2-3.食堂に無いメニュー
午後壱番館というカレー屋に僕たちはいた。
4人がけのテーブルに、七星と加代子さんが隣同士に座り、その向かいに僕がいる。
僕は七星の顔しか見れない。加代子さんを見るのは、恥ずかしさと申し訳なさが混在していた。
3人の注文通りのカレーが届き、僕たちはそれを食す。
何か、話さなくては、僕。
「か、か、加代子さんは、カレーが好きなんだね」
「うん。食堂に無いメニューだから」
加代子さんがボソッと答えた。
途切れそうな話題を七星が紡ぐ。
「加津代さんの料理、食べた事ないなぁ」
「すごく美味しいんだ!」
僕は主張する。これは加代子さんに気を使った訳でもない、本当の事だ。
「へぇ〜」
七星は急に興味を無くしたようだ。
「カヨちゃん、コイツって小さい頃どうだったの?」
な、七星!?
加代子さんに昔の事を喋らせちゃ・・・
「博士って呼ばれてた」
加代子さんは笑いながら語る。
ああ、僕が小さい頃に呼ばれていたあだ名だ。加代子さんに言われるまで忘れていた。
「ハカセ?」
「なんでも物知りだった」
「そんな事ないよ」
「動物とか、植物とか、ゲームとか」
「でも、運動は得意じゃなかったよね」
「うん」
加代子さんが笑う。
僕は幼い日を思い出したが、あまり記憶は無い。
「へぇ〜、アンタも良いところあんじゃん」
七星がカレースプーンを僕に指す。
「なんだよそれ」
3人で笑う。
「カヨちゃんは、小さい頃どうだったのさ?」
七星に問われる。
それを問われた時、何故か、
僕は涙が出て来た。
「な!何泣いてんの!?」
七星は突然泣き出した僕に驚く。
「だって、僕は、加代子さん、加代子さん、ごめんなさい」
久しぶりに人前で泣いた。
静まったテーブルは、カレーのスパイスが香る。全くもってムードなど無い。
「中学の時、幼馴染の僕は何も、何も出来なかったんだ。加代子さんを守らなきゃ、いけなかったのに、僕は、僕がいじめのターゲットになるのが、嫌だったんだ」
僕は、避けていた〝いじめ〟という言葉をはっした。
静まり返る。
僕は懺悔を続けた。
「僕は最低なんだ。いじめられたくなくて、逃げてたんだ。だって、僕と加代子さんは、小さい頃から、遊んでたじゃないか、それを、手のひら返したように、他人のふりして、加代子さんが、嫌な言葉を言われたり、嫌な事をされても、僕は、ただ胸を痛めるだけで、僕は見て見ぬ振りをして、どこかで安心して、、、、」
加代子さんが自分の身代わりになったんだ。
と言いかけてやめる。
「もう、いいの。」
加代子さんも泣いていた。
七星が腕を伸ばし、うつむく僕の頭をポン、と叩く。
「アンタも痛かったんでしょ?カヨちゃんの痛みを少し、分けて貰ってたんだよ」
七星、君に何が分かるんだ。
いじめはそんな、美談では済まされない。
それでも僕は、その言葉に救われていた。