第一話【明かりの届く場所】
創作BL物語
初めての投稿&長編作成為
至らぬ点あるかと思いますが、よろしくお願いします。
十一月も終わりに近づいた頃だった。
居酒屋のバイトを終え、夜になると吐く息がうっすらと白くなる。
そんな少し寒い夜。
俺はいつものように酒と煙草を買いに、近所のコンビニへ向かった。
切れかかっているのか、街灯が淡く明滅している。
その下を通ると、金髪がぼんやりと照らされた。青いサングラス越しの夜は、いつもより少しだけ暗い。
もう冬になるというのに、俺の格好は白いパーカーの上に薄手のデニムジャケットを羽織っただけだった。
「うぅ~、流石にさみぃ~!!」
思わず肩をすくめ、両腕を摩る。
……自分で言うのもなんだが、完全に服装を間違えた。
まぁいい。どうせすぐそこだ。
俺――青沼樹は、冷たい手をポケットに突っ込みながら、コンビニへ足を向けた。
今の時刻は二十一時過ぎ。夜も少しずつ深くなっていた。
コンビニに着き、自動扉が開いた瞬間…。
寒い夜のオアシスかのように、暖房の効いた空気が肌を包んだ。
「…生き返る」
寒さから強張っていた体の力が抜けて、冷え切った手をポケットから出し、俺は店内へ入る。
買うものなんて、最初から決まっている。
迷う必要もなく、酒のコーナーへ向かった。
酒の棚には、また見たことのない缶が並んでいた。
メロンソーダだの、
コーヒーだの、
レモンティーだの。
もう何でも酒にすりゃいいってもんじゃねぇだろ…。
そう思いながらも、新作を見るとつい気になってしまう。
まぁ結局、手に取るのはいつものストロング缶だ。
せっかく温まってきていた手の先が、
冷蔵庫から缶を取り出すために、またひんやりと冷やす。
ぐぅ~……腹の虫が響く。
店内には俺と店員しかいない。
それでも、冷蔵庫の稼働音に紛れて鳴った腹の音が恥ずかしく、
思わず顔に熱が集まり、何事もなかったように腹を摩る。
そういえばまだ夕飯を食べていなかったな、と思い出す。
何も入っていない胃袋を意識し始めたら、最後。
空腹感が気になる…。
つまみにさきいかでも買うかと思っていたが、空腹を意識してしまった今ではそんなものじゃ足りない。
自然と目は、レジ前のホットスナックコーナーへ向いていた。
いつもの時間なら、もう売り切れているはずだ。
だが今日は、どうやら運がいいらしい。
ほとんどの商品がなくなり、照明まで落とされたケースの中。
肉まんとあんまんだけが、まるで「買ってくれ」と言わんばかりに残っていた。
「……よし…、すいませーん!」
品出し中の店員に、聞こえるように少し声を張って呼ぶ。
「いらっしゃいませ。お待たせしました。」
「えーっと、これと、肉まんとあんまんと…たばこの……46番ください。」
「はい、かしこまりました。ありがとうございます。」
淡々と会計作業をする店員。目が一切合わない。
なんだか、不愛想だなと思いながらもその言葉は飲み込み、年齢確認ボタンを押し、今はもう主流になっているキャッシュレスで会計を済ませる。
ありがとうございました。という声を背中に、一服でもするか、とコンビニの端へ向かう。
自動扉が開けば、また冷たい風が頬を撫でる。
どうせすぐ食べるからと袋を断って、
適当にポケットに入れた肉まんとあんまんの温もりが、まるでカイロのように一部だけ温める。
ここのコンビニは優秀だ。喫煙スペースがある。
喫煙者あるあるだと思っているが、
何故か冬の寒い空気に触れながら煙草を吸いたくなる。
もしこの行動に名前があるなら、ぜひとも教えて欲しいものだ。
買ったばかりの新品の煙草を開け、包んでいたフィルムのごみをクシャリ、と握りこみ、常設してあるコンビニの燃えるごみに入れる。
トントン、と煙草の箱を叩き、一本だけ取り出して口に咥える。
「ライター…ライター…」
持ってきていたはずのライターを探し、ズボンのポケットから取り出す。
喫煙スペースの近くまで来て、ようやく真っ直ぐ前を見る。
いつもなら、誰も居ないはずの場所。けどその夜は違った。
この時間には似合わない学生服を着た少年が、一人。
コンビニの明かりの届く端で、本を読んでいた。
でも俺は、彼に見覚えがある。
ニヤッと頬を上げながら、近づいて行く。
