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鬼は誰からかぐや姫を守ったのか   作者: マイペース狼
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6 光の下で

「これが、蓬莱の玉の枝だ」

「火鼠の皮衣を持ってきた」

 義武は宝を睨みつけたまま、ずっと黙っていた。突然義武は蓬莱の枝を掴むと枝をへし折り、次に火鼠の皮衣を掴むと松明の中へ投げ入れた。


 幻助が調べたところによると、蓬莱の枝は職人が普通の枝に金箔を貼り、宝石をつけただけの偽物だった。火鼠の皮衣は商人が唐渡りと言って売った偽物だった。

 中納言と参議は顔を真っ赤にして帰って行った・・・。


 それから一週間、かぐや姫に一つの文が届けられ、義武が呼ばれた。

「今から、空覚さまのお屋敷へ参ります」

「わかりました」

 義武が郎党を集めて、待っているとふきが琴を持って来た。


 琴だと・・・空覚様の屋敷で演奏するのか?


 義武が守る中、かぐや姫は空覚の屋敷を訪ねた。空覚の屋敷は7条の通りにあった。9条にあるかぐや姫の屋敷から遠くはないのですぐについた。

 

 かぐや姫は空覚の屋敷に入ると琴を持ったふきもついて行った。

 空覚の部屋に入った。空覚が御帳台で寝ていた。彼は大炊寮で燕の子安貝を取ろうとして綱を身体に縛り付けて、屋根にある燕の巣に近づいたところ、綱が切れて、落下したとところ、腰を打って、それが原因で病になったらしい。

 かぐや姫は空覚の前で琴を演奏した。空覚は涙を流しながら聴いた。その後、彼は仏の世界へと帰って行った・・・。


 それから3ヶ月、義武はさぬきの職人のところで自分が作った、茶碗を幻助と一緒に眺めていた。義武が作った茶碗は側面が斜めになっておらず、真っ直ぐで・・・器自体やけに大きかった。

「これは茶碗ではなくて、鉢ですね!」

 義武が大きく作り過ぎてしまった茶碗を手にとって見つめているとそばにいる幻助が自信にあふれたような声でこれは鉢だと断言した。

「茶碗だよ・・・」

 作った本人は弱々しく自信なさげにこれは茶碗だと否定した。

「こんなに大きく作ってどうするんですか?普通の茶碗より二回りは大きいですよ?」

「・・・お茶がたくさん飲めるじゃねぇか」

「姫ってそんなにお茶飲むんですか?」

「うるさいな、お前は!」

 義武はとりあえずこの大きな茶碗?を布に包んだ。そばで幻助が、にたにた笑っていた。

義武は耳を赤くしながら、幻助を睨みつけた・・・。


 義武は茶碗?を持って屋敷に伺った。かぐや姫が自分の部屋で心待ちにしていた。かぐや姫の部屋へ入ると、義武は包んである布をほどき始めた。かぐや姫はやけに大きくなった布を見て、首をかしげた。


 ・・・これは茶碗だ・・・


 幻助の言葉が頭から離れず布をほどいていった。

 そして大きな茶碗?がかぐや姫の前に現れた。

 

「・・・ぷっあははははは、これはち~!」

 かぐや姫はおなかを抱えながら大笑いした。

「・・・茶碗です」

「なんでこんなに大きく作ったんですか?」

 かぐや姫は笑いすぎで目に涙をためながら幻助と同じ事を聞いた。

「え・・・それは・・・はちです」

 ついに義武は鉢と認めてしまった・・・。

「でも、うれしいです。うちはこれを宝にします!」

「えっいいんですか?」

「はい!嬉しいことに変わりはありません・・・」

 笑顔で茶碗のつもりで作った鉢を眺めているかぐや姫を見ると、義武もこれで良いかとなにやら力が抜けてしまった。

「ところで・・・うちと・・・やりませんか?」

 笑顔で鉢を見ていたかぐや姫が一転して真剣な表情で義武を見た。すると義武も真剣な表情で・・・

「やりましょう・・・」

 義武がそういうとかぐや姫は鉢を部屋の隅に置くとその隣にあった盤を持ち上げた。


 コロコロコロ・・・


「今度こそ勝ちます!」

「今度も俺の勝ちです」


 2人は双六を始めた。




 幾日か平和な日々が続いた。

 だが、かぐや姫の屋敷に遂に、あの人物がやって来る。

「義武様・・・摂政様が、姫にお会いしたいと・・・」

「翁殿、いつも通りそれがしが、応対します」

 義武は震える翁に冷静にそういった。

「義武様、うちが直接お話しします」

 御簾の向こうでかぐや姫がそう言った。義武と翁は驚いて、御簾の向こうのかぐや姫を見た。

「今までずっと、義武様に助けていただきました。ですが・・・うちも覚悟を決めて、摂政様に応対します」


 そして昼過ぎ、摂政が乗る牛車が屋敷に入るとあの2人の兄弟とは違う、1人の男が降りてきた。歳はとっているが見た目にも実際、翁、媼よりは若いが、まるでその2人以上に深い人生を積んできたかのような風貌を備えた男がゆっくりと階を上ってきた。屋敷中に緊張が走った。

