或る天使の手記
私は初めて恋をした。
ずっとずっと、自分の仕事を全うして、ただただ生きてた。
こっそりと祝福を与え、誰かを幸せにして、それが仕事だから、それを毎日繰り返して、例えば人間の経済活動を促したり、そういう手伝いをしていた。
私が人間界に派遣されて、4年が経った、あの日、私は恋をした。
彼は冴えない男だった。
何をやっても上手くいかないし、人の気持ちを推し量って、自分を殺している優しい人。
どうしてこんな人が幸せになれず、上から命令された優しくもない人間だけに祝福を与えているのか、私には理解できなかった。
だから、命令に背いて、というかこっそりとあの男に祝福を与えた。
報われなかった彼の人生は好転した。
みるみるうちに本当の彼の実力が発揮され、財は豊かになり、精神的な苦痛も少なくなった。
私は彼の人生がうまく行くことに喜びを感じ、それが恋だと気付いた。
そして、彼に会って話をしたい。
そう思っていた頃には、彼は人間界のルールに従って恋愛をし、結婚という契約をしていた。
私には、それが許されなかった。
彼がいるのは、私のおかげ、私のお節介、そういった心が生まれてしまったからだ。
だから私は彼に接触し、今迄の話をした。
彼は最初、自分の人生がうまく行った事が他人のお陰である事に苛まれた。
しかし、気がつけば私と彼は恋仲になっていたのだ。
決して相入れてはならない、人間と天使の愛。
そしてそんなものは、すぐに明るみになり、人間でいうところの契約違反となった。
こうして行くうちに、彼の妻は
自ら命を絶った。
私はこれが取り返しのつかない事であると気付くのに、時間がかかった。
何故なら、邪魔者が消えたと安堵したからだ。
そして、気が付けば牢獄にいた。
二つの羽根が切断され、自由を失った。
私はその後の顛末を知らないが、人間と天使の間に奇妙な上下関係が出来たらしい。
私が知るのはここまでだ。




