第9話
「はい、もう手を離してもいいわよ。登録証の発行にはちょっと時間がかかるから、その間にギルドの説明をすませちゃうわね」
ラティーナはそう言うと、まるで用意された台本を読むかのように、立て板に水といった調子でよどみなくギルドの説明を始めた。
冒険者ギルドに登録した冒険者はランク制になっており、G→F→E→D→C→B→A→Sの順でランクが上がっていく。初登録のユイはGランクからスタートだ。
受けられる依頼はランクごとに決まっていて、ランクが上がるほど受託できる依頼の難易度も高くなる。最下級のGランクは街の中だけで完結できる依頼のみとなっており、買い物の代行やペットのお守りなど大したものはなく、いわゆるなんでも屋のような印象だ。Fランクから街の外での依頼が受けられるらしく、商隊の護衛や貴重品の運搬などはDランクから。
依頼については自分のランクの一段階上まで受けることができ、下限はない。例えばFランク冒険者ならGとFとEまでの依頼を受けられる。ただし、Gランクの冒険者はその限りでなく、Gランク以上の依頼は受けられない。
基本的に受託した依頼を規定回数成功したあとに申請することでランクアップが可能だが、あまりにも頻繁に失敗すれば罰金や一定期間ランクアップ停止などのペナルティが発生することもあるため、自分の実力にあった依頼を選ぶことが重要だということだった。さらにペナルティによって冒険者ギルドから登録を抹消された場合、どこの支部に行っても再登録は出来ない。
なお、自分のギルドランクより下位の依頼を受けた場合、報酬は得られるが、ランクアップに必要な依頼達成回数としてはカウントされないらしい。
EからDに昇格する時、CからBに昇格する時にはギルドの出すランクアップ試験を受ける必要があるという。
そこから見てもわかるとおり、G~Eランクは駆け出し、D~Cランクになってようやく一人前、B~Aランクはベテランという目安と思って間違いあるまい。
依頼は掲示板に貼られている依頼用紙を窓口に持ってきた時点で受領が完了となる。そこに書かれている報酬金額は税金や諸々の手数料などを引いた額になっているため、そのまま全額が依頼を受けた者の懐に入る仕組みだ。
依頼書に期限の記載があるものについては、その期限内に依頼を達成できない場合、報酬の三割を違約金として冒険者ギルドに支払わなければならない。逆にいえば無期限の依頼――薬草の採取や魔石の回収など――は未達の罰則がないため、気軽に複数の依頼を受けても大丈夫だと教えられた。
「ギルドの説明はこんなところかしら。何かわからないことはある?」
「とりあえず大丈夫そうです。登録証の発行はあとどれくらいかかりますか?」
「ちょっと待ってちょうだいね。……っと、ギルド員の登録証が出来上がったみたいだわ。これがあなたのギルドカードよ」
ギルドカードは手のひらに収まるくらいのサイズで、金属のような光沢を放っている。
「これで登録手続きはおしまいね、お疲れ様。このギルドカードにはすでにあなたの魔力の波長が記憶されてるから、登録者本人以外が触ると氏名や年齢などの登録情報は一切表示されなくなるの」
ラティーナの手元にあるギルドカードを覗き込めば、確かに表面には何も表示されていない。
「登録内容に間違いがないか、念のため確認してちょうだい」
その言葉に従って、手渡されたギルドカードを確認するユイ。
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名前……ユイ
年齢……十五歳
種族……人間
登録地……アストレリア王国 ローゼリウム
ギルドランク……G
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(あ、よかった。ちゃんと種族は人間になってるみたい)
ユイはほっと息を吐いた。
もしかしたら本来の種族名が表示されてしまうのでは、と内心ハラハラしていたのだが、それは杞憂だったらしい。
「特に問題ないと思います」
「それじゃ、ギルドカードはそのまま持ち帰ってもらって大丈夫よ。このギルドカードは初回のみ無料で発行してるんだけど、紛失や破損しちゃった場合なんかの再発行には銀貨一枚を手数料として支払ってもらうことになるから、くれぐれも注意してね。今説明したギルドの規則についてはこの羊皮紙にも記載があるから、時間があるときにでも目を通しておくといいわよ」
ラティーナはユイにギルドカードと羊皮紙が手渡しながら、一度ギルドに登録しても一年間全く冒険者としての活動をしていない場合登録が失効してしまうため、一年ごとにギルドでの更新手続きが必要になるという一言を付け加えた。
「あ、私はローゼリウム支部で受付業務を担当してるラティーナ・リンデルムよ。何かあれば気軽に声をかけてね、ユイちゃん」
「はい」
「それと、GランクからFランクへの昇格については、特例として戦闘の心得があると認められれば即日ランクアップできるのよ。冒険者になろうっていうのは自分の腕っ節に自信がある人ばかりだから、大抵は登録したその日にGからFにランクアップしてるみたいだけど、ユイちゃんはどうする?」
「具体的には何をすれば戦闘の心得があるって認めてもらえるんですか?」
「こちらで選定したギルド員と、一対一で試合をしてもらうことになるわね。あくまでも戦闘能力の有無を確認するためだから、そのギルド員と戦って勝たなきゃいけないってことじゃあないわよ。その点についは安心してちょうだい」
この特例が敷かれたのは新規登録者の実力を判断するためという意味合いもあるが、どちらかというと実力がある者をいたずらに低ランクでくすぶらせておくのは勿体ないという、実利に絡んだ理由が大きい。要は実力のある冒険者はどんどんランクアップして稼いでね、とそういうことだ。徹底した実力主義の冒険者ギルドらしいことである。
ともあれ、身分証明書がほしかっただけのユイにはあまり関係のない話だ。今のところランクアップ申請をする予定はないとユイが言うと、ラティーナはさもありなんというようにうなずいた。
「まあ、無理強いするようなものではないし、冒険者としてやっていくわけじゃないなら必要ないものね。もし気が変わったら、ランクアップ申請はすぐにできるから遠慮せずに申し出てちょうだい。それと、実力判定の試合は午前に行われているから、当日中に受けたいならお昼前に窓口に申し出たほうがいいわよ」
「わかりました。ご親切にありがとうございます」
(ランクアップ申請、ねえ。下手に戦って勝っちゃったら、面倒なことになりそう)
わざわざ「ギルド員と戦って勝たなければいけないわけではない」と明言するあたり、新規登録者がその試合に勝利することはあまりないことなのだろう。まだ力のコントロールに慣れていないユイでは、不自然にならない程度に負けを演じるのは難しい。勝利を収めて無駄に注目されることを考えれば、ランクアップ申請をしないというのが賢明であろうと思われた。
ユイの目標はあくまでも善良な一般市民なのだ。本性が竜という時点で無理があるというものだが、本人はいたって大真面目であった。




