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僕らの未来に正義は無い  作者: 智恵理陀
第三部『生徒会選挙編』:第四章
87/90

四ノ捌

 今日の午後から立会演説会だ。

 裏萩さんは休み時間になれば原稿を読み、友人達に励まされて緊張もほぐれつつあるが、わずかな緊張は水分を余分に欲させる様子。

 彪光がよこした脅迫状も既に頭の中には入っていないな、あれは結局空振りに終わってしまった。

 悪い影響だけ生み出すかと思ったが何も起きないのならば頭の中に入れる必要も無い。

「今日は大丈夫?」

「ええ、問題ないわ!」

 調子を伺うべく話しかけてみた。

 裏萩さんの調子は好調に傾いているのが解る。

 今日の立会演説会はもらたようなものかもしれないな。

 昼休みには一度陣営は全員集合して最後の準備に取り掛かる。

 とはいえ、彼女の服装チェックや原稿、いつ自分が呼ばれて演説するかのスケジュール確認くらいで僕や新蔵達はただその話し合いを眺めるだけだ。

「いつも演説していた通りの姿勢で、あまり早い口調で原稿を読んで話すというより、自分の気持ちを込めて話して」

「わ、解ったわ!」

 ちょっと緊張が押し返してきたかな?

「原稿は極力見ない事、それに壇上にも開いて置かない事。解ってるわね?」

「ええ、姿勢が大事!」

「そうよ、壇上に上がる前の待機場所でなら生徒には見られない、そこで原稿を読み直しても構わないわ」

「頭の中に入ってるから、絶対に大丈夫よ!」

「安心したわ。最初の頃と違って今は頼りになる雰囲気があふれ出てるわ」

 色々あったからね。

 そう、色々……。



 体育館も全生徒が集合するとなると流石に狭く感じる。

 皆が沈黙を守り、静かに進行する立会演説会。

 壇上では先ず総生徒会長である虎善さんが演説会の進行とその後の投票について直々に説明してくれた。

 演説会が終わったらすぐに投票、発表は明日……周囲が呟く言葉には裏萩さんの名前がちらほら。

 虎善さんの話が終わり、立会演説会最初の立候補者がゆっくりと壇上へ、足を進めた。

 最初は古戦谷君か。

 彼も立候補者としては悪くは無かった。

 けれどなんていうか、人目を引くようなものがどこか足りない気がした。

 何だろうな、真面目すぎて方針も手堅いもので悪く言うならありきたり? 惜しい人だ。

 演説を聞いていると、外への扉が開いたのか僕の頬には緩やかな風が通り過ぎていった。

 その方を見ると誰かが外へ出る姿を確認、演説中はトイレなどの目的で外に出るのは良いんだったな。

 それとはまったく違う目的ではあるが、僕も外に出るとした。

 何故ならば、外へ出るその後姿に見覚えがあったからだ。

 何気に外にいる生徒は多いな、広場で寛いでる生徒すらいる。

 投票する生徒はもう決めてあるから演説は聞く必要は無いという人達かな?

 僕も投票する人は決めてるから別に聞かなくてもいいがね。

 さて、それよりだ。

 僕は学校へ入る生徒を追いかけた。

 距離は縮めず離さず。

 単純に何処へ行くのかが気になったが、僕の予想ではずっと階段を上がっている事から向かうは屋上だと予測できた。

「やあ」

 屋上の扉を開けるや、彼女は僕のほうを向いて、ついてきていたのは解っていたから待っていたといった様子だった。

「やあ」

 僕も同じく言葉を返す。

 心地いい風だ、フェンス近くのベンチに座り、見晴らしのいい風景を二人で眺めるとした。

「何を話すべきか、ねえ」

「何でもいいんじゃないかな」

「それもそうだね」

 彼女――天生ちゃんは、一呼吸置いてから再び口を開いた。

「裏萩には、困ったものだよ」

 天生ちゃんの口から、裏萩さんの名前が出てきた……のは、友人関係ならば問題は無いがこのタイミングで出てきたのは、僕をざわつかせる。

「話したい事、あるんじゃない?」

「ま、まあ……」

 言い辛いな……。

 僕の気持ちを察してか、天生ちゃんはすすんで口を開いた。

「私からは何も出ずとも、裏萩を動かしてあぶりだすのは予想は出来ていたがまさか脅迫状を作って渡すとはね」

「やっぱり、君が……?」

「もう確信はしてる、しかし私の口から直接聞きたい。そうじゃないのかい?」

 そう、だけど……。

「信じられない?」

「どうして、あんな事を……?」

「どうして? 選挙に勝つにはやはりそれ相当な宣伝が必要であろう?」

「それで襲撃を?」

「そうだよ。こっくりさんは知ってるかい? 願いを叶えるとかいう正体不明の人物だ、こっくりさんは畏怖されている。悪い評判もある、それをうまく利用すれば黒幕はこっくりさんへと寄せられる」

