第14章:長い別れ
李本徳医師の予期せぬ自殺の後、ヒポクラテス介護センターは急速に崩壊し始めた。
通報を受けてから一時間もしないうちに、大勢の当局関係者が施設へ押し寄せた。
職員も住民も、その徹底した捜査ぶりに驚かされた。
警察は施設のほぼ隅々まで調べ、すべての部屋を捜索し、一つとして見逃さなかった。
そして、あの放棄された地下区域も発見された。
違法な手術室。
そこに残されていた証拠は、すべて回収され、記録された。
韓博文と林莉も、回収していた分厚い移植者名簿を警察へ提出した。
残りのファイルもすべて押収され、ヒポクラテス介護センターに関与した者たちを起訴するための証拠として保管された。
ついに、施設を覆っていた優雅な外面は完全に剥がれ落ちた。
残ったのは――
医療施設の皮を被った屠殺場だけだった。
ジャズを愛し、腕に安っぽい太鼓のタトゥーを入れていた、あの無礼なバス運転手も逮捕された。
その日を境に、彼のための歌はなくなった。
彼のために楽器が奏でられることも、二度とない。
博文がミスター・シンと呼んでいた外科医も、容体が安定すると逮捕された。
しかし――
計画の真の黒幕は、今も自由の身だった。
その事実は、博文の心の奥底まで苛立たせた。
だが、今はそれについて考えている暇はなかった。
彼は地元警察でも特に経験豊富な二人の刑事から事情聴取を受けていた。
以前、リーヴァイの事件を捜査したのと同じ男たちだ。
博文は二人の名前を思い出そうとした。
まあ。
思い出せなくても問題ない。
向こうも、とっくに彼の名前を忘れていたのだから。
「つまり、確認させてもらうが」
刑事の一人が言った。
「ヒポクラテス介護センターは、住民から臓器を盗み、それを病院へ売っていたと?」
「そのとおりです」
「そして施設長――李本徳医師は、それをすべて君に直接告白した後、自殺した?」
「はい」
もう一人の刑事が革張りの手帳を開き、身を乗り出した。
ほとんど新品に見える。
使われているのは、数ページだけだった。
「さらに君は、拉致された後、林莉看護師に救出されたと主張している」
「はい」
「逃走中、二人の外科医と遭遇した。一人は負傷し、もう一人は死亡した」
刑事が顔を上げる。
「両方とも、君がやったのか?」
「正当防衛です。それに死亡したほうは事故でした」
「それはこちらで判断する」
最初の刑事が冷たく答えた。
博文は目を転がした。
もう慣れていた。
警察は何かあるたび、まず彼を容疑者として扱う。
腹は立つ。
それでも、できるだけ冷静に対応した。
「他に質問は?」
「最後に一つだけ」
もう一人の刑事が言った。
「君自身は被害者だと言っているが……臓器提供の同意書に署名したことは?」
少し間を置き。
「もちろん、自然死した後の話だ」
「ありません」
博文は答えた。
「これからするつもりもありません」
「分かった。以上だ」
刑事は手帳を閉じた。
「また質問があれば、こちらから連絡する」
相棒が乾いた笑い声を漏らした。
二人は荷物をまとめると、冗談を言い合いながら部屋を出ていった。
どうやら。
聞かされた話のすべてを、まだ完全には信じていないらしい。
だが。
もうどうでもよかった。
謎は解けた。
生き残った住民たちは安全になった。
危険は、ようやく去った。
そして韓博文には、今すぐ取り組まなければならない使命もなくなった。
少なくとも――
今のところは。
❖
その後の数日間で、ヒポクラテス介護センターの住民たちは、少しずつ別の長期介護施設へ移されていった。
事件が世間へ広まるにつれ、政府機関や住民の家族から、施設の閉鎖を求める声が殺到した。
理事たちのメールも。
電話も。
郵便受けも。
怒りに満ちたメッセージで埋め尽くされた。
そしてついに。
理事会は最終決定を下した。
ヒポクラテス介護センターは、永久に閉鎖される。
一週間以上、博文は自分の転院を急ごうとはしなかった。
できるだけ長く。
林莉と一緒にいたかったからだ。
ここへ来て以来。
二人が共に過ごした時間の中で、最も穏やかで心地よい日々だった。
住民の大半がすでに去っていたため、林莉にも以前より自由な時間があった。
「ここを出るって、どんな気分?」
彼女が尋ねた。
博文は俯き、しばらく考えた。
「分からない……」
「でも、どこへ行くにしても……」
「ここよりはマシだよな?」
「もちろん」
林莉は即答した。
「そんなこと考えちゃ駄目」
「本当に」
「縁起でもないから」
二人は笑った。
