1-1.時のマークシート
スイッチを押したに違いない。
地球の誰かがスイッチを押したのだ。
そう、寒さスイッチ。
先日まで半袖を着ていたのがウソみたいだ。
僕は贅肉も無ければ筋肉も無いため、細い腕を見せるのは嫌だ。だから長袖になる事は一向に構わないのだけれど、それでもこの涼しさ、いや寒さはおかしい。
気が付けば風に吹かれた枯葉がアスファルトを擦り、カラカラと音を立てる10月。
夏休みが終わって少し経つけど、僕は毎日胃が痛いまま登校している。
色んな事にけじめや整理がつかない。
僕はいつものクラスに到着し、自分の席に座る。
「おい、K大学入れたか?」と話しかけてきたのは茂木だ。
「入れていたよ」
「今日、判定が返ってくるらしいぞ」
僕と茂木は、模擬試験の話をしていた。
2年生の夏休みの終わり頃、僕たちは学校で模擬試験を受けた。
模擬試験は受験時のマークシートに希望の大学名を入れておくと、合格判定が出るのだ。
Aなら余裕、Bなら頑張れ、Cなら超頑張れ、Dなら諦めろ、的な指標が出るのだ。
僕たちに訪れたのは、気温の変化だけでは無い。
ぼんやりと、ぼんやりと見えてきた、
将来。
将来の為の進学。
進学のための勉強。
そういった重みが増してきた。
茂木とは2人で、難関大学の判定を貰おうと約束していたのである。
正直分かっていた事だけど、難関大学のA判定を貰えるほど、僕は頭が良く無い。
僕の学力から弾き出される偏差値から、行けそうな大学にしようと考えていたのである。
それも理由のひとつだと思う。
周りの大人は夢を見ろだとか、馬鹿な事言うけど、僕は疑り深く、夢について調べ上げている。
スポーツ選手、若手IT社長、芸能人、声優さん・・・
成功者は皆、夢を目標に掲げて生きてきたと語る事が多い。その為の努力を惜しまなかったというのは事実だ。
でも、
その影には、
夢破れて悲惨な人生を歩む人の数が数え切れないほどある事も、僕調べで分かっていた。
夢、と簡単に言うが、それを追いかけるリスクがある事に、残念ながら僕は気が付いてしまったのだ。
だからこそ、いま僕は漠然としている将来に向けて、身の丈にあった人生の選択について、少しずつそろばんを弾いている。
茂木が羨ましい。
以前、将来の夢を訊かれた時に
茂木は真っ先にやりたい事を言った。
僕は公務員。
町に貢献したいだとか、そんな意識は無い。
ただ単純に、漠然とした
安定、を求めているだけだ。
その日の学校の終わりに、成績が戻ってきた。
難関大学、D判定。
諦めろという事だ。
僕は珍しく茂木を誘う。
「ゲームセンターでも行こうぜ」
こうしてたどり着く、ゲームセンター!




