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えぴろーぐ




 ――夜の山間で、屋敷が爆発。ガス漏れが原因か?

 そんな見出し文が躍る新聞がめくられて、スポーツ面が開かれる。要が応援しているサッカーチームの勝利が隅に小さく載っていた。


「あっ、まだ読んでるのに」

「あのな……」


 僕の不平を、ギプスでぐるぐる巻きにされた僕の両腕の代わりに新聞をめくっていた要が呆れ顔で斬って捨てる。


「人の家がぶっ飛んだっつー記事をどーして見たがるよ? 何? お前嗜虐趣味でもあんのか? あ?」

「いや、そんなことで凄むなよ……」

「いや凄むだろ」


 改めて、要がさっきの一面を広げる。そこには先ほどの見出しと――その爆発事故の現場の写真が載っていた。

 どうやら上空から撮られたものらしく、そこには見慣れた街と、見慣れた山。そして見るも無残に焼け焦げた津嶋家の焼け跡が写っている。


「あーあ……こんなになっちまってよぉ……」


 その屋敷を眺めながら要が涙目でぼやいていて、僕はその姿に思わず笑ってしまう。

 できるだけ声を殺していたつもりだったけど、ベッドの傍らに座っていた要には当然聞こえていたようで、すぐにヘッドロックをかけられる。


「ちょっ、要、落ちついて……!」

「一体っ、誰のせいだと思ってるんだぁっ?」

「魔王に言ってくれよ!」

「お前がブッ倒しただろうが!」

「ぬわー!」


 腕の筋肉が隆起して、さらに締め付けが強くなる。何とか逃げ出そうともがくけど、両手両足に腰、肩と無事な部分が顔以外無い僕にそんなことできるはずもなく。


「ほーれほれごめんなさいって言ってみろっつーか言えー!」

「横暴だー!」


 僕は要になすがままにされてしまった。

 ……あの戦いの顛末はといえば、まあ一言で事足りる。

 『希望の剣』が『希望』に答えた。これだけだ。

 『希望』が増え、刃を増やした『剣』は防御しようと引き上げられた『絶望の杖』ごと魔王を貫き、倒した。奇跡と言っても過言じゃない結末だ。

 ……ただまあ、それで全ての『希望』を使い果たした『剣』はその力を失って僕の中へと戻り、そして残ったのは半死半生どころか九割程死んでいた僕の身体。魔王が倒されたことで『浸食』から解放されたまどかさんの応急処置がなければ、死んでいてもおかしくはなかった。


 そして、あれだけの死闘が繰り広げられた戦場である道場はと言えば、この記事の通り。ものの見事に焼け跡となり、それは津嶋家の母屋にまで及んでしまっていたらしい。勿論事実を表沙汰にするわけにもいかず、結局ガス爆発として処理された。

 幸い、要の両親は僕の家と同じように父親の単身赴任先に母親も同行していて不在だった。お爺さんはお弟子さんの一人の家に、津嶋家の再建が済むまで厄介になっている。一度顔を見にこられた折には、丁度いいのでバリアフリー完備の今風の家に改築するのだと笑っていた。

 ちょうど一緒に顔を見せに来ていたまどかさん曰く、被害者がたった一人だけなのは奇跡だった、とのことだ。

 ……そう。被害者は、たった一人なのだ。


「こら要」

「いでぇっ!?」


 がごんっ、と、金属音が要の後頭部から響いて、僕は筋肉地獄から解放された。頭をさすりながら横に顔を向けると、要は後頭部を抑えてうずくまっている。

 そして――。


「総司君はまだ絶対安静なんだぞ? 表沙汰にはできないから、まどかさんが在宅治療って事にしてくれているだけなんだ。じゃれるなとは言わないが、無茶はするな」


 ――その背後に、お玉を手にした絆さんが立っていた。


「わぁってるよ、姉ちゃん……」


 たっぷり十秒間は悶えて、ようやく痛みが治まってきたのか、頭をさすりながら要が立ち上がる。本当にこの姉弟は両方ともに背が高くて、お互いが並ぶと絵になった。


「料理、終わった?」

「ああ、終わったよ。あと洗濯もね。……居候させてもらっているんだ、これぐらいはさせてもらわないとね」

「というか、そうしねーとならねぇよなぁ……」


 腕を組みながら、要は笑う。


「我が家爆発事件の唯一の被害者なんだ、その家人が責任をとらなくちゃぁよ」


 その視線の先にいるのは……部屋のベッドに寝かせられている、僕だった。

 そう、あの爆発事故での唯一の被害者が僕だった……ということになっている。事後処理をやってくれたまどかさんが言うには、表向きは爆発から絆さんをかばって重傷を負った、ということになっているらしい。僕の傷には明らかにやけど以外の物もあったけど、それも全て治療を担当したまどかさんが別のカルテをでっちあげて、在宅治療にまでしてくれていた。本当にもうあの人には頭があがらないかもしれない。


 ……そしてそういう事情もあって、要と絆さん姉弟は僕の家に居候することになった。御両親の単身赴任先に行くという選択肢もあったようだけど、学校もあったことだし、津嶋家と本郷家が家族ぐるみの付き合いをしていたということも大きかった。