だが、その笑いの下には。
どちらも言葉にできない重さがあった。
いつか別れの日が来る。
二人とも分かっていた。
そして、もっと恐ろしいのは――
それが永遠の別れになるかもしれないこと。
今は。
どちらも、その話をしたくなかった。
最後の瞬間まで触れないようにしようと。
無言で約束しているかのようだった。
だが。
それ以外の無難な話題も、少しずつ尽き始めていた。
「ここが閉鎖されたら、どこで働くんだ?」
博文が尋ねた。
「たぶん、前に働いてた病院へ戻ると思う」
林莉が答えた。
「家からも近いし」
「子供たちの大切な瞬間を、もう何度も見逃さなくて済むから」
「子供?」
博文が驚いて首を傾げた。
「ええ」
林莉が微笑む。
「夫と、三人の子供がいるの」
「男の子が二人と、女の子が一人」
「一番上はネイサン。十二歳」
「いつも喧嘩してるわ」
「正直、あの子が私に似すぎてるせいなんだけど」
「次男のサイモンは七歳」
「あの子は静か」
「本が大好きでね」
「人と話すより、小説を抱えて丸くなってるほうが好きなの」
「最初は夫と二人で心配してた」
「でも心理士さんには、慌てなくていいって言われたわ。たぶん一時的なものだろうって」
彼女は肩をすくめた。
「それでも……」
「やっぱり心配だけどね」
「それから末っ子のローラは――」
林莉の表情が。
一瞬で柔らかくなった。
「あの子は小さな太陽みたいな子」
「バレエが大好きなの」
「でも……」
「ずっと仕事ばかりしてたから、初めての発表会を見に行けなかった」
少し黙った後。
博文へ優しい笑みを向けた。
「でも、後悔はしてない」
「だって、あの夜……」
「あなたを救えたから」
博文は俯いた。
顔に罪悪感が浮かぶ。
「ごめん」
静かに言った。
「発表会を見られなくて」
そして付け加えた。
「でも……」
「来てくれて、本当に良かった」
「誰かが残って、あなたの世話をしないといけなかったからね」
林莉が笑った。
「罪悪感なんて持たないで」
「あなたのおかげで、私はまた家に帰って、あの子たちに会える」
「ありがとう」
その目に。
ゆっくり涙が溜まっていった。
博文も。
自分の涙を堪えるのに必死だった。
やがて。
小さく囁く。
「俺たちは……」
「お互いを救ったんだな」
少し沈黙した後。
林莉が尋ねた。
「そういえば……」
「あなた、自分の家族のことって、ほとんど話さないわよね」
「ここで起きたことは知ってるの?」
「きっと心配してるでしょう?」
「いや」
博文は。
静かに答えた。
「知らない」
「これからも知らないよ」
「どういうこと?」
林莉は思わず尋ねた。
博文は。
話題を変える方法を探した。
短い沈黙が。
空気を気まずくする。
幸い。
林莉は気づいた。
触れられたくない傷に。
自分が触れてしまったのだと。
それ以上は追及しなかった。
「じゃあ……」
「転院がいつになるか、誰かに聞いた?」
「もうすぐ」
博文が答えた。
「たぶん数日以内」
「受け入れてくれる場所が見つかれば」
「分かったら教えて」
林莉が微笑んだ。
「会いに行くから」
そして首を振る。
「いや、やっぱりいい」
「教えなくていいわ」
「自分で調べる」
「何があっても――」
「私から逃げられると思わないでよ」
博文は。
彼女を見つめた。
そして。
ようやく心から笑った。
「別に、逃げるつもりはないよ」
それからの数日は。
博文にとって特に辛かった。
今回の騒動の影響で、郡内の介護施設はすべて満床になっていた。
ソーシャルワーカーからは、州外へ移される可能性まで告げられた。
林莉は。
そんなことにならないよう、できる限りのことをすると約束した。
だが。
二人とも分かっていた。
決定権は。
彼女にはない。
週の終わりには、韓博文はヒポクラテス介護センターに残る最後の数人の住民の一人となっていた。
職員の大半も。
すでに新しい仕事へ移っていた。
残った者たちは。
最後の業務を片づけているだけ。
建物から誰もいなくなれば。
彼らも去る。
部屋を出て廊下を移動できるとき。
博文はいつも。
施設の奇妙な静けさに驚かされた。
まるで。
あらゆる邪悪なものが。
自分たちを生み出した深淵へ這い戻っていったかのようだった。
あまりにも長い間忘れていた。
平和とは――
こんな感覚だったのか。
もう調べる謎はない。
殺そうとしてくる人間もいない。
少なくとも――
この建物の中には。
今すぐ頭を使う問題がなくなると。
博文の思考は。