「翁殿、媼殿、何か生活に不便はありませんか?」

「いえいえ、滅相もありません!そのようなことは決して!」

「困ったことがあればいつでも申してください」

 摂政はふるえて顔を上げることができない翁、媼に優しくしゃべった。次に摂政は義武にしゃべった。

「義武よ姫の警護、大儀である」

「ありがたきお言葉・・・」

 さすがに、摂政だ。息子達とは違うな・・・。

 義武は摂政の器の大きさを感じた。摂政は3人に声をかけ終わると、御簾の向こうにいるかぐや姫の方を向いた。

「摂政様は、わたくしを妻にしたいのですか?」

「そのつもりでお伺いいたしました。愚生は姫に何を贈ればよいでしょうか?」

 摂政は御簾越しにいるかぐや姫は見えない。だが、かぐや姫には見えていた。まるで御簾を突き破るかのような摂政のそのするどき眼光が見えていた。


 この方は将門さんと同じだわ・・・でもこの方の目は乾いている。


「竜の頸の玉を下さい。この意味が分かりますか?」

「そんなものは、この世には存在しない。だからあなたを手に入れることはできない」

「どうしてわたくしを欲しいのですか?」

「人はだれでも願いがある。愚生も例外ではない。あの興世王がおとなしくなった。正直、愚生はあの男に手を焼いておりましてね、それであいつに似合う坂東に送った。暴れるだけしか知らぬ興世王をあなたは武力を使わずに説得させた。確かにあなたには世を救う力があるやも知れん・・・欲しい、あなたが欲しい」

「ですが、わたくしは政などさっぱりわかりません」

「それは心配いりません。われら藤原氏が姫をお支えいたします。姫はその美しいご威光を下々の者達に見せつけるだけでよいのです」

「・・・やはりお断りします」

「でしょうな・・・」

 摂政はかぐや姫に一礼をし翁、媼の方にも一礼をした後、牛車に乗り去っていった。全員が一息ついた。全員だらしない格好でしばらくは誰も一言も言わなかったが、翁が一言呟いた。

「わしは・・・孫が見たい。たけが、良い男と結ばれて、そしてかわいい孫の顔が見たい」

「・・・ごめんなさい、おっとう」




 それから7ヶ月が経った。義武は坂東が、将門が気がかりだった。興世王がおとなしくなった後、あの地が平和になると思ったら、今度は藤原 玄明はるあきとかいう奴がまた問題を起こしたらしい。そのせいでまたもや将門が朝廷とのいざこざが起きた。

 朝早くからさぬきにいる義武に坂東から一通の文が届いた。それを呼んだ義武は怒りの表情で立ち上がった。


 それがしは神の託宣により坂東の国の新皇となった。ついては都にいる奇跡の美女を后としてお迎えする。


「何故だー!」

「あっ・・・あの・・・どしたんですか?」

「将門様が、新皇を名乗ったのだ!」

「へっ、しんのう?」

 

その日の午後、義武のもとに摂政から自分の屋敷に来いという一通の文が届いた。義武は幻助と共に馬を駆けて、屋敷に向かい到着したときはもう夜になっていた。

 義武は一人暗い寝殿に上がり、しばらくすると姫の屋敷の時とはまるで別人のような摂政が奥からあらわれ、鋭い目つきで頭を下げている義武を見た。

実頼さねより師輔もろすけどちらが俺の後を継ぐのか?順当に考えれば長男の実頼だが、次男の方が才はある。ふん、息子達が争うというのか・・・

 師保もろやすはどうでもよいわ、あいつは坊主が似合っておる」


 俺の前で息子達の名前を言うとは・・・


「お前、力は欲しいか?」

「いつでもそう持っている自分を怖いと思いながら欲しております」

「21の頃だ。俺は世のために正しい事をしようと燃えていた。そして尊敬していたお人がいた。そのお方は俺よりもはるかに優秀だった・・・」

 摂政は昔の事を思い出すように義武から真っ暗な天上に視線を移した。

「だがそのお方は都から追い出された・・・。俺の兄が追い出した。その優秀な頭で俺達の世界を脅かした。だから都から追い出された。あの時、俺は自分が生まれた世界を知った。俺の心からガキが消えた。その時に出会った。見なれぬ姿の黒い頭巾のようなものをかぶった男に」

 このとき、義武は将門が言った男を思い出した。

「その後、まもなく兄は死んだ。俺はその黒い男と付き合うようになり、兄に変わり俺は権力の頂点に立った」


 何故、俺にこんな事を聞かせる?


