わたしのきょうしつ
わたしみみっくちゃん。
敬愛すべき魔神グア・ウトィプさまのいとし子と自称してやまないはみはみモンスターである。
……。
……。
……。
わたしみみっくちゃん。
今日の教室は、わたし一人……。
全員病院送りにしちゃったから、さすがのみんなも翌日すぐには登校できなかったのかもしれない。
一人ぼっちの教室はとっても静か。
ちょう落ち着く。
ラッキースケベされないし、へんたいがいないし、ファッションミイラ男に中覗かれないし、すごく平和。
いつもこうだといいのにな。
しーんとしてて、箱のなかみたいに、静か。
まるで箱の中に、箱ひとつ。
とっても落ち着く。
落ち着く、けど、落ち着きすぎて、なんか、落ち着かない。
へんなの。
なんとなく箱の蓋を閉じたり開けたりぞもぞしていると、朝のHRを告げるチャイムが鳴って、先生が入ってきた。
「ほーむるーむはじめまーす。あら、今日はみみっくさんおひとりですか」
担任の先生は、もふもふのキツネさん。
キツネなのにキツネのお面を付けている。
教壇の上に文字通り立って、自分と同じくらいの名簿を広げて辺りを見回している。
わたしは、ぱたん、と箱を閉じて返事をした。
「そうですかー。それでは今日はすこうし寂しいですねえ」
寂しくない。
むしろいつもがうるさ過ぎるだけだし。
「ふふふ。たしかにいつもここは賑やかですからねえ」
賑やかっていうか、騒々しいって言うべきだと思うの。
「おや。みみっくさんは、このクラスがお嫌いでしたか」
べっ。
別に。
びっくりして、蓋が全開になりそうになって、慌ててぱたりと閉じる。
別に、嫌いじゃないの。
嫌いなんて、言ってない。
「では、お好きですか」
わかんない。
「みみっくさんから見るこのクラスはどんなふうに見えるのか、先生とっても気になります」
どんなって言われても。
うるさいし。
「はい」
へんたいが多いし。
「はい」
放っといてくれないし。
「はい」
すぐ拉致しようとするし。
「はい」
箱の中覗こうとするし。
「はい」
人の話聞かないし。
「はい」
でもなんでも聞き出そうとするし。
「はい」
いっつも誰かが声かけてくれて。
「はい」
移動教室も文句言わずに運んでくれて。
「はい」
何をするにも誘ってくれるの。
「はい」
ただの箱なのに、仲良くしてくれるの。
「はい」
みんな、いいひとたち。
「はい」
だから、好きか嫌いかわからない。
「はい」
でも、このクラスに入れて、わたし、うれしいかも、です。
「……そうですか。先生もうれしいですよ」
おキツネ先生が、仮面の奥で、ふくふく笑った気がした。
それから茶目っ気たっぷりに小首をかしげて言った。
「それから、後ろのみんなもね」
えっ。
「わたしもうれしいよみみっくちゃーん!」
わたしのすぐ後ろから、感極まったような委員長の声。
「俺も俺も! うれしい、デス! 家なきっ娘のマネー!」
ファッションミイラがなんか調子こいてる。
「ツンデレみみっくたんがかわいすぎて生きてるのがつらいクンカクンカスウウーーーハアアァーーーッ」
石乃神くんはずっと入院しててください。
「勇者の末裔キモすぎ草生える」
「まあみみっくに噛まれる経験とかなかなかできないもんね」
「後半もう噛まれること前提で並んでたしな」
その他のみなさん。
っていうかみんな居たの。
箱だから視界悪いし気味悪いほど静かで気づかなかった。
そしてこのあとめちゃくちゃみみっくいじりされた。
わたしみみっくちゃん。
一瞬、このクラスもまあ悪くないな。
って思ったけど。
やっぱり早くクラス替えがしたい。