次第に暗い可能性へ向かっていった。
李本徳医師が。
一人で動いていたとは思えない。
つまり。
まだ誰かが自由の身だ。
自分を傷つけることのできる誰か。
あるいは――
数え切れないほどの罪のない人々を。
不思議なことに。
博文は、それほど心配していなかった。
事件はメディアで大々的に報道されていた。
これほど世間の注目を浴びれば。
謎の黒幕も、しばらくは身を隠すしかない。
少なくとも。
少しの間は。
それは。
誰にとっても、やり直すための時間になる。
そして事件も。
少しずつ世間から忘れられていくだろう。
新しい手がかりがない以上。
警察も、そう遠くないうちに捜査終了を発表するはずだ。
博文は。
李医師の背後にいる人物について刑事たちへ話したときのことを覚えていた。
二人は。
まるでアルミホイルの帽子を被った狂人を見るような目で。
彼を見ていた。
誰も信じてくれなくても。
警察には他に追うべきものがある。
李医師のファイルの中から。
違法に入手された臓器を購入した医療関係者の名簿が発見されていた。
その者たちは。
次々と逮捕されている。
もしかしたら――
その中の誰かが。
真の黒幕と連絡を取っていたかもしれない。
もしかしたら――
いつか。
誰かが真実を語る勇気を持つかもしれない。
その可能性だけでも。
博文には少し慰めになった。
なぜなら。
彼自身も。
これから別の喪失と向き合わなければならない。
それは。
もっと辛く感じられるものだった。
❖
その日の夕方。
勤務終了の少し前。
林莉は、いつものように博文の部屋を訪れた。
二人であの計画を止めて以来。
彼女は毎日。
彼の様子を見に来ていた。
いつもなら。
明るい笑顔で現れる。
だが。
今夜の顔にあるのは。
悲しみだった。
どんな知らせを持ってきたのか。
博文には聞くまでもなかった。
「転院先が決まったわ」
林莉が。
静かに言った。
博文は。
苦笑した。
「その顔を見る限り、いい場所じゃなさそうだな」
「カリフォルニアの介護施設へ移ることになった」
部屋から。
空気がすべて抜けたように感じた。
博文は。
いくつもの可能性を想像していた。
だが。
これほど辛いものは。
一つもなかった。
そうか……。
ついに、カリフォルニア名物の太陽を見られるんだな。
日焼けだってできるかもしれない。
でも……。
一人になる。
「遠いな」
小さく言った。
「うん」
林莉は。
無理に笑みを作った。
「何かできればいいんだけど」
「でも、心配しないで」
「会いには行く」
「約束する」
「どうやって?」
博文が尋ねる。
「分からない……本当に」
声が震えないように。
林莉は必死に堪え。
無理やり笑った。
「家族みんなでカリフォルニア旅行でもしようかな?」
博文は。
自嘲するように小さく笑った。
悲しみを。
顔へ出さないようにする。
最近になってようやく下ろし始めた心の壁が。
一枚ずつ。
また積み上がっていく。
それが再び崩れる日が来るのか。
博文自身にも分からなかった。
「いい冗談だ」
それだけ言うと。
黙った。
林莉が。
ゆっくりベッドへ近づく。
目の前で立ち止まり。
そして身を屈め。
博文を強く抱きしめた。
ついに。
涙が零れた。
その瞬間。
博文は。
生まれて初めてと言っていいほど。
自分にも十分な力があればと願った。
たった一度でいい。
彼女を。
抱きしめ返せるだけの力が。
だが。
できなかった。
まるで最初から分かっていたかのように。
林莉は。
そっと彼の腕を持った。
自分の肩へ乗せる。
そして。
両手が自分の首の後ろで重なるまで。
優しく導いた。
彼の代わりに。
抱擁を完成させた。
しばらくして。
二人はゆっくり離れた。
林莉が。
涙を拭う。
博文は咳払いをした。
溢れそうになる感情を。
どうにか押さえ込む。
「いつ……出発するか聞いた?」
「明日」
林莉が。
静かに答えた。
「しかも、明日は私の休みなの」
「じゃあ……」
博文は。
無理に小さく笑った。
「荷造りを始めたほうがよさそうだな」
「そうね……」
林莉が頷く。
「手伝う」
迷うことなく。
クローゼットを開いた。
博文が持っているのは。
数枚のシャツと。
数本のズボンだけ。
それを腕に抱え。
ベッドの足元へ置く。
そして部屋の反対側へ行き。
古いスーツケースを持ってきた。
博文の横へ置く。
黙ったまま。
一着ずつ服を畳み。
丁寧に詰めていった。
博文の持ち物は。
多くない。
だから。
時間はかからなかった。
その間。