 今回の襲撃で僕の評判は急速落下中だよおかげさまでさ。

「加えて私は人の秘密を探るのが好きでね、襲撃した人や今回の主犯と名乗り出た人は弱みを利用させてもらった」

「君は自分のやっている事の重大が解ってるのか!?」

 微塵も変わらぬその口調、何の感情の変化が感じられない。罪悪感など、微塵も。

 僕は隣に座るのが耐えられずに立ちあがってフェンスへと歩み寄って今もまだ演説が行われている体育館を意味も無く見下ろした。

「昔から私には罪とかそのようなものに対する感情が欠落しているのでね」

「裏萩さんに何か見返りを求めたりは、しているの?」

「いいや、何にも。強いてあげるなら今回の選挙で成長する彼女が見たかった。人間とは面白いものだと思わない? 誰もが磨けば光る可能性を秘めている。これから彼女は輝くんじゃないかな」

 そうかもしれないね。

 裏萩さんの場合は偽りの研磨の末に、偽りの輝きを放っている。

 彪光のおかげで、それは徐々に本物の輝きになっていきつつあるが、彪光からはなれたらあの輝きはどうなるやら。

「君はどうしたい?」

「どう……って?」

 天生ちゃんを見る。

 薄っすらと浮かべる笑顔。

 僕に何かを期待している目。

「私を生徒会に突き出す? それとも彪光に?」

「さあ、どうしよう。突き出しても主犯の子が引き下がるとは思えない」

「というのも私が弱みを握っているから、と」

 的確に言葉を付け足してくる。

 僕は小さく頷いた。

「君が正直に話したのも、突き出されても問題ないと踏んでの事だろう?」

「まあね」

「けど名乗り出た生徒達の弱みではどうも君のその姿勢に疑問を感じる。君は……」

「“僕の弱みを握ってるのか?”――と?」

 また的確に付け足された。

「握ってはいない、けれど握るかもしれない」

「何か知ってるのか?」

「何だと思う?」

 何を知ってる?

 僕が知られたくない事。

 ――こっくりさん?

 まさか。

「ふふっ。前回は見事だったよ、私のプログラムを利用して、書き換えて一時間毎に十桁のパスワードが変更するプログラムを作るなんて」

 異餌命の事件の話か……。

 南方さんのパソコンに送られてきたプログラム、それを利用して南方さんは異餌命という組織を手に入れた。

 あのプログラムの送り主は誰だったのか謎のままだったが送った張本人が今僕の前に、いる。

「君、なんだろう?」

 今まで誰にも知られなかった。

 知られてはならない、僕達こっくりさんは。

 例外もあるが、非常にこれはまずい。

「どうして僕、だと?」

 立場が逆転してしまっている。

 問う側から問われる側に。

「小鳥遊家の継承式、その当日にこっくりさんは数百人に願いの見返りを求めた。何のためか、それは彪光――彼女のため? 私は一つの疑問から探ってみたのだよ。彼女に近い人物は特に」

「それで僕が浮かび上がった?」

「ええ、浮かび上がったわ。けど君の素性は高校生である事以外どうしても解らない。逆に怪しいわよね」

「異餌命ではその腕前も理解した、君を見張って、アパートの別室へ入るところも見た。二部屋借りる学生がどこにいる? 不思議なものだよね」 

 そこまで、見られてたなんて……。

 あのアパートは死角が多いと安心してたが、一体何処から見ていたんだ?

「とまあそれは、いいとして」

 彼女はすっと立ち上がった。

「実は言うとね、私は昔からこっくりさんに憧れていた。今回こっくりさんを刺激するような行動を取ったのは、出てくるかと思ってね」

「……」

 彼女の目的は、それか?

 選挙なんかじゃなく、こっくりさんと対面する事?

「その結果、こっくりさんは私の目の前にいる!」

 唐突に。

 唐突に、彼女は僕へ抱きついてきた。

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