7 エピローグ マリアンヌ・ヴァイザー 17歳 フェルディナント・ベンダールとシルヴィア・ロイトリン結婚式当日
マリアンヌとシルヴィアが抱き合ってから暫くして、部屋にノックの音が響く。
「私の美しい婚約者は、ここかな?」と言って、部屋に現れたのはシルヴィアの新郎、フェルディナント・ベンダール殿下であった。
「ご機嫌麗しゅう。殿下」と、マリアンヌは臣下の礼を取る。
「フェル、マリアンヌ様。私は、少し用事を思い出しました。出来ればこの部屋で少しお待ちください。すぐに戻ってまいりますわ」と言って、シルヴィアは、新婦控え室から優雅に出て行った。
「どうやら、シルヴィア様に気を使っていただいたようでございますね」とマリアンヌは口を開いた。
「そうだな」とフェルディナントもそれに同意した。この結婚式が終われば、フェルディナントとシルヴィアは結婚をする。1つの部屋にマリアンヌとフェルディナンドが二人っきりで部屋にいることなどあり得ない。最後の機会であった。
しばしの沈黙の後、先に口を開いたのはマリアンヌであった。
「お変わりはありませんか?」
「ああ。よろしくやっているよ」とフェルディナントは笑顔で答える。
「殿下。どうか、お礼を言わせてください」
「いや、礼を言われるようなことなどしていないさ」とフェルディナントは首を横に振る。
「では、独り言を言うのをお許しください。私が、父母と共に殺されなかったのも、あなたの助命があってのこと。感謝致します。ロイトリン公爵の家に仕えていた頃、私の部屋に蝋燭をそっと届けてくださったのはあなたですね。感謝致します。私が今の夫、バルナーと結ばれることができたのも、あなたのお働きがあってこそ。感謝致します」
そう言って、マリアンヌは臣下の最敬礼を取る。
「マリアンヌ・ヴェルガ—婦人は、ずいぶんと、私を買いかぶっている」とフェルディナンドは冗談っぽく言った。
「私の独り言でございますから」とマリアンヌも言って、フェルディナントと共に、互いに笑い合った。
「フェルディナント殿下。贈り物をお返しするのは、大変失礼かと存じますが、殿下からの贈り物を1つ、お返し致します。どこかこれをお受け取りください」と、マリアンヌはぼろぼろになった本から、そっと栞を取り出し、フェルディナントに差し出す。
「辛い日々が続いた時、私を支えてくださったものです」と、マリアンヌは言った。
押し花がされた栞だった。朝顔の花だった。
「マリアンヌには、輝く宝石も、美しいドレスも贈ることができなかったがな」とフェルディナントはため息交じりに小声で言った。
「いえ、多くのものを戴きました」とマリアンヌは真っ直ぐにフェルディナントを見つめる。
「分かった。これは受け取ろう」と言って、フェルディナントは栞を受け取った。そして「だが、これを返したからといって、あの日の約束が無効になったとは言わせないよ?」とフェルディナントは優しく微笑む。
「もちろんです。国母となることはかないませんでしたが、民を支え、そしてフェルディナント様をこれからも支えて参ります。夫であるバルナー・ヴェルガ—共々」とマリアンヌは言った。
咲き乱れた恋の花が枯れ、実を結んだのは愛だった。
読んでくださりありがとうございます。語るべきことは書かず、できる限り行間に詰め込んでみました。
感想戴けたら光栄です(優しい酷評もお待ちしております)。




