1-5.あんな魚
「アンタには分からない良さがあんのよ」
七星が魚住に答える。
「美人がもったいないぞ」
魚住が返す。僕の目の前でこんな事を言える魚住はやはり性格が悪い。ただ、クラスメートの男子の代弁かもしれない。
やはり、居心地が悪い。
そんな事なら、やはり七星と付き合うフリはしなくて良かったと思う。
その日、僕は七星と一緒に帰ることにした。
しばらくはこうして、カップルアピールをしなければならない。
「な、七星。やっぱり、これっていいのかな?」
「なにが?」
「魚住くんだけじゃないと思う。僕と七星が付き合っていると、なんだか皆から恨まれている気がする」
「なんで?」
「き、君と僕は不釣り合いだし」
「不釣り合いだと付き合えないんだ?」
「うーん。き、君には、分からないと思うんだ。そういう感覚」
「やっぱりアンタ、うじうじくんだよね」
七星が語り出す。
「私、色んな人を見てきたけど、アンタたちよりも年取った人たちはみーんな、容姿だとかそんなもんは気にしてなかったよ?若ければ若いほど、見た目ばっかり気にしてるの。アンタこそ、人間のくせに、若さ故に人間を知らないのさ」
はぁ。人間を知らない。天使に言われても納得は出来ない。
「でもね、私はアンタの思慮深いとことか、好きだよ。見た目は冴えないし、言いたくないけど私服はアレだし」
僕は何も喋れない。
「あんな魚住みたいな男が持て囃されてるほうがおかしいよ。アンタはあんな男より、かっこいい」
僕は、素直に嬉しかった。
「あんたに足りないのは」
ーーー自分に足りないもの。
ーーー分かっている。
ーーーどこかにしまっているだけの
ーーー自分を主張するための根拠。
「自信」
僕が先に言う。