「何故、俺がお前を呼んだかわかるか?将門は俺と同じ臭いがした。だから俺はずっとあいつを警戒していた。そしてお前はあいつが”自分を超える者”だと俺にお前を会わせた。確かにお前も無視できない存在だ」

 義武はずっと頭をふせたまま、摂政に目を合わせることはなかった。だが、その目は戦の時と同じ目だった。


「いよいよ、俺とあいつの戦が始まった。あいつは俺から姫を奪う気だ。お前はその鍛えた武力でどちらの味方につく?誰を殺す?」

 暗闇の中、摂政はずっと頭をさげ、こちらを見ようとしない義武を乾いた鋭い眼光で睨んだ。

「それがしは朝敵を討ちます」

 義武がそう答えると、摂政は笑みを浮かべた。

 乾いた目が笑っていた。

「それでよい」

 話が終わると、摂政は暗い奥へと消えていった。義武は階を降りると、幻助が待っているところまで行くと馬に乗り、屋敷をでた。

「幻助、俺達は将門様を討つぞ」

「義武様、なぜ俺達は将門様を討たねばならんのですか?」

「姫を守るためだ・・・」

「・・・義武様、その戦が終われば、俺は瀬戸に戻ろうかと思います」

「田兵衛の妹に伝えるのか?」

「はい、俺達が海賊だったときに捕らえられて、首を飛ばされそうになったとき、田兵衛の妹が必死に義武様に命乞いをしたおかげで俺達は死なずにすみました。田兵衛が死んだと言ったら、泣くかもしれんなぁ・・・。泣いて欲しくないなぁ、あの子のおかげで俺達はいつも笑ってたからなぁ・・・」

 段々と幻助の顔が憂鬱になってきた。

「田兵衛の妹は、お前達にとっては姫か?」

「そりゃ、もちろん!」

 2人は笑った。

 静かな夜の空には月が出ていた。


次の日、更に驚く文が義武に届くと義武は大急ぎでかぐや姫の屋敷に向かった。

「姫、真ですか?」

「2月の満月の時に月からお迎えが来ます・・・。うちはもうここにはいられないの。ごめんなさい義武さんいつぞやの話し、あれ本当だったの」

 かぐや姫は申し訳なさそうに、義武にしゃべった。

「たけ、わしが摂政様にお願いした!摂政様は約束してくれた!大勢の検非違使けびいし達がこの屋敷を守ってくれるそうじゃ!そなたは帰らずに済む!」

「たけ!お願いじゃ、私たちから離れないでおくれ!」

 翁と媼が必死に止めた。

「おっとう、おっかあ、ごめんなさい。うちはもうここにはいられないの!」

 かぐや姫は悲しい目を下に向けたまま翁を見ようとはしなかった。

 かぐや姫はずっと心残りだった。おっとう、おっかあ、ゆうた、おまつ姉ちゃん、おうめちゃん・・・義武さん。


 翁と媼は自分の娘がいなくなることが受け入れられなかった。

 それは義武も同じだった。かぐや姫が自分の前からいなくなることに心が抵抗していた。だが、様子から察するとどうやら本当のようだ。翁、媼はかぐや姫を必死に説得している。かぐや姫がどんどん悲しくなっていく。