相変わらず静かに本を読んでいる彼の名前を呼んだ。
「よぉ、悠真~」
ビクッと名前を呼ばれたことに驚くような仕草をしては、
本からゆっくりと顔を上げ、悠真は俺を見る。
悠真は少し肩を強張らせながら、相も変わらず堅っ苦しく俺に話しかけてくる。
「…あ、青沼さん?」
「さん、って!やめろよ、堅っ苦しい!!樹でいいって言ったろ、樹で!」
「えーっと…そうでしたっけ?」
コンビニの明かりに照らされた金髪が、夜の闇の中ではやけに目立つ。
そんな俺に圧倒されたのか、悠真は少し視線を逸らした。
俺は、そんな悠真を少し通りすぎ、灰皿の前で止まり、やっと火をつけた。
先が赤くなり、ゆっくり煙を吸い込み、吐き出す。
吐き出された煙は、悠真が吐く白い息と少し混ざっていた…。
佐藤悠真。
俺より三つ下の、十七歳。高校二年生。
百六十五センチくらいの小柄な体に、目にかかりそうな重ためのマッシュで黒髪。
いつ見ても大人しくて、今日も手には本を持っていた。
俺とは正反対。
金髪にサングラスなんてかけて、夜のコンビニで煙草を吸ってる俺とは、
まず同じ場所にいるタイプじゃない。
まぁ、分かりやすく言えば――典型的な陰キャくんだ。
「なぁ、お前最近いつもここにいねぇか?」
「…そ、そうですか?」
そうこの時間に会うのは、別に初めてではない。
最初に悠真の名前を知ったのは、俺がまだ高校生だった頃。
当時から続けている居酒屋のバイト先でだ。
ある常連客がいた。
そいつがまぁ、とにかく子供自慢の激しい人だった。
『可愛いだろ~!俺の子供達~!!』
酒が入るたびに、そんな調子で絡んでくる。
息子がどうだ。
娘がどうだ。
成績がどうだ。
部活がどうだ。
何度も何度も聞かされているうちに、会ったこともないのに俺はその息子の名前まで覚えてしまっていた。
――佐藤悠真。
そしてある日。
その常連は、本当に息子本人を連れてきた。
「悠真くん、だったよね?」
「は、はい……!」
「俺は青沼樹。よろしくな」
「…佐藤悠真です」
悠真は俺の顔を見上げ、少し首を傾げた。
「あの……俺、あなたに会ったことありましたっけ?」
「んや?」
「じゃあ…なんで名前、知ってたんですか?」
「親父さんから散々自慢話聞かされてたんだよ、悠真くんの」
「…父さん、そんなに話してたんですか?」
「おお、めちゃくちゃ」
「……」
「ん?どうした?」
「いや…なんだか、恥ずかしくて…」
顔を少し伏せて、視線を逸らす悠真。
モジモジと恥ずかしさ丸出しで、なんだか自慢する理由が分かった気がした。
「なはは、いいじゃねぇか!愛されてるってことで!!」
「……別に、そういうのじゃ」
「ん?」
「……なんでもないです」
何か言っていた気がしたが、悠真は誤魔化した。
それからというもの、たまに悠真は親と一緒に店に来るようになった。
何回か会話して、俺と年が三つしか違わないと分かれば、少し心を開いて話をするようになっていた。
でも、悠真が高校生に上がってから、ほとんど店に来なくなった。
常連の父親に聞けば、「もう高校生になったからな、勉強で忙しいんだ」とだけ言われた。
確かに、俺が大学に上がった頃、悠真も高校生になっていた。
それなりに勉強も忙しいんだろう。
それからしばらく、ほとんど会っていなかった。
最近になって、このコンビニで何度か顔を合わせるようになるまでは。
煙草を吸いながら、悠真を見る。
「…何ですか?」
俺の視線に気が付いたのか、悠真は本を読みながら言った。
高校生になり、最近コンビニで数回会っただけだが、
なんだか、親戚の子供が久しぶりに会ったら随分大きくなっていた――そんな気分だった。
「いやぁ、別に?
…それよりお前高校生が二十一時過ぎにコンビニの端っこで読書って、なかなか見ねぇぞ」
「……家より、ここの方が静かだから」
「へぇ~?」
なんだか少し気まずい空気が流れる。
「…青沼さんだって」
「樹」
「…い、樹、さん」
「さんいらねぇって」
「…樹」
「よし」
観念したように悠真はやっと俺の事を樹と呼んだ。
この時の俺は、まだ知らなかった。
夜のコンビニで始まった、この何でもない関係が。
俺の人生を、大きく変えることになるなんて。




