星の欠片
アラン=アンヴィルさんの説得に成功した。
これで、戦争は一時中断という事で休戦状態だ。
これから星の欠片を手に入れる為に荷台を用意するとの事で、クライン王国側は忙しそうにしていた。
「クリス=オールディス殿。こちらの準備は出来た」
そこには、荷台と二頭の馬がいた。これがあの鉱石を運ぶモノなのだろう。
「わかりました。では、行きましょうか」
俺は翻して、村長の下に戻ろうとしたのだが、それをアランさんが止める。
「待て。こちらは兵士を三十連れて行きたいが良いか?」
まだ、完全には信用していないという事か。それでも問題は無いだろう。何故なら、戦う気はもうないのだから。
「大丈夫ですよ」
そう言うと、事前に用意されていた兵士が馬車の影から出てきた。
隠れていたのか。まぁ、良いけどさ。
そうして、俺達は村長達の下に戻る事にした。
「止まれ!」
村長達の下に戻ると、大声で叫ばれた。村長だ。
「何故、兵士がいる?」
村長は警戒しながらこちらには通さないと言わんばかりに、村の男衆を後ろに控えさせている。
「こちら、アラン=アンヴィルさんも信用していないようなので、兵士を連れてきたんですよ。実際には戦う気はないでしょう?」
「う、うむ。そうだが……」
「なら、問題は無いはずですよね」
「わ、分かった」
村長は何とか納得してくれた。これも、俺達が戦争で活躍したからなのかな。それか、本当に戦争をしたくないのか。
まぁ、どちらでも問題は無い。
「私はアラン=アンヴィル。そちらの代表は?」
「ワシはベン=アルバーン。この村落の長をしているものだ」
二人が名乗ると、少しピリッとした雰囲気が和らいだ。
「こちらは星の欠片が手に入れば、何もしない。それは私の名誉に関して約束しよう」
アランさんがそう宣言する。
「そうか。こちらも男手は減らしたくない。星の欠片は我らの至宝だが、全部取らないなら問題は無い」
「全部は取らない。いや、持っていく事は出来ないからな。馬車で持っていける程度、貰えればこちらはそれで良い」
「分かった。なら、村の中に入るが良い」
「了解した」
どうやら、一触即発にはならなかったようだ。良かった良かった。
そして、馬車と兵士を連れて星の欠片の下に。
星の欠片は大きい。三メートル代の球体だ。
これをどうやって等分するのか。
「村長にアランさん。この星の欠片はどうやって分けるつもりなんですか?」
そう問いかけるが、二人は何も考えてない様だった。
「クリス=オールディス殿が言い出した事だ。なにか良い案はないか?」
「そうだな。クリス殿に任せるぞ」
二人に任されてしまった。良い案が無いからってそれはちょっと……。
まぁ、魔法でパパっとやってしまえば良いだろう。
「分かりました。魔法で何とかしましょう。因みに、これを半分にしてアランさんに渡すので良いんですよね?」
「ああ、問題無い」
「なら、やっちゃいますよ」
アルのバックパックからピッケルを取り出して、鉱石の中心に窪みを作る。
底を中心に鉱石を半分にどんどん窪みを作っていった。
そして、そこから土魔法で窪みに魔法を打っていく。
段々と、鉱石にひびが入っていき、最後の窪みに魔法を打った時には半分に綺麗に割れた。
「ふぅ。出来ましたよ」
思った通りに綺麗に出来て良かった。
「流石だな」
「ああ、これで国に帰れるというもの!」
アランさんは涙目で大声を出していた。
そうだよな。戦力は半壊して、星の欠片も手に入らないんじゃ、打ち首にされても仕方ないくらいだし。
アランさん達の兵士は大きな鉱石をどうにかこうにかして、馬車に乗せた。
「ありがとう。ベン=アルバーンにクリス=オールディス。これで、我々は国に帰ろうと思う」
本当に嬉しそうな顔でアランさんはそう言った。
「うむ。では、直ぐに去ると良い」
「ああ、分かった」
アランさん達はそのまま、馬車を翻して帰っていった。
そして、アランさん達が去って夕方。
「クリス殿のおかげで、戦争は避けられた。助かったぞ」
村長さんから握手を求められた。
「いえ、俺達も星の欠片が欲しいだけでしたから」
その握手に応じた。
「クリス殿はどの程度の星の欠片が必要なのだ?」
「大体このぐらいですかね」
手で、サッカーボール大の大きさを表現する。
「それなら問題は無い。星の欠片を持って行くが良い」
おお! 本当か? それは願ってもない答えだけど。
「ありがとうございます! では、早速」
半分になった星の欠片をサッカーボール大に切り取った。
そして、それをアルのバックパックの中に入れる。
「これで当初の目的は達成ね」
「そうだな。これで、現代に戻れば良い」
エイミーの言葉にそう返す。後は、剣魔の里の村長に任せれば良いだけだ。
「とりあえず、今日は戦争でも活躍してくれたクリス殿達も戦勝祝いに参加してくれ」
戦争に勝ったわけではないが、良いのかな?
「分かりました。参加させて頂きます」
「はい。お願いします」
その夜は、村中大騒ぎで戦勝祝いをした。
あちらこちらで笑い声が聴こえてきた。
「クリス殿! 楽しんでおられるか?」
村長さんがやってきた。
「はい。楽しんでますよ」
「なに、酒を飲んでいないではないか。いかんぞ。戦をしたならば酒を飲め。そうすることが、重要なのだ」
「そうですか。では、少しだけ」
お酒を貰ってそれを飲む。エイミーもお酒を飲んでいた。
「良い飲みっぷりだ。クリス殿」
「ありがとうございます」
喉の奥がカァーッと熱くなっていって、頭がぼんやりして来る。
「今回はクリス殿がいなければやられていただろう。本当に助かったぞ」
「まぁ、俺達も目的があって参加した事ですから」
「それでも、助かった事は助かったのだ」
「そうですか」
それから、俺とエイミーと村長はチビチビと酒を飲んだ。
なんとなく、気持ちが和らいだ。
戦をしたならば酒を飲め。良く意味は分からないけど、なんとなく飲むことが重要なんだなって思った。
死んだ人への悲しみを紛らわすために、買ったことの喜びと生き残れた嬉しさに酔う。
それが、重要な事なのかもしれない。
それから、宴は深夜まで続いた。
そして、そのまま俺達は眠ってしまった。
次の日、早朝に目が覚める。
旅の支度をしてから、村長に挨拶をした。
「村長さん。ありがとうございました」
「おじさん。ありがとうございました」
「うむ。クリス殿達は去るか」
「ええ、そうです。やることがあるので」
そう、重要な事だ。やらなくてはいけない事。
「そうか。では、さらばだな。いつかまた会える日を楽しみにしているぞ」
「はい」
この時代にはもう、来ないだろうが子孫である現代の村長達にはまた会える。
さて、現代に戻ろう。