 ・・・俺に何が出来る?姫に対して・・・何が出来る・・・


「姫、さぬきの地に戻りましょう」

 義武がそう呟いた。

 その言葉に落ち込んだかぐや姫の顔に光が差した。 


「いや、しかし義武殿。このような状況でたけが外出などできません!守ってくださる摂政が何というか・・・」

 翁が止めた。翁は何としてでもかぐや姫が月へ帰るのを阻止するために、この屋敷から一歩も出て欲しくなかった。

「一日だけです。明日一日だけさぬきへ帰りましょう。摂政には俺が適当に伝えます」

「義武さん、ありがとう!」

 止めようとする翁をよそにかぐや姫は笑顔で義武にお礼を言った。翁はそんなかぐや姫に何か言いかけたが、かぐや姫の満面の笑みを見ると、何も言えなくなってしまった。

「すぐに手配しましょう」

 義武も笑いながら一礼すると、きざはしを降り、馬の所まで行った。

 そこにはきが立っていた。

「あなたは、ずっとわたしの正体が気になっていたんじゃないですか・・・。出会ったときから今日まで」

「・・・一つだけ分かったことがある。お前は敵ではなく、味方だと言うことだ。それだけ知れば良い」

 はきは笑みを浮かべながらうなずくと、屋敷の方へと歩いていった。 

 その後、はきとふきは屋敷から姿を消した‥‥。


 摂政はあっさり承諾した。義武が奇妙に思ったが、次の日かぐや姫を馬に乗せると、さぬきへと向かった。かぐや姫の膝の上にはあの時の猫が座っていた。うめも大喜びでかぐや姫と一緒にさぬきへ戻った。

「姫、それがしの館で構いませんか?」

「はい!」



※         ※         ※



 将門の館に比べて堀は無く一回り小さい義武の館へ着くと、かぐや姫は部屋の中で壺装束から普通の百姓の服に着替え、縁側にいる義武とうめと猫がいるところへ行った。

「やっぱりおたけ姉ちゃんはその格好がいい~」

「あら?十二単衣は似合わなかったの?」

「う~ん、十二単衣を着てるおたけ姉ちゃんもいい!」

「おうめちゃん、結局どっちなのよ~」

 たけは笑いながら義武の隣に座ると、両手にあごを乗せてつぶやいた。

「でもやっぱり、うちのもとに良い男が現れないかしら?うちももう19なのよね」

 と言いながら、横目で義武を見た。義武は一瞬横目でたけを見たが、すぐに視線を前に戻してしばし間をおいてしゃべり出した。

「・・・・・・え・・・おれは22」

「22!?えっじゃあ初めて会ったときは義武さんは18だったの!?」

 たけは驚いた顔で身体ごと義武の方に向いた。義武はたけの反応に驚いた。

「そうですけど何か?」

「うち、あのとき義武さんはもう20過ぎてると思ってました!」

「・・・・・・・・・・(つまり老けてると言いたいのか?)」


「受領様ー、勝負・・・あっあれ?わっわっわー!」

 入り口から懐かしい大声がした。たけはその声の主を見ると、負けじと大声で叫んだ。

「ゆうた!変わらないわね!あれっどうしたのその犬?」

 たけは4年ぶりに大きくなったゆうたを見た。そしてゆうたのそばには子犬がしっぽを振りながら立っていた。

「こいつはおいらが森の中を歩いていたら、一匹だけいたんだ。なついたからおいらこいつを育ててるんだ!名前は”つな”って言うんだ」

「ん~うちの”しきぶ”と仲良くできるかしら?」

「しきぶって・・・だれ?」

「うちのかわいい三毛猫!しきぶのおかげでうちは義武さんと親しくなれたのよ。え~っと・・・あっ怖がって、縁の下に潜っちゃった・・・」

「ゆうた、そのつなに触っても良い?」

 うめが目を輝かせて子犬を見ていた。

「うん、良いよ」

 うめが子犬に笑顔で近づいた。子犬はうめの顔をなめまくった。

「おたけ姉ちゃん、おいら武士になったらおうめを守る!」

「ゆうた、やっぱり武士になりたいの?それだったらちゃんとおうめちゃんを守ってね。ねぇおうめちゃん!」

「いらない!ゆうた、あたいがあんたを守ってあげる」

「なっなにいってんだー!なんでおいらがおまえを守るんだ!」

 ゆうたが真っ赤になるとたけは大笑いした。するとまた一人館にやって来た。


「おたけ、あんたやっぱりその格好がいいわね」

 ゆうたに続いてまつが来た。

「おまつお姉ちゃん!ごめんなさいあの時は死にそうな目に遭わせて・・・」

「何謝ってるの?あんたのせいじゃないでしょ」

 まつは優しくたけの頭をなでながら言った。

「あのみ、ゆうたも聞いて・・・うち、みんなとお別れしないといけないの・・・月に帰ります」

「・・・・・・・・・・?」

「信じられないだろうけど・・・ほんと」

「あ~ぁ、あんたはとことん変わってるわね・・・でも二度と会えないのは本当みたい。寂しいけど、笑ってあんたを見送ってあげる」

 まつは笑顔でたけのおでこを人差し指で押した。

「おたけ姉ちゃん、おいらが武士になったら月にいってやる!」

「ゆうた・・・どうやって月に行くの?」

「おたけ姉ちゃんはどうやって月に帰るの?」

「え・・・それは・・・」


「おたけちゃんが帰ってきたって?」

 ゆうたやまつだけでなく、ついに村人達まで義武の館にやってきた。たけは村人達の輪の中に入ると、みんな笑いながら楽しく話し合っていた。それを見たとき、義武は8歳のあの時を思い出した。涙を流しながら決意したあの時を・・・。


