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夢1

 夢を見た。

 自分が夢だと自覚してる、いわゆる明晰夢ってやつ。

 その中で、わたしは鏡の中の校舎にいた。先の見えない廊下を、何かから必死に逃げていた。

 ずっと走っていたせいで息が続かない。肺が割れそうだ。身体が思うように動かない。

 追い付かれる――。

 隣を走るユウが振り返り、刀で目の前の空間を凪いだ。

 黒い煙が噴き出して、視界を遮られたユウが辺りを見回す。

 刹那。天井から何かが飛び掛かってきて、狼狽えるユウの首を引き裂いた。



「――っ!」


 底知れない恐怖と焦燥で、意識が現実へ引き戻される。

 期末試験を直前に控えた、7月半ばのことだった。

 真っ暗な部屋の中で、わたしは数度、肩で息をした。

 鼓動が早い。全身が汗で濡れている。

 ……落ち着け、ただの夢だ。妙に生々しくて、飛び散る血の温かさまで覚えているけど、所詮は夢。怖がることじゃない。

 時計を見れば深夜2時。冷蔵庫の麦茶を飲んでから、再び床に就く。

 寝れない。

 目を閉じると、さっきの夢がフラッシュバックするのだ。高校生にもなって情けない。

 

「……風にでも当たるか」


 そう考えたわたしは、なんとなしにカーテンを開け――、


「……」


 そこで思考が完全に停止する。

 窓の外。ガラス1枚を隔てたベランダに、黒い影がうずくまっていた。

 雲間から差し込む月明かりに照らされ、次第にシルエットが明らかになる。

 三角形の耳。尖った鼻。尻尾。漆黒の体毛を纏った一匹の獣。大きさは、大型犬くらい。

 シューシューという呼吸に合わせて、息が当たった部分の窓ガラスが曇る。獣臭い匂いが換気扇の隙間を通り、部屋の中まで入り込んで来た。

 こいつだ。直感で確信する。こいつが校内を徘徊する『ブラックドッグ』。

 いつからいた? どこから入った? 疑問が脳内を駆け巡り、全身から冷や汗が吹き出した。

 ゆっくり後退る。

 足が重い。

 背中が壁に当たった。手探りで電灯のスイッチを見付けて、押す。

 視界がパッと光で満たされ、眩しさに一瞬、目を瞑った。

 目を開けたとき、『ブラックドッグ』はいなくなっていた。


「……え?」


 おそるおそるベランダに出る。犬がいた場所に、潰れたヤモリが転がっていた。他には何も無い。

 幻覚か? でも匂いは残ってる。ガラスの曇りも……。

 何が何だかよく分からず、その夜は眠れないまま朝を迎えた。

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