二人とも何も話さなかった。
話すことがなかったからではない。
ただ――
どんな言葉も。
重すぎた。
それでも。
その沈黙は。
二人に安らぎを与えていた。
もう。
言葉がなくても。
互いを理解していたから。
二人の間に生まれた絆は――
どれほど遠く離れても。
変わることはない。
❖
韓博文の心の準備ができるより先に。
出発の日が来た。
前の晩。
できるだけ眠ろうとした。
長い旅が待っている。
体力を残しておく必要があった。
だが。
結局。
眠ることはできなかった。
まあ。
問題ない。
どこへ行こうと。
ベッドくらいはあるだろう。
着いてから眠ればいい。
移動距離があまりにも長いため。
救急車では搬送されないことになった。
代わりに。
医療用ヘリコプターが手配された。
博文は。
何とか良い面を見つけようとした。
飛行機に乗ったことは。
一度もない。
新しい経験だと思えばいい。
新しい冒険。
夜が深まっていく。
だが。
ヘリコプターは来なかった。
この頃には。
博文も一つ重要な真実を学んでいた。
退所手続きというものは。
絶対に早く終わらない。
ようやく。
一時間以内に機体が到着すると知らされた。
一つの時代が。
終わろうとしていた。
それでも。
何を感じればいいのか。
博文には分からなかった。
起きたことすべてに。
意味を見つけようとした。
何もなかった。
すべての経験に。
教訓があるわけではない。
時には――
世界は。
ただ残酷なのだ。
今回は。
そういう出来事だった。
それ以上考える時間はなかった。
二人のフライト・パラメディックが。
厚いクッションの敷かれたストレッチャーを押しながら。
部屋へ入ってきた。
航空救急用の制服を着て。
緊急医療器具の詰まったバッグを持っている。
二人とも。
博文へ優しく微笑んだ。
尋ねたのは。
たった一つ。
「よう、相棒。出発の準備はいいか?」
博文は。
長年かけて身につけた。
笑顔の仮面を被った。
「もちろん」
新しい医療スタッフは。
特別おしゃべりではなかった。
だが。
技術は確かで。
扱いも優しかった。
慎重に。
博文をストレッチャーへ移す。
数分後。
彼は部屋から運び出されていた。
これが最後。
ヒポクラテス介護センターの廊下を。
通っていく。
「出る前に、もう一度見ておきたい場所はある?」
パラメディックの一人が尋ねた。
ごく普通の質問だった。
彼らは。
博文とこの施設の間に何があったのか。
何も知らないのだろう。
彼らにとって。
この建物には。
患者の思い出が詰まっているのかもしれない。
もしかしたら。
幸せな思い出さえ。
だが。
博文にとっては――
処刑場だった。
すべての壁に。
恐怖が染み込んでいる。
もう二度と。
この場所のどこも見たくなかった。
だから。
迷うことなく答えた。
「ない」
「分かった」
もう一人のパラメディックが言った。
「じゃあ、出発だ」
「飛び立てば、数時間くらいで着くはずだよ」
介護センターそのものに。
何の愛着もなかった。
それでも。
林莉との記憶が。
博文の頭に浮かんだ。
短い瞬間。
大切な瞬間。
だが。
その隣には。
魂へ永遠に刻み込まれた恐怖もある。
あの悪夢は。
決して消えない。
正面玄関を通り抜けると。
眩しい太陽の光が。
博文の目へ飛び込んだ。
あまりにも長い間。
自然の光を浴びていなかったせいで。
その明るさは。
痛いほどだった。
目が光に慣れた頃には。
すでに医療用ヘリコプターの中へ固定されていた。
エンジンが始動する。
ローターが。
少しずつ速度を上げていく。
轟音が。
他のすべての音を飲み込んだ。
二人のパラメディックは。
互いに接続された航空用ヘッドセットを装着しているため。
簡単に会話できた。
博文に対しては。
心配そうな表情とジェスチャー。
親指を上げたり。
下げたり。
それで。
快適かどうか確認していた。
もっとも。
話すことなど。
ほとんどなかった。
博文は。
ストレッチャーに横たわったまま。
窓の外を眺めた。
周囲には。
何キロにもわたって森が広がっている。
その中心。
ヒポクラテス介護センターの入口が。
木々の上から。
わずかに見えていた。
この距離から見ると――
まるで。
ゴシック趣味の少女が持つ。
ドールハウスのようだった。
ヒポクラテスの胸像も。
小さく見える。
それは今も。
中庭に立っていた。
沈黙したまま。
施設へ入るすべての人間を。
見つめ続けている。
昔から。
ずっとそうしてきたように。