 ・・・確かに、俺は姫を守りたくて守ったんだ・・・


 義武は皆がたけに集まっている館から離れると、一人外を歩き出した。喜びと寂しさ両方の気持ちを持って晴れ渡る澄み切った空の下、ずっと歩いていた。


「!?」

 館からだいぶ離れた場所で義武は一人の異様なまでの威圧感を持った男に出会った。男は林の手前の影の中にある岩の上に見たこともない白い頭巾のようなものをかぶって腰掛けていた。義武の身体が震え出した。頭巾の中からこちらを見るその目は異様なまでに光り、それは義武には惹かれつつも触れてはならぬ力を秘めているように感じられた。


 俺達と同じ人間か・・・?


「私は人の願い次第で神にでも鬼にでもなれるさ。あいつだって・・・」

「姫を狙っているのは・・・黒いやつか?」

「あいつと私とは同じ力を持ち・・・理解し合えない存在だ」

「姫はお前達の争いに巻き込まれていたのか?」

「昔の事だ・・・。ある国に強大な力を持った王がいた。王は黒い奴の力を借りて、強大な国をつくった。だが、私はそんな黒い奴の考えを危険視していた。私は奴が王を使って作った国を潰そうと動いた。

 そして強大な国は力を失っていった。王は黒い奴にさらに願った。”強大を超えた絶対の力が欲しい”と黒い奴はある薬で王にその力を与え、王は欲したものを手に入れた。やがて王は娘を生んだ。娘にも王の力は受け継がれた。

 私は手を打った。そして争いになりその国は滅び、王は死んだ。だが娘には罪はない。私は娘は助け、遠いこの地まで連れてきた。そしてこの地で一人の娘が生まれ母となりしばらくは平和に暮らしていた。

 そして権力者が彼女らに近づいた。黒い奴は・・・この国の権力者にも力を貸していた。

権力争いに勝利し帝になった男が母親に言った、”娘を欲しい”と母は拒んだ。奴が動いた。私は2人を守れなかった」

「何故、守れなかった?」

「純粋に勝負に負けた。あいつも自分の野望を絶たれた恨みがある。私は娘の亡骸を抱きながら、すでに虫の息だった母に近づいた。母が私に願った。

 ”せめて、娘だけもう一度、生まれ変わらせて、幸せな人生を全うさせて欲しい”

 ・・・数百年後、私は娘の魂を復活させた。それがかぐや姫だ母の願いと同時に母が味わった記憶を祖父の力を受け継いで生きている」

「それだったのか・・・姫の力は」

「状況が最悪の方へ傾いてきてね、このままいけば、私とあいつとで大きな戦になる。そうなれば君は巻き込まれ、黒い奴に確実に殺される。姫が言っていた。

君を殺したくないと・・・。

だから姫は決断した。我々の世界へ帰ると・・・姫の願いだ」

「俺ではそいつから姫を守れないのか・・・」

「君は人間だ。我々は・・・その人間を超越した」

「力が欲しい・・・今、はっきりそう思ってしまってる。俺からの願いだ・・・姫を幸せにしてくれ」

 白い男は頷いた。

「約束しよう・・・あぁ、言っておくが姫と”あれ”はするなよ」

 そういうと義武に背を向け林の中に入ると、白い男は幽霊のように消えた。

 義武は一人立っていた。


 夜になった・・・寝ていたたけは飛び起きた。

 あの時の2人の武士がまたうちの前に現れた・・・。

 前と同じように手前の武者が奥の武者を一刀両断にすると、たけの方に振り向いた。

 顔がはっきりと見えた・・・。


「義武・・・ありがとう、守ってくれて・・・」

 たけは目が覚め戸に目がいった。暗い中、戸を開けた。


「姫・・・眠れないのですか?」

 義武がいた。太刀を握って義武が座っていた。


「綺麗・・・綺麗な太刀」

「将門様が、尾張で星が降りたと言われている場所で見つけた鉄を使って作った太刀です。将門様がその鉄を使って太刀を作りたいと言い、多くの刀工達が作ろうとしてみな断念しました。

