うと、お嬢様の仰る通り小動物や動物を対象とする

 普通の『狩り』もありますが、その場合、アードルベルグの者達が多数

 出る事はありません。」


旦那様やリィドルフ様がいらっしゃれば、必要ありませんからね。

過剰戦力になりますから・・・とパティが言う。


「そうなの?

 でも、ヴィオラ様が父様に今回の狩りには、父様や兄様だけじゃなくて

 アードルベルグから沢山の人が出るみたいな事言ってたわよ?」


「そうですよね?しかも、旦那様達の二つ名を言われたと・・・」


「そう。お父様とお兄様のを・・・・」


「お嬢様、考えても見て下さい。ウサギや鹿程度の獲物に、

 『怒れる獅子』の状態の旦那様や

 『氷狼の牙』の状態のリィドルフ様が必要だと思われますか?」


・・・・・・パティに言われてみると、確かに。

お父様の『怒れる獅子』の状態は、

お父様の大剣『グランディウス』に付した火炎系魔石を発動させて、

爆炎剣を振り回して戦う姿から付けられた二つ名だって聞いた。

ウサギを捕まえる程度で、爆炎剣をお父様が使うって事があるかと聞かれたら

絶対にないと答えられる。

リィドルフ兄様の『氷狼の牙』状態も一緒だ。

だとすると、ヴィオラ王妃様が何でお父様達の二つ名を言ったんだろう・・・

と思った答えを、パティが口にした。


「もう一つ、この王国で言う『狩り』の意味として、

 【魔物狩り】を指す事もあります。」


「まっ!魔物狩り!!!」


ウサギや鹿じゃなくて、魔物?


「まっ・・・・魔物って、た・・・例えば、どういうものを言ったりするの??」


まさか、まさかまさかまさか・・・!!


「そうですね、例えば、ウサギには似ていますが

 角の生えた大型のウサギ型魔物『ホーンラビット』とか

 鬼の姿をした魔物の『オーク』やその上位種の『オーガ』とか、

 大物だと飛龍つまり、『ワイバーン』とかですかね」


「ホーンラビットに、オークにオーガにワイバーンって、

 ラノベでてくる魔物じゃないっ!!!!」


「・・・・ラノベってなんですか?」


昂奮して叫んだ言葉の中に『地球での知識』が混じってしまった事に気が付かない位、私は驚いた。


「えっ!ということは、私が明日行く『狩り』って、もしかして・・・・」


「そうですね。旦那様やリィドルフ様の様子をお聞きする限りだと、

 お嬢様が行かれるのは、【魔物狩り】という言い方が妥当かと・・・」


「大変じゃないっ!私、大丈夫じゃないじゃないっ!!!」


確かに、私はいつか『魔法剣士アリィシア』になりたいと思って訓練してはきたけれど、まだまだへっぽこ。そんな大がかりな『魔物が出る狩場』になんか行ける実力は備わっていない!


お母様とお姉様達の名前が出てたから普通の『狩り』の話だと勝手に思い込んでた。

確かにお姉様達も二つ名を頂いる存在だから、当然、魔物討伐にも出かけている・・・って聞いた事はあるけど・・。


つまり、私は明日、いつかはと思っていた【魔物討伐】の場に、

心の準備もなく『デビュー』するって事が決まったって、そういう訳なのっ!!!

だから、お父様やお兄様が微妙な顔をしていたの?


「へわわわわわ・・・・パッ・・・パティ・・・・私、死なない?」


「そうですね・・・・・・・かなりの確率で危険ですね。」


「駄目じゃーんっ!どうすりゃいいのよぉぉ!」


ベッドの上で、ええっ!と叫びぶ私と対照的に冷静なパティ。


「お嬢様・・・迂闊でしたね。

 ですが、今更、取りやめる事は出来ないかと思われますので、

 覚悟するしかございません。」


「覚悟って、何を覚悟するの??」


『それは・・・・お分かりかと』・・・って、パティィィ!


「そうだよ。約束しちゃったもん、明日狩りに行くってヴィオラ様と。

 だから、いまさら勘違いでした!

 獲物はウサギとか鹿だと思ってました・・・なんて断れないよぉぉ。

 パティ・・・・私のレイピア・・・・どこまで通用する?

 ホーンラビットには?」


パティはうーんと考えながら


「ホーンラビットは素早い動きと頭の角で攻撃をしてくる魔物です。

 初心者の冒険者では多少手こずる相手です。

 今のアリィシア様の実力では・・・

 向うから運よくレイピアの剣先にぶつかってくれたらいけるかと・・・」


なによ!相手次第って滅茶苦茶リスキーじゃん!!!


「じゃ、じゃぁ、オークは?」


「無理ですね・・・・・逃げる事が寛容です。

 もし現れたら、絶対に王兄殿下様の側を離れたらいけませんね」


はうぅ!!魔王様頼み!


「ワ・・・ワイバーン・・・」


「目を付けられたら食べられますから、姿が見えたら隠れる事をおススメします」


「いっ・・・・命足りないよぉぉ!」


とんだ事になった。


確か私は王都にダンスをしに来たはず。

お姉様が作ってくれた蒼薔薇ドレスを着て美味しいごはんを食べて、

お誘いを受けた人とクルクル踊る事で目的達成・・・だった筈なのに、

何故に命が危険な所に飛び込む事になったのかっ!!!!


「ですから・・・・明日は、私もお嬢様の側にお控え致します。」


パテイはそう言ってくれたけれど、どうしよう・・・・。大丈夫なの?私。

無事に、夜が迎えられるのっ!!!


「・・・・牙が刺さりにくいお嬢様に合う武具・・・あったかしら。

 確かめて参りますが、万が一を考えて、旦那様に防御魔法がかかる

 魔石をお借り出来るか聞いて参ります。その魔石を縫い付けておけば

 多少の気休めになるかと。それと・・・・」


パティが一生懸命明日の衣装と武器を説明してくれていたけれど、

私の耳には途中から声が入らなくなっていた。


「良いですか、お嬢様。よく眠っておいて下さい。

 戦いが始まったら、途中で休憩は出来ませんから」


それでは失礼致します・・・・と混乱する私を残して

パティが部屋を去っていった後、私はその場で暫し呆然となり、

明日の事を思い浮かべて


「・・・・なんてこったぁぁ・・・とんだ事になったよぉぉ」


と唸り声をあげていた。





そして、無常にもあっという間に時間は過ぎて次の日の朝を迎え・・・・



私はお父様やお兄様に連れられて、王様の言う『狩場』

つまり、魔物の多く住む『魔の森ウォルディモ』の前で、

ヒューヒューと風に吹かれながら身震いを止める事が出来なかった。






 

 


















次はいよいよデビュー戦。

グランツの出番間近!!


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