 ……結果、僕一人しかいなかったこの一軒家に、新しい住人が増えた、というわけで。


「んじゃ、俺ぁメシ食ってくるか。姉ちゃんはどうする?」

「今日は私の当番だろう?」

「おう。ごゆっくりー」

「あ、ちょっ!」


 そう言って、手をひらひらと振りながら部屋から出ていく要。残されたのは、僕と絆さんの二人だけだった。


「……え、っと」

「はぁ……」


 口ごもる僕に小さく息をついて、絆さんは机の上に置いていたお盆を手に取る。


「いい加減慣れたらどうだい。もう三日だぞ?」

「う、うん……」


 頬が熱くなるのを感じながら、僕はベッドの傍らに座る絆さんを見ていた。

 ……『魔王』は倒された。だけど、その宿主だった絆さんは無事だった。

 何故かはわからない。向こうで魔王を倒した時は、身体こそ残ったものの、その宿主ごと死んでいた。魔王を宿していた時間か、はたまた――僕たちの『希望』を『剣』が叶えてくれた奇跡なのか。

 そこまではわからないけど、でも重要なのは、今、要さんがまともに日常生活を送れない僕にご飯を食べさせてくれようとしているというわけで、この三日間何度も繰り返されてきたためこれから始まる苦行を容易に理解できてしまうという事だ。

 つまり、これは。


「ほら、総司君。あーん、だ」


 おかゆを一口分乗せたレンゲを僕の口元に差し出す絆さん。

 これは端からどう見ても、あの伝説のあーんにしか見えない状況だ。

 頭が沸騰しそうになりながらも、どうにかこうにか口を開く僕。すかさずレンゲが入ってきて、程良く冷まされたおかゆが口の中へと広がる。


「美味しいかい?」

「う、うん……」

「それはよかった」


 満面の笑みを浮かべる絆さん。だけどごめん、絆さん。僕は今貴女に嘘をついています。……だって、こんな状況で味なんてわかるはずがないわけで。

 いや勿論美味しいのは当然だ。何せあの絆さんがわざわざ手ずから僕のために作ってくれた料理が不味いなんてあるはずがない。僕にとってみれば、この世のありとあらゆる美食以上の美味なのは言うまでもない。


「御馳走様でした……」

「お粗末さまでした」


 手を合わせる代わりに両腕のギプスを合わせて、軽く頭を下げる。絆さんは満足げな笑みを浮かべて、後片付けを始めていた。


「……」


 後片付けといっても、お盆の上にあるのはおかゆが入っていた土鍋一つだけだ。絆さんが空になった土鍋をお盆の上に乗せ直して立ち上がるのに、さほど時間はかからなかった。


「さて……それじゃあ、直してくるよ」

「……うん」


 頷くと、絆さんはもう一度笑って、だけどすぐに何かを考えるかのように天井を向き、また座りなおした。


「絆さん?」

「そういえば、明日は休日だね」

「う、うん……」


 戸惑いを隠せずに、頷く。

 確かに明日は土曜日。学校は休みだ。だけど絶対安静な僕にとってみれば、学校なんて行けるはずもない。毎日が日曜日だな、なんて笑っていた要にギプスの一撃を叩きこんで悶絶したのは、はっきりと覚えている。おかげで絆さんにこっぴどく叱られたのだ。


「だから、今晩はゆっくりと話が聞ける」

「……話?」

「そうだ」


 真顔で、絆さんが頷く。

 対し、首をひねってしまうのは僕だ。

 ある程度の事……魔王の事も、勇者の事はもう話してあった。あとは一体何を話せばいいのだろう。


「向こうの世界での三年間の事……私はまだ何も聞いていないよ。落ちついたら、話してくれる約束じゃなかったかな?」

「……あ」


 その言葉で記憶を探り数秒、思い当った記憶があった。

 確かにそんな約束はした覚えはある。でも、それは、魔王が活性化する前の話で……。


「約束は、守ってくれないのかい?」

「……ぅ」


 悪戯っぽい笑みを浮かべる絆さんに僕は何も言えず、苦笑を浮かべる。


「……わ、わかった……けど、長くなるけど、いい、かな?」

「何、言ったろう? 明日は休みだ。いくら遅くなっても構わないさ」

「……うん」


 頷き、ゆっくりと記憶をたどる。そして初め――三年前にまで遡って、僕はふと絆さんを見る。


「ん? ……何かな?」

「あ、えっと……」


 首をかしげる絆さんに、僕は問いかける。


「僕は貴女の世界を……変えられたのかな……?」

「……」


 少しだけ目を丸くして、絆さんは僕を見ていた。


「覚えて……いたのか」

「……約束、だったから……。忘れるはず、ないよ」


 約束。そう、約束だ。

 小さなころに交わした、約束。

 目が見えない絆さんに、世界に絶望しようとしていた絆さんに、僕が一方的に取り付けてしまって……そして、今日まで果たされていなかった約束。

 その答えがどうでも、僕はよかった。まだならこれから頑張れるし、できていたなら――きっと、僕はまた前に進める。

 だから、僕は自分でもびっくりするぐらい、落ちついて絆さんの答えを待てた。


「ふむ……」


 絆さんは考え込むように手を顎に当てて数秒、そして、優しげな笑みを浮かべる。


「ああ。変えてくれたよ。だから、ありがとう。それから――」


 そして、ようやく。



「――おかえり。私の、勇者様」



 僕は、元の世界に帰ってこられたような気がした。



「……うん、ただいま――」








明日明後日と用事で投稿できないので、一気に最終話まで投稿しました。

とりあえずこれで、総司君のお話は終了となります。

まあきっとこのあと、バトルジャンキー入ったお爺さんと婿入り試験を兼ねたバトルやら向こうからやってきた総司の娘を名乗るロリやらとイベントは盛りだくさんでしょうが、一応終了。

ご意見、ご感想などいただけましたら幸いです。ありがとうございました。

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