 ところがある刀工が将門様のもとにあわられた。そしてその鉄を使ってこの太刀を作った。天光と名付けたこの太刀を8歳の時に将門様よりいただきました」

「それで人を斬った事があるのですか?」

「ありません・・・8歳の時にそれがしはこれで大鎧を試し切りしました。あの大鎧が真っ二つに切れました。8歳の子供が大鎧をまっぶたつにできる非常識な太刀など、正直怖くて使えません」

「その太刀で将門さんを切るのですか?」

 義武は太刀をさやに収めると、たけには振り向かずしゃべろうともしなかった。

 そんな義武の背中にたけは近づいていった。義武の背中を手で触れることができる距離まで近づいたとき、義武がしゃべった。


「ずっと、あなたと一緒にいたい。姫、あなたを愛しています・・・」


 その言葉を聞いたとき、たけの胸がつまった。たけは義武の背中に顔を埋めた。突然、義武がたけに振り向くと、たけを床に倒すと、義武はたけのくちびるにくちづけをした。

たけは何一つ抵抗することなく、義武を抱きしめた。


 次の日、都からかぐや姫を迎えに使者がやって来た。子犬を連れたゆうたと猫を抱いたうめが見送りに来ていた。 

 まつは来ていなかった。

「おうめちゃん、そんな怖い顔しないでよ・・・」

「違うのおたけ姉ちゃん、本当はあたし笑顔でおたけ姉ちゃんを見送りたかったの!」

 うめはおたけ姉ちゃんを心配させまいと笑って見送ろうと思っていたが、寂しい気持ちを抑えるのに必死だったため笑顔ではなく、かぐや姫を睨みつけてしまった。そんなうめをかぐや姫は優しくあたまをなでなでした。

「ゆうた!おうめちゃんを泣かすんじゃないわよ!」

「おう!」

 ゆうたは相変わらず元気だった。かぐや姫はため息をついたが、その後笑顔でゆうたの頭もなでなでした。


 かぐや姫一行は都へと歩き出した。義武は坂東に赴くため、かぐや姫とは方角が反対だった。途中、一緒だった2人は分かれ道にくると、義武は馬の上で垂衣で顔を隠していたかぐや姫に笑顔で会釈した。かぐや姫も垂衣の中で笑顔で会釈していた。

 そうして2人は互いに反対へと離れていった。かぐや姫はこの時も義武の背中を見た。かぐや姫の目がだんだんと熱くなり、瞳からほほにかけて、流れ落ちるものがあった。


 


 2月1日、将門と討伐する平 貞盛、藤原 秀郷の軍が将門側戦法隊、藤原 玄茂はるもちの軍とぶつかった。軍が整っていない将門側の劣勢だった。この日義武の弓の腕はまさに完璧なほど鬼であった。馬を駆けながら、射殺す者の数をを数えていなかったが、それでも過去最高の人数を殺しているのは分かっていた。


「鬼が・・・人を殺している・・・」

 味方の一人が呟いた。


 興世王と玄明はどこだ?あいつらさえいなかったら・・・

 敵、味方が自分に恐怖していることを気にもかけず、義武は道を切り開くかのように前にいる敵の群れに穴を開けていった。

 味方が討たれていくにつれ、将門側は鳳凰ほうおうの飾りが付いた筋兜を被った青い胴丸鎧姿の騎馬武者に自分達はあいつの的に過ぎないことを悟ると、ただ突っ立ったままの本当の的になってしまっていた。


「俺がやる!」

 敵側から一人の騎馬武者が義武に突進した。藤原 玄茂に付いていた多治たぢの 経明つねあきらだった。


 後ろを向いている今ならやれる!


 経明は後ろを向けている義武の背後に迫ると、弓を構えて狙った。


 ダァン!


 義武が振り向くと、もじりで弓を放った。

 矢は経明の星兜を貫いた。経明は弓を構えたまま、馬から落馬した。義武は馬を反転させると、落馬した経明のそばまでよった。

 経明は目を見開いたまま手から弓を離すことなくもう二度と動かなかった。遠くの方で将門側の副将藤原 玄茂が義武を見ていた。狙う目と震える目が合った。

「馬鹿野郎が・・・下手な戦をしやがって、これで将門様は窮地に立たされるわ」

 義武がさすがに届きはしない距離から弓を構えると、敵の副将は恐れをなして退却した。


「義武殿!見事な武じゃ!これならば将門の首を必ず討ち取れる!」

 義武が味方の陣へ戻ると、押領使の藤原 秀郷ひでさとが義武を褒め称えた。

「並ぶ者無きその武は必ずや将門を討ち取れよう!そうすれば坂東もようやく争いがなくなろう!」

 秀郷が高らかに言った言葉を義武は一瞬、矢で敵を射抜くときと同じ目で見た。何も気付かぬ秀郷は将門を討ち取らんと軍を進めた。




 2月15日満月の夜、かぐや姫の屋敷はまるでここでも戦をするかのように武装した検非違使が隙間無く、屋根の上にもいつでも戦えるように備えていた。かぐや姫は翁、媼と共に塗籠の中にいた。翁と媼は二人してかぐや姫を抱きしめていた。

「たけ、そなたはわしらの夢を叶えてくれた・・・子が出来ず、貧しく終わるはずのわしらの人生にそなたが現れ、今こうして何不自由無く暮らしておる。なぜ、今更になって月に帰るのじゃ?」

「・・・おとっつぁん」

「たけや、嫌な男に嫁がなくても良い、例えそれが摂政であってもじゃ。子が出来ず、わたしらが孫を見れなくても良い。ただそばにいてくれ!私たちの最後の願いじゃ!」

「・・・おっかさん」

 目に涙を浮かべながら、必死に嘆願する翁、媼の顔を見れず、かぐや姫はうつむきながら自分の涙をこらえていた。うつむいた膝の上には義武が作った鉢をしっかりと両手で持っていた。


 そして満月が異様に輝きだした。その光はかぐや姫の屋敷へと近づいてきた。その光は最初一つの大きな光から上下左右に小さな四つの光が分かれると四つの光は屋敷の周りに留まると兵達を照らした。検非違使達は肝をつぶした。

「月がこっちに来るぞ!」

 一人の検非違使が叫んだ。まるでその言葉のように真ん中の大きな光が寝殿の階の前へと降りた。中から数人の見なれぬ甲冑、見なれぬ武器を持った兵が周りの警備している検非違使を武器で威嚇した。その兵の中には、はきがいた。そして最後にあの白い男が降りてきた。

 白い男は周りの検非違使をずっと見回した。検非違使達の持っている弓や薙刀がどんどん灰になっていく。そして彼らはゆっくり膝をつくと、そのまま意識を失った。

 白い男は階を上り始めると、中で何重にも鍵がはずれると塗籠の扉が独りでに開いた。白い男は何一つ乱れぬ歩調で塗籠の前に立った。中で翁と媼が震えながら必死にかぐや姫に抱きしめていた。かぐや姫はだまってしろい男を見ていた。悲しい顔で見ていた。

「姫、帰りましょう」

 かぐや姫は悲しい顔から凛とした顔へと変わると、立ち上がり両手に義武の鉢を持ったまま、翁、媼から離れていった。

「たけ!わしらを置いていかないでくれ!」

 翁が叫びながらかぐや姫を追いかけようとした。しかし白い男が右手を翁の前にかざすと、翁の足は硬直し動けなくなった。翁は小さくなる姫の背中をずっと見ていた。一切振り向かないかぐや姫の背中を涙を流しながら見ていた。

 白い男は翁、媼に一礼すると光の中へと戻っていった。そして光は浮かび上がると、月目指して空の彼方へと消えていった。

 

 屋敷には再び暗闇が戻り、空には満月が浮かんでいた・・・。




 その前日、坂東の地で将門討伐の最後の戦が行われていた。場所は将門の本拠地である幸島郡であった。

 3000を超える藤原 秀郷に対して将門の残された兵力は400しかいなかった。追い詰められた将門は必死の覚悟で帯びていた太刀を抜くと自慢の騎馬隊を率いて圧倒的に多い秀郷軍目掛けて突撃した。


 秀郷軍の後方には秀郷と貞盛と・・・義武が馬に乗って、突撃してくる将門を見ていた。


 さすが、将門様・・・最後の最後まで戦うおつもりか・・・

 義武はそう思いながら、箙から矢を一本取り出した。

「ええぃ、なんという悪運の強さだ・・・将門は」

 風は将門側の追い風になっていた。まるで天が将門に味方しているように・・・

 秀郷の兵達はもちろん、義武も自慢の弓を使えなかった。それでも義武は弓をいつでも放てる状態で静かに待っていた。

 秀郷の郎党共らが逃げ出した。

「おっおい、待てーお前ら!」

 逃げる郎党共らを秀郷は真っ青になりながら、引きとどめた。しかし完全に将門を怖れている心に秀郷の声など聞こえていなかった。

「よ、義武殿・・・なんとかならんか~」


 ・・・おかしい・・・


 義武も、秀郷などは無視していた。この時、義武は奇妙に感じていた。その感覚をそのままに遂に義武が迫る将門に矢を定めた・・・。

 将門が迫ってくる。相変わらず、風は将門を味方していた。4町、3町その距離は段々近くなる。そして義武と将門の距離が2町(220㍍)になったとき・・・風の向きが変わった。


 ダァン!


 義武が放った矢は轟音と共に将門目掛けて飛んだ。


 バキィヤァ!


 矢は将門の星兜を見事貫いた。


 ・・・・・・・・・・


 奇妙な感覚だ。義武は馬を駆けると将門の亡骸へ近づき顔を見た。後ろから秀郷が来ると、秀郷も将門の顔を見た。

「間違ない!平 将門じゃ!義武殿、お見事!」




 秀郷、貞盛は大喜びで将門の首を持って帰路についた。義武は奇妙な感覚を持ったまま幻助と一緒に都を目指し、常陸国から15日には武蔵野国に入っていた。

「はやく都へ帰って摂政に将門の首を見せたいものだ!なぁ、義武殿!」

「・・・・・・・・・・」

 意気揚々としゃべる秀郷に対し義武はずっと無言だった。彼はどうも腑に落ちなかった。急に遠くの平原の彼方を見た。


 ・・・戦の勘が働いた・・・


「秀郷殿、気になることがあり申す。ここで分かれてもよろしゅうございますか?」

「ん・・・まぁ・・・よいが?」

 義武は平原の方へと向かった。幻助も後に続いた。秀郷は首をかしげて見ていた。

「幻助!お前まで付いてくることはない!」

「俺は義武様の家来です!最後までお供します!」


 義武と幻助の馬はひたすら平原を駆けた・・・。

 あたりが段々と暗くなる中、馬は全く疲れることなく走り続けたが、夜が来ると遂に馬は限界に達した。義武と幻助は馬から降りた。

「幻助、ここから先は俺一人で行かせてくれ・・・」

「わかりました・・・ちゃんと帰ってきてくださいよ・・・」

 幻助の義武は走り出した。残された距離を走った。幻助は段々小さくなり、だいぶ遠くの方へと見えなくなっていた。

 そしてそれと対照に段々と見えてくる人物がいた・・・。

 まるで自分が来るのを待っていたかのように・・・。


「・・・父上・・・」

「義武、戦の勘で俺を見つけたか・・・さすが鬼よ」

 あれは影武者だったのだ。義武が違和感を感じたのはあれが本物ではなく影武者だったからだ。そして今まさに、だれも邪魔されないところで2人は対峙した。


「義武、俺は帝になったぞ!お前も関白になれ!夢を叶えるのだ!」

「もうこれまでです。姫はもういません」

「まだだ!まだ終わってはおらん!あの者が姫を俺のもとへ連れてくる!」

「その者の力を頼るのですか?」

「義武、お前はどうする?」

「・・・己のすべきことをする」

「強き目をしておる・・・それでこそ俺の息子・・・それでよい」

 将門が太刀を抜いた。そして義武もずっと自分を悩ましていた天光を抜いた。

 将門は太刀を脇構えに構えたまま徐々に間合いを詰めていく。義武は八相の構えで左足を前にして微動だにしない。そして将門が一定の距離に達したとき義武の首めがけて斬り掛かった。 


 シュン!


 将門の太刀が左から右へ空を斬った。紙一重で義武は左足を引っ込めて将門の太刀をかわした。そして天光を右斜め下に構えた。将門の太刀は一撃では終わらなかった。右へ空を斬った太刀は素早く切り返すと再び義武の首を襲った。


 ザンッ!


 将門が腹から胸にかけて血を流して倒れた・・・。

 義武の方が将門の動きを見切っていた。

 身体左右を反転するように右足を出し、下から天光で将門の腕も胴も胸も鎧ごと断ち切った。義武は血だらけになった天光を右腰の方に下ろした。


 将門の人生が終わった・・・。

 義武は一人立っていた。

 あの幼きときに決意し、鍛え上げた魂が宿った強き目でもう動かなくなった将門を見ていた。その強き目から流れ落ちてくるものがあった。


 泣いてもいいかな・・・


 義武の心にそんなすきができたとき、何も聞こえない暗い静かな夜、義武の目から8歳の時以来一度も流さなかったものが流れて出た。


 その時、自分の周りが明るくなった。義武は空を見た・・・。

 月が綺麗だった。月が姫に出会う前に見たときよりもさらに、明るく自分を照らしていた。


 ・・・姫・・・


 義武の強き目が柔らかく優しくなった。義武は笑った。自分を包み込んでくれている光の中で義武は笑っていた・・・。


ここまで読んでくださった方にはお礼を申し上げます。

本当にありがとうございます。

大変下手な小説で恥ずかしい限りですが、これから精進を重ねて参ります。

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